HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

神尾&萩原デュオ・リサイタル

 

【日時】2022.6.4.(土)13:30~

【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール

【演奏者】神尾真由子(Vn)

                    萩原 麻未(Pf)

【曲目】

①シンディング『組曲<古い様式で> イ短調 op.10』
②グリーグ『ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ短調 op.45』

《休憩》

③エルガー『愛の挨拶』
④クライスラー『愛の悲しみ』
⑤クライスラー『中国の太鼓』
⑥ラフマニノフ『ヴォカリーズ』
⑦リムスキー=コルサコフ『熊蜂の飛行』
⑧マスネ『タイスの瞑想曲』
⑨サラサーテ『ツィゴイネルワイゼン』

 

【演奏の模様】

 今日のリサイタルの副題には、~ミラクル・デュオ~ とあるように、チャイコフスキー国際コンクール第1位受賞の神尾真由子さん、そしてジュネーヴ国際コンクール第1位受賞の萩原麻未さんという、我が国でも実力トップクラスの両演奏家が、揃ってリサイタルを開くのは、確率的にいっても奇跡に近いことです。 また、演奏曲は、前半は北欧をテーマに、そして後半にはよく知られた名曲プログラムを配しています。期待が持てる演奏会です。実は同じお二人の組み合わせの演奏を昨年11月に聴きましたが、呼吸がぴったり合った演奏でした。その時の演奏会の模様を文末に添付して再掲しておきます。

 舞台に登場したお二人は、神尾さんが薄水色のドレスで、背後に長短のリボンというか、垂れ衣(きぬ)を二本垂らし、短髪の前の左手に赤いヘアバンドのような飾りピンで止める出で立ち。一方、萩原さんは、神尾さんより濃い色の水色(青までは濃くない)のドレスで後ろにマント風に垂れている出で立ちです。力を合わせて演奏する「デュオ」に相応しい服装だと思いました。

①シンディング『組曲<古い様式で> イ短調 op.10』

 Christian August Sinding(1856年~1941年)は、ノルウェー生まれの作曲家であり、北欧音楽界でグリーグの後継者とも謂われました。で40年近くもの長い間ドイツに住み、ドイツの音楽界とも密接な繋がりがありました。1874年からライプツィヒ音楽院でヴァイオリン、音楽理論と作曲を学び、やがて作曲に才能があることが分かり作曲家に転向。ドイツ・ロマン派、特にリスト、ワーグナー、シュトラウスの影響が色濃い作品を残しました。交響曲、協奏曲、室内楽曲からピアノ曲、合唱・オペラまで幅広く作品を残しているのですが、死後忘れられてしました。最近復活の動きが有り見直されており、演奏機会も徐々に増えています。

今日のこの曲は1889年に作曲された初期の作品で、高度な技巧を要する曲です。三楽章構成。

 第1楽章 Presto 

 冒頭からものすごく猛烈なテンポで音が飛び交い、名器のヴァイオリンは名手の期待通りの音で答えてくれているのでしょうから、例えれば、まるで神尾さんが ポルシェを猛スピードで運転しているみたい。自在に運転出来て面白くてしょうがないのでしょう。同乗させてもらっている観客ははらはらして乗っていて、車が止まるとある種の爽快感を感ずる様なもの。最初からこの演奏ですから度肝を抜かれました。一歩ピアノの萩原さんは地味ではありますが、確実な弾きで伴奏に徹していました。

 第2楽章 Adagio  

ゆったりしていますが楽器に相当歌わせる綺麗なロマンティックな旋律が響きます。深みのある低音が魅力的でした。ピアノの響きも合間を縫って綺麗に響いていました。

  第3楽章 Tempo Giusto

結構速いテンポですが、民族的響きを有するかなり流麗な旋律の曲です。Vn. Pf.共に相当力を込めて演奏、 Pf.のソロ部は、コロコロと音を転がし、終盤のVnカデンツァ部では、重音を練り込んだ最上のテクニックを披露して呉れました。

 

②グリーグ『ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ短調 op.45』

グリーグのヴァイオリン・ソナタの中で一番人気のある曲で、よく演奏されます。

第一楽章 Allegro molto ed appassionato

 冒頭、二回づつ繰り返されるテーマ、続く旋律は情熱的な響きで、その後も高音、低音で同じテーマが繰り返し演奏されました。この傾向は最後まで変わらず、全体的に相当大時代的な響きの楽章です。

 最高音部のPfの音は澄みきり、ppからfへの変化も見事、ビアノは、素晴らしい神尾さんの旋律がしばし止む合間に鳴らすソロ音の綺麗なこと。Vn. Pf.共に、うねるような旋律に力が込められていました。

第二楽章 Allegretto espressivo alla Romanza

 ゆったりとした抒情的な旋律、続く速い旋律は有名な個所ですね。ピアノが繰り返す間、Vnはピッツイカートが入ります。

 さすがピアノ曲の大家グリーグの作品です。ピアノ伴奏も、時々入るピアノソロでは綺麗な旋律を、伴奏では相変わらずゆったりと荻原さんは弾いて神尾さんの演奏にぴったり寄り添っていました。

第三楽章 Allegro animato

 低音の滔々とした旋律が流れ、終盤では、ピアノが前面にでて、ヴァイオリンが伴奏的に奏する箇所もありました。神尾さんは、かなり強いピッツィカートを弾いていた。

 

《20分の休憩》

休憩の後は、多くの人に広く知られている有名な曲ばかりです。

 

③エルガー『愛の挨拶』

 これも有名な曲で、エルガーが、妻となるキャロラインに送った歌で、演奏者自身の手で、ヴァイオリン曲などに編曲されました。


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ヴァイオリンの旋律もピアノの旋律も素敵な響きを会場一杯に広げました。


④クライスラー『愛の悲しみ』

「愛の悲しみ」は短調で悲しげな気分を描いていたクライスラーの代表作です。これと対をなす「愛の喜び」は文字通り喜びを表す晴れやかな作品です。2曲とも魅惑的なメロディでクライスラーのみならず、ヴァイオリン曲の定番として世界中で愛されています。「愛の喜び」と「愛の悲しみ」は対になって演奏会で取り上げられることが多く、さらにこれに「美しきロスマリン」を加えて3部作「ウィーン古典舞曲集」として纏めて演奏さることもあります。今回は「悲しみ」のみの演奏でした。あくまで勝手な推測ですが、チャイコフスキーコンクール優勝以来、ロシアとのつながりが出来て、ロシア音楽もロシア自体も愛して来たのでしょうが、こん日生じたロシアの戦争状況は、音楽家にとって悲しみそのものだと思います。ご同情の至りです。演奏は実に悲しみに満ちたものに思えました。


⑤クライスラー『中国の太鼓』

 この曲は、④の曲と一緒に演奏されることの多い曲です。神尾さんは、軽快に弾むように速いテンポで飛ばし弾いていました。確かに東洋的ニュアンスの響きです。

 

⑥ラフマニノフ『ヴォカリーズ』

 ピアノのヴィルトゥオーゾの作曲だけあって、ヴァイオリン演奏曲だけれど、ビアノの活躍もかなり含まれた作品でした。神尾さんは勿論、萩原さんも相当気持ちをこめた演奏でした。


⑦リムスキー=コルサコフ『熊蜂の飛行』

 これは、猛烈に速いテンポの曲の代表とも言える曲で、蜂の中でも羽音が大きい熊蜂を描写したリムスキー・コルサコフの優れた才能が溢れでていました。最近N響のシェへラザードを聴きましたが素晴らしい曲で、何回でも聴きたくなる曲です。熊ん蜂も低学年生の頃確か音楽の授業で、録音を聴いて以来幾度となく聴いていますが、飽きませんね。

最近蜂が飛んでこなくなった様な気がするのですが、一週間ほど前、丸い蜂が一匹プランターの花にいたのでよく見たら熊蜂でした。

 以前は、蜜蜂やすがり蜂を結構見かけたのですが、最近見かけないですね。その分秋になると、スズメ蜂が飛んで来ることが多くなりました。くわばら!くわばら!

⑧マスネ『タイスの瞑想曲』

 この曲も次の曲も、"拙い文であれこれ記するのも愚かなり” と思う程素晴らしい神尾さんと萩原さんの演奏だったので、書くのを止めます。

⑨サラサーテ『ツィゴイネルワイゼン』

 同上。

 

 尚、予定曲が終了したあと、鳴り止まぬ拍手に応えて、アンコール、二曲が演奏されました。

①グルック『メロディ』

 この曲は、元々オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』の第二幕の「精霊の踊り」にグルックがフルート独奏用に作曲したもので、先月5月19日に、国立劇場でそのオペラを観たのでしたが、不満足な演奏だったので残念でした。ヴァイオリン曲に編曲されたものを、神尾さんと萩原さんとで演奏、それはそれは素晴らしいこの世のものとは思われない程の演奏だったので(もともとオペラでは、天国の素晴らしい景色の場面です)、溜飲を下げたと言うか大満足したのでした。

 

②サラサーテ『スペイン舞曲集Op.23』より第二番〈サパーテアード〉

これも文句なしの名演と言えるでしょう。

 

 最後に今日の演奏を聴いて特記しておかなければならないのは、先ず神尾さんが以前にも増して凄いと思われる高みに達していることに、さすがと思った事と、萩原さんが以前より見違える程の進境著しい素晴らしさを見せた事でした。今度、ブラームスのソナタの全曲演奏でも聴いて見たい気持ちになりました。

 ///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////  (再掲) hukkats録 『日本のヴィルトゥーゾたち』コンサートat サントリーH

40年以上の歴史がある、コンサートシリーズ「東芝グランドコンサート」のソリストに選ばれた、世界の最前線で活躍するヴィルトゥオーゾたちが、サントリーホールに集結しました。ソリストは次の五人です。
清水和音(ピアノ)、神尾真由子(ヴァイオリン)、萩原麻未(ピアノ)、三浦文彰(ヴァイオリン)、反田恭平(ピアノ)

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【日時】2021.11.20.(土)18:00~

【会場】サントリーホール大ホール

【出演】清水 和音(Pf)

               神尾真由子(Vn)

        反田 恭平(Pf)

                萩原 麻未(Pf)

                三浦 文彰(Vn)

 

【Profile】

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【曲目】

① ベートーヴェン『ヴァイオリン・ソナタ第9番ィ長調 Op.47「クロイツェル」』

             (神尾、浅原)

②ショパン『マズルカ風ロンド ヘ長調oP.5』

『ラルゴ変ホ長調(遺作)』

『ポロネーズ第6番変イ長調Op.53「英雄」』 

   (反田)

③ラフマニノフ(アール・ワイルド編)『ヴォカリーズ』

   (清水) 

④クライスラー『愛の喜び&愛の悲しみ』      

⑤シューベルト『VnとPfのためのソナチネ第2番イ短調 D.385』
⑥ラヴェル『ツィガーヌ』               

     (三浦、清水)

 

【演奏の模様】

①(神尾、浅原)

ベートーヴェン「クロイツェル」

     今日のコンサートの紅二点のお二方は、神尾さんが白、萩原さんが青のドレスに身を包み登場、その演奏はあたかも青いドナウ川の空を、天女が舞う様な美しいものでした。

 スタートの重音からして力まず、あっさり軽々と音は飛び跳ねる。ピアノに続く調べは、ゆっくりのあと突然激しく力強く、川面を滑空して急上昇するが如く自在な舞いとなり、次第に円舞の速さを強めます。ぐるぐると廻ると岸の切り立つ崖に着地するも、すぐに再度空高く舞い上がり、ピアノは時としてさざ波の如く、時として深瀬に漂う木の葉をやり過ごしながら滔々とした流れになり、舞い姿を水に映し出している。舞いは流れに呼応したり、逆行したり、ますます自由自在、最後はゆっくりと滑降水面すれすれに着水、流れの中の小岩に着地した、こんな夢想さえもしそうな、ヴァイオリンとピアノの競演でした。

 緩急緩の三楽章構成の中でもさらに変化に富んだテンポ、強弱、神尾さんは体を反らしたり前に曲げたり、体全体を使って演奏をしていました。萩原さんも力を籠めるところは動きを活発に、ピアノソロ的箇所はしっかりと表現、そこでは神尾さんがバックアップに回り支えます。ピアノ独奏をピッツィで支えることも、斯様にこの曲は、ヴァイオリンソナタの名はあってもピアノの活躍も著しく、まさに両達人の競演かつ共演に相応しい選曲だと思いました。

 萩原さんの演奏は今年7月にラヴェルのコンチェルトを弾いたのを聴きました。また1月にはアンサンブルでの演奏を聴きました。7月は何か元気がない感じでしたが、今日は元気一杯、迫力ある演奏でした。神尾さんはこれまで何回も聴いていますが、一度も期待が裏切られたことは有りません。いつも素晴らしい演奏が聴けて感謝しています。何と朗々と冴え冴えと響く高音なのでしょう!何と深々としたふくよかな低音や重音なのでしょう。小学生の時から今まで何百回となくステージに立たれたことなのでしょう!まさに「日本のヴィルトゥーゾ」そのものですね。今後ストラディヴァリのひばりのさえずりを、いつまでも聞かせて下さい。

 

②(反田)

コンクール凱旋後、初めて聴きました。以前より一段と安定した弾き振りでした。それはそうでしょう、物凄い自信を付けたのでしょうから。

②-1ショパン『マズルカ風ロンド ヘ長調oP.5』

柔らかそうな指を丸めて、さらに柔らかな音を出していました。特に高音がコロコロと転げる玉の様に、切れ味良い演奏でした。休憩時間に近くのご婦人たちの一人が ❝あのとろける様な音を聴くとたまらない❞と言ったことを話しているのが聞こえました。                聴き終わった感想は、少し纏め過ぎの感がしないでもないというこでした。ショパンの曲は、意外と隠れた激しさが噴火する時がありますから。

②-2『ラルゴ変ホ長調(遺作)』

 ゆったりと弾く表現力は、上記②-1と同じ人が弾いているとは思えない程の変化のし様。随分器用なピアニストですね。

②-3『ポロネーズ第6番変イ長調Op.53「英雄」』

 これまで頭の中に形成されていた「英雄ポロネーズ」とは一風異なった演奏でした。あのアルゲリッチもそうでしたが、一般論でショパンを鍵盤上、論ずるのではなく、個性論で論ずる、と言った風向きが感じられました。かなり個性味溢れる「英雄ポロネーズ」でした。

 演奏後鳴りやまぬ拍手に応じて、アンコールがありました。

〈アンコール曲〉『三つのマズルカOp.56から第2番ニ長調』

 この曲の演奏が、今日最高の出来だと思いました。軽快で音が綺麗。マズルカのお手本の様な演奏でした。   

 

③(清水)

ラフマニノフ『ヴォカリーズ』

 清水さんの演奏は、本物のプロ中のプロの音でした。さすが若い時から年を重ね演奏も日々上昇の一途をたどってきたのでしょう。素晴らしいラフマニノフでした。

 スタートの第一音からして、肩の力を抜き去り、自然に音が出ています。少しも気負ったところがなく、淡々と弾いている。それでも力強い強奏も繊細な音も、当たり前の様に何食わぬ顔でピアノから出で来たりぬ。その表現力といい、技量といい、一朝一夕には到達出来ない、何十年も年季の入ったヴィルトゥーゾのみが描けるラフマニノフ像でした。割と短い曲でした。

 

④(清水、三浦)

クライスラー         

 三浦さんの立ち上がりは緊張していたのか ❝愛の喜び❞の演奏 は何かいま一つ音が研ぎ澄まされていない感じが有りましたが、❝愛の悲しみ❞になると、かなりリラックスしてきたのか見違える様にいい音を出すようになりました。でもこの曲は底明るいというか、悲しみの中にも希望的な何かがにじみ出ている様なそういった趣の演奏でした。

⑤シューベルト

 三浦さんはシューベルトの歌う様なメロディも、オーケストラの中の激しい感情表現の様なパッセッジも、良く表現力豊かに演奏していました。それに増して、清水さんのピアノが素晴らしかった。音は綺麗だしシューベルトのソナタを隅々まで知って弾いているのでしょうから、それはそれは誠にシューベルトらしいヴァイオリンとの競演でした。演奏後自分を譲って、三浦さんを先にたてる謙譲さ、控え目な様子も、本物の芸術家の現れだと思いました。

 

⑥ラヴェル『ツィガーヌ』 

 この段階になると、三浦さんは本来の実力を発揮し、ラヴェルの踊りと同じく何回も何回も繰り返えされるしつこいまでの曲の高揚を、見事にヴァイオリンで表現していました。最初立ち上がりと比べると見違えるほどの変貌振り。豹変ではないです、じわーといつの間にか素晴らしい音を立てていた。清水さんのピアノの演奏に先導されて本来の高みに戻ったのかも知れません。❝少しのことにも、先達はあらまほしきものなり。❞    

 

尚、❛今回のコンサートはテレビの収録が入っていて、インターヴュウがあるかも知れない❜との館内放送がありました。明日(10/21)日曜夜10時からの8チャンネル「Mr.サンデー」で放映される模様。