HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『神奈フィル382回定期演奏会』鑑賞

【日時】2023.1.21.(土)14:00~

【会場】横浜みなとみらいホール

【管弦楽】神奈川フィルハーモニー管弦楽団

【指揮】沼尻竜典

【独奏】神尾真由子(Vn)

【曲目】

①ベートーヴェン『ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61.』

(曲について)

 ベートーヴェン中期を代表する傑作の1つである。彼はヴァイオリンと管弦楽のための作品を他に3曲残している。2曲の小作品「ロマンス(作品40および作品50)」と第1楽章の途中で未完に終わったハ長調の協奏曲(WoO 5、1790-92年)がそれにあたり、完成した「協奏曲」は本作品1作しかない。しかしその完成度はすばらしく、『ヴァイオリン協奏曲の王者』とも、あるいはメンデルスゾーン作品64ブラームス作品77の作品とともに『三大ヴァイオリン協奏曲』とも称される。 この作品は同時期の交響曲第4番ピアノ協奏曲第4番にも通ずる叙情豊かな作品で伸びやかな表情が印象的であるが、これにはヨゼフィーネ・フォン・ダイム伯爵未亡人との恋愛が影響しているとも言われる。

 この作品の構想されたのがいつ頃なのかを特定する証拠はないが、交響曲第5番第1楽章のスケッチにこの作品の主題を書き記したものが存在するという。いずれにしても、『傑作の森』と呼ばれる中期の最も充実した創作期の作品であることに違いはない。

 

②サンサーンス『交響曲第3番ハ短調Op.78<オルガン付き>』

(曲について)

 カミーユ・サン=サーンスが1886年に作曲した交響曲。サン=サーンスの番号つきの交響曲としては3番目、番号なしを含めれば(2曲の未完成作品を除く)5番目の交響曲である。ロンドン・フィルハーモニック協会の委嘱で作曲され、1886年5月19日の初演も作曲者自身の指揮により ロンドンのセント・ジェームズ・ホールで行われている。

この作品の作曲について、サン=サーンスは「この曲には私が注ぎ込める全てを注ぎ込んだ」と述べ、彼自身の名人芸的なピアノの楽句や、華麗な 管弦楽書法、教会のぱいプオルガンの響きが盛り込まれている。初演や翌1887年1月9日のパリ音楽院演奏協会によるパリ初演はどちらも成功を収め、サン=サーンスは「フランスのベートーヴェン」と称えられた。

 全2楽章、演奏時間は40分弱(各楽章20分、15分)。この交響曲の最も顕著で独創的な特徴は、各所に織り込まれた、ピアノ(2手もしくは4手)およびオルガン、すなわち鍵盤楽器の巧妙な用法である。

 

【演奏の模様】

 10分前位にホールに入ったら、大きな音で荘厳なパイプオルガンの音が響いていました。録音でなくオルガンの前に座って演奏している人がいました。バッハのトッカータとフーガの一節でしょうか。そう言えばどこかにプレコンサートがあると書いてあった様な気がします。じっくり聞きたかったのですが、すぐに演奏は終わり、大きな拍手の中演奏者は去りました。プログラムには、奏者アレシュ・バーレタと書いてありました。

 さて今日の本演奏は二本立て、交響曲とヴァイオリンコンチェルトの二曲です。前者は40分近くかかるパイプオルガン演奏も加わる重量級の大曲でなので、その前に軽やかなヴァイオリンコンチェルトを配置したプログラムになっている様です。

 

①ヴァイオリン協奏曲

 時間となって登壇した神尾真由子さんは、黒いストラップレスドレスに水色のロングテイルの布を胸元から巻き垂らし、シンプルでお洒落ないで立ちです。アップの髪型が良く似合う。でも演奏者にとってはきっと勝負服なのでしょう。自信に満ちた様子ですが、やや緊張したキリッとした表情が見て取れます。


<3楽章構成>

第一楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポニ長調

第二楽章第ラルゲットト長調

第三楽章第ロンド アレグロ ニ長調

<楽器構成>

二管編成(Fl. Ob.Cl.Fg.Hrn.Trmp.) 弦楽五部12型(12-10-8-6-5)

 この曲は冒頭ソロVn.はすぐには入りません。木管の Fl.や Ob. Fg. Cl.が暫し音を鳴らし、次いで弦楽アンサンブルが序奏を奏してそれが強奏に変じると Ob.群がテーマを弦楽に先んじて響かせて、弦楽アンサンブルが繰り替えします。何という旋律でしょう、耳障りも良く覚え易く(複雑でない)素晴らしい調べです。ベートーヴェンはこの曲を36歳1806年に作曲しました。くしくもピアノ協奏曲4番と同じ年です。曲の美しさと言ったら、この二つの協奏曲は他に抜きんでていると個人的には思うざるを得ない。

 冒頭から4分以上経ち神尾さんはやおらストバリを肩にかけて弾き始めました。少し速いテンポです。時々オケが合いの手を入れるもアクセントでしかない。Fg.群が合の手を入れ、Cl.も旋律の一部を鳴らします。神尾さんの手は休みなく動き、その高音は冴え冴えと響き、何ときらびやかなんだろう。その後テンポをやや落とし、高音のPP部からPさらにPPへと微妙な変化を旋律に付け色とりどりの弱音を繰り出しています。次第に速度が速まり力が入る弾きを示すとオケが全奏でジャーンジャンジャンジャンとテーマを弾き神尾さんは一休止です。

 この楽章は他の楽章の2倍も長く如何にベートーヴェンが力を入れて作曲したかが窺えます。1楽章後半、休止中暫く沼尻さんの方を見つめた神尾さんは、オーケストラが一しきり格好いいアンサンブルを鳴らしてからソロヴァイオリンを力強く、くねくねくねと入れて、上行旋律でやはりくねくね競り上がり、高音部をPPの繊細な音を立てて弾いた後、下行旋律でまたくねくねくねと弾き下がりました。この辺りは神尾さんはまるで蝶がひらひらと自由自在に舞うが如くしかも力強さも感じるエネルギッシュな演奏でした。U-tubeでカラヤン指揮ベルリンフィルでムターさんが弾くのを見ると、ムターさんの表情はスッキリせず、緊張気味、疲れた表情で、蝶が舞うとしても、カラヤンの手のひらの上でのことといった印象を抱きました。神尾さんの演奏は年に数回は演奏会で聴いています。いつもそうなのですが、自信にあふれた表情で自由自在に演奏している感じ、小学4年の時の学生コンクール優勝演奏をU-tubeで見た時も、同じ自信に満ちた様子で弾いていました。恐らく30年近くも挫折の無い人の表情です。日本にとってもすごく希少、貴重な存在です。            ついでながらムターさんについてもう少し、三年前のコロナ禍以前の小澤さんの事実上の(指揮台での)最後の演奏を共にしたムターさんの様子、又二年前、ムターさん自身がコロナ感染した直前のリサイタルでの様子を見た時は随分と自信満々で自由な風に見えました。憶測ですが、カラヤンが亡くなって(勿論悲しみは深いでしょうが)、その精神的な負担(重圧感)が軽くなったのではないかと勝手に思いました。だって自分の才能を見出して呉れたカラヤンには、期待が大きれば大きい程、気持ちの上での負担も大きかったでしょうから。表情も明るくなっていました。

 それはそうと、神尾さんの演奏は、第1楽章の佳境に入り、オケのテーマの全奏が終わると神尾さんは、カデンツア演奏に入りました。クライスラー版でしょうか?高音から低音に下がってからの重音演奏は見事なもの、単に伴奏音を重音で出しているのみならず所により、旋律が二重に聞こえその下に伴奏音が絡んでくる三重音など、それらを駆使しテーマの変奏を繰り出しています。その高度な技術を如何なく発揮するヴィルトゥオーソの演奏には舌を巻きました。

 続く第2楽章はVn.アンサンブルの緩やかで穏やかな序奏の後、Hrn.の響きに合わせてソロVn.がやはり同じ様なテンポで弱く弾き始めます。この楽章神尾さんは前半は繊細に、曲想の変わる後半はリズミカルにかなりの太い強音で弾きました(細くなる変化はあり)。前半のしっとりとした演奏は連綿と続き、カデンツァ部に突入、ここはベートーヴェンが書いた箇所です。 この楽章は10分ちょっとでした。

 アタッカ的に続く第3楽章も短い楽章で10分程度、この楽章のカデンツァも1楽章と同じ版でしょう。1楽章のカデンツァでもそうだった様に、ベートーヴェンの本曲からスムーズに移行して又戻りほとんど一体性を失わない優れたカデンツァでした。表現もいい、カデンツァも変化自在、テーマの変奏を猛スピードの重音演奏でテキパキ処理しているピッチコックの映画に出て来るタイプライターの如し。

 今日の神尾さんの協奏曲演奏を聴くと、これまで演奏会で聴いた時よりもさらに一層演奏が高みに達した感がありました。その理由は

Ⅰ.強中弱有、弱中強有り。一つの旋律内でも変化自在に表現出来ていた。

Ⅱ.旋律の変遷、推移も将に真由子節、独自の表現を体得している。他に二つと無い 自分独自の物としている。

Ⅲ.高度なテクニックの一層の高度化。

Ⅳ.心で歌うが如き表現。

Ⅴ.揺らぎない自信あふれる演奏、そこからにじみ出る聴いていて安心感を抱くオーラ。

尚、鳴りやまぬ拍手に答え、神尾さんのソロアンコールが有りました。

 パガニーニ『24のカプレーゼより<第5番>』でした。

 流石ヴァイオリンの名人パガニーニが作曲したものすごい曲で、これを神尾さんはパガニーニ並みの超ハイテクニックを駆使し、猛スピードのポルシェを操るが如く完膚なきまでの技術演奏を披露して呉れました。この曲を神尾さんと同レベルで演奏が出来る人は日本にどれだけいるのでしょうか?

以下②サンサーンス『交響曲第3番ハ短調Op.78<オルガン付き>』は時間の関係で、後日<続き>で記することにします。