HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

末松茂敏『ピアノリサイタル』

 表記の演奏会は、中止となった大隅智佳子ソプラノリサイタルの代替コンサートと言う事らしく、「すでにチケットをお持ちの方はそのままお使いいただけます。またこのコンサートでの寄付金は、大和市社会福祉協議会の大和市善意銀行へ全額寄付されます」との注意書きがありました。
 このピアノ演奏者は余り名が知られていないかも知れませんが、演奏曲目が以下の様に、前半がバッハ等の古典的名曲を、後半がオールショパンのこれまた有名曲をプログラムした意欲的な積極的姿勢を見て、横浜に近い会場でもあり、どんなピアニストか見てみたくなって、都合をつけて聴きに行きました。
 
【会場】神奈川県大和市芸術文化ホール,SiRiUSサブH
 
【日時】2021.3.19.24:30~
 
 【出演】末松茂敏(フェリス女子学院大音楽学部講師)
 
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経歴】

東京藝術大学附属高校を経て、同大学卒業。同大学大学院修士課程修了。ハンブルク音楽大学卒業。第9回ピティナ・ピアノコンペティションG級入選。第60回日本音楽コンクール入選。エリ-ゼ・マイヤーコンクール(ハンブルク)第2位。第17回飯塚新人音楽コンクール大賞受賞。芸大オーケストラ、バルトフィルハーモニックオーケストラ、シベリウス音楽院交響楽団、岡山若い芽のオーケストラ、倉敷アカデミーアンサンブル、栃木県交響楽団等と共演。日本ショパン協会、ヴァン・クライバーン日本委員会主催のリサイタルをはじめ、日本、アメリカ、ドイツにてリサイタルを開催。2003年以降ヴァイオリンの天満敦子氏と横浜のフィリアホールを中心に毎年共演している。ピアノを阿久津佐智、小林仁、須田眞美子、御木本澄子、西田理恵、フォルカー・バンフィールド、クラウス・シルデの各氏に、音楽理論を古曽志洋子、法倉雅紀の各氏に師事。アンサンブル・ヴァリエのメンバー。横浜音楽文化協会会員。当協会正会員。2006年から2011年まで東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校講師、現在、フェリス女学院大学講師。

 

【演奏曲目】

①バッハ 平均律クラヴィール曲集 第1巻より第1番ハ長調


② バッハ 半音階的幻想曲とフーガ`


③モーツアルト 「きらきら星変奏曲」


④ベートーヴェン 創作主題による32の変奏曲

 

《休憩》

 

⑤ショパン エチュード

5-1 Op.10-1

5-2 Op25-5(wrong note) 

5-3 Op.25-8(third stage)


⑥ 3つのマズルカ Op.50-1,2,3


⑦ポロネーズ第5番 Op.44


⑧ポロネーズ第6番「英雄」Op.53

 

【演奏の模様】

 このピアニストだけでなく、この演奏会場(Siriusサブホール)も初めてでした。最近は民間のみならず、地方自治体も立派なホールを持つ様になってきています。つい最近行った渋谷区産文センター大和田も割りと立派な木張り内装の新しい中規模ホールでした。

今回のホールを有するビルは3年前に出来たとのことです。

「Sirius」の概要を以下にH.P.から転載します。 

「心に響く・心が躍る・心をつなぐ」

大和市文化創造拠点は、子どもから大人まで多くのみなさまに、芸術文化や生涯学習の素晴らしさ、新しい知識・人々との心弾む出会いをお届けし、
みなさまの心に一体感を生み出す場として誕生しました。中核を成すのは、図書館、芸術文化ホール、生涯学習センター、屋内こども広場。
4つの施設はそれぞれの個性の融合により更なるエネルギーを生み出し、未来につながる創造力を育むとともに、
みなさまの芸術文化活動の道標となり、日々進化を遂げてゆきます。

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SiRiUS

大和市文化創造拠点の愛称はシリウスです。シリウスは、おおいぬ座を代表する、地球から見える恒星の中で最も明るい一等星。夜空のどの星よりも明るく輝くこの星の名は、「文化創造拠点が未来にわたって光り輝き、市民に愛される施設となるように」という想いを込めて名付けられました。

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ホール

【演奏の模様】

 会場は270座席程の小ホールですが約半分程埋まりました。登壇したのは、思っていたより若いピアニストでした。演奏前に司会者(どなただったか聞き洩らしました。確か指揮をやっていると聞こえました)と演奏者とのショートトークが有って、それから演奏されました。最後までこのパターンでした。

①バッハ 平均律クラヴィール曲集 第1巻より第1番ハ長調

  ご案内の様にバッハはプレリュードとフーガから成るクラヴィール曲を各調12×長短2=24曲作りました。しかも第1巻と2巻とを。

 今日の演奏はその最初の最初の曲で、多くの人が知っていると思われる超有名曲です。それを演奏会の最初に持ってくる自信は如何程でしょう。人口に膾炙した曲であればある程、人前では弾きづらいのが普通でしょう。

 末松さんは、堂々と穏やかに弾き始め、非常に滑らかな調べが響き渡りました。バッハを聴いた時いつも感じる心休まる安息感が伝わって来ました。欲を言えば全体としてもっと濃淡、粗密があっても良かった気はしますが。

② バッハ 半音階的幻想曲とフーガ`

 この曲はいつだったかズーと以前に、キーシンが弾いたのを聴いた記憶があります。半音階の将に幻想的な感じのかなりの大曲で、バッハの曲の内でも名曲の一つと思われます。                 トークでの ”この曲は前半の半音階下降進行する幻想曲と、後半の上昇進行するフーガから成る”  との説明通り、かなり複雑な変奏(転調)を奏者は見事に弾き切りました。欲を言えば、後半の右手のみの演奏で始まるフーガに、さらに切れ味があればと思いました。 

③モーツアルト 「きらきら星変奏曲」

 モーツアルトはこれをどの様な環境下で作曲したのか詳細は存じないのですが、こうした曲が彼の膨大な財産の一つとして有るのは、如何にもモーツアルトらしいですね。

 各変奏曲、特に8変奏の短調の曲や9変奏のスタッカートや最終のゆっくりした10変奏は印象深い演奏でした。出来れば、曲全体が一つの曲であることが強調されて分かる統一性と、もっと「モーツアルト」ですよという表に出る楽しさとが感じられればさらに良かった気もします。


④ベートーヴェン 創作主題による32の変奏曲

 この曲は以前からi如何にもベートーヴェンをふんぷんと感じるソナタにも比肩する大曲だと思っていました。残念ながらその形式と最後が尻切れの如く余りに軽く終焉することが若干の弱みかな?32曲もの変奏が続きます。何曲かの変奏を纏まりで括れる様に作っていたらもっと大曲らしくなったかも知れません。

 末松さんは、冒頭相当の力強さを込めて弾き始め、すぐに静まって速いテンポに移り、後に続く第5変奏なぞゆっくりした高音の綺麗なメロディを醸し出していました。第7変奏も綺麗な曲ですね。第8も第9変奏も。第9なぞppを強調して(もっと繊細に)弾けばさらに雰囲気が出たと思うのですが。全体として、さらにメリハリを付けた演奏となればしめたものです。

20分の休憩後は後半のショパンプログラムです。 

⑤エチュード

⑤-1  Op.10-1

 右手のアルペジョ風分散和音と左手の歌う三部形式で、非常に広い音程で鍵盤を上から下まで指が動いていました。和音に戻して聴くと美しい曲だと理解できる筈なのですが。末松さんの演奏は何か物足りません

⑤-2 Op25-5(wrong note) 

 これも三部形式でスケルツオ風の軽快さを有する筈ですが、A-B-A’のA’に特に軽やかさが感じられませんでした。「ショパンらしい曲」表現が不足していたと思います。

⑤-3 Op.25-8(third stage)

 6度の和音の練習曲で、演奏者の指はしっかり動いている様に見えましたが、左右の音のバランスがいま一つしっくりしない感じ、音のキレも足りない感じがしました。

 結果、エチュード三曲は成功したとは言えませんでした。

⑥3つのマズルカ Op.50-1,2,3

 末松さんのマズルカ演奏は、リズムも調べもこれぞショパンの曲と思わせる立派なものでした。

第1曲はやや平板だったかも知れませんが、ショパンらしい力強いリズミカルな感じが出ていました。

第2曲の最弱のメロディなぞお洒落感に溢れていますね。末松さんは長短、強弱表情豊かに弾きました。

第3曲の民族調の強いマズルカも快調に弾き終わりました。

⑦ポロネーズ第5番 Op.44

 トークの解説によるとポロネーズ風の曲は、バッハの管弦楽組曲2番に出ても来るリズムにあるらしいのですが、バッハの時代はポロネーズと言えば、「ポーランド風」位の意味だったそうです。それを体系化し一つの型としてまとめたのがショパンらしい。

 この5番の曲は次の6番のマズルカに次ぐ位知れ渡っていると思われます。冒頭の前奏の後ショパン独特のリズミカルな力強い舞曲風の調べを奏者は繰り出していました。まずまずの演奏だったと思います。

⑧ポロネーズ第6番「英雄」Op.53

 余りにも人口に膾炙した曲なので、どの様に弾くのか注目していましたが、結論的には ”目出度さも中くらいなりおらが曲” でしょうか?それにしてもこの英雄ポロネーズは聴衆を高ぶらせる、興奮させる魔力を秘めている曲ですね。一つにはリズムの極端な特徴ある変化、さらには力強くドラマティックに上下する主題の響き、人の感情も上下させる音符の発出、これはもう人々を扇動する曲です。演奏が終わった途端、この日一番の拍手が起きました。私の前に座っていた熟年の友人とおぼしき三人の女性組(話している処を見ると、三人ともピアノを弾く人達の様です)が座っていたのですが、そのうちの一人は禁を破って ”凄い!!”と叫び、両手を高く上げて強く叩いていました。

 司会者のトークによれば、パリでショパンが演奏した時、弾き終わったとき一人のポーランド人が ”ポーランドは生きている!”と大声で叫んだと言います。

丁度、その頃ポーランドでは若者たちが革命を起こそうとして失敗、大量に処刑された時期だったのでしょう(ショパンもポーランドに留まっていたら同じ運命だっただろうと謂われている)。 

 大きな拍手が続き、アンコールが演奏されました。

ショパン作曲『ノックターン遺作嬰ハ短調』・

 これも超有名な曲ですね。しっとりとした夜のとばりが下りようとしている雰囲気が見事に演奏されました。

 総じて、今日のピアニストは、生真面目で丹念に演奏する姿勢が見られましたが、これまで多くの伴奏ピアノをステージで行ってきているためなのか(?)、少し華が無いというか 「自分はこれです、見て下さい” というキラリとする輝きが感じられませんでした。ピアノ独奏の経験をもっともっと重ねて、さらに一回り大きいピアニストに脱皮されんことを期待します。

 実は、3月下旬に予定されていた「ゲルバーピアノリサイタル」が4月に延期され、挙句の果て結局中止になってしまったのです。それでピアノ鑑賞欠乏症というかフラストレーションが溜まりつつあったこの頃だったので、今日の演奏会は、干天の慈雨の様に感じられました。有難う御座いました。