NET情報に依れば、最近、ポリーニがパリのフィルハーモニーでのコンサートをまたまたキャンセル。ズビン・メータはベルリン・フィルの公演をキャンセルしたそうです。
日本でも、今日(10/14土)はブロムシュテットが、来日不可ということでN響をキャンセル。21日(土)のN響もキャンセルになりました。前者ではブルックナー5番、後者ではシベリウス2番を聴くのを楽しみにしていたのですが残念。何れも代役の指揮者を立てて演奏するのかと思ったら、前者の演奏会は中止、後者は関高さんの指揮でやるという事らしい。ブルックナーの方は振れる指揮者が見つからなかったのでしょうか?振ったことがあっても、その日が空いている指揮者がいなかったのでしょう。
一方、8月にケルンで開かれたオーケストラとのコンサートへの出演を見送りとなったアルゲリッチは、同中旬から9月初めにかけての「ルツェルン音楽祭」にも出ませんでした。何十年も持病を抱えながら世界のファンを魅了してきた彼女ですが、御年82歳、無理せず加療・静養に専念されるものと思っていました。それが何と今開かれている「ピリオド楽器ショパンコンクール」の初日のExbition演奏会に出席、ショパンの一番コンチェルトを弾いた模様なのです。将に❝復活❞ですね。何回目になるのだろう?超人的です。
❝復活❞といえば、井上・読売響が11月18日に池袋・東京藝劇で演奏を予定しています。何月だったでしょうか?チケット発売の頃には、井上さんの病気が腎臓関係と知り、腎臓回復は時間がかかるので、恐らくキャンセルの確率が高いだろう(丁に賭け)と考えて、チケットは取りませんでした。そうしているうちにチケットはあれよあれよと言う間に売り切れてしまったのです。皆さん半に賭けた人が多くいたのですね。井上さんが出るなら是非聴いてみたいです。
ブルックナーといえば、去る10月11日(水)に、余り聞き慣れない名称の管弦楽団の9番他の演奏会があり、聴いて来ました。概要を以下に記します。
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
タクティカートオーケストラ『ブルックナー交響曲 特別演奏会』を聴く
【日時】2023.10.11. (水)19:00 〜
【会場】東京芸術劇場コンサートホール
【管弦楽】タクティカートオーケストラ
(オケ紹介)
幅広いジャンルのアーティストをサポートを行っている新しい形態の音楽事務所である(株)タクティカートアーティスツに属するオーケストラで、
2020年に、国内外で活躍する若手音楽家たちによって結成されたプロオーケストラ。
コンチェルト公演、メンバーによる室内楽・リサイタルシリーズを主催公演として実施しています。
オーケストラのメンバーがソリストを務めるコンチェルトの公演を中心に、大編成のオーケストラ公演から、小編成や弦楽アンサンブルまで様々な公演も手掛ける。
オーケストラ / 室内オーケストラ公演では、オーケストラのメンバーがソリストを務めるコンチェルトの公演を中心に、大編成のオーケストラ公演から、小編成や弦楽アンサンブルまで様々なオーケストラ公演を企画・開催している。
【指揮】坂入健司郎
<Profile>
1988年神奈川県生まれ(35歳)。
慶應義塾大学卒業。井上道義、小林研一郎、三河正典、山本七雄各氏に師事。
2008年に東京ユヴェントス・フィルを結成、J.デームス氏、G.プーレ氏、舘野泉氏など世界的なソリストとの共演や数多くの初演を手がける。
2015年、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンへ出演、MOSTLY CLASSIC誌「注目の気鋭指揮者」に推挙される。
2016年より川崎室内管を主宰。
2020年、日本コロムビアより「月に憑かれたピエロ」をリリース
2021年8月の名古屋フィルとの熱演は記憶に新しいが、2022年には日フィル、仙台フィル、読響、新日本フィル、名古屋フィル、大阪響、九響などに客演。以降にも愛知室内、神奈川フィル、京響などに客演予定。
生誕200年にあたる2024年に向け、ブルックナーの全交響曲演奏会開催を宣言している。まさに新星登場を予感させる逸材との評有り。
【合唱】Coro Oracion(コーロ・オラシオン)
(合唱団について)
2021年6月活動開始の合唱団《Coro Oración》。両手を上げる!愛称はオーラ●キラキラ東京都内で毎週日曜日に練習を行ってい。♪全パート団員募集中曲げた上腕二頭筋見学いつでも歓迎!お問い合わせはDMまで●コンセプト「ほんとうのさいわいを求めて」「心で伝えようとする音楽」●音楽監督/常任指揮者:横山琢哉 ●団内指揮者:伊藤心
【合唱指揮】伊藤心
<Profile>
2021年 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業
2023年 慶應義塾大学理工学大学院基礎理工学専修中退
2023年 東京藝術大学音楽学部指揮科入学
2021年 第7回若い指揮者のための合唱指揮コンクールにて初見課題賞、ルネサンス課題賞、エルヴィン・オルトナー賞を受賞
2021年 慶應義塾大学理工学部藤原賞受賞
2023年 第8回若い指揮者のための合唱指揮コンクールにて、第3位入賞
武蔵野音楽大学付属高校合唱講師
Coro Oración団内指揮者
【曲目】
①ブルックナー/Os Justi(正しい者の口は知恵を語り)WAB30
②ブルックナー/Locus iste(この場所は神によって創られた)WAB23
《休憩》
③ブルックナー/交響曲第9番 WAB109(新補筆完成版)
【感想】
①と②のブルックナーのアカペラの合唱がとても素敵に聞こえました。男声と女声の40人位の混成合唱で、アンサンブルのハモり具合が絶妙でした。
またブルックナーのこれらの曲が素晴らしい、初めて彼の合唱曲をアカペラで聴きました。こんないい曲があるなんて、心が洗われる様、神聖な気持ちになるのは、ブルックナーが長年教会の雰囲気に浸っていて骨の髄まで神の旋律に馴染んで来たからでしょう。
《休憩》
③ブルックナー/交響曲第9番 WAB109(新補筆完成版)
演奏前のトークで、未完成となった第四楽章は、若手作曲家の石原勇太郎さんの補筆によるそうです。
三管編成14型
実はこの9番の演奏は、この8月にトーマス・ダウスゴー指揮のPFMオーケストラの演奏で聴きました。その際の第四楽章は、10年ほど前にサマーレ、フィリップス、コールス、マッツーカの人達による補筆完成 (2012年)された版が使われ、これまで多く演奏されてきました。その時の第4楽章と比べると、今回の4楽章は、1~3楽章との整合性を考える余り、1~3楽章のテーマ演奏や、旋律の取り入れなど、独自のアンサンブルの響きが不足している様な感じも受けました。それでも、かなりの強奏とTrmb.群の抜群の響き、指揮者とTimp.の強烈な牽引、弦楽アンサンブルの鳴り響き等、フィナーレに相応しい第4楽章だと思いました。
その他気になったのは、1Vn.群のアンサンブルが最初の楽章ではやや輝き不足、後半の楽章ではそれが次第に輝きを増して来ました。Hrn.群が時々不安定。ワーグナートユーバも合わせると8挺以上あったでしょうか?
弦と管のアンサンブルの溶け合い状態が今一の感、従ってフル演奏になるとやや雑然感が有りました。
Fl.(1)のソロ音に感動出来ず。更なる精進がいると思います。
指揮者は長い工程をよく持続的な安定した振りで頑張っていた。特にパートのソロ演奏は逃さず相当なシグナルを送っていました。
演奏が終了すると、会場からはおおきな拍手喝采が起き、若い指揮者は、これまた20代と思しき演奏者を起立させて、部門毎に労っていました?
合唱の指揮者もブルックナーの指揮者も中々爽やかな指揮ぶりでした。
雑駁に記すると以上ですが、参考まで、8月のPMFオケの演奏会の記録を抜粋して文末に再掲して置きます。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////
(2023.8.2.HUKKATS Roc記事抜粋再掲)
【主催者言】
PMF初参加となるトーマス・ダウスゴーが指揮者に登場します。数多くの作品録音に意欲的に取り組み、シアトル交響楽団首席客演指揮者、同団音楽監督などを歴任。
コンサートの前半は、昨年PMFオーケストラとの共演、室内楽の演奏でPMFデビューを飾り大変好評を得た金川真弓をソリストに迎え、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をお聴きいただきます。
教育への高い関心をもち、独創性と革新性に満ちたプログラムを得意とするダウスゴーが、PMFオーケストラと挑むメインプログラムは、ブルックナーの交響曲第9番(第4楽章付)。今回演奏する補筆完成版(SMPC編、1984-2012)は、原典に基づき丁寧に作成されたことと、サイモン・ラトルの提唱によりベルリン・フィルが録音したことで、世界的に注目が集まっています。80分余りの大曲に挑戦する若き音楽家たちの渾身の演奏をご堪能ください。
【日時】2023.8.1.19:00~
【会場】サントリーホール
【管弦楽】PMFオーケストラ
【指揮】トーマス・ダウスゴー
<Profile>
デンマーク生まれ。独創性と革新性に満ちたプログラム、教育への高い関心、賞賛された70作品以上の録音、そして鋭い洞察力が高く評価されている。1988年シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭にてバーンスタインのマスタークラスを受講。90年には岩城宏之に師事し、その後小澤征爾の指名によってボストン交響楽団のアシスタント・コンダクターをつとめた(93-95)。スウェーデン室内管弦楽団首席指揮者、同団桂冠指揮者、トスカーナ管弦楽団名誉指揮者、BBCスコティッシュ交響楽団首席指揮者、シアトル交響楽団首席客演指揮者、同団音楽監督などを歴任。2009年、デンマーク国立交響楽団首席指揮者として豊田泰久と密接に連携し同団の新しいホールであるDRコンサートホールの音響設計を行い、ホールのこけら落としを指揮した。デンマーク女王より騎士道十字章を授与され、スウェーデン王立音楽アカデミー会員にも選出されている。
【独奏】金川真弓(Vn.)
<Profile>
<割愛>
①メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op. 64
②ブルックナー:交響曲第9番ニ短調(補筆完成版 SMPC編)
(曲について)
ブルックナーが取り組んだ最後の交響曲。1896年10月11日に作曲者が他界した際に完成していたのは第3楽章までであり、最後の第4楽章は未完成のまま残された。実際の演奏では、実演・録音とも、完成している第3楽章までで演奏されることがほとんど。第4楽章の草稿が少なからず残されているため、それに補筆して完成させる試みも行われている。
1983年に始まった、ニコラ・サマーレ、ジョン・フィリップス、ベンジャミン=ギュンナ―・コールス、ジュゼッペ・マッツーカ(以降「SPCM」という。)の編集チームによる終楽章・フィナーレ復元の取り組みは、フィリップスによるブルックナー自筆譜の復元(1994年、1999年)および原稿の複製版の出版(1996年)として結実し、ブルックナー全集において憶測ではなく資料に裏打ちされた音楽学的見解に革命をもたらした。フィリップスとコールスはそれぞれ第9番に関する博士論文を執筆した。
失われたページがあるという事実は変わらないが、終楽章についてはかつて信じられていたよりもはるかに多くの原稿が残っており、そこには完全なコーダの手稿も含まれている。残された手稿からは、作品の基本的なモティーフや和声の継続性が明確である。欠けた部分のほとんどは、作曲の前段階や途中で残したスケッチから再構築することができた。和声と対位法を教えていたブルックナーは、非常に方法論的かつ理論的な見地に富んだ作曲家であり、彼の芸術的な決定は解釈可能な作曲の論理に従っていた。そのため、作曲の連続性やオーケストレーションの再構築は、見かけほど主観的ではない。今回はこのSPCM輔弼版で全四楽章が演奏される。
(PMFオーケストラについて)
国際オーディションで選抜される18歳から29歳、国籍もさまざまな若手音楽家で編成する「PMFオーケストラ」は、世界トップレベル・アジア随一のユースオーケストラと評され、そのみずみずしく熱のこもった演奏は、多くの人から評価されている。
1990年に20世紀を代表する指揮者、作曲家のレナード・バーンスタインがロンドン交響楽団とともに北海道札幌市で創設した国際教育音楽祭、フェスティバル札幌(Pacific Music Festival Sapporo 略称:PMF、ピー・エム・エフ)の中核オーケストラとなっている。
最初の構想では開催地は北京であったが、1989年6月の天安門事件の発生により、当地での開催を断念。 PMFアカデミーの研修場所にふさわしい札幌芸術の森やオーケストラの演奏会ができるホールの存在、北海道には予定した開催時期に梅雨がない、などの理由によって札幌が開催地に選ばれた。
【演奏の模様】
①メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲』
<割愛>
②ブルックナー『交響曲第9番』
ブルックナーの交響曲は最近あちこちで演奏されているので、ここ一年間でも結構聴きに行っています。
2022.10.『7番』ラトル・ロンドン響、2022.12.『2番』ルイージ・N響、2022.12.『4番』インバル・都響、2023.3.『4番』飯森・パシフィックフィル、2023.3.『8番』上岡・新日フィル、2023.6.『5番』ミンコフスキ・都響、 2022.7.『9番』ダウスゴー・PMFオケ、
ご案内の様にブルックナーの交響曲に関しては、特に死後、修正版、改訂版、補遺稿などが多く出されており、これは彼の生前の作曲手法の一手法が弟子や関係者に引き継がれたと言って良いでしょう。
今回の演奏は交響曲9番です。 この曲について、若干捕捉します。
作曲着手は、1887年8月で、この時、第8番の第1稿は完成していましたが、演奏拒否により初演できず、そのため交響曲第9番の作曲は延期し、第8番の改訂やミサ曲の改訂、またさらに以前の交響曲の改訂などを行ったため第9番の作曲ができないまま、主に改定作業で数年間が過ぎてしまい、第9番の作曲は1891年になってやっと再開することが出来ました。そして1894年に第3楽章まで完成させます。再開した後も、かなり時間がかかっています。
この間ブルックナーは健康状態が思わしくなく、5階の部屋への階段の上り下りにも苦労する状態でした。そこで、オーストリア皇帝の配慮でベルヴェデーレ宮殿の平屋の管理人用住居が与えられました。その場所で最後の第4楽章の作曲を続けましたが、完成する前に世を去ってしまいます。1896年10月11日のことでした。
死期を悟ったブルックナーは、第4楽章の代わりに『テ・デウム』を演奏することを希望しました。しかし、各楽章とも20分以上の大作であり、規模が大きく完成度も『テ・デウム』より高いことから、第3楽章までで演奏を終えるのが普通でした。
初演は1903年2月11日に、ブルックナーの弟子の一人であるレーヴェの指揮によるウィーンフィルの演奏で行われました。しかし、この時、演奏されたのはレーヴェにより改訂されたヴァージョンでした。この曲の特徴であるグロテスクさのある不協和音などは、変えられていました。
その後、弟子たちの改訂を取り除いた原典版を作成することが出来て、これは1930年代になってやっと演奏されました。
現在の1楽章から3楽章のバージョンはハース版とノヴァーク版がありますが、ブルックナーの書いた原典版をもとに作成されており、極端な差はありません。第4楽章は、最近になって色々な人により輔弼復刻の試みがされており、今回はサマーレ、フィリップス、コールス、マッツーカの人達による補筆完成版 (2012年)に従って演奏されます。
第1楽章Feierlich, misterioso
第2楽章. Scherzo. Bewegt, lebhaft – Trio. Schnell
第3楽章. Adagio. Langsam, feierlich
第4楽章Finale. Misterioso, nicht schnell
三菅編成弦楽五部14型。
トレモロの響き次第に大きな音に鳴って行くと金管群が堂々と分厚い斉奏を響かせ次第に全管弦の全奏に至りそれが下行していきます。これは将にブルックナーの醍醐味。その後Fg.の合いの手が入ると曲相が変わり、弦の穏やかな調べ(第2主題)が滔々と流れCb.がずっしりと低音部を押さえ、非常に耳当たりが良い箇所でした。続いて1Vn.中心のアンサンブルにFl.が合の手を入れ、さらに⇒弦楽⇒Hrn.⇒Vc.アンサンからゲネラル パウゼ(以下G.P.と略)に至る弦楽の美しさも素晴らしい。この楽章でも何回かG.P.と予期せぬ曲相の変化があり、この楽章だけで約30分もかかるという壮大な建築物の予感がしました。2楽章、3楽章、さらには4楽章と続くのですから気が遠くなる様な思いもしました。
第2楽章はスケルツォで、打って変わってテンポが速い軽快な音楽になります。木管の調べを背景に弦楽の速いPizzi.が縦横な音の動きを示したかと思うと、次に全楽の全奏でジャジャジヤツジャツジャンジャンジャンジャンといきなりエンジンがかかったポンプの様に大きく音を吐き出した。こりゃ迫力満点。この楽章、それが何回か(確か3回?)繰り返されました。このリズムと旋律が一番印象が深いです。
第3楽章、1Vn.アンサンがゆっくりと低音から高音さらに低音へとうねるが如き動きを見せ、背景ではHrn.の静かな調べが響き、途中からVc.アンサンブルの太い調べが鳴り始めるとFl.音が合の手を入れ再度Hrn.が滔々と鳴らされるのでした。
最終部の強奏では天と地がひっくり返るのではと思われる程のオーケストラの鳴らす轟音に、一種魂の叫びを感じる程でした。
最後は、自身の交響曲第8番第3楽章の冒頭や第7番第1楽章の第1主題などが、回想され、平穏な雰囲気で曲を閉じます。
第4楽章:
さて、補筆の第4楽章です。唐突に始まりました。ダイナミックで、斉奏が主題を表示します。輔弼者たちはあたかもジグソーパズルを組み合わせるようにブルックナーの素描(スケッチ)を組み合わせて編曲・補足していったのでしょうか?推敲には気が遠くなる様な時間が掛かったでしょう。
近代絵画特にピカソの絵画でも見ている感じです。以前も書きましたが、ブルックナーの交響曲は、一種モザイク画のようです。曲のG.P.で区切られる曲の断片、若しくは短い息継ぎの後の曲相の変わる一つの断片から別な断片へと変遷する、この断片を大きなカンバスに嵌め込んで、全体としての構築物を作曲していく手法、この手法は見方によってはカタルニアのサグラダ・ファミリアの建築物造成の手法に類似しているかも知れない(時系列駅にはその逆かも知れない)。先だってNHKで放送していたのを見ると、あの巨大な建造物をほんの一部の入り口の石組や飾り立ての彫刻をどの様にするか、全体設計図のない中で詳細設計を時には図面無しで職人技で部材を組み立てて構築する、その気が遠くなる様な作業が遂には終わりに近づき、壮大な寺院の完成に至るという道筋です。ブルックナーは、特に教会と密接につながりを持った人ですから、幾多の教会でオルガンの音を就中「即興」で弾いて出した時、その様々な響きの変化を心の中に沢山しまい込んでいたに違いありません。そうした部材を交響曲の作曲の際に持ち出して利用し、しかもG.P.とは、次の素材をどう弾き出してどの様に使うか考えた痕跡なのかも知れません。
実際この4楽章を聴いてみても、G.P.が何回も出て来ていて、その直前の曲素材の終盤は、旋律、和声、リズム、何れかに於いて素晴らしい響きを持ったものばかりで、しかも1楽章〜3楽章と比べてもいくばくの齟齬も違和感もない、最終楽章としての風格を感じる曲でありました。これを補遺・補筆した人々の苦労と工夫は将にブルックナーが作曲に際して生みの苦しみを味わったのと同じ様なものではなかったでしょうか。
何れにしても今回のPMFオーケストラという常設ではないですが、その素晴らしい伝統を引き継いで来て、又今後も引き継いで行くであろう楽団の、素晴らしい技量と若さ溢れる勢い、さらにはそれを現実の音として発現させたトーマス・ダウスゴーという指揮者に脱帽です。