HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

パシフィックフィル第155回定期演奏会

【日時】2023.3.4.14:00~

【会場】東京芸術劇場

【管弦楽】パシフィックフィルハーモニア東京

【指揮】飯森範親

【独奏】神尾真由子(Vn.)

【曲目】

①イェルク・ヴィトマン*『ヴァイオリン協奏曲』(日本初演)

*イェルク・ヴィトマン(Jörg Widmann 1973~ )

〈Profile〉
クラリネット奏者、作曲家、指揮者として活躍するイェルク・ヴィトマンは、今日最も魅惑的で多面的なアーティストの一人である。ミュンヘン音楽演劇大学でゲルト・シュタルケに、ジュリアード音楽院でチャールズ・ナイディックにクラリネットを学ぶ。ソリストとして、さらに室内楽奏者として内外の著名オーケストラに客演、多くの国際的名手たちと共演している。またヴォルフガング・リームなど、さまざまな作曲家からクラリネット協奏曲を献呈され、多数の新作クラリネット協奏曲を初演している。
作曲家としての活躍も目覚しく、これまでリンカーン・センター室内楽協会のElise L. Stoeger賞をはじめ名立たる賞を受賞。世界の主要なホール、オーケストラから次々と新曲を委嘱されている。2009年には、パリ・オペラ座バスティーユ開館20周年を記念して、アンゼルム・キーファーとの舞台作品『Am Anfang』が初演されたが、その際作曲家およびクラリネット奏者として務めただけでなく、指揮者としてもデビューを果たした。2008年からはフライブルク大学のクラリネット科の教授を務め、また音楽院で作曲も教えるなど、その活動は限界を知ることがない。

 

②ブルックナー『交響曲第4番変ホ長調〈ロマンティック〉ノヴァーク版(1878/80年)』

 

【演奏の模様】

①ヴィトマン・Vn協奏曲

赤いドレスに身を包んだ神尾さんは飯森さんと共に登場、指揮者が台に上るととすぐにヴァイオリンを奏で始めました。太い荒々しい低音でうねる様なソロ、1分程ソロが続いた後、Va.とVc.が伴奏的に入り、音程が少し上昇するVn.ソロ、重音も交じって来ています。不協的響きも有り。ズーッと重音演奏が続きます。ほとんどソロに近い状態、オケは時々伴奏的音を出すだけです。管も入りましたが、傾向は同じです。前半途中から高音のソロ音に飛躍しそのまま高音域を低音域と同様な調子(似たようなテンポと強弱)で演奏を続ける神尾さん。途中二回程、弦上を弓で軽くたたき滑る様な音(pizzicatoの一種なのでしょうか?)を立てました。音程は次第にさらに高くなり前半の後部になると(どうも楽章構成の資料が調べても出て来ません。単一楽章なのかも知れない。途中休止する箇所が有ることはあったのですが、すぐにアタッカ的に前に進んでしまうのです。)ここまで、オケの全奏・強奏は見掛けず、時に金管弱音器の音や(サスペンデッド?)シンバルの音、キン、コン、チーンという鐘(或いはトライアングル)の音などがするのですが、これはテンポや曲相の変化の合図の様な気がしました。神尾さんの演奏は、高速超特急の如きテンポで高音部の激しい弓使いを力一杯している感じ。この曲は将に無調の響き、ここまで聴いて、いつも慣れ親しんできた曲達とは異次元の世界です。単に神尾さんの高度な演奏技術の調べを聴いているだけでは、つまらなく感じる曲なので、妄想をたくましくして、聴いている調ベから、あたかも空中を自由自在に飛び回る、例えば大鷹(或いは鷲)の様子を頭に浮かべていました。低空からしだいに空高く悠然と舞う鳥、ジェットコースターの様に空中を高く低く滑空する鳥、そして地上の獲物を見つけたら狙いを定めて急降下し、一発必殺の嘴で獲物を捕らえ、再び上昇する姿。最近テレビで見た、あれはワイルドラフだったかな?グレートネイチャーだったかな?はっきり覚えていないですが、捕った餌を巣に戻り雛にやるのです。ピイピイ騒ぎながら食べる数羽の子達、それを確かめると、再び大空高く舞い上がる大鷲、今度は高い岩場に羽を休めていたらライバルが登場、縄張りを主張しこの二人は、でなく二匹は空中戦と相成り候。互いに甲高い鳴き声まで上げて零戦はB-25と死闘を繰り広げるのでした。こんな妄想をして聴いていると、この協奏曲は非常にダイナミックに耳に届き、神尾さんの超絶技巧演奏に感心することしきりでした。最後に神尾さんが立てた超高音のハーモニックス音が重音に聞えたのは気のせいでしょうか?30分間も神尾さんはほとんど弾きっぱなし、テクニックだけでなくスタミナも凄いですね。

 普通コンサートに行く前に、演奏される曲を来るだけ聴いてから行くようにしていて、今回はベルリンフィルがフイルハーモニアホールでネルソンス指揮、テツラフのソロで弾いた映像を予習して置きました。(クリスティアン・テツラフは今来日中で明日(3/6)サントリーで演奏する様ですね。)

 神尾さんの演奏は、録画で見たベルリンフィル背景のテツラフの演奏に負けぬ力強い演奏でした。

 演奏終了後何回もソロカーテンンコールがあり、大きな拍手に答えてソロ・アンコール演奏がありました。

《アンコール曲》パガニーニ『24のカプリースOp.1イ短調より第5曲』

曲の疾風怒涛の高速な部分の演奏でした。サルタート奏法というのでしょうか?今日の本演奏といえ、アンコールといえ、男勝りの神尾さんの力強さを感じました。

②ブルックナー『交響曲第4番<ロマンティック>ノヴァーク版1878年/80年稿』

I.第一楽章 Bewegt, nicht zu schnell

 II.第二楽章 Andante quasi Allegretto

Ⅲ.第三楽章Scherzo. Bewegt – Trio. Nicht zu schnell. Keinesfalls schleppend. – Scherzo

Ⅳ.第四楽章Finale. Bewegt, doch nicht zu schnell

4番には何版と何版があって、その具体的な違いの細部はどうのと言う詳細の考察は省きますが、ざっくり言うとこの曲をブルックナーが何回も改訂したことに起因します。彼は、1874年1月に作曲を開始、同年11月に書き上げました。(第1稿、または1874年稿)

1886年にはニューヨーク初演のために、わずかな改訂が加えられ、この時点のものを第2稿、または1878/1880年稿と称します。その後1887年から1888年にかけて、弟子たちがブルックナー監修のもと改訂を施しました。(第3稿、または1888年稿)    最初に出版されたものがこの稿であったため、またこの稿が長らく否定的に評価されてきたこともあり、「初版」「レーヴェ版」「改訂版」「改竄版」等と呼ばれます。

戦後、国際ブルックナー協会の校訂作業がノヴァークに引き継がれたことにより、それに基づく楽譜が順次出版されたのです。まず1953年には1878/80年稿に基づく楽譜が出版された(ノヴァーク版第2稿)。続いて1874年稿(第1稿)が、1975年にノヴァーク版第1稿として出版されました。今回の演奏は、その1953年出帆の番に沿って演奏されます。

ブルックナーの大きな特徴、受けた感じに関して記します。尚4番<ノヴァーク版>についてはインバール指揮N響の演奏を昨年聴いています。

 先ずすぐに分かる事は、他の作曲家と比べても管楽器就中ホルンの目立った多用でしょう。第一楽章冒頭から、他の作曲家だったらバンダから、遠くの例えばアルプスのHrn.の響きを表現するのでしょうが、弱い音で重要な主題を吹きあげるのです。又第三楽章では冒頭からHrn.はTrmp.と速いリズムで互いに競う様に音を掛け合い、それがTrmb.まで巻き込んで、勇壮な場面を表出しています。上記主題は後の楽章でも、時々頭を擡げ、(弦楽も含む)アンサンブル発展の契機となる箇所もあるのです。従ってHrn.奏者の役割は非常に目立つ存在で重要なものであり、諸外国の管弦楽団では相当な名手や熟練者を配している様ですが、今回は聴いていてやや弱体感が有りました。ブルックナーのオーケストレーションは、オルガン奏者を長く勤めた効果もあるのだと思いますが、その響きが幅の広い音(の周波数帯)の集合体により、和声的に非常に調和感のある弦楽アンサンブル、管アンサンブルでとなっているのも大きな特徴の一つだと思います。第二楽章の低音弦、Vc.やVa.が織りなす調べは対位法的に管楽器と織り成して広がり、配布されたプログラムノートによれば、❝天上からの慈しみの光を感じる祈りと光が交錯する世界❞とまで言っています。

 ここでやや気になるのは所謂、「ブルックナー休止(ゲネラル・パウゼ」。確かに演奏によっては、全休止が多く目立つと、個々のパーツの孤立感が強まり、全体の流れが寸断されたかの様に感じるかも知れません。先日のインバール都響の演奏では、それがやはり気になりました。しかしいろいろその他の4番の録画を見て見ると、全然気にならない、全体の音楽の流れが繋がっている演奏もありました。例えば晩年ブルックナー演奏で巨匠と謂われたStanislaw Skrowaczewski指揮のOrquesta Sinfónica de Galiciaの演奏やカラヤン指揮ベルリンフィルの演奏など。カラヤンの指揮はよく聴くと、ゲネラルパウゼの前後はほとんどのケースで管弦楽アンサンブルを相当抑制させ消入る様に終了、時間を余り置かずに次のパッセッジをまたピアニッシモかピアノで再開する箇所が多くありました。全体の川の流れが途切れず、滔々とした感じなのです。その他のカラヤンマジックがあるのかも知れませんが。今回の演奏も、途中立往生感のある個所がありました。でも連続性はいい方だと思いますよ。

 演奏が終わって、指揮者の飯森さんは、(マイクを持たず)海上の聴衆に話しかけました。2階席だったのですが声が良く聴こえませんでした。「今回の演奏で2022/2023シーズンの定演は終わりとなり、又来期にはいい演奏を考えているので宜しくお願いします」と言った趣旨のことだと思いますが、挨拶していました。

 今日の演奏は、前半の神尾さんも後半のブルックナーもいい音、響きの連続で充分楽しめました。今後も期待出来るプログラムであれば、このオーケストラを聴きたいと考えています。