《日本フィル&サントリーホールにじクラ ~トークと笑顔と音楽と、 第2回》
【日時】2023.9.29.(金)リピート配信
【会場】サントリーホール
【管弦楽】日本フィルハーモニー交響楽団
【指揮】広上淳一
【出演】成田達輝(Vn.)萩原麻未(Pf.)
髙橋克典(司会)
【曲目】
①サン゠サーンス(イザイ 編曲)『ワルツ形式の練習曲によるカプリース』
②モーツァルト『ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K. 467 より 第2楽章』
③メンデルスゾーン『ヴァイオリン、ピアノと弦楽のための協奏曲 ニ短調 より 第3楽章』
④チャイコフスキー『幻想序曲〈ロメオとジュリエット〉』
【感想】
出演の成田さん(Vn.)と萩原さん(Pf.)の演奏は、以前それぞれ別々に聴いたことがあるのですが、お二人が結婚されてから一緒に演奏会に出るのは初めてと耳にしました。でも演奏会のある日は都合が悪く行けなくて、幸い配信があるという事なので、リピート配信で聴きました。
演奏会は、司会進行役を髙橋克典さんが務め、慣れた如才ない話術で、出演者や指揮者とのトークを魅了、会場の笑いや喝采を誘いながら進められました。
最初の①サン=サーンスの曲はピアニストでもあるサン=サーンスが『6つの練習曲Op.52』として作曲したピアノ曲の第6曲目「ワルツの形式で」がもとです。これをイザイがヴァイオリン曲用(今回はオーケストラ伴奏)に編曲しました。
演奏は成田さんの Vn.独奏、冒頭から速いテンポで力強く弾き始めた成田さんは、かなりの超絶技巧を駆使して弾いている様子。荒々しい旋律から華麗なメロディーをダイナミックな指使いと運弓で表現している。オクターヴ、同音連打、重音、ハーモニックス演奏等ありとあらゆるテクニックを縦横無尽に繰り出して、目だったミスもなく弾きこなしました。広上・日フィルとソリストの呼吸は良くマッチングしていたと思います。ただ欲を言えば、ソロヴァイオリンの音色にさらに広がりのある艶ややかさが伴えば一層華やかになったと思いました。
②は、成田さんの奥さんの萩原さんの演奏。萩原さんの演奏は数年前から神尾さんとの共演等で結構聴いていますが、年々その素晴らしさが増してきているなと思っていたら、いつの間にか東京藝大で伊藤恵さんの元で講師を務めていると聞き、さも有りなんと思いました。
モーツァルトのピアノ協奏曲は、1番~27番までありますが、演奏会では20番台が演奏されることが多いですね(誰か15番を弾いてくれないかな?一度生で聴きたいと思うのですが、なかなか有りません)。この21番もよく演奏されるコンチェルトの一つです。その中でもこの第二楽章は殊に有名で、映画他多くのバックグランド曲として使われています。
先ず1Vn.アンサンブルの滔々とした流れを追って、萩原さんのPf.がソフトに発音(出音)し出しました。Vn.はその背景で小刻みなpizzicato伴奏音を立てています。萩原さんは柔らかいタッチでこの楽章に相応しい表現を十分にしていました。強打の箇所もあくまで抑制的にしなやかに演奏、矢張り期待した通り自分の心を十分に発揮していたと思います。残念ながら短い(7分程度)演奏だったのでやや物足りなく、全曲演奏を聞きたかった気もしました。
③は、今回の目玉、弦楽アンサンブルをバックにした(成田+浅原)夫妻によるメンデルスゾーンの協奏曲でした。
全三楽章構成ですが今回はその終楽章のみ。
流石にVn.とPf.は息の合った演奏を聞かせて呉れました。広上・日フィルは広上さん以下この二人のソリストを盛り立てる様に、全体としては控え目に演奏していたと思います。
先行して萩原さんが速いテンポの旋律で入り、すぐに成田さんのヴァイオリンが同旋律で後を追い、弦楽オケが下支えをします。9分足らずの短い演奏ですが、全体的に明るい若さ溢れる演奏で、弦楽も良くその雰囲気を造成するのに一役かっていました。荻原さんは、ピアノ伴奏的な箇所は随分とテンポが速く、しかも余り出る杭とならない様に気を使って演奏している様子、成田さんは①の時より楽器が良く鳴っていると思いました。全体的にせわしない曲ですが、メンデルスゾーンが13歳ころの作品といいますから、今でいえば中学生くらいの裕福な家の才能ある子が作曲した元気一杯の明るさを、Vn. Pf. および弦楽も良く表現出来ていたと思いました。
演奏後、髙橋さんは二人にインタヴューし、今日の初めての共演の感想を訊きました。成田さんは❝シンプルにうれしい❞、萩原さんは、❝感無量です。感謝の気持ちです❞と答え、また家での練習のこと、子供のこと、子育てのこと等が話題になり、二人(主に成田さん)は、時にはジョークを交えて面白おかしく、又身振り手振りで観客にアピールしたりして、答えていました。矢張り何にも臆せない新世代の演奏家という感が強かった。
また髙橋さんが、指揮者の広上さんに、インスピレーションは何処から?等と訊くと、マエストロは、料理はレシピから。音楽の台本、スコアはレシピの様なもの、愛情が籠っていないと聴衆に伝わらない、ベートーヴェン、ショパン、ブラームスの愛情の立ち位置の違い等、いつもの広上節で(一見真面目に)ユーモラスに語っていました。
《20分の休憩》の後は、オーケストラ演奏で、④のチャイコフスキーでした。
「ロメオとジュリエット」を題材とする曲は、プロコフィエフのバレエ音楽が有名ですが、その他ベルリオーズ、グノー、チャイコフスキー、ベルリーニ、カバレフスキー等多くの作曲家達が手掛けています。
今回のチャイコフスキーの幻想序曲は、1869年の9月から11月にかけて作曲され、1870年3月16日、モスクワで初演されました。楽譜は1871年ベルリンで出版され、その際に大幅な改訂が行われた。その後も改訂が行われ、現在演奏される決定稿が出版されたのは1881年です。交響曲1番と2番の間に作曲されたこの曲が、チャイコフスキーの最初の傑作という声も多いそうです。
確かにシエイクスピアのこの物語の重要場面、修道僧ロレンス、モンタギュー家とキャピュレット家のいさかい、ロメオとジュリエットの恋、2人が悩む様子、2人が別れを惜しむかのような収束、両家が激しく争っている様子、2人の死を暗示するメロディー、仮死状態にあるジュリエットを死んだと感違えするロメオ、ロメオの死等の場面をよく管楽器やハープや弦楽アンサンブルで見事に表現していて、20分程の長くも短くも無い作品の内容を、広上・日フィルは程良いテンポで十二分に表現したと思いました。
時折速くなるテンポの激しいリズミカルな旋律には、交響曲5番の予感がする場面も有りましたし、滔々と流れる緩やかな旋律には、その後の名曲とされるチャイコの曲達との共通性も感じられ、確かに素晴らしい曲だと感づかせてくれた演奏でした。
なお、開演の前にオルガンによる「プレコンサート」があり、青山学院大学オルガニストの清水さんの演奏が行われました。
◉オルガン演奏 清水奏花
①エルガー(ルメア 編曲)『愛の挨拶』作品12
②ウォルトン(マリル 編曲)『戴冠式行進曲〈王冠〉』
①はよく知られた曲で、もともとはエルガーが婚約記念にフィアンセに送ったピアノ曲でしたが、Vn.演奏(Pf.伴奏)用、小編成管弦楽用等にも編曲されました。今回はオルガンヴァージョンでしたが、大音で聴いても、優しさ溢れるメロディーが心を癒してくれます。
②1937年5月12日に予定されていたエドワード8世の戴冠式のために作曲されました。しかし、エドワード8世は1936年に退位し、代わって即位した弟のジョージ6世とエリザベス妃の戴冠となったのです。①とは打って変わって相当力強いブラスの響きもある行進曲でした。合わせても15分程度の短い演奏でした。
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ところで、昨夜は中秋の名月を見ることが出来ましたでしょうか?今回は何年に一回という❝満月と旧暦8月15日の十五夜が重なった❞結構珍しい年でした。29日の当ブログ記事の中で引用した天気予報からは少し変化があったみたいです。昨日の夕方の予報では、気圧配置自体はそれ程変化が無いのですが、雲(気流)の動きが速まった模様で、雲が関東地方にも流れ込んだのです。従って時間と場所により雲に隠れて見えない所も又見え隠れする処も有りました。東京では、夕方にはくっきりと満月が見えましたが、当方の位置する横浜では、夜になると矢張り雲がかなり出てきて、見え隠れする状態でした。
❝花は盛りに、月は隈なきをのみ、見るものかは❞(徒然草137段)
という古えの言葉の通り、雲に見え隠れするのも風情があるものです。
( 産経新聞NET より)
夜には虫の音も一段と高かまり、如何にも秋が深まっていくという感がしました。それでも日中の暑さには辟易してしまいます。
❝暑さ(何とか)も彼岸越え❞[HUKKATS]
の前半は的を射ていると思います。でも()部分は春にならないと当てはまるかどうか分かりません。