【日時】2024.5.4.(土)16:00〜
【会場】東京国際フォーラム・ホールA
【公演番号】224「藤木大地と横浜クィンテット」
【出演】
○藤木大地 (カウンターテナー)
○みなとみらいクィンテット
成田達輝 (第1ヴァイオリン)
山根一仁 (第2ヴァイオリン)
川本嘉子 (ヴィオラ)
遠藤真理 (チェロ)
松本和将 (ピアノ)
【曲目】
①シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 op.44から 第1楽章
②ラフマニノフ:ヴォカリーズ op.34-14
③シューベルト:魔王 D328
④マーラー:歌曲集「リュッケルトによる5つの歌」から 私はこの世に忘れられ
⑤ヴュータン: アメリカの思い出《ヤンキー・ドゥードゥル》 op.17
⑥ヴォーン・ウィリアムズ: サイレント・ヌーン
⑦加藤昌則:レモン哀歌
⑧木下牧子:鷗
⑨村松崇継:いのちの
【演奏の模樣】
今日の演奏メンバーは、全然知らない聞いたことのない人達ではなく、これまで何らかの機会のコンサートで聴いたことのある演奏家、若しくは名前は知っている人ばかりで、他にチケットがまだ買える目ぼしいコンサートは無かったので、聴くことにしました。消極的な理由で申し訳ないですが。実はもう一つ動機があって、クインテットのチェロ担当の遠藤真理さんは一度生演奏を聴きたいと以前から思っていましたが機会が一度もありませんでした。以前NHKFMの日曜日放送で❛キラクラ❜という音楽番組が有り、遠藤さんがふかわりょうさんと軽妙なトークを交えて話した後、❝アッ、ハッ、ハッ❞と豪快に笑うのがとても見事だったのを聞いて、チェリストの様だけれど、どんな人なのかな?と興味があったのです。今回、チェロの演奏も聴けて、あの豪快な笑いに納得がいきました。
さて演奏の方は、
①シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 op.44から 第1楽章(Allegro brillante)
シューマンらしさが良く表現されていて仲々いい演奏でした。前半の速いテンポの強奏は、1Vn. Pf. Vc.の掛け合いからテーマの1Vn.奏、Vc.旋律ソロ、Pf.の合いの手と力強く目まぐるしく進行しますが、かなり柔らかな主題も提示され、特にピアノの音が美しき響きました。矢張りシューマンはクララにPf.パートを託しかったのでしょう。
②ラフマニノフは力強いピアノ曲や交響曲が有名ですが、繊細な歌曲もいろいろ作っています。ヴォカリーズとは、歌詞を付けずに一つ以上の母音を用いて歌うことを意味し、主に発声練習何度で使われます。ラフマニノフのこの曲を藤木さんは❝あーあーあ―❞と、独特のカウンターテナー声で、高い音域で歌いました。立ち上がりだからなのか、安定感も無く声も伸びなかった。
③、④は有名な歌曲の一節を藤木さんは、クインテットをバックに歌いました。③の魔王は今一つの感が有りましたが、④のマーラーの歌は、特に後半部がしっとりとした静かな歌の中にも藤木さんの声の強さも感じられ高音もしっかりと出ていて安定感が増してきていました。②の時の歌い振りとは大違いです。調子が出てきた模様。
⑤はクインテット就中、1Vn.が活躍する曲です。成田さんは立位でVn.を弾き、相当な超絶技巧も駆使し、途中口笛まで交えて如何にもヤンキーっぽい曲を面白おかしく表現出来ていたと思いまでもでもヴァイオリンの音としてはやや荒っぽすぎたかな?①の時も感じたことですが、もっともっと研ぎ澄まされた出音が欲しい処。
⑥は余り印象に残っていないのですが、⑦から⑨までの日本人作曲家の歌では、⑧の鷗(かもめ)の歌が、④からの上り調子の藤木さんが、安定した発声を続け、高音も力強く出ていて、最後歌も伴奏も盛り上がって、一瞬のゲネラル・パウゼの後一音を立てて終了しました。クインテットの伴奏は⑦以降もバランス良くまとまっていました。
全体を聴いた感想は「目出度さも中くらいなりおらが春」の気持ちを抱きました。
尚、聴衆の大きな歓呼に応えてあんこウール演奏が有りました。二曲です。
《アンコール曲》
①モリコーネ『ネッラ・ファンタジア』
②エディト・ピアフ作詞、マルグリット・モノー『愛の賛歌』
①では藤木さんの本領発揮と言うか、実力が出せていたと思います。ここでも1Vn.の音は少し荒っぽかったと思う。
②は有名なシャンソン。歌の途中マイクを1Vn.の成田さんに渡し、成田さんは低い声で何やら台詞の様なものをボサボサと読み上げて、聴衆の笑いを誘っていました。彼はインターテイナーとしての才をあちこちで発揮しているのを知っていますが、もう少し本格的に学べばさらに聴衆受け出来ると思います。今回の台詞はフランス語だと思いますが何を言ってるのか、さっぱり仏語に聞えないです。次いでに藤木さんの発音ですが、③、④、の独逸リートは、旋律だけでなくドイツ語歌詞の発音表現が重要な役割を果たします。配布された資料には歌詞の日本語訳のみが記載されていましたが、実際に歌われる原語も併記して欲しかった。聞いていてドイツ語としての明快な発音は聞こえませんでした。
日本人歌手としては、メッゾの藤村さんなどお手本でしょうね。
もう一つ希望としては、カウンターテナーの歌でオペラの一節を聴きたい気もしました。例えば「オルフェオとエウリデーチ」の一節とか。
カウンターテナーとしてはかなり制約を受けると思いますが、今後本格的オペラの役柄を藤木さんが歌うことが有れば、是非聴きに行きたいと思っています。