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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

パレルモ・マッシモ劇場『椿姫』二日目6/18(第二幕・三幕詳報)

悲劇のヒロインに憑依するヤオ、メーリ、ガザーレと揃った理想のキャスト(主催者)


【日時】2023.6.18.(日)15:00~

【会場】東京文化会館

【演目】プッチーニ作『椿姫』全三幕(1幕30m.2幕75m.3幕35m.休憩20+20=40m. 計約180分)

【上演】パレルモ・マッシモ劇場

【管弦楽】パレルモ・マッシモ劇場管弦楽団

【指揮】フランチェスコ・イヴァン・チャンパ

【合唱】パレルモ・マッシモ劇場合唱団

【演出】マリオ・ポンティッジャ

【舞台】フランチェスコ・ジート&アントネッラ・コンテ  

【キャスト】

〇ヴィオレッタ(ソプラノ)エルモネラ・ヤオ

〈Profile〉

生年月日: 1974年 (年齢 49歳)
出生地: アルバニア ティラーナ
配偶者: アービン・スタファ
映画: Verdi: La Traviata、 Royal Opera House: Madama Butterfly、 Madama Butterfly、

エルモネラ・ジャホはアルバニアのオペラソプラノです。彼女はエコノミストで「世界で最も評価の高いソプラノ」と評されました。フィナンシャルタイムズは、「エルモネラジャホは彼女の歌に心と魂を投げ込みます...抵抗しようとさえしないでください」と言いました。

 

〇アルフレード(テノール)フランチェスコ・メーリ

 

〈Profile〉

1980年にイタリアのジェノヴァで生まれ。現在41歳。23歳でスカラ座デビュー。「セルヴィアの理髪師」などのロッシーニもの、デセイとの共演でベルリーニ「夢遊病の女」、ネトレプコやガランチャ、イルデブランド・ダルカンジェとの共演でドニゼッティの「アンナ・ボレーナ」など主にベルカントオペラを歌っていた。

 しかし次第にヘビーな役に移行して、現在では主にヴェルディ作品を歌うヴェルディ歌いテノールとして有名。ネトレプコと共演したザルツブルグでの「イル・トロバトーレ」や「アイーダ」、そして「仮面舞踏会」、さらにドミンゴとの共演「二人のフォスカリ」などがある。「カルメン」などのフランスオペラも歌っている模様。

 歌い方は端正でノーブル、大仰な歌い方や「目立とうテノール」のような、高音をやたら長く引っ張ることはしない。カウフマン、ドミンゴやベチャワ等と同様、"no-brainer" テノールとは違うな、と思える。そのためか地味に見えるが、実力派でイタリア随一のテノールだとも言える。

 

〇ジェルモン(バリトン)アルベルト・ガザーレ

<Profile>

1968年、サルデーニャ島サッサリ生まれで、ダル・アバコ音楽院を修了している。

父はドイツ文学者で、兄は俳優兼演出家という芸術一家に生まれる。往年の名テノール、カルロ・ベルゴンツィに師事して、ヴェルディレパートリーを習得。マントヴァのヴォルトリーニ国際コンクールをはじめ、クレモナのバジオラ国際コンクール、ロヴェレートのバスティアニーニ・コンクールなど数々の国際コンクールで優勝ならびに受賞。1997年パルマ王立劇場での「ラ・トラヴィアータ」のジェルモンでオペラデビュー。久しぶりに登場したイタリア出身の正統派バリトンの逸材として注目され、ミラノのスカラ座をはじめ、パルマ、モデナ、マントヴァ、ピサ、ベネチア、ベルガモなど各地の主要歌劇場で歌う。2004年には「椿姫」のジェルモンでウィーン国立歌劇場にデビューし、大絶賛された。2000年スカラ座日本公演「リゴレット」のタイトルロールで好評を博し、2001年には藤原歌劇団に「マクベス」のタイトルロールで初登場。2003年スカラ座公演「マクベス」、2006年ボローニャ歌劇場公演「イルトロヴァトーレ」で来日するなど、日本でも高い人気を誇る。

〇フローラ(ソプラノ)トニア・ランジェッラ

〇ドゥフォール男爵(バリトン)イタロ・プロフェリッシェ

〇ドビニー侯爵(バス)ルチアーノ・ロベルティ

〇アンニーナ(ソプラノ)フランチェスカ・マンゾ

〇ガストン子爵(テノール)ブラゴイ・ナコスキ

〇医師グランヴィル(バス)ジョヴァンニ・アウジェッリ

 

   

【上演の模様】

《第二幕》

  この第二幕がこのオペラの天王山、音楽的にもヴェルディが全力を尽くして表現した処、物語的にも台本作家が一番表現したかった箇所ではないかと自分的には考えます。

    舞台場面は変わって、パリ郊外のヴィオレッタとアルフレッドが同棲する愛の巣です。
 もう一緒に住んでかれこれ何カ月経ったのでしょう?収入もなく(アルフレッドが受け取っている僅かな年金では)この様な物入りの生活は成り立たず、ヴィオレッタは自分の財産を切り売りして、生活の足しにしています。
アルフレッドとの愛を選んだヴィオレッタは、ついには生活費のため全財産を競売にかけようとしていました。それを知ったアルフレッドは競売を止めさせようとパリへ向かったのです。

 パリに向かう直前の憤懣やるせない気持ちを歌ったアルフレッドのアリアです。

❝SCENA Ⅲ Alfredo solo

O mio rimorso! O infamia e vissi in tale errore?Ma il turpe sogno a frangere il ver mi balenò. Per poco in seno acquétati, o grido dell'onore; M'avrai securo vindice; quest'onta laverò. 

(<第3場>(アルフレッド一人で)

 ああ、自責の念が!なんたる不名誉だ!それほどの過ちを犯していたのか?だが、僕の恥ずべき夢を、真実が引き裂いてくれた。いま少し黙っていてくれ、名誉の叫びよ、
必ず仇を討ってみせる、この恥を拭い去るのだ。)

    ここでアルフレッド役のメーリは、しっかりしたテノールの声を少し興奮した調子で歌い、ヴィオレッタに対する申し訳ないという気持ちと気が付かなかった自責の念をうまく表現していました。このアリアの最後は、高揚した気持ちをハイⅭの高い声を張り上げて、パリに向けて部屋から走り去る場面なのですが、メーリは最後の高い声が出ないのか非常に曖昧な声を出して(いわば胡麻化して歌って)駆け足で部屋を出て行きました。一幕からここまで、登場したキャストの中では一人、気を吐いていたメーリなのに、ここに至り「画竜点睛を欠く」の感がしたのは、残念です。

 すれ違いで帰宅するヴィオレッタ。そこには何とアルフレードの父ジェルモンが訪れていました。このヴィオレッタとジェルモンの歌のやりとりも、このオペラの大きな山場の一つです。アルフレードの妹の縁談を成立させるため、息子と別れるようと説得するジェルモンは、あの手この手の理屈を繰り出して頼むのでした。成人した息子の恋人に対して別れて欲しい等と何て出しゃばりな親なの!「勝手でしょ!」とヴィオレッタが突き放せば良かったのに。ところが、そうはしなかったのですね。やさしいヴィオレッタ。この辺りの二人の二重唱、殊にヴィオレッタの歌は、涙なしには聴けない箇所なので、詳しく引用します。

 

❝ANNINA
È qui un signore

VIOLETTA
Ah! sarà lui che attendo.

Accenna a Giuseppe d'introdurlo

GERMONT
Madamigella Valéry? 

VIOLETTA
Son io.

GERMONT
D'Alfredo il padre in me vedete!

VIOLETTA
Sorpresa, gli accenna di sedere Voi!

GERMONT
sedendo

Sì, dell'incauto, che a ruina corre,
Ammaliato da voi.

VIOLETTA
alzandosi risentita
Donna son io, signore, ed in mia casa;
Ch'io vi lasci assentite,
Più per voi che per me.

per uscire

GERMONT
(Quai modi!) Pure

VIOLETTA
Tratto in error voi foste. Toma a sedere

GERMONT
De' suoi beni Dono vuol farvi

VIOLETTA
Non l'osò finora Rifiuterei.

 

GERMONT
guardandosi intorno Pur tanto lusso

VIOLETTA
A tutti È mistero quest'atto A voi nol sia. Gli dà le carte

GERMONT
dopo averle scorse coll'occhio Ciel! che discopro! D'ogni vostro avere
Or volete spogliarvi? Ah, il passato perché, perché v'accusa?

VIOLETTA
con entusiasmo
Più non esiste or amo Alfredo, e Dio
Lo cancellò col pentimento mio.

GERMONT
Nobili sensi invero!

VIOLETTA
Oh, come dolce Mi suona il vostro accento!

GERMONT
alzandosi Ed a tai sensi Un sacrificio chieggo

VIOLETTA
alzandosi Ah no, tacete Terribil cosa chiedereste certo Il previdi… v'attesi… era felice… Troppo…

GERMONT
D'Alfredo il padre La sorte, l'avvenir domanda or qui De' suoi due figli.

VIOLETTA
Di due figli!

GERMONT
Sì. Pura siccome un angelo Iddio mi die' una figlia; Se Alfredo nega riedere In seno alla famiglia, L'amato e amante giovane,
Cui sposa andar dovea, Or si ricusa al vincolo
Che lieti ne rendea Deh, non mutate in triboli
Le rose dell'amor. Ai preghi miei resistere
Non voglia il vostro cor.

VIOLETTA
Ah, comprendo dovrò per alcun tempo
Da Alfredo allontanarmi… doloroso
Fora per me… pur…

GERMONT
Non è ciò che chiedo.

VIOLETTA
Cielo, che più cercate? offersi assai!

GERMONT
Pur non basta

VIOLETTA
Volete che per sempre a lui rinunzi?

GERMONT
È d'uopo!

VIOLETTA
Ah, no giammai! Non sapete quale affetto
Vivo, immenso m'arda in petto? Che né amici, né parenti Io non conto tra i viventi? E che Alfredo m'ha giurato Che in lui tutto io troverò?
Non sapete che colpita D'altro morbo è la mia vita? Che già presso il fin ne vedo? Ch'io mi separi da Alfredo? Ah, il supplizio è si spietato, Che morir preferirò.

GERMONT
È grave il sacrifizio, Ma pur tranquilla udite
Bella voi siete e giovane… Col tempo…

VIOLETTA

Ah, più non dite V'intendo… m'è impossibile
Lui solo amar vogl'io.

GERMONT
Sia pure… ma volubile Sovente è l'uom

VIOLETTA
colpita Gran Dio!

GERMONT
Un dì, quando le veneri Il tempo avrà fugate,
Fia presto il tedio a sorgere Che sarà allor? pensate Per voi non avran balsamo I più soavi affetti| Poiché dal ciel non furono
Tai nodi benedetti.

VIOLETTA
È vero!

GERMONT
Ah, dunque sperdasi Tal sogno seduttore
Siate di mia famiglia L'angiol consolatore
Violetta, deh, pensateci, Ne siete in tempo ancor. È Dio che ispira, o giovine
Tai detti a un genitor.

VIOLETTA
con estremo dolore
(Così alla misera - ch'è un dì caduta,
Di più risorgere - speranza è muta!
Se pur beneficio - le indulga Iddio,
L'uomo implacabile - per lei sarà)
a Germont, piangendo
Dite alla giovine - sì bella e pura
Ch'avvi una vittima - della sventura,
Cui resta un unico - raggio di bene
Che a lei il sacrifica - e che morrà!

GERMONT
Sì, piangi, o misera - supremo, il veggo,
È il sacrificio - ch'ora io ti chieggo.
Sento nell'anima - già le tue pene;
Coraggio e il nobile - cor vincerà.

【アンニーナ】
お客様がお見えになりました。

【ヴィオレッタ】
お待ちしていた方だわ。

(ジュゼッペに案内するよう、指示する)

【ジェルモン】
ヴァレリー嬢ですか?

【ヴィオレッタ】
そうですが。

【ジェルモン】
アルフレッドの父親です!

【ヴィオレッタ】
(驚いて、椅子をすすめる)
貴方様が!

【ジェルモン】
(座る)
ええ、あの愚か者の、貴女に魅了され
破滅に向かっている男の。

【ヴィオレッタ】
(気分を害して立ち上がる)
女性に対してそのようなことを、それにここは私の家です。失礼させていただきます、それはむしろ、貴方様のためです。

(出ようとする)

【ジェルモン】
「何たる言動!」 しかし

【ヴィオレッタ】
貴方様は勘違いされているようですね。

(戻って座る)

【ジェルモン】
息子は財産を、
貴女に贈ろうとしている。

【ヴィオレッタ】
今までそんな事はありませんでしたし、
そうとしてもお断りします。

【ジェルモン】
(周りを見て)
それにしても贅沢な

【ヴィオレッタ】
皆にはこの証書のことを秘密にしていたのですが、貴方様にはお見せします。

(書類を渡す)

【ジェルモン】
(素早く読む)
ああ!何ということだ!貴女は全財産を手放すおつもりですか?ああ、過去はなぜ、なぜ貴女を非難するのでしょう?

【ヴィオレッタ】
(熱心に)
過去など存在しません。今はアルフレッドを愛しています。神も消してくれました、私の後悔の念で

【ジェルモン】
実に立派な心がけだ!

【ヴィオレッタ】
ああ、貴方様のお言葉は、どれほど優しく響くことでしょう!

【ジェルモン】
(立ちながら)
その心がけを見込んで、一つ犠牲をお願いしたい。

【ヴィオレッタ】
(立ちながら)
ああ、おっしゃらないで、恐ろしいことに違いありませんわ、こうなる予感がしていました、いらした時から、あまりにも幸せすぎたのです・・・

【ジェルモン】
アルフレッドの父として、二人の子供の運命と、未来のために頼むのです。

【ヴィオレッタ】
二人のお子様!

【ジェルモン】
そうです。天使のように純真な娘を、神はお与えくださった。もしアルフレッドが、家族のもとへ戻ることを拒むのなら、娘が愛し愛される青年は、そこに嫁ぐことになっている、あの約束を拒むのです。私たちを喜ばせていた約束を、どうか愛のバラを、茨に変えないようにしてください。貴女の心が、私の願いに抵抗しませんように。

【ヴィオレッタ】
分かりました、しばらくの間アルフレッドと離れていましょう・・・私には辛いことでしょうが・・・でも・・・

【ジェルモン】
いや、私の願いはそうではない。

【ヴィオレッタ】
これ以上何をお求めに?ずいぶん譲歩しましたのに!

【ジェルモン】
それでは不十分なのです。

【ヴィオレッタ】
永遠の別れを、お望みなのですか?

【ジェルモン】
その必要があるのです!

【ヴィオレッタ】
ああ、嫌です絶対に!
ご存じないのですね、どれほど激しい愛情が、私の胸のうちにあるのかを?私には友人も、身寄りもこの世にはいないということを?アルフレッドが、それらの代わりになると、誓ってくれたことを?ご存知ではないのですか、私の体が病魔に侵されているのを?すでに最後の時が近いというのを?それでもアルフレッドと別れろと?ああ、あまりにも酷い仕打ちです、いっそ死んだほうがましです。

【ジェルモン】
非常に苦しい犠牲でしょうが、落ち着いて聞いてください。貴女は若くて美しい・・・
しかし、時が経てば・・・

【ヴィオレッタ】
ああ、もう言わないでください、分かりますが・・・出来ないのです、彼以外は愛せないのです。

【ジェルモン】
そうかも知れぬが・・・男とは移り気なものですぞ。

【ヴィオレッタ】
(ショックを受けて)ああ、神よ!

【ジェルモン】
その美しさが時と共に消えたとき、早々に倦怠が頭をよぎる、その時どうなるでしょう?考えてください、貴女にとって、安らぎとはならぬでしょう、最高に甘い愛情も!
というのも、天から祝福された結びつきではないからです。

【ヴィオレッタ】
その通りです!

【ジェルモン】
ああ、ですから諦めるのです、そのような儚い夢を、そして私の家族の救いの天使になってください。ヴィオレッタさん、考えてくださいまだ間に合うのですから。若いご婦人よ、神様なのです、このような言葉を言わせ給うのは。

【ヴィオレッタ】
(極度の苦しみと共に)「ひとたび堕ちてしまった女には、立ち上がる希望などないのね!例え慈悲深い、神がお許しくださっても、人はそんな女に、容赦はしないんだわ」
(ジェルモンに対して、泣きながら)美しく清らかなお嬢様に、お伝えしてください、
不幸にも犠牲を払う女がいると、一筋の幸せの光しか残されていないのに、お嬢様のために、それを諦め死んでゆくと!

【ジェルモン】
そうだ、泣きなさい、可哀想に、分かっている、私の求めるものが、大きな犠牲だということは。私は魂の中に、貴女の苦悩を感じます、勇気をだしてください、高貴な心は勝利します。❞

 

 このジェルモンとヴィオレッタのやり取りの二重唱は結構長く続き、特にそれぞれのアリアで気持ちのやり取りを発露する箇所(上記引用赤字の箇所)では、ジェルモン役アルベルト・ガザーレは、やや硬めの声質ながら、しかし長年この役を歌ってきた余裕すら感じられる堂々としたバリトンで、切々としたヴィオレッタに訴えるアリアは、矢張り説得力のあるものでした。これに対するヴィオレッタ役ヤオは、第一幕の立ち上がりこそ少し声量不足かなと思ったのでしたが、ここでのアリアがそれ程絶叫調の大音量で歌われる箇所ではなく、ヤオの声質にはぴったりとも言えるアリアが多かったので、歌いながらの演技も交え、当初絶対受け入れられないと歌っていた彼女は次第に受け入れざるを得ない心境に変わるその心理変化も含めて、その苦悩ぶりが見事に表現されたアリアでした。彼女は仲々の役者ですね。

 それにしてもこのアリアに至るジェルモンの言い草は、将に矛盾だらけ、自己勝手な息子と健気なヴィオレッタのささやかな幸せな生活を破壊するパワハラそのものです。そのやりとりを再掲しますと、

GERMONT (dopo averle scorse coll'occhio)Ciel! che discopro!D'ogni ostro avere or volete spogliarvi? Ah, il passato perché, perché v'accusa?

VIOLETTA (con entusiasmo)Più non esiste or amo Alfredo, e Dio Lo cancellò col pentimento mio.

GERMONT Nobili sensi invero!

VIOLETTA Oh, come dolce Mi suona il vostro accento!

GERMONT (alzandosi)Ed a tai sensi un sacrificio chieggo

【ジェルモン】(素早く読む)ああ!何ということだ!貴女は全財産を手放すおつもですか?ああ、過去はなぜ、なぜ貴女を非難するのでしょう?

【ヴィオレッタ】(熱心に)過去など存在しません。今はアルフレードを愛しています。神も消してくれました、私の後悔の念で

【ジェルモン】実に立派な心がけだ!

【ヴィオレッタ】ああ、貴方様のお言葉は、どれほど優しく響くことでしょう!

【ジェルモン】(立ちながら)その心がけを見込んで、一つ犠牲をお願いしたい。

この場面では、ジェルモンが、息子が財産をヴィオレッタに捧げていると勘違いしているので、ヴィオレッタはそうではなく逆に自分が全財産をアルフレッドに貢ぐ証拠書面をジェルモンに見せたのでした。これに驚いたジェルモン、思いがけない事態にとっさに、立派な心掛けだが、それでもあなたの過去は非難されるべきものでしょう、と逆襲したのです。心ある人だったら、ヴィオレッタのやさしさ、自分の息子への愛の深さに感激し、引き下がるところなのですが、ジェルモンは自分の主張を通そうとして、逆襲したのでしょう。ジェルモンには悪魔が乗り移っているとしか思われません。ヴィオレッタはそれに対し「過去は神様が許して消してくれた」「自分が悔い改めたため」と反論したのでした。さも有りなん、敬虔深くて(教会にはいかないけれど)いつもお祈りしているヴィオレッタ、自分の享楽的生活を常に神に許しを請うていたのかも知れません。教養あるヴィオレッタのことですから聖書のマグダラのマリアの故事は知っていたに違いない。悔い改めれば神の許しは得られると思っていたのでしょう。「善人なおもて往生す。況や悪人をや」でしょうか?

 ぐちぐちとヴィオレッタに翻意を迫るジェルモン、そしてアルフレッドには妹がいて結婚を控えている、それがぶち壊しにならない様アルフレッドと別れて欲しいというのです。次に歌われるアリアは有名且つヴェルディの名旋律の一つと言って良いでしょう。

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GERMONT
Sì. Pura siccome un angelo Iddio mi die' una figlia; Se Alfredo nega riedere
In seno alla famiglia,L'amato e amante giovane,Cui sposa andar dovea,Or si ricusa al vincoloChe lieti ne rendea deh, non mutate in triboli Le rose l'amor.Ai preghi miei resistere Non voglia il vostro cor.

【ジェルモン】
そうです。天使のように純真な娘を、神はお与えくださった。もしアルフレードが、家族のもとへ戻ることを拒むのなら、娘が愛し愛される青年は、そこに嫁ぐことになっている、あの約束を拒むのです。私たちを喜ばせていた約束を、どうか愛のバラを、茨に変えないようにしてください。貴女の心が、私の願いに抵抗しませんように。

――――♪♪――――♪♪―――♪♪―――――♪♪――――――♪♪――――――

 これは奇異な話ですね。婚約していることはいいとして、許婚の兄(即ちアルフレッド)が家族の所に戻る(即ち帰省する)ことを結婚条件にするフィアンセ等聞いたことが無い。第一、アルフレッドがヴィオレッタと秘密の花園(パリ郊外)でひっそり暮らしていることなど知られていない筈です。ジェルモンはプロヴァンスの人ですよ。海が見える故郷と後ほど歌っているので、恐らくプロヴァンス地方の奥まった山間の地でなく、ニース、カンヌからそう離れていない丘陵地帯の何処かなのでしょう。パリの社交界での派手な生活の噂は、ニース辺りまで聞こえて来るかも知れません。でも秘密裏に二人がひっそりと暮らしている隠れ家の様な生活を田舎の許婚者が知る由もなく、又それを理由に結婚の条件にする筈がない。本当に妹を愛している青年とは考えにくい。これはジェルモンの作り話では?と勘繰りたくもなります。第一ジェルモンはどうやって二人の隠れ家を探し出し、そこに押掛けて来たのでしょうか?興信所や探偵事務所を通したのかな?その時代にあったのかな?いずれにせよここのストーリーは、物語のための物語の気配が強いと思った箇所でした。

 以上の様にどうも不審な点が多いので、デュマ・フュスの原文『La Dame aux Camélias』(以下邦訳『椿姫』の語を使用)を読み返してみました。勿論オペラの台本『La traviata』と原文『椿姫』には違いがあります。先ず主人公の名前が異なります。ヴィオレッタ・ヴァレリーはマルグリット・ゴーチェ、アルフレッドがアルマン・デュヴァール。また例えば、二人は最後は死に目に会えなかったとか、上記の場面では、父親にはマルグリットの方から会いたいという手紙を書いて、恋人がパリに行っていない時に面談したこと等仔細な違いは多くありますが、この物語の本筋、大方の細部の意味合いには差異はないと言って良いと思います。さて件の上記ジェルモンの説得話に関してですが、これも大筋では同様なことを父親は話しています。やはり妹の嫁ぎ先の家から兄のパリでの行状を知ったので、このままでは破談にすると言ってきたというのです。この辺りは 原本の第25章の終盤に記載が有りました。しかし父親のアルマン氏(≒ジェルモン)の説得を受け止めるマルグリット(≒ヴィオレッタ)の気持ちには変化が生じていることが書かれています。

❝≪Avez-vous le droit et vous sentez-vous la force de le briser?  Au nom de votre amour et de Votre repentir,Marguerite,accordez-moi Bonheur de ma fille. 

(そういう力が自分にあるとでもお考えになるだろうか?あなたの愛と悔いとの名においてマルグリット、娘を幸福にしてやって下さるまいか。)  ❞ 

と懇願調で父親から頼まれては、言われた方としても心を動かさざるを得ません。

❝≪Je pleurais silencieusement ,mon ami ,devant toutes ces réflexions que j’avais faites bien souvent ,et qui ,dans la bouche de votre pére, acquéraint encore une plus sérieuse réalite . Je me disais tout ce que votre pere n’osaint pas me dire ,et ce qui vingt fois lui etait venue sur le levres: que je n’etais apres tout qu’une fille entretenue ,

(わたしは何も言わずただ泣くばかりで、このことはこれまで何回も自分で考えたことなのですが、お父様の口から伺うとなおさらこのまま放置して置く訳にはいかない気持ちになるのでした)❞

(et que quelque rason que je donnasse a notre liaiason ,elle aurait toujours l’air d’un calcul;que ma vie passee ne me lassait aucun droit de rever un pareil avenir ,et que j’acceptais des reponsabilites auxquelles mes habitudes et ma Armand ).  の箇所は敢えて訳しません。

❝Enfin ,je vous aimais ,Armand. La maniere paternelle dont me parlait M.Duval, les chastes sentiments qu’il evoquait en moi, l’estime de ce vieillard loyal que j’allait conqueror, la votre que j’etais sure d’avoir plu tard,tout ce la eveillait en mon cœur de noble pensees qui me relevaint à mes propres yeux, et faisaient parler de saintes vanities, inconnues jusqu’alors. Quand je songeais qu’un jour ce vieillard, qui m’implorait pour l’avenir de son fils, dirait à ses prieres, comme le nom d’une mysterieuse amie,je me taransformais et j’etais fiere de moi.

(アルマン様[=アルフレッド]、結局私はあなたを愛していたのです。お父様(Duval 氏)が私にお話しされた時の親御さんらしい様子、私の心に呼び覚まして下さった清い感情、このもの堅いご老人から受けた尊崇の念、これはきっと先々あなた(アルマン様[=アルフレッド])からもきっと受けられるに違いない尊敬の念です、こうした様々な事柄が私の心に高尚な考えを呼び起こして呉れたのです、そう考えますと私というものが一段と高くなった様に思え、これまで知らなかった清い誇りをもってお話が出来る様になりました。息子さんの将来の為を思って腰を低くして頼んでいらっしゃるこのご老人は、いつの日か私の名前を一人のミステリアスな友達の名前として、娘さんがお祈りをする方々の中へ加えるようにとおっしゃることも有るだろうと考えますと、私は自分が生まれ変わった様に思えて自分で自分を誇りたい様な気持ちになります)❞

 こうなると事情はオペラとはニュアンスが違ってきます。オペラでは、ヴィオレッタが泣く泣く死ぬ思いで、父親の要求(と言っていい位の強い言葉)に屈した女性がいるのですが、原本では、何かミステリアスな心境の変化、より高い所に自分が達した感じを受けて、尊敬できるような言い分をする父親に同調する積極的姿勢が認められる女性が見えて来るのです。この違いは原本(仏語)から台本(伊語)を書く時に、イタリア人の台本作家であるフランチェスコ・マリア・ピアーヴェ(1810年 5月〜 1876年 3月)がその辺りを参酌しなかったためと思われます。しかし上記赤字部分を読むと、これは尋常でない何か、恐らく神がかりなことが起きっているとも思えます。要するに神の啓示があったのではなかろうか?そう言うことが実際にあるかどうかはキリスト教徒でない自分にははっきり分かりませんが、文献的に、文章から読み取れる範囲ではそうではないかと推定するのです。

   

 オペラに戻りますと、いずれにせよヴィオレッタにとっては過酷なジェルモンの求めで、彼女は絶対にいやです、と言って、その理由のアリアを激しい口調で歌うのでした。

❝ VIOLETTA Ah, no giammai!Non sapete quale affetto Vivo, immenso m'arda in petto?Che né amici, né parenti Io non conto tra i viventi?E che Alfredo m'ha giurato Che in lui tutto io troverò?Non sapete che colpita D'altro morbo è la mia vita?Che già presso il fin ne vedo?Ch'io mi separi da Alfredo?Ah, il supplizio è si spietato,Che morir preferirò.

(ああ、嫌です絶対に!ご存じないのですね、どれほど激しい愛情が、私の胸のうちにあるのかを?私には友人も、身寄りもこの世にはいないということを?アルフレードが、それらの代わりになると、誓ってくれたことを?ご存知ではないのですか、私の体が病魔に侵されているのを?すでに最後の時が近いというのを?それでもアルフレードと別れろと?ああ、あまりにも酷い仕打ちです、いっそ死んだほうがましです。)❞

この辺りもヴィオレッタのヤオは聞いていて納得できる歌い振りをしていました。この楽章に入って彼女は尻上がりに好調になったみたいです。

出来ない要求をされて苦しむヴィオレッタ、「打落水狗」とばかりに追求の追い打ちを掛けて歌うジェルモン、今度は「貴女は若くて美しいが時が経てば・・」「男とは移り気なもの」と方向転換して、そんな事当たり前の常識論、一般論、当てはまらない例など世界には沢山ある(hukkats注)と反論してやりたくなる程の攻め立て方です。しかもアリアの一言一言(Un dì, quando le veneri・・・)を噛んで聞かせる様にゆっくりと歌うのです。ここもジェルモン歌手ガザーレは心得たもの、ヴィオレッタを上手に諭す様に歌いました。

沢山ある(hukkats注)

 年老いても仲睦まじい例は現代でも多いが、歴史上有名なものもある。三国時代が滅びて司馬氏の西晋となり、それが滅びて東晋が出来た頃から中国国内は「五胡16国時代」と謂われる分裂状態に入った。その時代の最終期から南北朝時代(宋と北魏が最初の王朝)となるが、この時代は北朝の「北周」が主導権を握り、遂には北の敵国を亡ぼし全国統一まじかとなった。そこでの功労者が「北周」の大司馬楊堅(大司馬は重臣の位)。その楊堅と妻である独孤伽羅が一夫一妻を生涯貫いた事で有名(名ばかりの側室はおいた)。当時はその前の時代も後の時代も含めて、一夫多妻制が中国王朝の常識、そうした時代に特に独孤伽羅は夫への愛を貫き夫もそれに答えた物語は、華流ドラマにも仕立てられている。

❝ GERMONT Un dì, quando le veneri Il tempo avrà fugate,Fia presto il tedio a sorgere Che sarà allor? Pensate Per voi non avran balsamoI più soavi affetti|Poiché dal ciel non furono Tai nodi benedetti.

(【ジェルモン】その美しさが時と共に消えたとき、早々に倦怠が頭をよぎる、その時どうなるでしょう?考えてください、貴女にとって、安らぎとはならぬでしょう、
最高に甘い愛情も!というのも、天から祝福された結びつきではないからです。)❞

 この最後の言葉が酷く醜い「天から祝福された結びつきではないからです」と勝手に自分たちが「天」であるか如く歌っている。そう言えばその少し後の歌のやり取りでも、ジェルモンは「神様なのです、このような言葉を言わせるのは」といった趣旨で歌います。この言葉にもびっくり自分は神の「代理人」、「預言者」だと本気で考えていたのでしょうか?これは将に悪魔が乗り移っているとしか思えません。悪魔の言葉には普通の人間は耐えられないでしょう(ワーグナーのオペラにも似たような例があった気がします)。「徐々に倦怠が頭をよぎる、その時どうなるでしょう?考えてください、貴女にとって、安らぎとはならぬでしょう、最高に甘い愛情も!というのも、天から祝福された結びつきではないからです」との気持ちを惑わすこわいろの声に遂にはヴィオレッタは「その通り」と言って陥落してしまうのでした。

次のヴィオレッタの気持ちを歌ったアリアは、ヴェルディの名旋律の一つでしょう。この箇所もヤオ椿姫は、心の決心を泣く泣くジェルモンに訴えかけるのでした。

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❝a Germont, piangendo 

Dite alla giovine- sì bella e pura Ch'avvi una vittima - della sventura,Cui resta un unico - raggio di bene Che a lei il acrifica-e che morrà!

(ジェルモンに対して、泣きながら)
美しく清らかなお嬢様に、お伝えしてください、不幸にも犠牲を払う女がいると、ひと筋の幸せの光しか残されていないのに、お嬢様のために、それを諦め死んでゆくと!

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これに対し(当然ながらジェルモンは感謝の意を込めて)生きて幸せになるのです。あなたの愛の犠牲は報われるでしょう。涙への報いはいつの日か天が授けて呉れる、等と無責任なことを言うのです。

結局ヴィオレッタはアルフレッドに別れの手紙を書いて家を出ます。事情を知らないアルフレッドが戻って手紙を見て愕然とし、そこにまだ居残っていた父が「一緒に故郷に戻ろう」と慰めても聴く耳をもちません。息子を説得するジェルモンの「プロヴァンス・・・」のアリアもガザーレは堂々とした態度で歌うのでした。

アルフレッドは怒りが収まらず、パリに行き、夜会の大勢の客の前でヴィオレッタを罵倒するのでした。彼女は絶望に打ちのめされてしまう。


<第3幕>

1ヵ月後。死の床に伏しているヴィオレッタ。そこに、父ジェルモンからすべてを聞いたアルフレッドが来て許しを乞い、パリを離れて一緒に暮らそうと語るのですが・・・。ヴィオレッタは愛する人に囲まれ息絶えてしまうのでした。

 息絶え絶えの瀕死に際しても、ヴィオレッタは何故か気分がいいとか、(起き上がって)外に出たいとか、アルフレッドが到着したら「教会へ行きましょう。あなたが戻った御礼を言わなくちゃ」などと言っています。又ジェルモンが無責任にもまたもや「なんて浅はかな老人だったのだ!今になって自分の過ちに気付くとは」等とぬけぬけと宣った後に下記のロケットを取り出すのですが、その後の絶命の直前にはヴィオレッタは「不思議だわ(É strano!)」「痛みが止んだのです。私の中で動いている、いつにない強さが!ああ!嬉しいわ!」と舞台上では立ち上がるのです(そして倒れてしまう)この瀕死に際して力の沸く不思議な現象は一体何なのでしょうか?これまで自分も何回も最後の死に瀕した親族や知人の最後に立ち会いましたが、この様なことは一度も有りませんでした。でも時々耳にしますよね。世の中には結構珍しくない現象なのでしょうか?それが本当ならば、一体どのように説明すればいいのでしょうか?科学的にも医学的にも説明するのは不可でしょう?
 それはそれとしてロケットの話も、如何にヴィオレッタがアルフレッドを愛していたか、自分の命を将来現れるかどうかも分からない若い女性に託そうとしたかその心を思うと胸が一杯になります。

【ヴィオレッタ】
(一方、やっとの思いで化粧台の引き出しを開け、ロケットを出して言う)
「もっと近くに来て聞いて、愛するアルフレッド受け取ってね、これは私の絵姿、過ぎた日の面影よ、これで思い出してね こんなにも貴方を愛した女を、もし、人生の花盛りの頃の清らかな乙女が貴方に心を捧げたとしたら、結婚してくださいね、お願いよ。その人にこの絵姿を渡してください、そして、贈り物だと伝えてください、天国で天使たちに囲まれ、貴方たちのために、祈っている者からだと。」

こうして希代の名オペラは幕を閉じるのですが、今回のマッシモ劇場の『椿姫』は主役二人もその他の出場者も、それぞれ個性を十分に発揮した流石本場イタリアの歌劇場の上演だったと思います。大きな拍手とあの歓声も忘れられない思い出になることでしょう。