HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

R.シュトラウス『歌劇《影のない女》op. 65』鑑賞

 とてつもない音の奔流と、大いなる声の祭典。多数の出演者に初めから終わりまで最高レベルのパフォーマンスを要求するR・シュトラウスのオペラ《影のない女》が、キリル・ペトレンコ指揮により演奏会形式で上演されました。エルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー、ミンナ=リーサ・ヴァレラ、ミヒャエラ・シュスター、ヴォルフガング・コッホ、クレイ・ヒレイが主要な役を熱演した本公演では、「ペトレンコはフレーズをどこに導けばよいかを熟知しており、完璧なリハーサルを重ねたオーケストラによる、素晴らしく美しい音」が響きました(ベルリナー・ツァイトゥング紙)。


【鑑賞日時】2023.5.8.

【会場】ベルリンフィル・デジタルコンサートホール

【演目】R.シュトラウス『歌劇《影のない女》op. 65』全三幕。演奏会形式、ドイツ語上演、英字幕付き、3時間15分

【台本】
フーゴ・フォン・ホフマンスタール

【管弦楽】ベルリンフィルハーモニー管弦楽団

【指揮】キリル・ペトレンコ

【合唱】ヴロツワフ・ナショナル・フォーラム・オブ・ミュージック合唱団

【主な登場人物】
皇帝(テノール)
皇后(ソプラノ)
乳母(メゾ・ソプラノ)
染物師バラク(バリトン)
染物師の妻(ソプラノ)
霊界の使者(バリトン)
宮殿の門衛(ソプラノ)
鷹の声(ソプラノ)
など

 

【出演・配役】

・クレイ・ヒレイ(テノール〈皇帝〉)

・エルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー(ソプラノ〈皇后〉)

・ミヒャエラ・シュスター(メゾソプラノ〈乳母〉)

・ヴォルフガング・コッホ(バス・バリトン〈染物屋バラク〉)

・ミンナ=リーサ・ヴァレラ(ソプラノ〈染物屋の妻〉)

・ボグダン・バチウ(バリトン〈霊界の使者〉)

・エヴァン・ルロワ・ジョンソン(テノール〈青年の幻影〉)

・アグニェシュカ・アダムチャック(ソプラノ〈宮殿の門衛、鷹の声、生まれていない者たちの声2、侍女2、子どもの声〉)

・クセニア・ニコラエヴァ(メゾソプラノ〈天上からの声、子どもの声5、生まれていない者たちの声6〉)

・ヨハネス・ヴァイサー(バリトン〈片目の男か)

・ネイサン・バーグ(バリトン〈片腕の男〉)

・ピーター・ホア(テノール〈腰の曲がった男〉)

・セラフィナ・シュタルケ(ソプラノ〈生まれていない者たちの声1、侍女1、子どもの声1〉)

・フローレ・ファン・メールスヘ(ソプラノ〈子どもの声3、生まれていない者たちの声3〉)

・ドロッチャ・ラーング(メゾソプラノ〈侍女3、生まれていない者たちの声4、子どもの声4〉)

・シャノン・キーガン(メゾソプラノ〈生まれていない者たちの声5〉)

・セオドア・プラット(バリトン〈番人たちの声1〉)

・ゲリット・イレンベルガー(バリトン〈番人たちの声2〉)

・トーマス・モール(バリトン〈番人たちの声3〉)

カントゥス・ユヴェヌム・カールスルーエ

 

【初演について】
1919年10月10日 ウィーン国立歌劇場
リヒャルト・シュトラウス作曲の『影のない女(Die Frau ohne Schatten)』は、メルヘンオペラとも呼ばれ、モーツァルトの『魔笛』を意識したとも言われています。

 他には『魔弾の射手』(ウェーバー)・『さまよえるオランダ人』(ワーグナー)・『ヘンゼルとグレーテル』(フンパーディンク)等もメルヘンオペラに分類されます。
初演は大成功を収めましたが「上演時間が長い」ことや「台本の難しさ」からか、シュトラウスのオペラの中では上演機会は多い方ではありません。

 

 

【大筋】

 皇后は霊界の血をひいており、影がありません。影がないと、子供が産めません
もし皇后が1年以内に子供をもうけないと、皇帝は呪いにより石にされてしまいます。

 皇后は「人間から影をもらう」ために人間界へ行きます。しかし、影は手に入れられませんでした。

 皇后は父カイコバート(霊界の大王)に、人間界で暮らせるよう懇願します。すると「泉の水を飲めば、影が手に入る」と告げられます。 飲めば、バラクの妻の影もなくなります。(バラク夫妻は、皇后が人間界で出会っている)この時点で既に皇帝は石になりかけています。皇后は夫妻の愛のために「飲まない」ことを選び、皇帝と共に死ぬことを決意します。
 すると突然皇后に影ができ、皇帝も元の姿に戻ります。ハッピーエンドで物語は終わります。

 

【粗筋】

Ⅰ.幕前の出来事
霊界の血を引いた娘は「影がない」
東洋にある島、カイコバート(霊界の大王)は人間との間に、一人の娘をもうけました。

この娘は霊界の血を引くため、影を持っていません。
また娘は、自由に動物に変身することもできます。

物語の1年前、皇帝は「カモシカに変身していた娘」を捕らえます。
カモシカは美女に変身し、皇帝は美女を妻(皇后)とします。

1年以内に影ができないと、皇帝は石化してしまう
しかし霊界の女と結婚した男は「1年以内に子どもができないと石になる」という呪いが、カイコバートによってかけられています。

 この世界では「影がないと子供が産めない」ことになっています。そのため、子供を産むためには影が必要です。
物語は、影のないままで「あと3日で1年」が過ぎようとしているところから始まります。

 

《第1幕》
 第1場
皇帝の庭園のテラス。皇后と乳母のところに霊界からの使者が現れる。霊界の女である乳母は使者に、皇后にはまだ影がない、と報告すると、使者はあと3日で一年だから、と念押しして去る。皇后は霊界の大王・カイコバートの娘であり、人間でないために影はなく、子供を産むことも出来ない。彼女の夫である皇帝は一年以内に子を持てないと石にされてしまう運命にある。皇帝は逃げ出したタカを捕らえるために狩りに出かける。皇后のもとにはタカが現れ、皇帝の運命を告げる。驚いた皇后は影を得るべく、渋る乳母とともに人間界へと降りてゆく。

第2場
染物師バラックの家。みすぼらしい家の中で体の不自由な三兄弟が争い、バラックも妻とけんかをし、妻はもう子供など産むものか、と口走っている。やがてバラックが出かけてしまうと、貧しい身なりをした皇后と乳母が現れる。影を売ってほしい、と頼む乳母に、バラックの妻は二人がこの家で三日間女中として働くことを条件に合意する。乳母は魔法を使って五匹の魚を料理し、バラック夫妻のベッドを二つに引き裂く。鍋の中の魚たちは生まれ出ることの出来なかった子供の嘆きを歌う。やがてバラックが帰宅するが、特に気にするでもなく二つに分かれたベッドに入ってしまう

 

《第2幕》
 第1場
バラックの家。朝バラックが出かけると、乳母は魔法で若い男の幻影を出現させ、妻を浮気させようとする。やがてバラックはご馳走を持って帰宅するが、妻がそれに手をつけようとしないため、三兄弟や物乞いたちに与えてしまう。

 第2場
皇帝の鷹狩り小屋の前。逃げていたタカがみつかり、皇帝はそれに満足しているが、皇后の姿がないことを不審に感じる。そこへ折りよく皇后と乳母が空を飛んで帰ってくるが、彼女たちから人間の匂いがするため、二人が嘘をついているのではと疑い、皇后を亡き者にしようと考えるが、愛している皇后を殺すに忍びなく、タカに導かれて一人で人気のない岩屋に向かう。

 第3場
バラックの家。乳母は眠り薬でバラックを眠らせ、再び魔法で若い男の幻影を出現させ、バラックの妻を誘惑させる。妻の心はそちらへ傾きかけるが、はたと我に返り、バラックをたたき起こすと、寝ぼけている夫を罵倒し、乳母とともに家を出てゆく。

 第4場
鷹狩り小屋の皇后の寝室。皇后は夢の中で、自分がバラックを不幸な運命に陥れていると良心を痛める。そして皇帝が岩屋の中に入ってゆく夢も見て不吉な気配を覚え、いっそのこと自分が岩になればよい、と叫ぶ。

 第5場
バラックの家。皇后と乳母の女中奉公も3日目となったが、昼間から空は曇り、雷鳴が轟いている。バラックの妻は夫に自分の浮気を告白し、もう子供を産むこともなかろうから皇后に影を売ってしまった、と告げる。バラックが驚いて明かりを灯すと、そこにいるはずの妻がいない。乳母は皇后に、今のうちに影を奪い取ってしまえ、と促すが、皇后は乗り気でない。怒ったバラックは乳母が魔法で出現させた剣で妻を刺そうとするが、妻はその行為に夫の愛を感じ、告白は嘘だと謝る。その瞬間地面が割れ、バラック夫妻は地底へと呑み込まれてゆく。

 

《第3幕》
 第1場
地底の世界。厚い壁で隔てられたバラック夫妻が別々に座っている。二人は離れ離れにされたことを嘆いている。すると天上界から声が聞こえ、二人はそれぞれに階段を昇ってゆく。

 第2場
霊界の入り口にある渓流。皇后と乳母が乗った小舟が着く。カイコバートの命令に背いてしまった乳母は皇后に逃げようと持ちかけるが、皇后は父であるカイコバートに皇帝の助命を求めるべく神殿へと進む。そこにちょうどバラック夫妻が昇ってきた。人間を憎む乳母は2人の仲を裂こうとするが、カイコバートの使者が現れて乳母を小舟の中に追いやり、霊界から追放する。


 第3場
霊界の神殿の中。バラック夫妻の愛ゆえに影を奪うことが出来なかった皇后は、今後は人間として下界に住みたいとカイコバートに訴える。すると黄金の泉が湧き出てきた。敷居の護衛者によれば、この水を飲めば皇后は影を手に入れられるが、引き換えにバラックの妻が影を失ってしまうとのこと。石にされてしまった皇帝の姿が見えているが、それでも皇后は泉の水を飲もうとはしない。ところが皇后の影が泉に映ると皇帝は元の姿にもどる。2人はしっかりと抱き合う。

 第4場
霊界の美しい滝のそば。バラックは妻との再会を果たし、夫妻は愛の言葉を交わす。妻の姿が水面に映ると黄金の橋が出現し、2人がその上で手を取り合うと、滝の上に立っている皇帝と皇后も加わっての四重唱となる。産まれ出ることのできなかった子供たちの声が聞こえてくる。

 

【感想】

 この演奏は、4月中旬にライヴ配信された演奏ですが、その日は見ることが出来なかったので、後日アーカイブ配信としてアップされたものを鑑賞しました。

 ストーリーはさて置き、ペトレンコ・ベルリンフィルの演奏は三管編成 弦楽五部16型、大型とは言っても格別の規模の大編成では有りません。しかし録音とは言えそのアンサンブルの響きは、国内オーケストラとは、比べものにならない程迫力満点のものでした。また演奏会形式オペラとは言え、ソリスト達の歌い振りは、(身振り演技こそ無いものの)皆、感情を込めた迫真の歌詠で、中でも、乳母役のメゾソプラノ/ミヒャエラ・シュスターは、表情を変幻自在に変えて、魂の叫びともいえる詠唱を喉からひねり出していました。彼女の役柄は霊界の王カイコバート

の娘で皇帝と結婚した(と言っても結婚式を挙げた訳では無いですが)皇后の付き人です。皇后と皇帝の悲劇性と滑稽さ、染物屋バラクとその妻の悲劇性と滑稽さをパラレルに結び付ける要めに居るのが乳母なのです。物語は結局この二組の男女は結ばれ目出度し目出度しとなるのですが、乳母だけは割を食って、冥界から永久追放となる訳ですが、彼女の悪魔性は「眠り薬でバラクを眠らせ」たり魔法で「若い男の幻影を出現させ」たり魔法で「バラクが妻を刺そうとする剣を出現させ」たりするところからも完全に魔女なのでしょう。ただそれらすべては皇后のため、愛する夫である皇帝を救うためという皇后の目的実現のために使われるのに、結果的には失敗し引責責任を取られた形になってしまった。カイコバートの考えは結果責任を最重視するのでしょうか。しかも不思議なことにこの物語(オペラ)では、カイコバートが登場することは無く直接彼の話は聞けません。従ってその真意も実のところ不明だと思います。ストーリー性としては成程と思わせる完璧性から言うと今一つの内容です。このオペラについて少し調べると、かって吉田秀和さんは、「この作品は誰がきいても、はじめはこう(劇の展開にとまどう)なるのだろう」とした上で、「……視覚的なもの、あるいは意味あり気なものには適当につきあう一方、耳を通じて……音楽をていねいにきいていると、何のことはない。こんなにオペラの楽しみをたっぷり味わえる作品はめったにないことがわかる」と述べているそうです。確かに、配役に今回のベルリンフィルの様に実力歌手を揃え、最高レヴェルのオーケストラをこれまた優れた指揮者が率いたオペラは、演奏会形式と云えども、秀和さんの言う通りだと思いました。自分としては上記乳母役のミヒャエラ・シュスターには敢闘賞をあげたいくらいで、又タイトルロール役のエルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァーの歌声も落ち着いた迫力あるソプラノだったし、皇帝だって堂々とした押し出しの強いテノールで、バラクやその妻の歌唱も立派なもの主役が皆超一流と言える詠唱を聞かせて呉れました(尤も歌のかなりの部分は会話、対話的なやりとりで、絶叫調の歌唱も多く、独唱アリアとしての聞かせ歌は少ないですのが、結構あちこちにいいアリアが散りばめられているのは流石R.シュトラウス)。

オケは上記した様に、凄い迫力で多様なスタイルの音楽が鳴らされ、ロマン派風から一歩進んだ近代性も感じる箇所もあれば、あの美しいシュトラウス節が奏でられる箇所も。例えば第一幕終了時のオーケストラの演奏は、イーッ、ヨッ!これぞシュトラウス!と膝を打つ美しいメロディでした。

 R.シュトラウスのオペラは一番有名な「薔薇の騎士」以外にもこうした作品が結構あって、4月初旬には「平和の日」それ以前には話題となった「サロメ」を聴き、そして今週にはこれも話題沸騰の「エレクトラ」が控えています。ガーキーがどの様な歌を披露して呉れるか、今からとても楽しみです。