【日時】2023.4.9.(日)15:00~
【会場】渋谷文化村・オーチャードホール
【演目】R.シュトラウス『平和の日』全一幕セミステージ方式
(日本初演)
【管弦楽】東京フィルハーモニー管弦楽団
【指揮】準メルクル
【合唱】二期会合唱団
【合唱指揮】大島義彰
【音楽アシスタント】石坂 宏
【舞台構成】太田麻衣子
【映像】栗山聡之
【照明】八木麻紀
【舞台監督】幸泉浩司
【公演監督】佐々木典子
【同 補】大野徹也
【登場人物】
〇包囲された都市の司令官(バリトン)
〇その妻マリア(ソプラノ)
〇要塞の軍曹(バス)
〇要塞の狙撃兵(テノール)
〇要塞の砲兵(テノール)
〇要塞のマスケット銃兵(バス)
〇要塞のラッパ手(バス)
〇将校(バリトン)
〇前線の士官(バリトン)
〇ピエモンテ人(テノール)
〇ホルシュタイン人司令官(バス)
〇包囲された市の市長(テノール)
〇司教(バリトン)
〇市民の女(ソプラノ)
〇兵士たち、都市の長老たちと代表団の女性たち、民衆
【出演】〈4/9〉
配 役 |
4月9日(日) |
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包囲された街の司令官 |
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マリア その妻 |
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衛兵 |
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狙撃兵 |
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砲兵 |
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マスケット銃兵 |
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ラッパ手 |
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士官 |
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前線の士官 |
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ピエモンテ人 |
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ホルシュタイン人、包囲軍司令官 |
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市長 |
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司教 |
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女性の市民 |
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《ものがたり》
17世紀。すでに宗教戦争は三十年にも及んでいた。ここは敵に包囲され、食糧も弾薬も尽きた町。疲弊する兵士や市民たちは降伏を求めるも、皇帝の命令に背けない司令官は必死の戦闘を続けろと人々を鼓舞する。司令官の妻マリアは、自決も辞さない夫の姿に嘆き悲しむも運命を共にすることを誓い抱き合う。そこに大砲の音が鳴り響く。ついに敵軍の総攻撃、と思いきや、今度は教会の鐘が一斉に共鳴する。「平和の鐘」と気づくマリアと、「敵の罠だ」と警戒する司令官。そして、市長があらわれ、和平条約が結ばれたことを告げる。ついに、要塞は開かれ、敵兵も市民も区別なく肩を取り合い、戦争からの解放を喜びあう。
【上演の模様】
このオペラはR.シュトラウス(1864~1949)の晩年(72歳)の作品です。これが作られた1936年当時のドイツはヒットラーが政権を取り、欧州各国に勢力拡大を開始する直前の状況下にあり、ひいては第二時世界大戦へと繋がるきな臭い時代でした。シュトラウスは、有名な作家ツヴァイクの原案をもとに、1618年–1648年の30年戦争(hukkats注)を題材として、戦争と平和の関係を籠城戦という切り口でオペラ化し問題提起をしています。
(hukkats注)
元をただせばドイツにおける新教派と旧教派との対立による宗教戦争であったが、さらにはオーストリア,スペインのハプスブルク家とフランスのブルボン家との抗争を巻き込んでいった。 ボヘミアの新教徒が神聖ローマ帝国に対して反乱を起こしたことに端を発し、当初は皇帝=カトリック軍が優勢であったが、プロテスタント国のデンマーク、スウェーデンが参戦し、旧教国フランスが新教国スウェーデンを支持するに至り、単なる宗教戦争から国際的戦争となったのが戦争が長びいた大きな要因。戦争の結果、オランダとスイスが独立し、ドイツ諸侯も独立性も強化され、神聖ローマ皇帝は名目的存在となり、ハプスブルク家は大打撃を受けた。アルザス地方を獲得したフランスは大陸最強国となり、北ドイツの諸要地を獲得したスウェーデンも強国となった。ドイツの人口の20 %を含む800万人以上の死者を出し、人類史上最も破壊的な紛争の一つとなった。
このオペラに登場する多くの人物(兵士が主)の中で、城を守る司令官とその妻マリアが歌う場面が時間的にも内容的にも他を圧倒し、シュトラウスの一連の「夫婦物」の一つと看做される所以です。兵士たちの歌や合唱でも度々、❝腹ペコだ、パンを呉れ❞と叫んでいます。もう30年近くも戦乱の世が続いているのですから、しかもここは城壁に囲まれた神聖ローマ皇帝派(旧教派)の或る拠点城内ですから、城の外で食料が尽きているのに、城内に食料が届く訳が有りません。恐らくもう少ししたら餓死してしまうでしょう。最初から最後まで主たる登場人物の城内司令官は『皇帝陛下の勅令を飽く迄死守する、城を守れという勅令を死守する』との主張を最後まで変えないで歌を歌うのです。この籠城司令官の小森さんはさすがと思える響くバリトン声を最後まで見せていました。当初の登場兵士たちは押しなべて声量不足、余り存在感が無かった。ただピエモンテ人の若者(山本浩平)は、美しい旋律に合わせて ❝バラノ花、若者ノヨウニ、美シイ、生マレ、咲キ、死ニ、モウ戻ラナイ。❞ とこれまた美しいテノールで歌っていたのが印象的でした。このオペラのほとんどの場面で、「ばらの騎士」の様な美しい旋律は歌でもオケでも影を潜め(時々その面影が浮かび上がることも有りましたが)、戦闘、戦争下を思わせる不気味な調べや暗い余り心地良くない響きが耳に伝わって来て(考えればそれが当然なのかもしれませんが)、美しい「R.シュトラウス節」を期待した向きにはやや期待外れでした。その中で特筆すべきは、マリア役の渡邊さんのソプラノの歌唱。時々調子はずれと思う時も有りましたが、全体としては大きい声も張り上げて、籠城の無意味、戦争の意味のなさ、愛が要ることを夫に訴えて歌っていたのは、小演技、表情も合わせると敢闘していたと言えるでしょう。
終盤は前線司令官の弾薬も尽きたと訴える場面にあい決断した籠城司令官が階下に保管していた弾薬を使って最後の戦闘をすると決意し、敵の新教軍が城目掛けて進軍、城門も難無く通過して、この二人の敵対する指令官が対峙する処が一つの山場でした。敵軍司令官役の狩野さんはずっしりしたバスの声で歌い、敵司令官役の小森さんに堂々とした歌唱で一歩も引けを取りませんでした。和睦が成ったという話を、❝嘘だ、罠だ❞と剣に手を回す籠城司令官、一触即発の場面に割って入ったマリア、最後のマリアの悲愴な決意で訴えるアリアにより、ついに夫も和睦が本当だと理解し武装解除するのでした。最後は彼方此方で鐘が打ち鳴らされる中、やっと「シュトラウス節」も鳴り響き、特に聴いてすぐシュトラウスだと分かるブラスの響き(先日のワーグナーでもブラスの響きでモチーフが良く特徴づけられていましたが)が朗々と鳴り響きました。シュトラウスとしては、戦いの悲愴な場面より、戦いが終わって平和な場面に自分の本領を発揮したいと願っていたことの現れかも知れません。合唱は二月の『トゥーランドット』でもそうでしたが、二期会合唱団(約60人態勢)のプロ色濃厚な歌声は流石でした、特にアカペラ部分が印象的。
このオペラは二日目10日(日)と前日9日(土)の二日間に限った公演だったこともあって、終演後のカーテンコールは何回も何回もいつまでも拍手が続いて鳴り響いていました。
これは、この日限りでオーチャードホールと一体になった建物の内部の改装工事が始まる様でして(ホール自体の改装は無く工事中は月一回程度は開くそうです)、そのために観客も名残が惜しくていつまでも拍手していたのかも知れません。因みに隣接する東急百貨店本店のビルは解体・高層ビル化の工事が既に始まっています。
ホールからビルの一階に下り様々なお店が並ぶビル内通りには「閉店セール」の看板が出ている処も多かった。渋谷側出口近くにある「スワロフスキー」の店も、随分昔から有りましたね。
奥の広い喫茶も多くの客で満員でした。随分行列が出来ていた。何せこの日で閉店なのですから。その近くの小さな出店を見たらフランス人風のご主人がフランスの台所用品を並べてセールをしていました。覗いたら以前から家内が欲しいと言っていた料理用木べら(spatula en bois 日本のしゃもじ様のへら)があり、最終日の記念特価だというのでお土産に買って帰りました店主の話だと南フランス産で、オリーブの木の古木(100~150年もの)を使って木目を生かした美しく硬く料理用だそうです。
確かに先端が綺麗にカーヴしていて木目がとても綺麗、しかもとても硬そうで大きいです。八ヶ岳の山麓に常設店を構えているとのことでした。いつだったか家内の知り合いに頂いた手造りのママレード(無農薬夏みかん&低糖仕立て)は苦みが程よく有って絶品でした。FAUCHONのものより美味しかった。熱いジャム造り等に最適の道具の模様。