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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

オペラ『ばらの騎士』初日を観る

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【演目】ばらの騎士(Der Rosenkavalier) 

全三幕〈ドイツ語上演/日本語&英語字幕付〉
【予定時間】約4時間10分(第Ⅰ幕75分 休憩25分 第Ⅱ幕60分 休憩25分 第Ⅲ幕65分)

【鑑賞日時】2022.4.3.(日)14:00~

【会場】NNTTオペラパレス
【作曲】1909,1910間 リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss)

【初演】1911年1月26日 ドレスデン、宮廷歌劇場

【台本】
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール(ドイツ語)

【Introduction】主催者資料より
<婚約のしるしは銀の薔薇>~煌めく音楽が綴る美しき恋と別れの物語~
ウィーン上流社会を舞台に、過ぎゆく時への思いや、若い新しい愛を、優美かつ豊麗な音楽で描いた絢爛たる傑作。劇作家ホフマンスタールとR.シュトラウスの名コンビの最高傑作で、あらゆるオペラの中でも最も贅沢で美しく、なかでも、第2幕の銀のばらの献呈シーン、終幕の三重唱は、観る者を陶酔の世界へ引き込む決定的な名場面です。細やかな人物描写に優れたジョナサン・ミラーの演出は、時代を18世紀から世界初演の1年後の1912年に移し、当時の聴衆が感じていた「時代の移ろい」をも作品から引き出しています。視覚的にも美しい舞台で、諦念と未来への希望が成熟したタッチで見事に描かれ、新国立劇場の数あるレパートリーの中でも抜群の人気を誇ります。

元帥夫人には、世界のトップソプラノとして活躍するアンネッテ・ダッシュが08年以来待望の新国立劇場出演となります。指揮は来日も多いウィーン出身の指揮者サッシャ・ゲッツェルが新国立劇場デビューを飾ります。

<R.シュトラウスとモーツァルト>
『サロメ』と『エレクトラ』の2つのオペラで成功したR.シュトラウスは「次はモーツァルト・オペラを書く」と言って、『エレクトラ』でタッグを組んだホーフマンスタールに再び台本を書いてもらって作曲に取りかかりました。音楽評論家の吉田秀和氏は一番好きなオペラは何かと聞かれて、モーツァルトを除けば『ばらの騎士』であると

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指 揮】サッシャ・ゲッツェル
【演 出】ジョナサン・ミラー
【美術・衣裳】イザベラ・バイウォーター
【照 明】磯野 睦
【再演演出】三浦安浩
【舞台監督】髙橋尚史
【登場人物】
元帥夫人(S): 陸軍元帥の妻、貴婦人
オックス男爵(Bs): 好色な田舎貴族
オクタヴィアン(Ms):伯爵家の若き貴公子
ゾフィー(S): オックス男爵の婚約者
ファーニナル(Br): 新興貴族、ゾフィーの父

他。

【配役】

元帥夫人:アンネッテ・ダッシュ

オックス男爵:妻屋秀和
オクタヴィアン:小林由佳
ファーニナル:与那城 敬
ゾフィー:安井陽子
マリアンネ:森谷真理
ヴァルツァッキ:内山信吾
アンニーナ:加納悦子
警部:大塚博章
元帥夫人の執事:升島唯博
ファーニナル家の執事:濱松孝行
公証人:晴 雅彦
料理屋の主人:青地英幸
テノール歌手:宮里直樹
帽子屋:佐藤路子
動物商:土崎 譲

その他。

【Profile】

<指揮者>サッシャ・ゲッツェル(Sascha GOETZEL)             

ウィーン生まれ。ヴァイオリニスト。指揮をリチャード・エスターライヒャーとヨル

マ・パヌラに師事。小澤征爾、リッカルド・ムーティ、アンドレ・プレヴィン、ズー

ビン・メータ、ベルナルト・ハイティングらの薫陶を受ける。2022年9月よりフラン

ス国立ロワール管弦楽団音楽監督に就任予定。22年1月からカナダ・ナショナル・ユ

ース管弦楽団の音楽監督。現在、ソフィア・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮

者。これまでボルサン・イスタンブール・フィルハモニー管弦楽団、神奈川フィル、

ブルターニュ交響楽団で、指揮者、芸術監督などを務める。オペラでは、ウィーン国

立歌劇場で『フィガロの結婚』デビュー、『こうもり』『ドン・ジョヴァンニ』『魔

笛』『ラ・ボエーム』『ばらの騎士』など6演目を指揮。また、マリインスキー劇場

およびチューリヒ歌劇場でモーツァルトの数々のオペラも指揮。イスラエル・フィル

、バーミンガム市交響楽団、ハノーファー北ドイツ放送フィル、フランス国立管弦楽

団、ベルリン交響楽団などに客演。国内では、NHK交響楽団、紀尾井ホール室内管

弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団などを指揮しているる。

新国立劇場初登場。

 

【元帥夫人】アンネッテ・ダッシュ(Annette DASCH)

ミラノ・スカラ座、ベルリン州立歌劇場、バイエルン州立歌劇場で『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィーラ役、英国ロイヤルオペラ、テアトロ・レアル、シャンゼリゼ劇場、メトロポリタン歌劇場で『フィガロの結婚』伯爵夫人役、ザルツブルク音楽祭で『アルミーダ』タイトルロール、パリ・オペラ座『ホフマン物語』アントニア、フランクフルト歌劇場、バイエルン州立歌劇場『タンホイザー』エリザベート、バイロイト音楽祭、スカラ座、バイエルン州立歌劇場、リセウ大劇場、フランクフルト歌劇場で『ローエングリン』エルザ役、メトロポリタン歌劇場『ニュルンベルクのマイスタージンガー』でエーファ役、オランダ国立オペラ『イェヌーファ』タイトルロール、ベルリン・ドイツ・オペラ、ウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場で『こうもり』ロザリンデ役のキャリアがある。2019年バイロイト音楽祭『ローエングリン』で大成功を収め、19/20シーズンはパリ・オペラ座『リア』レツィア、バイエルン州立歌劇場『こうもり』ロザリンデなどに、20年9月にはチューリヒ歌劇場『チャールダーシュの女王』。新国立劇場へは、03年『ホフマン物語』のアントニア役及び08年のニューイヤー・オペラパレス・ガラに出演して以来、待望の登場。

 

〈時と場所〉 
18世紀中頃、マリア・テレジア治下のウィーン

 

 

【粗筋】

《第1幕》
時は18世紀中頃、舞台はウィーンの陸軍元帥の館。元帥夫人は夫の留守中、寝室にまだ若く、そして美しき貴公子オクタヴィアンを招き入れ、一夜を過ごしていました。早朝、そこへ突然オックス男爵が訪ねてきます。元帥夫人のいとこである男爵は、好色で知れた田舎貴族。女装をして小間使いに変装したオクタヴィアンをも口説こうとします。そんなオックス男爵が元帥夫人を訪ねてきたのは、彼が裕福な新興貴族ファーニナルの娘ゾフィーと婚約したので、彼女に「銀のばら」を贈る「ばらの騎士」を紹介してほしいと頼みにきたからでした。元帥夫人はばらの騎士としてオクタヴィアンを推薦します。オックス男爵は納得して帰っていきました。
元帥夫人は若かった昔のことを思い出しながら、時の移ろいに憂いを感じていました。そして、オクタヴィアンに、いずれ私より若く、美しい人のために私のもとをから立ち去るでしょうと話します。オクタヴィアンはそれを否定しましたが、すっかり拗(す)ねてしまって館をあとにしました。
 
《第2幕》
正装したオクタヴィアンは裕福な新興貴族ファーニナルの館を訪れ、娘のゾフィーに銀のばらを贈ります。このときオクタヴィアンとゾフィーはお互いに一目惚れしていました。
続いてオックス男爵の登場です。彼は婚約者のゾフィーに下品な物言いをし続けたので、ゾフィーはすっかりこの結婚が嫌になってしまいました。そして彼女はオクタヴィアンに助けを求めます。オックス男爵の下品な態度に怒ったオクタヴィアンは成り行きでとうとう剣を抜き、彼と決闘となりました。もともと弱虫の男爵は、ちょっと怪我をしただけで大げさに騒ぎます。ゾフィーの父ファーニナルはこんな事態になったことに怒り、娘を叱りつけました。
騒ぎが一時おさまったとき、オックス男爵に一通の手紙が届きます。それは元帥夫人の小間使いからのお誘い。実はオクタヴィアンの仕組んだものでしたが、男爵は喜んで会いに行きました。
 
《第3幕》
郊外にある居酒屋の一室に、オックス男爵と小間使いに扮して女装をしたオクタヴィアンがいます。オクタヴィアンは散々、男爵をからかった後にその醜態をゾフィーの父ファーニナルに見せたので、ファーニナルも愛想を尽かしました。
そこへ元帥夫人がやってきます。元帥夫人は男爵にこれ以上の醜態をさらすことなく立ち去るように言い、オックス男爵は引き下がりました。
そこに残ったのは、元帥夫人とオクタヴィアン、ゾフィーの3人。2人の女性の間でオクタヴィアンは戸惑います。そのとき、元帥夫人は身を引くことを決心し、静かに立ち去ったのでした。その後二人になったオクタヴィアンとゾフィーは、抱き合いながら愛を誓い合ったのでした。

 

【上演の模様】

 このオペラは、R.シュトラウス(1864~1949)が40代中頃の作品で、長大な作品規模と大掛かりな管弦楽ゆえにしばしば楽劇と呼ばれます。このオペラの筋立ては貴族達の恋愛がテーマのコメディ作品でありながら、全3幕からなる非常に大規模なオペラであるからです。第1幕・第2幕はウィーンの貴族の屋敷内に、第3幕は居酒屋・宿屋に設定されています。作品の主要な人物4名のうち3名が第1幕で登場し、残る1名が第2幕で登場、第3幕では最後に全員が揃い、物語の完結を迎えるのです。バレエは当初挿入される予定であったが外され、合唱も大きな役割は持たない作品。タイトルの「ばらの騎士」とは、ウィーンの貴族が婚約の申込みの儀式に際して立てる使者のことで、婚約の印として銀のばらの花を届けることから、このように呼ばれるのです。物語当時の貴族の間で行われている慣習という設定ですが、実際には台本作家ホーフマンスタールの創作とも謂われます。

主要な4人に次ぐ役が3、4人いて(ただし比重は4人に比べて低い)、ソロ又は重唱で歌う役は名の無い役も含め28人を数えます。一幕に登場するテノール歌手はイタリアオペラのパロディを狙った端役ではありますが、曲自体はかなり美しいこともあって特別にスター歌手を特別出演させ呼び舞台に華を添える事もあります。今日は宮里さんがその役割を見事果たしました。ほとんどが重唱曲で、アリアはなく、テノールは情報屋ヴァルツァッキ以外には第一幕でかなり揶揄的な扱いで登場するのみなど特徴のあるオぺらです。又オクタヴィア役には、メゾソプラノがあてられていて、女性が男性役を演じている、所謂ズボン役が登場するオペラです。ズボン役は謂わば宝塚の男役の様なもの。このズボン役に関しては一昨々年の12月に 『Borderless Songs…性別を超える音楽達』という音楽会を聞いているので、参考まで文末に再掲しておきます。

第一幕開けは、元帥夫人のベッドルームで、愛人オクタヴィアンと一緒のシーンです。オクタヴィアンは少し興奮して夫人に話しかける歌を歌い、夫人はそれを軽くいなして歌います。ここではあまり多くは歌わない夫人役アンネッテ・ダッシュですが、その第一声を聴いただけで熟練の域に達したソプラノ歌手ということが明瞭でした。それに対しオクタヴィアン役の小林さんは、興奮して歌う場面だからなのか、声も、抑揚も少し上擦り気味で、素晴らしいメッゾとは思われなかった。

この第一幕では、オクタヴィアンとの情事に絡んだ歌のやり取りの他に、多くの来客が有り、その最たるものが、オックス男爵が婚約者に使わす「銀の薔薇」の使者を誰にするか相談して歌うのです(薔薇の使者は夫人の推薦で、オクタビアンに決まります)。

男爵役は急に降板となったジクムントソンの代役として、またまた妻屋さんが歌っていました。確かに安定感が有り上手なのですが、いつもの様に何か物足りなさを感じるバス振りでした。妻屋さん以外にドイツ語のこの役を演じることが出来るバス歌手は日本にいないのでしょうか?変更の知らせが2月10日付でしたから公演まで、ひと月近くあって、その間外人歌手に打診することを新国立劇場はしなかったのでしょうか?いつもいつも重要役柄を予定外国人歌手から日本人歌手に変更しています。小林さんだってそうでしょう。他のオペラ主催者と比べて何か安易なやり方だといつも思ってしまう。 それはそうと、劇中呼び込み歌手役の宮里さんが歌いましたが、これは素晴らしく日本人離れしたテノールの声を張り上げて歌い、会場から大きな拍手を誘っていました。そればかりでなく舞台の元帥夫人もオペラの演出でなく、心から拍手をしていた様に見えました。さらに経験を積み、研ぎ澄まされてくれば将来が楽しみな日本人テノール歌手です。

またこの第一幕では、元帥夫人のモノローグの歌が有名です。多くの来客が帰った後夫人がホット一息ついて歌う独り言の歌です。

 

❝(元帥夫人)[一人になり]

行ったわ、あの威張った、悪い奴。そしてそのかわいい若い子を捕まえて、つまらない金にありついて。[嘆息]まるでそれが当然かのように。そしてそれでもまだ、自分の方こそが彼女に何かを与えていると錯覚しているんだわ。だけどなぜ腹を立てるの?それが世の流れじゃない。覚えているわ、私も娘だった時を。修道院から出たてで、神聖な結婚生活に入るように命じられたのよ。[手鏡を取り上げる]彼女は今どこへ?ええ、[嘆息]過ぎた年の雪をお探し![穏やかに]そう命じるわ。でもこんなことが本当にありえるのかしら、私はあの小さなレジ(テレーズの愛称)だった、そして瞬時に私はまたおばあさんになってしまった…おばあさん、老元帥夫人!「見て、あそこに老侯爵夫人レジが行くよ!」[穏やかに]なぜこんなことが起きうるの?愛しい神はなぜこんなふうになさるの?私はでもずっと同じだったのに。それにもし神が物事をそうなさらなければならないのなら、なぜそれをその場で私に見させるの、こんなにはっきりとした感覚で?なぜ私から隠してくださらないの?

[常により静かに]すべて秘密だわ、あまりに多くの秘密。そして人はこの下にいて[嘆息]耐えるのだわ。そして「どのように」に[きわめて穏やかに]すべての違いがあるのよ。❞

独りになった元帥夫人の独白です。夫人は、修道院を出てきたばかりの若い自分はどこへいったのかと問い、また避けられない老いの予感に心を痛めるのです。時の移ろいは誰にも避けられないものであることを悟り、いつかはオクタヴィアンが去ることを予感しているのでしょう。元帥夫人役のアンネッテ・ダッシュは堂々としかも切々と歌いました。さすがこの役を多く演じた経験と本場の雰囲気を体に滲み込ませている歌手の為せる歌い振りだと思いました。歌い終わる間もなくオクタヴィアンが登場するので、拍手する間も有りませんでしたが。 ここは演ずる歌手の重要な聴かせ処のひとつで、リサイタルで独立して演奏されることもあります。その後の夫人とオクタヴィアンの二重唱的やり取りの歌でもダッシュが優勢で小林さんの声は弱い時が多い(強く高い音も出ていましたが、安定感、音楽性の高さではまだまだの感有り)。

次の第二幕では、オクタヴィアンがゾフィーに婚約の印であるペルシャ産の香油をたらした銀の薔薇の造花を渡す場面の歌のやり取りです。ハープやチェレスタに彩られて弱音器つきの弦楽器と木管が奏でる優美で、繊細な色彩感をもった管弦楽に乗って婚約申込みの口上が述べられるのでした。そのあとには打ち解けた二人の二重唱が続きますが、結婚の喜びを歌い上げるゾフィーと、彼女に惹かれて恋心を抱き始めたオクタヴィアンがそれぞれ歌う歌には微妙なずれがある二重唱です。(銀のばらの贈呈と二重唱)ここでは、ゾフィー役の安井さんが歌いましたが、安井さんは熟達した中堅のソプラノ歌手で、夜の女王をよく歌うくらいなので力強い声を有していますが、ゾフィーは許婚娘のおしとやかな役柄だけあって、余裕の発声で歌っていました。小林さんは一幕からだんだんと喉が滑らかになって来たのか、随分と安定性が増して来たように思えました。

第二幕後半で、オクタヴィアンに腕を切られたオックス男爵が、ゾフイーの父親ファーニナルの薦める酒を飲んで、機嫌を直して歌う場面があります(オックス男爵のワルツ)。通称『ばらの騎士のワルツ』で知られる処ですが、ヨーゼフ・シュトラウスのワルツ『ディナミーデン』をもとにした旋律です。R.シュトラウスはこの『ばらの騎士のワルツ』は、ウィーンの陽気な天才(ヨハン・シュトラウス)を思い浮かべて作曲した様です。

 

次の第三幕冒頭では、マリアンデル(オクタヴィアンの偽名)名義で居酒屋兼宿屋にオックス男爵をおびき出し、一杯食わせようというオクタヴィアンの作戦を実行するため、居酒屋で準備を行う場面で演奏されます。歌唱・台詞無しのパントマイムで進行する軽快・快活な曲想です。

でも三楽章の歌のハイライトは、やはり、夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの三人で歌う三重唱の場面でしょう。

『ばらの騎士の三重唱』として知られる名場面です。それぞれが自分の想いを独白で歌う三重唱で、オクタヴィアンは一目惚れしたゾフィーに気持ちが向き、でも先日まで愛し合っていた元帥夫人にも未練があって、ジレンマに陥って歌っているし、ゾフィーはゾフィーで、オックスに裏切られ、自分を救ってくれると信じたオクタヴィアンが格上の元帥夫人と愛人関係にあることを見抜き、傷ついています。オクタヴィアンをつなぎとめることも出来たはずの元帥夫人は夫人で、いつまでもオクタヴィアンを手元に留めておくのは不可能であることを痛感し、潔く若い二人を結び付かせて祝福し、自分は身を引く決意をした気持ちで歌っているのです。この場面はゾフィー役ではなく、元帥夫人役の歌手にとっての聴かせどころの一つと見なされています。R.シュトラウスにとって非常に愛着のある曲であり、遺言により彼の葬儀でも演奏されました。

その他、管弦楽が歌に合わせて演奏する間に挟まれて演奏されるワルツが頻繁に出て来ます。特に第三幕では、あちこちそれまで良く知られている旋律のウィーンナーワルツが挿入され、このオペラの物語は将にウィーンの物語なんですよ、としつこい程念を押していてしかもそれがR.シュトラウスの旋律に違和感なく溶け込んでいて浮き浮きた明るい雰囲気を十二分に演出していました。妻屋さんは酔った勢いで衣服を脱ぎ棄て(ウィックまで投げ捨て)管弦の調べに乗って歌ったり、ワルツを踊ったり、器用な歌手なのですね。勿論独逸語は流暢なのでしょうから、得難い人材なのでしょう、きっと。

二幕に戻りますが、ここでの一大みどころは、男爵は元帥夫人の奥女中マリアンデルだと思い込み、オクタヴィアンに言い寄って思いを遂げようとする場面でした。しかし実はオクタヴィアンの計略によって、男爵をやりこめるための様々な計略がそこには待っていたのでした。「マリアンデル」を口説こうとする男爵の前に、結婚相手を名乗る女性や「パパ、パパ!」と言いたてる4人の子ども達まで出現し、料亭の亭主は「重婚」だと騒ぎだすありさま。そこに風俗の乱れを取り締まる警察まで現れたため、オックス男爵は、同席している「マリアンデル」は自分の婚約者のゾフィーだと偽って切り抜けようとします。しかし、そこにファーニナルやゾフィーまで現れて、集まった野次馬たちは男爵とファーニナル家の「醜聞スキャンダル」と騒ぎ立てるのでした。この混乱の場に元帥夫人が現れ(それはオクタヴィアンの想定外)、警察に対しては「これはみんな茶番劇でそれだけのこと」と言って事態を収拾し、オックス男爵をたしなめて立ち去らせます。元帥夫人とオクタヴィアンの様子を見ていたゾフィーは二人の関係を悟り、自分はオクタヴィアンにとって「虚しい空気」のような存在でしかなかったのだとショックを受けるのです。元帥夫人はオクタヴィアンをゾフィーへと向かわせるとともに、ゾフィーも気遣う。元帥夫人は静かに身を引くのですが、考えようによっては男爵は脇が甘いお人良しで、ただ女好き、好色漢、色おやじだけなのかも知れない。それはその時代のウイーンの風潮を象徴しているかのようです。時代設定に関して、建前上は18世紀中頃、マリア・テレジア治下のウィーンということになっていますが、事実上は、このオペラが作られた少し前の19 世紀末のいわゆる「ウィーン世紀末」の社会風潮を色濃く反映されている内容になっています。オックス男爵に代表される堕落した貴族の風俗、元帥夫人からして、若い燕を囲って自堕落な生活に生甲斐を見い出している。元帥は登場しませんが、夫人は或いは元帥の女性関係に反発してオクタビアンに走ったのかも知れない。オックス男爵が酒場で飲んでいると以前関係した女が多くの落とし子たちを連れて現われたり、兎に角風紀の乱れが目に余ります。風紀を取り締まる「風紀警察」なるものまで登場します。でもそれらが悲劇を呼ぶのでなく、最終的に良識、理性に回帰し、誰が見ても笑って済まされる喜劇と化して物語が流れていて、頻繁に流れるワルツの調べと共に大いに楽しめる物語になっているのが、百年以上経っても人気が衰えないオペラである所以ではないでしょうか。

 

 

////////////////////////////////////////(再掲////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

 2019-12-13

音楽会『Borderless Songs…性別を超える音楽達』

    今週初め(2019.12/9.月曜18:30~)一風変わったタイトルの歌の演奏会を聴いて来ました(@ユリホール)。これは昭和音大三年生が企画制作し、主に同大学の卒業生並びに他大学(京都芸大、東京大学など)を卒業後、同大学に関わりのある女性歌手たち(男性歌手1名)による、演奏会形式風のコンサートでした。プログラムの解説と舞台説明(バリトン、市川さん)によれば、“オペラには所謂ズボン役がおり、女性が男性役を演じる場合が往々としてある”ということです。 これは時々オペラを見るとそれと分かる時がありますね。今回は有名オペラの有名アリアを、ズボン役の女性歌手を入れて演奏したものです。
 出演者はメゾ・ソプラノ[丹呉由利子、北薗彩佳、杉山沙織⇒欠席で丹呉と北薗が代役] ソプラノ[川越塔子、中畑由美子] バリトン[柴山昌宜⇒欠席で市川宥一郎が代役] ピアノ伴奏[星和代、林直樹] 尚、ここで欠席理由はインフルエンザとのことでした。
演奏曲目は、先ずモーツァルト作曲オペラ『フィガロの結婚』より四曲、①アリア「自分で自分が分からない(北薗)」②アリア「恋とはどんなもの(北薗)」③三重唱「スザンナ、出ておいで(市川、川越、中畑)」④二重唱「早く開けて!(北薗、中畑)」。
 続いてはグルック作曲『オルフェオとエウリディ-チェ』から⑤アリア「エウリディーチェを失って(北薗)」。次曲はロシーニ作曲『タンクレディ』より⑥アリア「君はわが心を燃え上がらせ(丹呉)」ここでピアノ伴奏が星から林に交代。さらにベルリーニ作曲『カプレーティ家とモンティッキ家』より⑦アリア「ロメオがご子息を殺めたとしても(北薗)」⑧二重唱「さあ逃げよう、それ以外に道はない(北園、中畑)」 九曲目は⑨アリア「私は客を招くのが好き(丹呉、北薗)」これはJシュトラウス作曲『こうもり』の一節です。続いて十曲目は、フンパーディンク作曲『ヘンゼルとグレーテル』より⑩二重唱「お兄ちゃん、踊りましょう(丹呉、中畑)」そしてグノー作曲オペラ『ファウスト』より⑪アリア「伝えておくれ、僕の告白を(北薗)」。この⑪の曲は9月に「英国ロイヤルオペラ来日公演」で聴いたばかりの曲です。ズボン役のジーベルはメッゾォのジュリー・ボーリアンが歌いました。ジーベルが歌った曲の中で一番出来が良かったと思いました。歌詞はフランス語ですね。次も同じフランス語オペラ、オッフェンバッハ作曲『ホフマン物語』から⑫二重唱「舟歌(丹呉、川越)」。ファウストもホフマンもドイツの作家が書いた物語(若しくは戯曲)なのですが、オペラ化したのはフランス人のグノーと、ユダヤ系ドイツ人だけれどもフランスで活躍し後に帰化したオフェンバックなので、フランス語オペラなのです。フランス語は英語と比べたら発音がはるかに難しいですね。リエゾン、エリジオン、アンシェヌマン等の短縮発音、鼻濁音、イントネーション等々、観客にフランス語らしく聞こえますか?前述の「ファウスト」の主役グリゴーロ(伊)はフランス語が上手に聞こえました。
 さて最後のオペラは、R.シュトラウス作曲『薔薇の騎士』より⑬二重唱「地上のものとは思えぬ天上の薔薇」及び⑭三重唱「私は彼を正しい方法で愛すると誓った」でした。
総じて、皆さんオペラ歴が何十年というベテランではなく、十年程度若しくは以内のこれから将来伸びる可能性を秘めた歌手たちがほとんどでしたので、歌のうまさよりは若さにあふれる新鮮さ、活きの良さを感じる演奏会でした。ズボン役として出演回数が多かった北薗さんは、エネルギー溢れ声量も十分の歌唱を披露しましたが、今後歌声をさらに磨き上げ、透明感のあるスリムな発声に的が絞れればしめたものと思います。川越さんは、異分野の大学を卒業後、研鑽を積まれソプラノ歌手になられたそうです。歌は、ヴァイオリンやピアノと違って、3歳からやらなくとも、むしろ成長して喉の発声筋肉等がある程度生育、発達してから習い始めた方が良い(このことは昔ソプラノ歌手のエリー・アメリングが言っておられました)という良い見本を示されたのではないかと思います。丹呉さんと中畑さんの「ヘンゼルとグレーテル」デュエットは息も合い、綺麗な澄んだ声が子供らしい役柄をよく表現出来ていて、大きな拍手を浴びていました。ミスもほとんどなく仲々良かったですよ。代役の市川さんは、三重唱を一曲だけだったので、もっと聴いてみたい気がしましたが、解説を台本を見ながらですが、短時間で良く理解し、聴衆の分かるように説明してくれていました。ユーモラスなところもありましたし頭の良い人だなと思いました。ピアノ伴奏は星さんが歌に合わせて、綺麗な音を響かせていました。独奏部分の演奏はほんとに綺麗でした。林さんのピアノは男性らしい力強い演奏でしたが、歌を良く聴きながら瞬時に咀嚼し、ピアノの音をコントロール出来ればもっと良かったと思います。まだお若いですし、これからの発展に期待が持てます。
先月は、ベルカントフェスティバルも催行され、大学も声楽家の育成に大変力を入れているとお見受けしました。日本には海外有名歌手が引きも切らず来日し、演奏会を行っている昨今、そうした歌手によるマスタークラスの開催なども、若手歌手たちの飛躍の機会になると思います。(東京音大の12月12日のフローレスによるマスタークラスは流れてしまった様ですが)