HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『漆原啓子&秋葉敬浩Duo Recital』

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 今日は、(自分の)天気予報が外れてしまい、冷たい雨の日になってしまいました。家にぬくぬくと籠っていた方が賢いのでしょうが、演奏会の予定がありました。表記のリサイタルは座席数30席程のソーシャル・ディスタンスをとった横浜・東戸塚のプライベート・ホールでの演奏会なので、コロナ感染リスクはかなり低いとみて聴きに行くことにしたのです。

【日時】2022.2.13.(日)14:30~

【会場】Sala MASAKA(横浜・JR東戸塚駅前)

【出演】漆原啓子(Vn)

    秋葉敬浩(Pf)

《Profile》

◎漆原啓子

わが国の代表的なヴァイオリンニストの一人。今年デヴュー40周年という事で今回はその記念演奏会のツアーの一環です・1981年東京藝術大学付属高校在学中に、第8回ヴィニャフスキ国際コンクールに於いて最年少18歳、日本人初の優勝と6つの副賞を受賞した。その翌年、東京藝術大学入学と同時に本格的演奏活動を開始。1986年、ハレー・ストリング・クァルテットとして民音コンクール室内楽部門で優勝並びに斎藤秀雄賞を受賞。
これまで国内外での演奏旅行の他、TV出演、海外主要音楽祭、マスタークラスなどに多数出演。また、V.スピヴァコフ、E.ルカーチ、J.ビエロフラーヴェク等の指揮者や、ハンガリー国立響、スロヴァキア・フィル、ウィーン放送響等のオーケストラと共演し賛辞を浴びた。また、リサイタル、室内楽でも高い評価を得ている。
CDは数多くリリースしており、J.S.バッハの無伴奏CD(日本アコースティックレコーズ)がレコード芸術特選盤に選ばれた。また、漆原朝子との録音「無伴奏ヴァイオリン・デュオ」(日本アコースティックレコーズ)は文化庁芸術祭レコード部門優秀賞を受賞。
常に第一線で活躍を続け、安定した高水準の演奏は音楽ファンのみならず、指揮者、オーケストラ・メンバー等の音楽家の間でも非常に高い信頼を得ている。
現在、国立音楽大学客員教授、桐朋学園大学特任教授。

秋場 敬浩(あきば たかひろ)
東京藝術大学音楽学部器楽科を首席で卒業。在学中にアリアドネ・ムジカ賞(伊達メモリアル基金)、安宅賞、アカンサス音楽賞、同声会賞受賞。その後、同大学院音楽研究科に進み、2015年に博士後期課程修了。ソヴィエト楽壇を代表するピアニスト、作曲家、教育者であるサムイル・フェインベルクを研究主題としたリサイタルおよび論文をもって博士号(音楽)取得。また、大学院在籍中にロシアに渡り、国立チャイコフスキー記念モスクワ音楽院に学ぶ。ミハイル・オレーネフ教授の薫陶を受け、2011年にディプロマを得て同音楽院研究科修了。このほか、モスクワにてヴィクトル・ブーニン氏、イェレヴァン(アルメニア)にてアナヒト・ネルセシアン女史に師事。2015年、「アルメニア音楽芸術への貢献」に対し、アルメニア共和国政府旧ディアスポラ大臣より表彰を受ける。東京のオペラの森(2008)、軽井沢国際音楽祭(2017、2018)、エイヴェレ・ピアノフェスティヴァル(2016/エストニア)、コミタス国際カンファレンス・フェスティヴァル(2016、2019/アルメニア)、ゲオルギ・サラジャン生誕100年記念ピアノ音楽祭(2019/アルメニア)などでリサイタル、室内楽公演を行うほか、国内外にてソロ、室内楽、オーケストラとの共演を行う。また、アルメニア国立歌劇場およびオペラ・オーストラリアを拠点に活躍したアルメニア出身の名ソプラノ歌手、アラクス・マンスリャン女史が最も信頼を寄せる共演者として共演を重ねたほか、カレン・シャーガルジャン(Vn)、ドミトリー・フェイギン(Vc)、小林美恵(Vn)、佐藤久成(Vn)、横川晴児(Cl)、コミタス弦楽四重奏団といった国内外第一線の演奏家たちと共演。2015~20年に東京藝術大学音楽学部非常勤講師を務め、現在、愛知県立芸術大学音楽学部、桜美林大学芸術文化学群非常勤講師。

 

【曲目】

 ①モーツァルト『Vnソナタトト長調KV379(373a)』                                        

1781年にウィーンで作曲され、弟子のアウエルンハンマーに献呈したヴァイオリン曲の一つである。モーツァルトは父に宛てた手紙(4月8日付)の中で、「昨日、11時から12時の間にヴァイオリンの助奏を持つソナタを作曲しました。とても疲れているため、ブルネッティのために助奏声部だけを書いて、ピアノ・パートは暗記しておきました」とこのヴァイオリンソナタ(K.379)に関する記述が書かれている。のちにこのソナタは、ブルネッティのヴァイオリンとモーツァルトのピアノによって、4月8日にルドルフ・ヨーゼフ・コロレード伯爵邸のコンサートで初演された。

 

②ババジャニアン『Vnソナタ変ロ短調』

《作曲家Profile》

アルノ・ババジャニアン(1921.1.22.~1983.11.11)

アルメニアの作曲家でピアニスト。民族的色彩の強い作品を残す。エレバン出身。エレバン音楽院で学んだ後、1947年にモスクワ音楽院に行き、ピアノと作曲を専攻した。1950年、アルメニアに戻りピアニスト兼 母校の教師として活動を始めた。この年に2つのピアノのための「アルメニア狂詩曲」を作曲し代表作の1つになった。1952年に「ピアノトリオ」を作曲、1954年にオーケストラのための「詩的狂詩曲」を作曲した。1959年に「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」を作曲、ロストロポーヴィッチに「チェロ協奏曲」を献呈した。1965年にはピアノのための「6枚の描写」を作曲。1981 年にはピアノのための「ノックターン」、ジャズ・アンサンブルのための交響曲を作曲した。他に室内楽、歌曲、映画音楽を作曲している。1983年モスクワで死去。ソ連人民芸術家(1971年)、アルメニア共和国人民芸術家(1956年)。

 

③ラヴェル『ツィガーヌ』

 

④プロコフィエフ『Vnソナタ第2番ニ長調Op.94bis』

この曲はフルートソナタをヴァイオリンソナタに書き換えたもの。フルートソナタ作品94は、独ソ戦のためプロコフィエフがモスクワを離れて疎開していた時期に作曲された。作曲を開始したのは1942年9月、アルマアタ(アルマトイ)においてであるが、スケッチはその数年前にすでに書かれていた。翌1943年8月にペルミで完成し、同年12月7日にハリコフスキーのフルートリヒテルピアノモスクワにおいて初演された。初演では好評を博したものの、その後フルート奏者にはあまり注目されず、時を置かずに改作されることにつながった。

フルートソナタの初演を聴いたヴァイオリン奏者ダヴィッド・オイストラフは、プロコフィエフにヴァイオリンソナタへの改作を熱心に勧めた。フルート奏者がこれを取り上げないということもあって、プロコフィエフもその提案を受け入れた。そして、1944年にオイストラフの助言を受けながら、戦時下のモスクワで改作を行った。その際、ピアノのパートは原曲のままとし、元のフルートのパートには音形や音域の変更を加えてヴァイオリンのパートとした。

初演は1944年6月17日、オイストラフのヴァイオリン、オボーリンのピアノで行われた。この改作版は原曲以上に好評を博し、演奏の機会にも恵まれることになった。

なお、ヴァイオリンソナタ第2番としては、ヨーゼフ・シゲティに献呈されている。

 

 

【演奏の模様】

 開演ぎりぎりに会場に入ると一階に15人程度、2階に5~6人。合わせて20人程の観客がいました。ピアノの大きさから考えるとそれ程床面積は広くないと思いますが、実際より大きめに見えます。これは2階両サイドの高窓からの自然光と照明のお陰で、ホール全体が明るくて清潔に見えるからでしょうか。

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どうも近くにある大きなクリニックの医師が建てて運営している模様。道理でホールには最近あちこちのクリニック等で見かける空気清浄機が設置されていました。今日の選曲は、以前全曲演奏しアルバム化したソナタ集からモーツァルトの成熟期のヴァイオリンソナタと、今年デヴュー40周年の漆原啓子さんが、デヴュー直前のヴィニャフスキーコンクールで優勝した時の演奏曲等を弾きました。演奏を聴いた後で気が付いたのですが、普通のVnソナタを弾く時は,❝Pf伴奏で❞というのが多いですが、今回の演奏会はVnが主であっても、Pfが相当のウエイトで活躍しピアノソロの箇所も多いので、PfがVnと対等である「Duo演奏」と称したのでしょう。

①モーツァルト『Vnソナタト長調KV379(373a)』  

 ①-1 Adagio                        

       ピアノのアルペジョの後、Vnが比較的低音でスタート、休止中はピアノの音が間隙を埋め、ピアノは伴奏というよりVn と対話している様です。Pfの合いの手が多かった。漆原さんは、第一音のみ重音で、またその後は短い重音でメロディを滔々とかなりゆったりと弾きました。       

 ①-2 Allegro

  一楽章からアッタカ的に切れ目なくスタート。かなり速いテンポで途中からテンポを上げ、有名な短調のメロディがピアノ、Vnと受け継がれ次第に激しさを増していきました。ここまで高音でなくほとんど中音域、低音域のシックなVnの調べがホールを満たし魅力十分の演奏。                                                 

 ①-3 Andantino cantabile – Allegretto 

  冒頭パッフェルベルのカノンの影響と思われる旋律が流れます。このカノン旋律は当時から現代まで人気のあるものです。ワーナーのオペラで有名なニュルンベルク出身のヨハン・パッフェルベル(1653-1706)がいつ作曲したかは不明で、その後写譜で受け継がれてきたものですが、現存する最古の写譜は1800年代のものといいます。モーツアルト時代(1756-1791)に神聖ローマ帝国内でパッフェルベルのカノンが普及していて、モーツァルトが参酌している可能性は十分あります(パッフェルベルはウィーンに行って作曲したこともあるので、ウィーンでも良く知られていた旋律なのでしょう) 。途中からテーマの速い小刻みの変奏が走り、ピアノはかなり強く合の手を入れるました。そしてカノンの変奏的な旋律を、漆原さんはかなり力を込めて弾いていました。最後はVnのピッツィカートが続き、その間ピアノが主となって旋律を響かせました。ピアニストであったモーツアルトらしい旋律構成です。秋葉さんのピアノはっがしりした大きい体格からこれまた大きい手でしっかりとした音を紡ぎ出していましたが、この小さ目の木壁のホールでは、VnよりPfの音の方が反響が強いのか、所々Pfの音が大きすぎる気がしました。

  

②ババジャニアン『Vnソナタ変ロ短調』                                                 演奏前のトークで、秋葉さんがアルメニアで就学した経験から、ババジャニアンについて、❝ソビエト時代から歌謡曲的大衆音楽を作ってきた人で有名、ピアニストでもあった。クラシック曲も作り作風は多様、民謡風もあれば現代風もあり、アルメニア訛りが曲に混じっていて、変拍子の曲も作った❞ とのことでした。

 また漆原さんに関し、❝ババジャニアンの相当の難曲をやりたいと提案した時も快く応じた「挑戦を続ける<炎のヴァイオリニスト>❞ と讃えていました。

 演奏曲自体はかなり複雑かつ変化に富んだ曲でした。例えば ②-1以下では、かなり高音域でのVnの旋律でスタート、うねるような強奏があったかと思うとそれに続くPfとVnの静穏なDuo、後ろに強拍を持つパッセージの速いテンポの演奏、Pfの右手で鍵盤を叩くような、またVnのピッツィカートで弦をこれまた強くはじく様な何れも打楽器の如き演奏があったかと思いきや、Vnの滔々とした調べが最高音近くまで高揚し、再びピッツィで弱く各弦をまるで琴を弾くようにポツポツとはじき、続きPfが同旋律でポンポンと軽く音を立てる といった風でした。                     この打楽器的強奏は ②-3で顕著に出ていて、Vnもピアノも冒頭から打楽器的リズムで歯切れ良いテンポのスタート、時折入いるVnの旋律が、すぐ打楽器の如き音に打ち消され、続くVn の非常に高く弱いハーモニックス音 、時々静まり返った中を再度ハーモニックスのVnが、またPfのなぞった音で両者がゆったりとかすかな音を響かせます。最後はピアノとVnとが強い調子で共奏して終わりました。

 この曲では。ハーモニックス奏法が目立ちました。聴き終わった後は去年11月にN響定演で聴いたフランツ・シュミットの交響曲第2番の感想に近いものを感じました。即ち ❝この曲は全体として相当姦しいですが、やかましくはありませんでした。新古典的(今回は現代的?)だけれどロマン的な感触も味わえる一種独特の雰囲気を持つ、拍力満点の交響曲(今回はソナタ)だという事でした❞ (2021.11.14.付hukkats記録『第1942回N響定期演奏会』at東京藝術劇場 参照)

 

③ラヴェル『ツィガーヌ』

  この曲は時々Vn演奏会で取り上げられる有名な曲で、漆原さんの演奏はもう男顔負けの力強いものでした。深く太い幅広の重音も繰り出し、これまた迫力満点、ラヴェルの次第に高揚していく繰り返し繰り返しの旋律が、見事に表現されていました。複雑なピッツィカート表現や、ピッツィで旋律を奏でていた処が面白かった。オケの弦楽アンサンでは時々ありますけれど。ラヴェルは大難曲のピアノ協奏曲を書いている位ですから、ピアノも大活躍、秋葉さんは、相当集中し、力を込めて弾いていました。

 

④プロコーフィエフ『Vnソナタ第2番ニ長調Op.94bis』

 上記曲の解説にあった様に元々フルートソナタだったというので,Vnの音を聞きながらFlの音を連想しながら聴いていました。朗々とした遅い調べは、Flの音よりもVnで弾いた方が華やかさが出ると思いましたが、かなり速いパッセージだとFlは歯切れの良い音の連なり、曲の明確さを浮き出させますが、Vnでは音と音の残響がほんの僅か重なり明確さがやや少なくなるかな?でもその分柔らかい音の連なりが響きいい感じになっている等と取り留めない妄想をしながら聴いていました。

 プロコフィエフのゆったりとした流れの調べには、素晴らしいメロディが多いですね。古典派やロマン派とも違う、この様な旋律がまだ残っていたか、と思わす耳に心地よいものです。漆原さんの演奏がそれだけ見事だったからかも知れません。プロコフィエフ自身ピアニストだけあってこれまた難曲のピアノ協奏曲を書いている位ですから、この曲でも秋葉さんの活躍には目を見張るものがあり、Vnを引き立たせる以上のソリストとしての効果も出していました。

 

 なお、アンコール演奏が三曲あり、二曲はアルメニア曲。最後はロシアの曲でした。

  • エドヴァルド・ミハイロヴィッチ・ミルゾヤン(秋葉さんがすごい早口で言ったので違っているかも知れない)作曲『ノックターン』
  • シュニトケ作曲『ポルカ』
  • チャイコフスキー『なつかしい土地の思い出(三つの小品)』から第三曲目「メロディ変ホ長調」

でした。アルメニアの作曲家やプロコフィエフ を聴いた後のチャイコフスキーの旋律の何と新鮮で懐かしく感じたことでしょう。それだけ古典的作曲家の曲に脳が洗脳されているのかも知れない。聴くとドーパミンがドバドバでしょうか?

 

 今日の演奏会はコロナ感染の恐れがほとんど感じられない環境下で、さすが日本のトップクラス、横綱級のヴァイオリンニストと成長著しい中堅ピアニストの競演による素晴らしい音のシャワーを全身に浴び、昨今のコロナ禍による大規模音楽会自粛によるストレスを随分と解消することが出来ました。

Merci  beaucoup.