HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

【オペラ速報】ワーグナー『楽劇・ニュルンベルクのマイスタージンガー』

日本歌手軍、独マイスター軍に善戦!!

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 表記のオペラは、本来昨年行われる筈だったものが、コロナ禍で中止・延期になっていた公演です。その中止の時点よりコロナ感染状況がひどい状況にあった2021年8月上旬に開催する予定になっていたものの、結局、緊急事態宣言下での開催も中止になってしまいました。今回の『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は、中止になった文化会館の時と同じ演出家・指揮者およびほぼ同じ出演者(若干の入れ替えは有りますが)等で行われたもので、今日11月18日が、二年越しでやっと催行されたオペラの記念すべき初日となったのでした。

【日時】2021.11.18.16:00~

【会場】NNTTオペラパレス

【管弦楽】東京都交響楽団

【指揮】大野和士    

【演 出】イエンスク=ダニエル・

     ヘルツオーク

【美 術】 マティス・ナイトハルト
【衣 裳】 シビル・ゲデケ
【照 明】 ファビオ・アントーチ
【振 付】 ラムセス・ジグル

【合 唱】二期会合唱団、新国立劇場合唱団           

【合唱指揮】三澤洋史

【登場人物】

登場人物

出演配役 ( 役柄 )

ハンス・ザックス(バス)

トーマス・ヨハネス・マイヤー ( 靴屋の親方 )

ヴァルター(テノール)

シュテファン・フィンケ

(フランケン地方出身の若い貴族。エファに恋をし、歌合戦に参加することを決意する)

ポーグナー(バス)

ギド・イェンティンス (金細工師。エファの父 )

エファ(ソプラノ)

林 正子  ( ポーグナーの娘 )

マグダレーネ(メゾソプラノ)

山下 牧子 ( エファの乳母 )

ダーヴィト(テノール)

伊藤達人(ザックスの徒弟。マグダレーネに想いを寄せている)

ベックメッサー(バス)

アドリアン・エレート(市書記。エファに想いを寄せている)

フォーゲルゲザング(テノール)

村上公太    ( 毛皮屋 )

ナハティガル(バス)

与那城 敬   ( 板金屋 )

コートナー(バス)

青山 貴     ( パン屋 )

ツォルン(テノール)

秋谷直之  ( 錫細工師 )

アイスリンガー(テノール)

鈴木 准   ( 香料屋 )

モーザー(テノール)

菅野 敦  ( 仕立屋 )

オルテル(バス)

大沼 徹   ( 石鹸屋 )

シュヴァルツ(バス)

長谷川 顕   ( 靴下屋 )

フォルツ(バス)

妻屋 秀和  ( 銅細工師 )

夜警(バスバリトン)

志村 文彦  ( 銅細工師 )

 

【主な歌手の経歴】

〇トーマス・ヨハネス・マイヤー

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ドイツ生まれ。ケルン音楽大学で声楽をクルト・モルに師事。ミラノ・スカラ座、バイエルン州立歌劇場、パリ・オペラ座、ハンブルク州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、ザルツブルク音楽祭などに出演。レパートリーは幅広く『ワルキューレ』ヴォータン、『ジークフリート』さすらい人、『ドン・ジョヴァンニ』『ヴォツェック』タイトルロール、『アラベッラ』マンドリカ、『サロメ』ヨハナーン、『魔弾の射手』カスパールなどを歌っている。最近では、ワーグナー作品を中心にバイエルン州立歌劇場「ニーベルングの指環」ヴォータン、バイロイト音楽祭『ローエングリン』テルラムント(2013年、14年、19年)、『パルジファル』アムフォルタス(18年)、ベルリン・ドイツ・オペラ『ワルキューレ』ヴォータン、『マクベス』タイトルロール、『オテロ』イアーゴ、オランダ国立オペラ『ラインの黄金』『ワルキューレ』ヴォータン及び『ジークフリート』さすらい人、ウィーン国立歌劇場『パルジファル』アムフォルタス、『フィデリオ』ドン・ピツァロ、ベルリン州立歌劇場『サロメ』ヨハナーンなどに出演。新国立劇場では09年『ヴォツェック』タイトルロール、10年『アラベッラ』マンドリカ、15年『さまよえるオランダ人』タイトルロールに出演している。

〇ギド・イェンティンス

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ケルン音楽大学で学び、デュッセルドルフ歌劇場のオペラスタジオにて歌手活動を始める。2005年から13年までニュルンベルク州立劇場専属歌手の一員となる。専属歌手及びゲストとしてアウクスブルク、エアフルト、カールスルーエ、ヴィースバーデンの各劇場に出演。レパートリーは『ローエングリン』ハインリヒ、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ポーグナー及びハンス・ザックスをはじめ多数。『青ひげ公の城』青ひげ、『神々の黄昏』ハーゲンのロールデビューは高く評価された。オペラやコンサートでのゲスト出演として世界中で公演。2013年、『ニュルンベルクのマイスタージン ガー』の新制作でザルツブルク音楽祭でデビューを飾って以降、多くの名高い音楽祭にたびたび招待されている。新国立劇場では、2010/2011シーズン『トリスタンとイゾルデ』マルケ王に出演した。

〇アドリアン・エレート

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オーストリア出身。2001年グノー『ロメオとジュリエット』マキューシオでウィーン国立歌劇場にデビュー。ウィーン国立歌劇場の専属歌手として『セビリアの理髪師』フィガロ、マスネ『マノン』レスコー、『死の都』フランク、『ウェルテル』アルベール、『ヘンゼルとグレーテル』ペーターなどで出演を重ねる。フェニーチェ歌劇場、ハンブルク州立歌劇場、フランクフルト歌劇場、パリ・オペラ座、ヒューストン・グランド・オペラなどにも出演。09年に『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ベックメッサーでバイロイト音楽祭に初登場後、同役でチューリヒ歌劇場、ライプツィヒ歌劇場、オランダ国立オペラなどに出演を重ねた。ウィーン国立歌劇場『ラインの黄金』ローゲ役は国際的に高い関心を集め、ブレゲンツ音楽祭でのアンドレ・チャイコフスキー『ヴェニスの商人』世界初演のシャイロック役も高く評価された。新国立劇場には11年『コジ・ファン・トゥッテ』グリエルモ、11年、15年、18年『こうもり』アイゼンシュタイン、14年『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール、16年『ウェルテル』アルベールに出演。本プロダクションのザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場公演にも出演している。

〇青山 貴

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東京藝術大学卒業、同大学大学院修了。二期会オペラスタジオ第44期マスタークラス修了。新国立劇場オペラ研修所第4期修了。文化庁、ローム ミュージック ファンデーションの奨学金を得てボローニャ、ミラノで研鑽を積む。第19回五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。第4回マグダ・オリヴェーロ国際コンクールファイナリスト。これまでに二期会『仮面舞踏会』レナート、『ナブッコ』タイトルロール、日生劇場『ドン・ジョヴァンニ』レポレッロ、『セビリアの理髪師』フィガロ、『魔笛』パパゲーノ、びわ湖ホール『さまよえるオランダ人』オランダ人、『ラインの黄金』ヴォータン、『ワルキューレ』ヴォータン、『ジークフリート』さすらい人などに出演。新国立劇場では『カルメン』モラレス、『黒船-夜明け』第二の浪人/漁師、『トゥーランドット』官吏、『ホフマン物語』シュレーミル、高校生のためのオペラ鑑賞教室『トスカ』スカルピア、同『ラ・ボエーム』マルチェッロ、同『蝶々夫人』シャープレスなどに出演している。二期会会員

〇シュテファン・フィンケ

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ドイツのヘルデンテノール。99年にマンハイム歌劇場で「若きヘルデンテノール」の称号を得、2000年にはOpernwelt誌「年間最優秀若手歌手」に選出される。『トリスタンとイゾルデ』『ジークフリート』『タンホイザー』『パルジファル』『ローエングリン』『リエンツィ』のタイトルロール、『ワルキューレ』ジークムント、『神々の黄昏』ジークフリート、『さまよえるオランダ人』エリック、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ヴァルターなどワーグナーのテノール諸役で世界的に活躍。「ニーベルングの指環」では、英国ロイヤルオペラ、メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラなどへ数多く出演。バイロイト音楽祭へは11年『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ヴァルター、『トリスタンとイゾルデ』トリスタン、15年~17年『ジークフリート』『神々の黄昏』ジークフリートに出演。ワーグナー以外では、『イドメネオ』タイトルロール、『フィデリオ』フロレスタン、『ナクソス島のアリアドネ』バッカス、『死の都』パウルなどでベルリン、ハンブルク、ケルン、パリ、バルセロナ、メルボルン、北京、ザルツブルクなど世界各地の歌劇場や音楽祭へ出演している。今シーズンはケルン歌劇場『死の都』パウル、メトロポリタン歌劇場『エレクトラ』エギスト、ブダペストのワーグナー音楽祭で『ジークフリート』『神々の黄昏』ジークフリート、ライプツィヒ歌劇場『トリスタンとイゾルデ』トリスタン、『神々の黄昏』ジークフリートなどに出演予定。新国立劇場初登場。     

〇伊藤達人

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東京藝術大学卒業。同大学院修士課程修了、新国立劇場オペラ研修所第14期修了。文化庁在外研修員としてベルリンにて研鑽を積む。東京二期会『ナクソス島のアリアドネ』ブリゲッラ、『清教徒』ブルーノ、日生劇場『魔笛』武士Ⅰ、『ヘンゼルとグレーテル』魔女、日生劇場『ルチア あるいはある花嫁の悲劇』アルトゥーロ、トウキョウ・モーツァルトプレイヤーズ『魔弾の射手』マックス、パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌『ナクソス島のアリアドネ』スカラムッチョ、オーケストラ・アンサンブル金沢『魔笛』タミーノなどに出演。オペラ以外でも、15年には新国立劇場演劇公演ミュージカル『パッション』にトラッソ中尉役で出演したほか、コンサートでもヘンデル『メサイア』、ベートーヴェン『第九』、オルフ『カルミナ・ブラーナ』などのソリストとして活躍。新国立劇場オペラ公演へは、本年4月『夜鳴きうぐいす』漁師でデビューした。二期会会員。

〇林 正子

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東京藝術大学卒業。同大学院、二期会オペラスタジオ修了。ジュネーヴ音楽院ソリスト・ディプロマ取得。五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。スイス・ロマンド管弦楽団『ドイツ・レクイエム』に出演するほかオーストリアでの音楽祭、ナポリ・サンカルロ歌劇場でのヴェルディ『レクイエム』などヨーロッパを拠点に活動。国内では東京二期会・ベルギー王立モネ劇場提携『ニュルンベルクのマイスタージンガー』エーファ、東京二期会・ハンブルク州立歌劇場共同制作『皇帝ティートの慈悲』ヴィテッリアなどで出演し高い評価を得ている。近年では東京二期会『サロメ』『ダナエの愛』『ナクソス島のアリアドネ』の主演を演じるほか、2017年東京二期会『ばらの騎士』元帥夫人では表現力豊かな演唱で高い評価を得ている。コンサートでも読売日響定期演奏会『神々の黄昏 第3幕』グートルーネ、同定期演奏会『夢見るゲルゲ』ゲルトラウトなどソリストとしても活躍中。新国立劇場では『椿姫』フローラ、『魔笛』パミーナに出演している。フランス在住。二期会会員。

【楽器編成】

Ft 3(第3はPicc持ち替え)、Ob 2、Cl 2、Fg 2 Hr 4、Trp 3、Trb 3、BassTub 1Tim 1対、Tria 1、Simb 1、大太鼓 1グロッケンシュピール、1、Hp 1、リュート(スチールハープ) 1  弦楽五部14型

舞台上:オルガン、夜警の角笛(シュティーアHr)、Hr(複数)、ピッチの異なるTrmp

(以上は、平常の構成の例で通常変動有り。今回は、舞台に配置なし、但し終演間際に二階の舞台左右最近接席両側にトランぺットのバンダ2×2=4台の移動有り。)

(適宜)、中太鼓(複数)( リュート)

 

【楽劇制作の背景】

ワーグナーは神話や伝説を題材としたオペラを多く作曲しましたが、このオペラは珍しく歴史を題材としています。
実在したマイスタージンガー、ハンス・ザックスを主人公とした物語で、台本は史実に忠実ではなくワーグナーのオリジナルによるものです。
物語の内容は「人間と芸術の素晴らしさ」を描いています。

マイスタージンガー (Meistersinger)とは「親方、名人(Meister)」と「歌手Singer)」が組み合わさった言葉です。
彼らの文化はニュルンベルク(hukkats注1)をはじめとする南ドイツで発展し、手工業者の親方や職人、弟子たちが詩と歌の腕を磨き合いました。          ハンス・ザックスはマイスタージンガーの代表的存在で、16世紀のニュルンベルクに実在した人物です。職業は靴屋の親方でした。
ザックスは生涯に4,374篇のマイスター歌、約2,000の祝詞歌(Spruch)など多くの作品を発表しました。当時のドイツは宗教改革の時代で、ザックスはルターの思想に深く傾倒したそうです。

(hukkats注1)

ドイツ連邦共和国南部に位置し、バイエルン州ミッテルフランケン行政管区に属する郡独立市。バイエルン州第2の都市(ドイツ全体では14番目)である。フランケン地方の経済的・文化的中心の一つである。

中世から続く伝統ある、ドイツ史にとって極めて重要な都市である。神聖ローマ帝国帝国会議が最も多く開かれ、歴代の神聖ローマ皇帝が居住・滞在したニュルンベルク城を有し、神聖ローマ皇帝の正当性を証する帝国宝物が保管された。また、19世紀のドイツ統一を主導したホーエンツォレルン家ニュルンベルク城伯世襲してきた都市である。現在も旧市街は中世の城壁で囲まれている。

このように歴史的に重要な都市であったことから、ナチス政権も政権掌握後一貫してナチ党党大会(別名:ニュルンベルク党大会)をニュルンベルクで開催し、ユダヤ人の公民権を剥奪したとして悪名高いニュルンベルク法などが制定された。それゆえナチス政権要人を裁く「ニュルンベルク裁判」が象徴的に行われたことでも知られる。こういった歴史を辿った都市であることから、人権問題に積極的にかかわっていく姿勢を示している。

マイスタージンガーは、ナチス政権のプロパガンダ(政治的宣伝)にも使われたことでも知られています。
ヒトラーはマイスタージンガーを都合よく利用したのでしょう。でもワ-グナーが作曲した時代には、ナチスもヒットラーもいない50年以前のことですから、そんなに昔に出来たこのオペラの音楽的価値は、後世の政治情勢や戦争事情に左右されるものではありません。まーどんなものでも悪用されるのは嫌やなものですけれど。

【粗筋】

《第1幕》
 ニュルンベルク。聖カタリーナ教会で騎士ヴァルターは金細工の親方ポーグナーの娘エーファに一目惚れする。ヴァルターは翌日マイスタージンガーの歌合戦の勝利者がエーファを花嫁にできるとマグダレーネから聞き、自分も歌合戦に参加しようと靴屋の徒弟のダーヴィットから歌の心構えを聞く。書記ベックメッサーとエーファの父ポーグナーが現れるのでヴァルターは試験を受けたいと頼みこむ。明日の合戦について協議する親方達の前で、ヴァルターは自作の歌を披露する。歌の途中でやはりエーファとの結婚を目論む市の書記ベックメッサーが非難を口にし始め、靴屋のハンス・ザックスのみが、ヴァルターの自由な精神と才能を認め擁護するものの、結局失格となったヴァルターは意気消沈する。

《第2幕》
エーファは、騎士の模様を金細工師の父親に訊ねるが、彼は言葉を濁す。ザックスがエーファを愛する心を歌っていると、当の彼女が現れてヴァルターの出来について聞きだそうとする。エーファのヴァルターへの愛が本物だと知ったザックスは、彼女のために動こうと決心。エーファを訪ねて来たヴァルターはことの次第(失格になったこと)を悔しげに語り、駆け落ちを迫る。ベックメッサーがエーファの部屋の下でセレナーデを歌おうとすると、ザックスが金槌の音を立てて邪魔をし、エーファの身代わりで窓辺に立つ乳母マグダレーネの姿に、彼女と恋仲のダーヴィット(ザックスの徒弟)が気付いて大騒動に。騒ぎに乗じて家を出ようとしたエーファとヴァルターの前にザックスが飛び出して、騎士ヴァルターを家に引っ張り込み、娘は父親に引き渡す。

《第3幕》 翌朝。ザックスの家。ザックスは自分の迷いから逃れられない。ヴァルターが夢に見た話を語るので、ザックスはそれを歌にせよと励ます。ヴァルターはザックスと歌合戦のための歌を作る。ベックメッサーが現れ、ヴァルターの歌の下書きを見つけると、ザックスはその下書きをベックメッサーに与える。 エーファはヴァルターとともに、ザックスに感謝の気持ちを表す。歌合戦でベックメッサーが歌いだすが上手く行かず、責任をザックスに被せる。ザックスはこの歌はヴァルターのものであることを告げ、ヴァルターが歌うと皆が感動する。勝利が決まったヴァルターにザックスが伝統の重みを説き、一同がザックスを讃える。            エーファを勝ち取ったヴァルターはマイスタージンガーの称号を拒否するが、ザックスに説得され、受け入れる。ドイツの芸術を称える合唱で幕となる。

 

 オペラパレスのホールは、開演直前には多く見積もっても、7割くらいの入りだったでしょうか?今日は、平日の16時スタートでしたから、仕事の都合がつかなくて、間に合わない人も多くいた様です。それが休憩後の二幕、三幕と進むにつれて空席が埋まり、ほぼ満杯となったのですから、いかに音楽ファンが、待ち望んでいた公演かが分かります。

 【上演の模様】

 兎に角、ワーグナーのオペラですから。ご多聞に漏れず、長大、膨大な内容を含み、従って登場人物も沢山いるので、すべてに渡って見聴きしたものを書くことは不可能に近いので、焦点を絞って、とりあえずの上演状況、感想等を記することにします。

《前奏曲》

 この楽劇の曲のうちでは、前奏曲が世界で一番良く知られたメロディーと言っても過言でないと思います。恰好いいですネ。迫力もあるし威風堂々としているし、ナチでなくとも誰でも何かに利用したくなりますよ。また、前奏曲のメロディはオペラの中で、   Leit Motiv として各処で用いられている点でも重要な曲です。ワ-グナーの管弦楽曲は、タンホイザーの曲もいいですし、オーケストラ曲の方がオペラアリアより上回っているとさえ思えてくる。勿論オペラアリアだっていい曲が沢山ありますけれど。この楽劇の中にも。以上これまでの経験から、相当な期待を持って鑑賞に望みました。

 でもどうしたことでしょう、スタートした管と弦のアンサンブルは、何かしっくりしない、互いに馴染んでいない感じがしたのです。冒頭の打が、やはりアンサンに溶け込めなかった。若干浮いていた。弦楽の調和に関しても低音弦が弱く、これは楽器編成のせいではないでしょう。ベースは6挺、チェロも沢山あったし、ビオラだって、席からは見えなかったけれど、訊いた処では14型ですから多くあった筈です。完璧な前奏曲演奏からはほど遠いものでした。やや期待外れでした。(ただし最終場面で繰りかえされるこの曲の演奏は良かった。)

 

《第一幕》

   基本的に第一幕は心で笑って観ていられる部分が多かったです。         

 一幕で、エーファの婚約者を決める歌合戦の審査員を、誰にするかの議論の中で、トマス・ヨハネス・マイヤー演ずるザックスが突然民衆(das Volk)を審査員に加えようじゃないかと言い出します。当然ながら「民衆だって?!冗談じゃない!」と、親方たちの大反発を食らう。それでもなお、「民衆と芸術が共に栄えてこそ意義があるのだ」と食い下がります。これは楽劇最後の場面、ザックスが歌うモノローグでの芸術維持の考えの基礎となるものでしょう。

 マイヤーの立ち上がりの歌いぶりは、今ひとつ何か物足りない感がありました。期待していたのが非常に大きかったせいもあり。

 パン屋のフリッツ・コートナーが得意げに、作詞法の事細かい決まり事やルールについて、長々と口舌を垂れます。コートナー役の青山さんは説教調でなく説得力のあるいい歌いぶりでした。

 騎士ヴァルターは、本選を受ける資格があるかどうかのテストを受けます。厳格な歌詞によって判断される選考を、そんな事にお構いなしの騎士ヴァルターは、マイスター達の価値観から見れば支離滅裂な歌唱法で、自己紹介を兼ねて『冬の日の静かな炉端で城は雪に閉ざされていまし・・・』を歌います。自由に思った通りの美しい詩を披露しますが、形式にしか関心のない親方たちの失笑と猛反発を食らうのでした。ヴァルター役のシュテファン・フィンケは立ち上がり上手ないいテノールの声なのですが、やはりまだ力を出し切れていない感じがしました。

 

《第二幕》

[Dritte Szene]

ザックスは、先ほどのヴァルターの試験の歌を思い出し、感動しています。ただひとり、ザックスだけがヴァルターの歌に、既存の形式に拘らない、真に美しい芸術の価値をそこに見出し、甘美な「ニワトコの香りかぐわし・・・」を歌います。そしてヴァルターの作詞の手助けをするのです。

 

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(SACHS)
(legt sich die Arbeit zurecht, setzt sich an der Tür auf den Schemel, lässt aber die Arbeit wieder liegen und lehnt, mit dem Arm auf den geschlossenen Unterteil des Türladens gestützt, sich zurück )

Was duftet doch der Fliederso so mild, so stark und voll! Mir löst es weich die Glieder, will, dass ich was sagen soll. Was gilt's, was ich dir sagen kann? Bin gar ein arm einfältig Mann! Soll mir die Arbeit nicht schmecken,gäbst, Freund, lieber mich frei;tät' besser, das Leder zu strecken,und liess alle Poeterei.Er nimmt heftig und geräuschvoll die Schusterarbeit vor. Lässt wieder ab, lehnt sich von neuem zurück und sinnt nach Und doch, ‘s will halt nicht geh'n. Ich fühl's - und kann's nicht versteh'n -kann's nicht behalten - doch auch nicht vergessen; und fass ich es ganz - kann ich's nicht messen! Doch wie wollt' ich auch messen, was unermesslich mir schien? Kein' Regel wollte da passen
und war doch kein Fehler drin. Es klang so alt und war doch so neu wie Vogelsang im süssen Mai! Wer ihn hörtund wahnbetört  sänge dem Vogel nach,dem brächt' es Spott und Schmach. Lenzes Gebot, die süsse Not, die legt' es ihm in die Brust:nun sang er, wie er musst'!Und wie er musst' - so konnt' er's; das merkt' ich ganz besonders. Dem Vogel, der heut' sang, dem war der Schnabel hold gewachsen: macht' er den Meistern bang,
gar wohl gefiel' er doch Hans Sachsen. Er nimmt mit heiterer Gelassenheit seine Arbeit vor.

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<ザックス>
(仕事の準備を整えて、扉の前に置いてある椅子に腰を下ろすが、再び仕事はそっちのけにして、閉じられた扉の下部に腕をもたせながら、よりかかる)   

 ニワトコのなんともいい香りがする。
やさしくも、強く、ふくよかな香りだ!
この香りに、体の疲れはほどけ、
言うべきことを、言う気が出てくる。
だが、私ごときが何を言えるというのだ?
貧しく無学な私ごとき者が!
友よ・・・私が仕事に身が入らないときは、
どうか好きなようにさせてくれ。
皮をなめしていたほうがよっぽどいいのだから!
詩作などほったらかして。
(ザックスは激しく、大きな音を立てながら、靴屋の仕事に取りかかる。だが、また中断すると、もう一度背中をもたれ、物思いに沈む)
ふうむ・・・どうも今日はうまくいかぬようだ。
心では感じているのに・・・頭では分からない・・・
捉えることができないのに・・・忘れることもできない。
ついに捉え切ったぞと思えば・・・こんどは測ることができない!だが、測れるはずがあろうか?
そもそも測りがたきものに思えるのだから。
全く規則には沿っていないのに、
それでいて間違いなど一つもなかった。
昔なじみの響きなのに、それでいて新鮮だった。
まるで五月の鳥の歌声のようだった!                      だとすれば、鳥の声に耳を傾け、
我を失って狂ったように
鳥のまねをして歌う者は、
嘲られ、屈辱を味わうというのか・・・。
あれは春の命令・・・甘美な衝動・・・
それが、あの若者の胸を突き動かしていた。
しかし、歌わざるを得ないことを、歌っただけではないか!
しかも、そのとおりに歌えたのだ。
私はそれに気づき、稀有のことだと感じ入ったのだ。
今日歌った鳥のくちばしは、
実に愛らしかった。
あの鳥は、他の名人たちを不安にさせたようだが、
このハンス・ザックスには大いに気に入った。
(落ち着いて快活に仕事に取りかかる)

この辺りになるとザックス役のマイヤーはエンジンがかかってきたのか、相当に力の籠もった歌声を響かせていましたが、何と言っも圧巻だったのは、第5場から6場にかけての靴づくりの槌を叩きながら歌う場面でした。靴職人兼マイスター代表の面目躍如たる歌いぶりで、声量も迫力も満点、やって来たベックメーサーをたじたじさせて、退散させるのでした。

 

《第三幕》

 

[Ersute szene]

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immer noch den Folianten auf dem Schosse, lehnt sich, mit untergestütztem Arme, sinnend darauf; es scheint, dass ihn das Gespräch mit David gar nicht aus seinem Nachdenken gestört hat Wahn! Wahn! Überall Wahn!Wohin ich forschend blick'in Stadt- und Weltchronik,den Grund mir aufzufinden,warum gar bis aufs Blutdie Leut' sich quälen und schinden in unnütz toller Wut!
Hat keiner Lohn noch Dank davon:in Flucht geschlagen, wähnt er zu jagen.
Hört nicht sein eigen Schmerzgekreisch,wenn er sich wühlt ins eig'ne Fleisch,
wähnt Lust sich zu erzeigen.Wer gibt den Namen an?kräftig
‘s ist halt der alte Wahn,ohn' den nichts mag geschehen,‘s mag gehen oder stehen!Steht's wo im Lauf,er schläft nur neue Kraft sich an;gleich wacht er auf,dann schaut, wer ihn bemeistern kann!Wie friedsam treuer Sitten getrost in Tat und Werk,liegt nicht in Deutschlands Mitten mein liebes Nürenberg!
Er blickt mit freudiger Begeisterung ruhig vor sich hin Doch eines Abends spat,ein Unglück zu verhüten,bei jugendheissen Gemüten,ein Mann weiss sich nicht Rat;ein Schuster in seinem Laden zieht an des Wahnes Faden. Wie bald auf Gassen und Strassen fängt der da an zu rasen! Mann, Weib, Gesell und Kind fällt sich da an wie toll und blind;und will's der Wahn gesegnen,nun muss es Prügel regnen,mit Hieben, Stoss' und Dreschen den Wutesbrand zu löschen.Gott weiss, wie das geschah? -Ein Kobold half wohl da!Ein Glühwurm fand sein Weibchen nicht;der hat den Schaden angericht't. Der Flieder war's:Johannisnacht. Nun aber kam Johannistag! Jetzt schau'n wir, wie Hans Sachs es macht,dass er den Wahn fein lenken kann,ein edler' Werk zu tun. Denn lässt er uns nicht ruh'n selbst hier in Nürenberg,so sei's um solche Werk',die selten vor gemeinen Dingen und nie ohn' ein'gen Wahn gelingen

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(相変わらず大きな本を膝に乗せたまま、腕を肘掛けにもたせて椅子に寄り掛かりながら、物思いにふけっている。その様子からは、先ほどのダーヴィトとの会話が、何一つ考えを妨げなかったようにうかがえる。)狂気だ!狂気!どこもかしこも狂気だ!私は書物を紐解いてみる。街の年代誌を調べたり、世界の歴史を紐解いて、その理由を見つけようとする。その理由を見つけようとする。どうして人は流血の惨事に至ってまでも、互いに苦しめ合おうとするのだろう・・・。どうして無意味な熱狂に駆られるのだろう!?どんな報いがある?誰が感謝する?敗けているくせに、勝ったとうぬぼれている者どもには、自分の苦痛の叫びさえ耳に入らない。自分の肉を掘り返して、それをまるで楽しいことのように思っているのだ。なんとも名状しがたいことだ・・・。

(力強く)
だが、しかたがあるまい。昔からの狂気なのだ・・・。それがなければ、何もはじまらない。去っていくにせよ、街にとどまるにせよ!どうやら狂気は、まだこの街にとどまり、眠って新たな力を蓄えているようだ。しかし、目覚めたときには、気づくだろう!ここに狂気を制御しうる男がいることを!ああ・・・なんと平和に、美風にあふれ日々の勤めを平穏に果たしながら、ドイツの中心に、佇んでいることか。
我が愛するニュルンベルク市は!
<ザックスは心を喜びに満たし、おだやかな視線を前に向ける>
だが、あんな夜遅くでは、災いを避けようとしても、血気にはやる若者達の心に、
どう忠告していいのか分かろうはずもない。一介の靴屋が、店の中で、狂気の糸を通そうとした。ところがすぐに、大通りにも、路地にも、狂気の嵐が吹き荒れだした!
男も女も、若者も子供も、むやみやたらに殴り合い、狂気に魅入られたかのように、
殴り合いの雨あられが降ってきた。ぶったり、蹴ったり、どついたり、ああでもせねば、怒りの炎が鎮まらないかのように。神よ・・・どうしてあんなことに?
いたずらな妖精の仕業でしょうか!?オスのホタルが、連れ合いを見つけられなかったので、あんな災厄を引き起こしたのでしょうか?思い出されるのは・・・ニワトコの香り・・・。聖ヨハネの前夜祭・・・。だが今日こそは聖ヨハネの祝祭!さあ、ご覧いただこう。このハンス・ザックスが、狂気を巧みに操って、気高い仕事を果たすさまを。なぜならば、ここニュルンベルクですら、狂気が我らを捉えて離さぬのなら、いかに、みごとな仕事を果たすにも、世俗のことはいささか離れて、狂気の助けを借りる必要もあるのだから

 

また三幕の「愛の洗礼式の五重唱」は全員大変美しい歌唱で聴きごたえがあった。エーファの林さんが綺麗なソプラノで目立ちました。男性歌手は、かなり抑える歌唱でアンサンブルの調和をとっていたのが、印象的でした。

 人々の中にむきあったヴァルターは、例外的に歌合戦に参加することを認められます。本番でヴァルターは見事に歌を歌い上げ、人々から称賛されます。代役とは言えフィンケのテノールは、この辺りでは素晴らしいもので、さすが説得力のあるものでした。   

《第三幕》

FÜNFTE SZENE

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(WALTHER)
<beschreitet festen Schrittes den kleinen Blumenhügel>
Morgenlich leuchtend in rosigem Schein,von Blüt' und Duft geschwellt die Luft,voll aller Wonnen, nie ersonnen,ein Garten lud mich ein Wie entrückt.
dort unter einem Wunderbaum,von Früchten reich behangen,zu schaun in sel'gem Liebestraum,was höchstem Lustverlangen Erfüllung kühn verhiess -das schönste Weib, Eva im Paradies. «Abendlich dämmernd umschloss mich die Nacht;auf steilem Pfad war ich genaht zu einer Quelle reiner Welle, die lockend mir gelacht: dort unter einem Lorbeerbaum, von Sternen hell durchschienen, ich schaut' im wachen Dichtertraum von heilig holden Mienen, mich netzend mit dem edlen Nass,das hehrste Weib,die Muse des Parnass.

 

(sehr feurig)

»Huldreichster Tag, dem ich aus Dichters Traum erwacht! Das ich erträumt, das Paradies, in himmlisch neu verklärter Pracht hell vor mir lag,dahin lachend nun der Quell den Pfad mir wies: die dort geboren, mein Herz erkoren, der Erde lieblichstes Bild,als Muse mir geweiht,so heilig ernst als mild,ward kühn von mir gefreit,am lichten Tag der Sonnen durch Sanges Sieg gewonnen
Parnass und Paradies.

***************************************************************************(ヴァルター)
<花で飾られた足台にしっかりとした足取りで上る。>

朝はバラ色の光に輝き、
辺りは花の香りに満ち溢れて、
思いも及ばぬほどの喜びを漂わせつつ、
ある庭園が誘いかけるように
私を迎え入れた。
そこには多くの実を結んだ
素晴らしい木があり、
そのそばには、幸せな愛の夢のうちに
崇高な喜びを与えようと
一人の乙女が立っていた。
この上もなく美しい女性、楽園のエーファよ。

黄昏が訪れ、やがて夜が私を包んだ。
急な小道の彼方に
清らかな流れに満ちた泉があり、
誘いかけるように私に笑いかける。
そばには星の光に包まれた
月桂樹があり、
現実のような詩的な夢のうちに、
私はそこに立つ人を見た。
私の渇きを潤そうと一杯の水を差しだす
高貴な女性、
パルナッソスのミューズ(hukkats注2)よ。

(hukkats注2)

中央ギリシャ、コリンティアコス湾の北デルファイの上にそびえる、不毛の石灰岩でできた山。頂上からは、オリーブの木立と田園風景が展望できる。ギリシャ神話によると、この山はアポロンとニンフを祭っていて、ミューズたちが住むと言う。ギリシャ神話では、デルファイによって、アポロン神を祭った。それで山自体もアポロンと関連づけられるようになった。いくつかの伝承によると、パルナッソス山はカスタリアの泉があったところで、ミューズたちが住んでいると言われ、ミューズたちが住んでいることから、パルナッソス山は詩、音楽、学問の発祥の地として知られるようになった。

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  ニコラ・プッサン『パルナッソス』(プラド美術館所蔵)

この優しいフレンドリーな歌を聴いていた聴衆は、夢見心地になって素晴らしいと感動し、マイスタージンガーたちは、韻もきちんと踏んでいるし、歌も新鮮で素晴らしいと立上がって賞賛し、ヴァルターに「マイスターの称号」を与えることにします。本当に柔らかいいい歌だと皆思える歌いぶりでしたから。

ヴァルターは優勝を勝ち取り、頭上にエーファから月桂冠を授かります。しかし「マイスターの称号」については、マイスターになりたい訳でなくただ幸せになりたいと固辞するのでした。

最後のザックスのモノローグ(マイスターの称号を受けるようにヴァルターを説得する演説)も圧巻でした。

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(SACHS)
(schreitet auf Walther zu und fasst ihn bedeutungsvoll bei der Hand)
Verachtet mir die Meister nicht und ehrt mir ihre Kunst!Was ihnen hoch zum Lobe spricht,fiel reichlich Euch zur Gunst!Nicht Euren Ahnen, noch so wert,
nicht Eurem Wappen, Speer noch Schwert,dass Ihr ein Dichter seid,ein Meister Euch gefreit,dem dankt Ihr heut' Eu'r höchstes Glück.Drum, denkt mit Dank Ihr d'ran zurück,wie kann die Kunst wohl unwert sein,die solche Preise schliesset ein?Dass uns're Meister sie gepflegt,grad' recht nach ihrer Art,nach ihrem Sinne treu gehegt,das hat sie echt bewahrt.Blieb sie nicht adlig wie zur Zeit,wo Höf' und Fürsten sie geweiht,im Drang der schlimmen Jahr'blieb sie doch deutsch und wahr;und wär' sie anders nicht geglückt,als wie, wo alles drängt und drückt,Ihr seht, wie hoch sie blieb in Ehr'!Was wollt Ihr von den Meistern mehr?
Habt acht! Uns dräuen üble Streich'!Zerfällt erst deutsches Volk und Reich,
in falscher welscher Majestät kein Fürst bald mehr sein Volk versteht;
und welschen Dunst mit welschem Tand sie pflanzen uns in deutsches Land.

Was deutsch und echt, wüsst' keiner mehr, lebt's nicht in deutscher Meister Ehr'.Drum sag' ich Euch:ehrt Eure deutschen Meister,dann bannt Ihr gute Geister!Und gebt Ihr ihrem Wirken Gunst, zerging' in Dunst das Heil'ge Röm'sche Reich,uns bliebe gleich die heil'ge deutsche Kunst!                       

 Während des Schlussgesangs nimmt Eva den Kranz von Walthers Stirn und drückt ihn Sachs auf; dieser nimmt die Kette aus Pogners Hand und hängt sie Walther um dem Sachs das Paar umarmt, bleiben Walther und Eva zu beiden Seiten an Sachs' Schultern gestützt; Pogner lässt sich, wie huldigend, auf ein Knie vor Sachs nieder. Die Meistersinger deuten auf Sachs als auf ihr Haupt.

(ALLE)
 Ehrt Eure deutschen Meister,dann bannt Ihr gute Geister!Und gebt Ihr ihrem Wirken Gunst,zerging' in Dunst das Heil'ge Röm'sche Reich,uns bliebe gleich
die heil'ge deutsche Kunst!Das Volk schwenkt begeistert Hüte und Tücher; die Lehrbuben tanzen und schlagen jauchzend in die Hände.

(VOLK)

Heil Sachs! Nürnbergs teurem Sachs!

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(ザックス)

<ヴァルターのもとへ歩み寄り、心を込めて彼の手をとる>

名匠たちをさげすまず、
彼らの芸術を讃えるのです!
世に高く評価される彼らの芸術は、
あなたにも豊かな恵みを与えたのですから!
あなたの出自がいかに高かろうとも、
その出自や紋章、槍や剣のおかげでしょうか・・・
今日、あなたが詩人として、
ひとりの名匠の祝福を受け、
最高の幸せを手にしたことは・・・。
感謝の気持ちで、もう一度考え直してください。
こんなにも高い評価を受けてきた芸術が、
どうして無価値なはずがありましょうか?
我らの先人たちが、大切に守ってきたことがあります。
それは、まさに芸術の作法に正しく従い、
芸術の意義を片時たりとも忘れず、
純粋なままに保つことでした。

その甲斐あって、宮廷や領主が保護していた時代の高貴さは失われてしまいましたが、
悪しき年月の圧迫を受けても、
この芸術は、ドイツ的かつ真実であり続けたのです。
四方からの脅威を受けつつも、
繁栄をことほぎ、
至上の栄誉に包まれてきたのです。
このうえ、名匠たちに何を望むというのでしょう?
気をつけなさい!今こそ不吉な事態が迫っています!
もしドイツの民衆と国とが滅んでしまえば、
まやかしの異国の支配の下で、
領主の誰一人として、民衆を理解しなくなります・・・
そして、異国の無価値ながらくたを、
我らがドイツの国土に植えつけようとします。
ドイツの名匠の栄誉のうちに芸術が生き続けなければ、
ドイツ的な純粋なものを知る人は、一人もいなくなるでしょう。ですから、私はあなたに、こう告げるのです・・・。
『ドイツの名匠たちを讃えるのです!
そうすれば善なる精神を心にとどめられるのですから!
名匠たちの仕事を愛し続けるならば、
たとえ、まやかしの雲に覆われて、
神聖ローマ帝国が滅びても、
ドイツの芸術は決して滅びません。
聖なるドイツの芸術は!』

 

これを聴いたマイスターやら聴衆達は皆感激して合唱するのでした。

(すべての人々)
『ドイツの名匠たちを讃えるのです!
そうすれば善なる精神を心にとどめられるのですから!
名匠たちの仕事を愛し続けるならば、
たとえ、まやかしの雲に覆われて、
神聖ローマ帝国が滅びても                           ドイツの芸術は決して滅びません。
聖なるドイツの芸術は!』

(民衆)                                    万歳!ザックス!ニュルンベルクの誇り、ザックス!

 

 この最後のザックス(やや疲れたのか声に張りが無く少しよわくなった気はしましたが)がヴァルターを高らかに説得する歌声の何と高尚なことか!芸術は、先人たちの不断の努力によって営々と培われてきたもので、彼らが信念をもって毅然とした態度で守り抜いてきたからこそ今にとどめる所以なのです。それが無ければ、国家存亡の一朝有事の際には誰も民衆を理解しなくなり、民衆も国も倒れ異国の手に落ちてしまう。たとえ神聖ローマ帝国が滅びようと、聖なるこの国の芸術は生き延びるというのです。

 これはワーグナーが『ニュルンベルグのマイスタージンガー』を初稿から初演まで、20年にもわたって手直して最後に到達した芸術に関する境地なのでしょう。

 ワーグナーの芸術に関しては歴史的にも毀誉褒貶、様々に物議を醸し出してきました。このことに関しては今回は時間の制約もあり、出来れば後日論じたいと思います。

 ただここでもすぐ分かることは、第三幕1場でザックスが歌うアリアの中に、

  ❝狂気だ!狂気!どこもかしこも狂気だ!私は世界の歴史を紐解いて、その理由を見つけようとする。どうして人は流血の惨事に至ってまでも、互いに苦しめ合おうとするのだろう・・・。どうして無意味な熱狂に駆られるのだろう!?どんな報いがある?誰が感謝する?敗けているくせに、勝ったとうぬぼれている者どもには、自分の苦痛の叫びさえ耳に入らない。自分の肉を掘り返して、それをまるで楽しいことのように思っているのだ。なんとも名状しがたいことだ・・・(中略)❞

 という箇所は、ザックスを通したワーグナーの考えの表れで、後世ヒットラーはこれを知らなかったのでしょうか?

 

 最後は、ヴァルターが、マイスターの称号を受けてめでたしめでたしの幕切れかとばかり誰でも思っていたでしょう。ところがびっくりの幕切れが起きたのです。種あかしは今はやめましょう。見てのお楽しみ。後日書きます。

 今日の公演は、当初ザックス役トーマス・ヨハネス・マイヤーは、第一幕での立ち上がり、エンジンがかからないのか、期待を満足するものではなく、ヴァルター役シュテファン・フィンケも同様でした。しかし二人共歌がすすむと、さすがと思える歌声になり、いい響きの声をはりあげていました。またベックメーサー役のアドリアン・エレートは、声に強さがある素晴らしい歌唱力を有している様に思いました(ただ役柄、歌を中断されたり妨害されたり、周りからコケにされたり、十分その歌を聴衆に理解してもらう場面が少ないのは役得の反対、役損でしょうか)。演技力も大したものでした。笑えました。エーファの父親ボーグナー役ギド・イェンティンスの歌う場面は多くないですが、よく響くいい声のバスでした。 

 こうしたドイツ歌手の力量に臆せず、真っ向から戦って善戦したのがダーヴィット役伊藤さん、エーファ役林さん、その活躍は、たいしたものでした。青山さんや妻屋さんも底力を発揮、総じて(合唱も含めて)日本人歌手の健闘が目立ちました。