【公演日程】
2022年12月 6日(火)18:30
2022年12月 8日(木)14:00
2022年12月10日(土)14:00
2022年12月11日(日)14:00
2022年12月 6日(火)18:30
(主催者言)
タイトルロールの稀代の色男ドン・ジョヴァンニにはイタリアの実力派シモーネ・アルベルギーニ。
彼に誘惑されるドンナ・アンナに豊かな美声でメトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラなど著名劇場を席巻するミルト・パパタナシュ。
ドン・ジョヴァンニの昔の恋人ドンナ・エルヴィーラにウィーン国立歌劇場や英国ロイヤルオペラで活躍するメゾのスター、セレーナ・マルフィ。
ドン・ジョヴァンニの従者レポレッロにモーツァルトやバロックで活躍するレナート・ドルチーニ。
アンナの婚約者ドン・オッターヴィオには多彩なレパートリーを持つテノールのレオナルド・コルテッラッツィ。
そして騎士長に野鉄平、農夫マゼットに近藤 圭、その恋人ツェルリーナに石橋栄実河と、まさに贅沢な顔合わせとなった。
【演目】ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』ーーDon Giovanni / Wolfgang Amadeus Mozart
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
【上演時間】約3時間20分(休憩含む)
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団イ
【指揮】パオロ・オルミ
【合唱】新国立劇場合唱団
【合唱指揮】三澤洋史
【演出】グリシャ・アサガロフ
【再演演出】澤田康子
【美術・衣裳】ルイジ・ペーレゴ
【照明】マーティン・ゲプハルト
【舞台監督】斉藤美穂
【キャスト】
<ドン・ジョヴァンニ>シモーネ・アルベルギーニ
<騎士長>河野鉄平
<レポレッロ>レナート・ドルチーニ<>
<ドンナ・アンナ>ミルト・パパタナシュ
<ドン・オッターヴィオ>レオナルド・コルテッラッツィ
<ドンナ・エルヴィーラ>セレーナ・マルフィ
<マゼット>近藤 圭
<ツェルリーナ>石橋栄実
<Profile>
【ドン・ジョヴァンニ】シモーネ・アルベルギーニ(バス・バリトン) (Simone ALBERGHINI)
ボローニャ生まれ。1993年トリノ王立歌劇場でデビュー後、イタリア内外の歌劇場に出演。ロッシーニ・オペラ・フェスティバルには『オテロ』『タンクレディ』『泥棒かささぎ』『ギヨーム・テル』など数多く出演。グラインドボーン音楽祭、ローマ歌劇場、マチェラータ音楽祭、ナポリ・サンカルロ歌劇場、ワシントン・オペラなどに出演を重ね、2010年にはウィーン国立歌劇場『フィガロの結婚』アルマヴィーヴァ伯爵、フェニーチェ歌劇場『ドン・ジョヴァンニ』 タイトルロール、トリノ王立歌劇場『蝶々夫人』シャープレスに出演した。これまでにボローニャ歌劇場、バルセロナ・リセウ大劇場、トリノ王立歌劇場、チューリヒ歌劇場などで『フィガロの結婚』アルマヴィーヴァ伯爵、『ラ・ボエーム』マルチェッロ、『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール、『カルメン』エスカミーリョなどに出演している。最近ではテネリフェ・オペラ『ドン・カルロ』ロドリーゴ、ボローニャ歌劇場『シモン・ボッカネグラ』パオロ・アルビアーニ、トリノ王立歌劇場、パレルモ・マッシモ劇場『フィガロの結婚』アルマヴィーヴァ伯爵、ナポリ・サンカルロ歌劇場『ラ・ボエーム』マルチェッロ、ボローニャ歌劇場『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール、フェニーチェ歌劇場『アルジェのイタリア女』ムスタファ、『椿姫』ジェルモンなどに出演している。新国立劇場初登場。
【騎士長】河野鉄平(バス)(KONO Teppei)
クリーブランド音楽院大学卒業、同大学院修了。2003年サンフランシスコオペラ・メローラオペラプログラム参加。同年『フィガロの結婚』フィガロでオペラデビュー。06年、シカゴ芸術大学ディプロマコース及びシカゴ・オペラ・シアター研修プログラム修了。同年シンガポールでも『フィガロの結婚』に出演。アメリカで23年間過ごし、帰国後は17年小澤征爾音楽塾『カルメン』スニガ、18年セイジ・オザワ松本フェスティバル『ジャンニ・スキッキ』ベットなどで好評を博す。これまでに『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール/騎士長、『カルメン』エスカミーリョ、『ドン・カルロ』フィリッポ二世、『シモン・ボッカネグラ』フィエスコ、『アイーダ』ランフィス、『ファウスト 』(ハイライト)メフィストフェレス、『エウゲニ・オネーギン 』グレーミン公爵などに出演。21年には二期会『タンホイザー』ラインマル、『魔笛』弁者、武士2に出演。新国立劇場では20年『夏の夜の夢』パック(台詞役)に出演したほか、22年『さまよえるオランダ人』オランダ人に出演し称賛を集めた。22年4月『魔笛』ザラストロ、7月『ペレアスとメリザンド』医師にも出演した。二期会会員。
【レポレッロ】レナート・ドルチーニ(バリトン) (Renato DOLCINI)
ミラノ生まれ。2015年にウィリアム・クリスティの "声の庭"第7期に選抜され、ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、オーストラリア、アジアツアーに参加。これまでにヴェネツィア・フェニーチェ歌劇場制作のカルダーラ作曲『ダフネ』、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オール・モンテヴェルディ・プログラム、ロワイモヨン修道院での『フィガロの結婚』フィガロ、ミラノとフィレンツェで『ドン・ジョヴァンニ』レポレッロ、ヴェルサイユ歌劇場、ボルドー歌劇場でロッシ作曲『オルフェオ』サティーロ、ナント歌劇場『ポッペアの戴冠』オットーネ、クリスティ指揮レザール・フロリサン『ディドとエネアス』のアメリカツアーに出演するなど、特にバロック作品やモーツァルトで活躍。最近では、ザルツブルク音楽祭のクリスティ指揮『ポッペアの戴冠』セネカ、フランス・ペリグーで『コジ・ファン・トゥッテ』グリエルモ、レザール・フロリサンの『ヨハネ受難曲』パリ公演及びヨーロッパツアー、イスラエル・オペラ『コジ・ファン・トゥッテ』グリエルモ、ミラノ・スカラ座『ジュリオ・チェーザレ』ニレーノ、ジュネーヴ大劇場『優雅なインドの人々』ベローヌ/オスマン/アダリオ、ハンブルク州立歌劇場『オレステ』トアンテ、ウェールズ・ナショナル・オペラ『アリオダンテ』スコットランド王などに出演している。新国立劇場初登場。
【ドンナ・アンナ】ミルト・パパタナシュ(ソプラノ) (Myrtò PAPATANASIU)
ギリシャ出身。豊かな声と輝かしい存在感をもち、2007 年にローマ歌劇場へ『椿姫』ヴィオレッタでデビューを飾って以降、世界で最も評価の高いリリック・ソプラノのひとりとして活躍。18/19シーズンにはウィーン国立歌劇場『ドン・ジョヴァンニ』ドンナ・アンナ、チューリヒ歌劇場『偽の女庭師』アルミンダ、ギリシャ国立歌劇場『マノン』に出演。メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、バイエルン州立歌劇場、チューリヒ歌劇場、アン・デア・ウィーン劇場、パリ・オペラ座、モネ劇場、モンテカルロ歌劇場、ローマ歌劇場、オランダ国立オペラなど世界各地の劇場に出演を重ねる。最近の出演に、ジュネーヴ大劇場、英国ロイヤルオペラ『ドン・ジョヴァンニ』ドンナ・アンナ、ギリシャ国立歌劇場『ロメオとジュリエット』、『ラ・ボエーム』ミミ、アン・デア・ウィーン劇場のヘンデル『シピオーネ』ベレニーチェ、ナポリ・サンカルロ歌劇場、モンペリエ歌劇場、フランダース・オペラ、ルクセンブルク歌劇場『シモン・ボッカネグラ』アメーリアなどがある。新国立劇場では『フィガロの結婚』伯爵夫人、『椿姫』ヴィオレッタに出演している。
【ドン・オッターヴィオ】レオナルド・コルテッラッツィ(テノール) (Leonardo CORTELLAZZI)
マントヴァ出身。経済学部を卒業する傍ら声楽を学び、2007年からミラノ・スカラ座アカデミーに参加。その後スカラ座で『劇場の都合、不都合』グリエルモ、『なりゆき泥棒』アルベルト、『ドン・パスクワーレ』エルネスト、モンテヴェルディ三部作のテレマコ/ネローネ、『時と悟りの勝利』時に出演。さらに、18年にはクルターグ作曲『勝負の終わり』(世界初演)ネッグに出演、同作品のオランダ国立オペラ、ブダペスト春の音楽祭、パリ・オペラ座の再演にも出演している。モンテヴェルディからモーツァルト、ベルカント、ヴェルディ、20世紀、現代作品まで多彩な役をレパートリーに、ヴェネツィア・フェニーチェ歌劇場、フィレンツェ歌劇場、ヴェローナ野外音楽祭、ナポリ・サンカルロ歌劇場、ボローニャ歌劇場などに、『ドン・ジョヴァンニ』ドン・オッターヴィオ、『魔笛』タミーノ、『愛の妙薬』ネモリーノ、『ディドとエネアス』エネアス、『椿姫』アルフレード、『ファルスタッフ』フェントンなどの役で出演。最近ではフェニーチェ歌劇場『愛の妙薬』ネモリーノ、『リナルド』ゴッフレード、パリ・オペラ座『勝負の終わり』などに出演している。新国立劇場初登場。
【ドンナ・エルヴィーラ】セレーナ・マルフィ(メゾソプラノ) (Serena MALFI)
イタリアのメゾソプラノ。サンタ・チェチーリア音楽院で学び、2009年にスイス・ヴィンタートゥール音楽祭でサリエリ作曲『トロフォーニオの洞窟』でデビュー。以来チューリヒ歌劇場、フィレンツェ歌劇場、ローマ歌劇場、マドリード・テアトロ・レアル、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、英国ロイヤルオペラ、バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場などへ出演。キャリア初期から歌っている『チェネレントラ』アンジェリーナは、バレンシア・ソフィア王妃芸術宮殿、パリ・オペラ座、ウィーン国立歌劇場、ナポリ・サンカルロ歌劇場、ローザンヌ歌劇場、ローマ歌劇場などで出演。テアトロ・レアルに『皇帝ティートの慈悲』アンニオでデビューし、同役でウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場に出演。『フィガロの結婚』ケルビーノはウィーン国立歌劇場でロールデビュー後、テアトロ・コロン、マスカット・ロイヤルオペラ、メトロポリタン歌劇場で出演。重要なレパートリーに10/11シーズンにチューリヒ歌劇場デビューを飾った『セビリアの理髪師』ロジーナがあり、同役は英国ロイヤルオペラ、テアトロ・レアル、カナディアン・オペラ・カンパニーでも歌っている。ミラノ・スカラ座には『コジ・ファン・トゥッテ』でデビュー。ザクセン州立歌劇場『アルチーナ』ルッジェーロ、メトロポリタン歌劇場『ドン・ジョヴァンニ』などに出演。新国立劇場初登場。
【マゼット】近藤 圭(バリトン) (KONDO Kei)
国立音楽大学卒業。同大学院を首席で修了。新国立劇場オペラ研修所第9期修了。ロームミュージックファンデーション奨学生として、ドイツ・ハンブルクに留学。沼尻竜典指揮トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ定期公演で『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール、『フィガロの結婚』伯爵役で2年連続出演。小澤征爾指揮『子供と魔法』時計、東京二期会『ナクソス島のアリアドネ』ハレルキン、日生劇場『リア』フランス国王、『ラ・ボエーム』ショナール、グランドオペラ共同制作『カルメン』モラレスなどに出演。2019年は東京芸術劇場『ドン・ジョヴァンニ』マゼット、小澤征爾音楽塾『カルメン』ダンカイロに出演している。新国立劇場には16年『魔笛』パパゲーノに急遽出演して本格的にデビューし、20年『夏の夜の夢』ディミートリアス、高校生のためのオペラ鑑賞教室2020(ロームシアター京都公演)『魔笛』パパゲーノに出演している。22年4月『魔笛』パパゲーノにも出演した。二期会会員。
【ツェルリーナ】石橋栄実(ソプラノ) (ISHIBASHI Emi)
大阪音楽大学専攻科修了。咲くやこの花賞、大阪舞台芸術奨励賞、音楽クリティッククラブ奨励賞、坂井時忠音楽賞を受賞。98年ドイツ・ケムニッツ市立劇場『ヘンゼルとグレーテル』グレーテルで招聘出演。以来『イドメネオ』イーリア、『フィガロの結婚』スザンナ、『魔笛』パミーナ、『愛の妙薬』アディーナ、『ランスへの旅』コルテーゼ夫人、『ファルスタッフ』ナンネッタ、『こうもり』アデーレ、『欲望という名の電車』ステラ、モノオペラ『声』ほか出演多数。新国立劇場では05年地域招聘公演『沈黙』及び12・15年『沈黙』オハル、13・14年高校生のためのオペラ鑑賞教室・関西公演『夕鶴』つう、16年『ラ・ボエーム』ムゼッタ、18年『フィデリオ』マルツェリーネ、21年『カルメン』(高校生のためのオペラ鑑賞教室公演、びわ湖ホール公演)ミカエラに出演。オハル役で出演した大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウス『沈黙』公演は文化庁芸術祭大賞、大阪文化祭賞グランプリほかを受賞。大阪音楽大学教授。
【粗筋】
《第1幕》
従者レポレッロを引き連れ、夜な夜な女性の家へ忍び込む、稀代の色男ドン・ジョヴァンニ。今宵はドンナ・アンナの部屋へ行くが、彼女の父親である騎士長に見つかって決闘となり騎士長を刺し殺してしまう。アンナは婚約者ドン・オッターヴィオに、犯人を探して復讐してほしいと求める。
ジョヴァンニは通りすがりの女性に声をかけるが、それは昔の女ドンナ・エルヴィーラ。彼女はジョヴァンニに捨てられてもまだ彼を愛し、彼を探していたのだ。ジョヴァンニは大慌てで逃げる。後を託されたレポレッロは彼女に、ジョヴァンニはヨーロッパじゅうの2000人もの女性と関係しているのだから諦めるよう諭す。
村で農夫マゼットと村娘ツェルリーナの結婚式が始まろうというとき、ジョヴァンニが現れて花嫁を誘惑するが、すんでのところでエルヴィーラが止める。アンナは犯人探しの協力をジョヴァンニに求めるが、話すうち彼こそ犯人だと気づく。村人たちを招いてパーティを開くジョヴァンニは上機嫌。そんな彼をアンナたちは追及する。
《第2幕》
ジョヴァンニはレポレッロと服を交換して変装し、エルヴィーラの小間使いを誘惑。マゼットと農民たちはジョヴァンニを殺そうとやってくるが、ジョヴァンニ扮するレポレッロに計画を話してしまい、逆に痛めつけられる。彼の服を着たレポレッロは命からがら逃げてきて、ジョヴァンニと落ち合う。すると、騎士長の墓の石像が、戒めの言葉を喋り出す。驚く2人だが、ジョヴァンニは臆せず石像を晩餐に招待する。夜、彼の家に本当に石像がやってきた。石像はジョヴァンニに悔い改めるよう迫るが、彼は拒否。石像はジョヴァンニの手を取って炎の中へ引きずり込み、地獄へと落ちるのだった。
【上演の模様】
〇第一幕
スペインの貴族ドン・ジョヴァンニが、手当たり次第に女性を誘惑することはヨーロッパ中に知れ渡っていたのです。彼の従者であるレポレッロは、不本意ながら、主人の悪行の間見張りを務めている。今夜のお相手はドンナ・アンナ。
ヴェネツィア風のゴンドラに乗った二人が、ある屋敷に乗り付け、従者を残して一人のマント姿・目隠し姿の男が、船着きの階段を速足で登って行き、館の中に消えました。これがドン・ジョバンニ、希代の遊び人騎士です。遊びとは女遊び、そこには何らモラルも恥も良心の疼きも何も働かない一種化け物です。
ドン・ジョヴァンニが家を去ろうとしたとき、運悪く彼女の父親である騎士長に見つかってしまい、決闘と相成りました。そして戦った末ドン・ジョヴァンニは騎士長を刺し殺してしまうのです。
ドンナ・アンナは、駆けつけた婚約者ドン・オッターヴィオに、見知らぬ男に犯されたと告げました。本来ジョバンニとは既知の関係ですが、彼がマスクを着けていて彼女を急襲したため、誰であるかが分からなかったアンナなのです。父の死を嘆き悲しむドンナ・アンナと慰める許婚者ドン・オッターヴィオの気持ちは、復讐へと向かうのです(二重唱「ああ、なんという痛ましい光景が」)。
❝ Nr. 2 – Duetto
DONNA ANNA
disperatamente Fuggi, crudele, fuggi! Lascia che mora anchi'io Ora che è morto, oh Dio! Chi a me la vita die'!
DON OTTAVIO
Senti, cor mio, deh! senti; Guardami un solo istante! Ti parla il caro amante,
Che vive sol per te.
DONNA ANNA
Tu sei!… perdon, mio bene -L'affanno mio, le pene…Ah! il padre mio dov'è?
DON OTTAVIO
Il padre? Lascia, o cara,la rimembranza amara.Hai sposo e padre in me
DONNA ANNA
Ah! il padre, il padre mio dov'è?
DON OTTAVIO
Lascia, o cara,la rimembranza amara.Hai sposo e padre Hai sposo e padre in me
DONNA ANNA
Ah! Vendicar, se il puoi,Giura quel sangue ognor!
DON OTTAVIO
Lo giuro, lo guiro Lo giuro agli occhi tuoi, Lo giuro al nostro amor!
A DUE
Che giuramento, o dei! Che barbaro momento!Fra cento affetti e cento Vammi ondeggiando il cor. Fra cento affetti e cento Vammi ondeggiando il cor.
❞
「No.2 二重唱
ドンナ・アンナ
(絶望的に)あぁその手を放して!触らないで、もうこの上は 私も死ぬわ
ドン・オッターヴィオ
まあ落ち着いて、私を見るのだ。誰にもまさり愛するものを。
ドンナ・アンナ
お許しを、優しいお方、済みませぬ。父はどこに?
ドン・オッターヴィオ
父上? まず今は このわたくしが、父上に代わり。
ドンナ・アンナ
あぁ、父は、父はどこに?
ドン・オッターヴィオ
まず今は心静かに。今は私が父上に代わり。
ドンナ・アンナ
あぁこの仇は必ず討って!
ドン・オッターヴィオ
刀に、懸けて
神の御前(みまえ)に、かたき誓いを。
ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ
地の底深く、身を隠すとも、必ず仇を 探し出して、今宵の恨みを必ずいつか。 ドンナ・アンナ
仇を討つと誓いを!
ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ
地の底深く、身を隠すとも、必ず仇を探し出して、今宵の仇、必ずいつか。」
ここで歌ったドンナ・アンナ役のミルト・パパタナッシュは、その第一声からして本格的な歌い込まれたソプラノであることが分かる安定した歌唱を示し、歌い初めであるせいか大声量ではないけれども、ホールにまずまず十分に響く歌声を披露していました。そして歌うごとにジョバンニに対する敵愾心が募り、復讐への怨念が膨らんで来る様子をまざまざと見せ付けていました。一方ドン・オッターヴィオ役のレオナルド・コルテッラッツィはこれまたテノールの常道を行く軽妙ないい歌声で、許婚者ドンナ・アンナの嘆きと復讐の叫びをやさしく受け止め、また決然と仇討ちの決意を高らかに歌い上げていました。二人の重唱は会場の最初の万雷の拍手を受け、聴いていて満足な歌唱でした。(会場はまだ夜早い時間帯なのか座席には空席も散見されましたが、終演の頃には座席は一杯の観客で埋まりました)
遂に殺人を犯し、逃げのびた主人に、従者レポレロは生き方を改めるよう進言するのですが、当のドン・ジョヴァンニには反省するどころか、新たに女の匂いを嗅ぎつけ近寄って行くのです。ドンナ・エルヴィーラの登場です。「ああ、いったい誰が私に言ってくれるの?」と、自分を捨てた男(ジョバンニ)への復讐を歌うのでした。エルヴィーラ役のセレーナ・マルフィの第一声は力の籠った鋭いソプラノで、大会場に大きく響く声量を有し、これまた大きな拍手を浴びていました。少し気になったのは最高音を出す時、将に声を張り上げると言った感じで、自然の発声感ではなかったことです(彼女は本来メゾソプラノの様です)。でもくやしい気持ちをジョバンニにぶつけるには十分な歌声でした。
彼女に近づいたところで、探されているのが自分だと気づいたドン・ジョヴァンニは、一目散に逃げ出してしまうのです。後を追おうとするエルヴィーラに、レポレロはカタログの歌「奥様、これが目録です」と歌って、主人の放蕩ぶりを伝えるのでした。「第1幕 第2場」で、レポレッロ役(バス)によって歌われるアリアです。レポレッロ役のレナード・ドルチーニの歌はここまでレシタティヴォ的にジョヴァンニの相方として歌っていますが、まとまったアリアはここが有名。
何とあちこちの国でナンパし、千人切りもしたんですって!よくもそんなことが続けられたものです。中には犯罪じみた時も多かったのではないでしょうか?当局(当時は一体騎士(貴族階級)の犯罪取り締まりは皆無だったのですか?貴族階級はし放題の時代だったのでしょうか?)は性犯罪を見逃していたのかも知れません。モーツァルトはそのようなダポンテの書いた話をよくもオペラ化したものです。とこの段階では思ったものの、最後まで聴くとさにあらずという事が分かります。
場面変わって、ツェルリーナとマゼットの結婚式が行われているところに姿を現したドン・ジョヴァンニ。今度は花嫁ツェルリーナに狙いをつけます。おてんばな娘ツェルリーナもドン・ジョヴァンニの口巧みな誘惑にかかり、一旦はその気になって歌う(二重唱「あそこで手に手を取り合い」)場面が大きな観どころ聴き処でした。(原語歌詞省略)
❝ドン・ジョヴァンニ
かわいいお手をさぁ私に、手を携えてさぁ早くゆこう。
ツェルリーナ
本当なのかしら、あたしわからない、少しこわいわ、大丈夫かしら。
ドン・ジョヴァンニ
さあ早くゆこうよ。
ツェルリーナ
でもあの人が。
ドン・ジョヴァンニ
何も言わないで。
ツェルリーナ
あぁ、もうだめだわ、もうとても断れないわ
ドン・ジョヴァンニ
さぁ行こう、かわいいお手を。❞
この歌は有名過ぎて知らない人はいないのではないかと思われる程です。ツェルリーナ役の石橋さんの歌は初めて聞きましたが、こんなに適役なソプラノがいたのかと思う程、ソフトでチャーミングな歌い振りを披露していました。ソフト過ぎてお転婆な感じは全然しませんでしたが。
又相方のジョヴァンニ役アルベルギーニは、ここまでかなり歌ってエンジンがかかってきている様子、タイトルロールとしての歌い振りは、十分な職責を果たしていました。どちらかというと乾質系のバリトンで、声量も十分な相当の働き盛りの歌声を張り上げていました。彼の歌にも大きな拍手でした。
しかし、あわやというところでエルヴィーラが「去っておしまい、裏切り者!」と歌いながら割って入りるのです。すんでの所で、毒夫の餌食となるところから逃れたツェルリーナですが、結婚式を途中で取りやめてジョバンニに付いて来た行為は、婿殿マゼッタの誤解を解くのに後ほど苦労するのでした。それにしてもそんなに口上手く女性を丸め込めるジョヴァンニは特殊な才能があったのでしょうか?不器用、堅物で全然もてない自分など想像を絶する人物です。これまでの人生でその類いの人間には会ったことも無い。時々ニュースで、出会い系を利用して女をだました殺人犯の報道を聞くぐらい。ジョバンニと較べたら「紀州のドン・ファン」なんてかわいいもの。最後は殺人事件の嫌疑が掛けられた女性もいる様ですが。 さてオペラに戻りますと、
悲しみに暮れるドンナ・アンナをドン・オッターヴィオが慰めているところに現れたドン・ジョヴァンニ。二人が殺人犯を突き止めるための協力を訴えるので、ドン・ジョヴァンニは、何食わぬ顔でドンナ・アンナに優しい言葉をかける。しかしそこに再びエルヴィーラがやって来て、ドン・ジョヴァンニを信じてはいけないと告げるのです。ここで歌われる(四重唱「信用してはいけません、不幸な御方よ」)は、アンナとオッターヴィオが(マスクをとっているので犯人と分からず)知り合いとしてそ知らぬ顔をするジョバンニに協力を求め、信用できないと歌うエルヴィーラ達の歌が錯綜して一種疑惑が膨らんだ重唱の場面でした。
形勢不利と見たドン・ジョヴァンニがその場を去ったその時、ドンナ・アンナはドン・ジョヴァンニこそ、父を殺害した犯人であることに気づくのです。(「ドン・オッターヴィオ、私、死んでしまう」)。これを聞いたドン・オッターヴィオは、愛する人の痛みと幸せを想い「彼女の心のやすらぎこそ私の願い」と次の様にアリアを歌うのでした。
❝あの人の平安に 私の平安もかかっているのだ。あの人を喜ばせることが 私に命を与え、あの人を不快にすることは 私に死をもたらす。あの人がため息をつけば、私もため息をつく、私のものなのだ その怒りは。その涙も私のものだ。そしてわたしに幸せはない 若しあの人にないならば。❞
オッターヴィオ役のコルテッラッツイの歌声は朗々と響き、切実な気持ちを心から絞り出し、安定な歌い振りで高い跳躍音もきちんと出ていたし、一幕の多くのアリアの中でも必見の場面でした。泣かせ処でもありました。ここではホルンやフルートの音もきこえました。
自分の屋敷の戻ったジョバンニ、上機嫌にシャンパンの歌「酒でみんな酔いつぶれるまで」を歌いました。かなり短い早口歌で、この歌もかなり有名な歌です。
舞台正面の大きなテーブルに並んだ食べ物、飲み物を食しながら、正面上段に並んだ楽士の奏でる調べを聞きながら、❛つまみ食いをしている❜と従者をからかいながら上機嫌で食べているドン・ジョヴァンニは、レポレッロに自分の館で開く大宴会に人々を連れて来るよう命じました。食事をとりながら、楽士に知っている曲を弾くことを求め、モーツアルトの他のオペラの曲まで鳴り出しました。当時の貴族は庶民を虫けらの様に思っていたのでしょうか?顎で使って何んともない、しかも悪行の限りを尽くしても平気の平―さ。を決め込んでいます。金と剣で抑えることが当たり前だったのでしょうか?これでは、庶民の反発も相当な筈です。実際この後の場面では、ジョヴァンニをやっつけようとする農民たち(マゼットたち)の動きが出て来ました。
宴会の場面の舞台では、ツェルリーナは先ほどのドン・ジョヴァンニのことで焼きもちをやいて怒っているマゼットを「ぶってよ、マゼット」と歌ってなだめている。しかし結婚式を台無しにされた挙句、ツェルリーナがジョバンニに連れ去られてしまっては、どう考えても彼嬢はジョバンニの餌食になったとしか考えようなく、マゼットは疑念を隠せないのでした。
ドン・ジョヴァンニの館での宴会に、仮面を付けたエルヴィーラ、ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオも復讐のためにやって来る。仮面をつけたのは当時から、舞台となったヴェネツィアの仮面舞踏会をモデルとしているのでしょう。人々の酔いと喧騒のどさくさに紛れて、ドン・ジョヴァンニはツェルリーナを別室へと連れ込むことに成功する。しかし、ツェルリーナの悲鳴によって雰囲気は一転。みんなの目に晒されたドン・ジョヴァンニは、狡猾にも、レポレロの仕業と言い逃れようとします。しかしそこで件の3人が仮面を取り「おまえの悪事は知れわたった」とドン・ジョヴァンニに詰め寄るのです。ドン・ジョヴァンニはまたまたその場を逃げ去ってしまいました。
〇第二幕
逃げのびたドン・ジョヴァンニとレポレッロはエルヴィーラの宿の前にやって来ます。“辞職”を申し出るレポレッロ、しかしドン・ジョヴァンニがお金を出すと撤回してしまう。これではジョヴァンニに読まれてしまっていますね。❛地獄の沙汰も金次第❜と。
ドン・ジョヴァンニは今度はエルヴィーラの女中が標的です。ドン・ジョヴァンニはレポレッロと服を交換し、レポレッロにエルヴィーラを誘惑させ、その隙に女中を口説こうと企んでいるのだ。首尾よくレポレッロにエルヴィーラを連れ出させたドン・ジョヴァンニは「おいで窓辺に」と、女中を誘い出すセレナーデを歌うのでした。窓の下からの恋歌。誘い歌は他のオペラでも良く出て来る場面です。うまくいったり失敗だったり様々ですが。マゼットが仲間を連れてやって来ました。武器を手に探しているのがドン・ジョヴァンニだとわかると、レポレッロになりすましたドン・ジョヴァンニは仲間に加わる振りをします。「半分はこっちに」と言葉巧みにマゼットと二人きりになったところで、ドン・ジョヴァンニはマゼットを殴り倒して逃げ去ってしまうのです。ここでも逃げるジョヴァンニ。❛逃げるが勝ち❜とは言いますが、ジョヴァンニはいつも卑怯な逃げ方なのです。騎士と言えば「騎士道」という精神的高貴さみたいなものがあった中世から下って数百年も経つと、騎士の意識も随分低くなったものですね。モーツァルト以降多くの作曲家がオペラを書き、そこには多くの騎士たちが登場しますが、❝オペラにおける騎士道❞というテーマで考えてみるのも面白いかと思います。
それはさて置き、マゼットの声を聞きつけたツェルリーナがやって来て、「自分こそが、一番の薬」と歌って婿殿マゼットを抱き寄せるツェルリーナ、彼女役の石橋さんはいささかも変わりない歌声で綺麗に歌い込んでいました。
ドン・ジョヴァンニに扮したレポレッロは、まだ気づいていないエルヴィーラからなんとか逃れようとしている。ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ、ツェルリーナとマゼットも、それぞれの思いをもってドン・ジョヴァンニを追っています(六重唱「暗い場所にたったひとり」)。このオペラでは割りと単独のアリアは多くなく、むしろ二重唱、三重唱、四重唱と重唱が多く、六重唱まで出てきました。こうなるとちょっとした小合唱、カノンやフーガ的な唱和と考えられなくもない。そう言えば大合唱が場面を先導したり後追いすることは、このオペラに関しては少ないのです。モーツァルトは合唱が嫌いな訳が有りません。他の曲、宗教関係でも多くの大合唱を取り入れていますから。
さてレポレッロとは知らず、殺してやる!と憤るマゼットに、なんと、エルヴィーラは許しを請うのです。ジョバンニだと思っている彼女の心には未だ諦めきれないほのかな恋心の残り火がくすぶっている様です。
追い詰められたレポレッロは「みなさん、どうかお許しを」と正体を明かし、ほうほうの体で逃げ去りました。ドン・オッターヴィオは「今こそ、私のいとしい人をなぐさめて」と、ドン・ジョヴァンニへの復讐を自分が遂げると歌いました。
エルヴィーラは、ドン・ジョヴァンニの酷い行いを知り、さらに重ねて裏切られたにも関わらず、ドン・ジョヴァンニへ愛を捨て切ることができない優しい(若しくは、さみしい人でした(「あの人でなしは私をあざむき」)。
再び逃げのびたドン・ジョヴァンニとレポレッロは衣裳をもとに戻しながら冗談まじりに互いの“戦果”を報告しあうのでした。するとそこに「その笑いも今夜限りだ」と荘厳な声が響く。声の主は死んだ騎士長です。騎士長役の河野さんの出番は、第一幕冒頭のジョバンニとの決闘の場面、そこで死んでしまって数年後のお墓の場面(その場面では歌わなく石像が頷くという奇跡的動きのみ)だけです。ここでも短いしかも死者としての歌声ですから、河野さんも難しい歌だったかも知れませんが、威厳のある人間離れした歌声で歌いました。恐れるレポレッロを傍らに、ドン・ジョヴァンニは騎士長を晩餐に招くという浅はかな懐柔作戦をとりました。死人を招待するのですから結果は推して測るべしです。二幕終盤になるとタイトルロールも、初日でもあり緊張していて疲れが出たのか、やや歌声に力が減衰した感じを受けたジョバンニでした。
一方、結婚を延期しようとすることをドン・オッターヴィオから責められたドンナ・アンナは、「むごい女ですって」と歌います。
晩餐会が始まりました。ジョヴァンニにとっては「最後の晩餐」ですエルヴィーラが訪れ、最後の改心を求められるドン・ジョヴァンニですが、まともに取り合いもしない。エルヴィーラが帰り、騎士長の亡霊がやって来る。「ドン・ジョヴァンニ、汝と晩餐を共にするためにわしは来た」と朗々たる声が響く。ここでは河野さんらしさが少しは出ていた歌声だと思いました。そして、ドン・ジョヴァンニは最後の悔悛を求められるも、断固として断るのでした。「悔いよ」と声がするたびに、ドン・ジョヴァンニは苦しみに身もだえ、最後は叫び声をあげる程です。
音楽が一転し、ドン・ジョヴァンニ以外の6人が「悪人の最後はこのとおり」と歌い、舞台の落とし穴が開いたのでしょう。舞台下に急に沈みいなくなったジョヴァンニ、何と最後の場面では生き延びて又悪事をしてやろうといういつもの逃げの考えが浮かばなかったのでしょう。拒めば地獄に落ちると推察出来ていたとは思いますが、何故それを逃避しなかったか?これは自分んの考えですが、逃避しなかったのではなく「逃避できなかった」のでしょう。それが死者を通して貫徹された神の意志なのですから、拒みたくても拒めない。口を含め体が思い通りに動かなかったのでしょう、きっと。
このオペラを最後まで見ると結局、ダ・ポンテもモーツアルトも勧善懲悪の勧めとも思えるストーリーと音楽による大キャンペーンを張ったとも言えないでもないと思いました。でもモーツァルトらしさに満ちたメロディの歌満載のオペラをいい歌手陣の仕事ぶりで聴けたことは大満足の一言でした。