HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

ホールオペラ速報『La traviata』at サントリーH

《One Word 速報》

~主役三本柱が、凄い歌い振り!!~

⚪ズザンナ・マルコヴァ(ヴィオレッタ)

快調!特に広い声域どこでも素晴らしい。

⚪フランチェスコ・デムーロ(アルフレッド)

油の乗ったテノール!特に第二幕3場の最後の最高音もハイレベルで長く伸ばして歌い凄い迫力。

⚪アルトゥール・ルチンスキー(ジェルモン)

舞台を引き締めた大きな低音の響き、高音もズッシリ!この様な存在感の凄いジェルモンは久し振り。

  詳細は、【上演の模様】に記します。

 

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 表記のオペラは狭いサントリーホールで上演するというので、最初演奏会形式かなと思ったのですが、どうも演技の舞台を設置して純オペラとして行うらしいのです。いつも器楽演奏かオペラ以外の歌のコンサートしか聞いたことないので興味半分で、また演目が「椿姫」というので、これは大興味をもって聴きに行くことにしました。

【日時】2021.10.7(木).18:30~

【会場】サントリーホール

【管弦楽】東京交響楽団

【指揮】ニコラ・ルイゾティ

【合唱】サントリーホール・アカデミー&新国立合唱団

【合唱指揮】

【演出】田口道子

【曲目】
ヴェルディ『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』

全三幕/イタリア語上演・日本語字幕付)
Giuseppe Verdi: La traviata

 (Opera in 3 Acts / Sung in Italian with Japanese surtitles)

【出演】

ヴィオレッタ:ズザンナ・マルコヴァ
アルフレッド:フランチェスコ・デムーロ
ジェルモン:アルトゥール・ルチンスキー
フローラ:林眞暎
アンニーナ:三戸はるな
ガストン子爵:高柳圭(代役)
ドゥフォール男爵:宮城島康
ドビニー侯爵:的場正剛
医師グランヴィル:五島真澄

【主出演他略歴】

ヴィオレッタ:ズザンナ・マルコヴァ(ソプラノ)

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チェコ、プラハ生まれのコロラトゥーラ・ソプラノ。プラハ音楽院で声楽、ピアノ、指揮を学んだ後、ボローニャのオペラ研修所で研鑽を積む。2003年頃からチェコの声楽コンクールで優勝するなど頭角を現し始め、16歳で早くもチェコのモラヴィア・シレジア国立劇場にソリストとしてデビュー。その後、チューリヒ歌劇場、ボリショイ歌劇場、パレルモ・マッシモ歌劇場、メトロポリタン歌劇場、マルセイユ歌劇場、ボローニャ市立劇場などにプリマドンナとして登場。今、世界中の歌劇場で引っ張りだこのディーヴァである。ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』、ベッリーニ『清教徒』、『夢遊病の女』などベルカント・オペラを得意としているが、なかでも『ラ・トラヴィアータ』のヴィオレッタは「当たり役」として各地で高い評価を得ている。また、シャリーノ『アスペルン』、ヘンツェ『若い恋人たちへのエレジー』、トマス・アデスの室内オペラ『パウダー・ハー・フェイス』、マルコ・トゥティーノ『Senso』などの現代オペラのプロダクションにも起用されている。

 

アルフレッド:フランチェスコ・デムーロ(テノール)

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イタリアのサルデーニャ島出身。2007年、パルマでの『ルイザ・ミラー』のオペラデビューで、評論家、聴衆から熱狂的な称賛を受け、国内外の歌劇場でのキャリアをスタート。パヴァロッティを彷彿とさせる、イタリア的ブリリアントな声とその情熱的な歌唱で、とりわけ『リゴレット』『シモン・ボッカネグラ』『愛の妙薬』『ラ・ボエーム』などヴェルディ、プッチーニを中心としたレパートリーには定評がある。その活躍は、アレーナ・ディ・ヴェローナ、ロイヤル・オペラ・ハウス、ベルリン国立歌劇場、メトロポリタン・オペラ、オペラ・バスティーユ、ウィーン国立歌劇場、テアトロ・レアルなど世界中にわたっている。サントリーホールでは、10年ホール・オペラ®『コジ・ファン・トゥッテ』フェルランド役で大成功を収め、11年「オペラ・ガラ」、13年には東日本大震災追悼公演ヴェルディ『レクイエム』に出演。

 

ジェルモン:アルトゥール・ルチンスキー(バリトン)

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ポーランド、ワルシャワ出身。2002年ポーランド国立歌劇場の『エフゲニー・オネーギン』タイトルロールでのデビューが、ゲルギエフの目にとまる。その後、10年にバレンボイムの招きでのベルリン国立歌劇場デビューをきっかけに、ブレゲンツ音楽祭、ハンブルク州立歌劇場、アレーナ・ディ・ヴェローナなど世界中の名だたる歌劇場や音楽祭が次々とオファー。12年にはイギリス、アメリカでもデビュー。14年には、フェニーチェ歌劇場、ペトレンコとのバイエルン州立歌劇場でのプロダクション、ロイヤル・オペラ・ハウス、ザルツブルク音楽祭、そしてミラノ・スカラ座デビューと続いた。最近では、オペラ・バスティーユでの『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロール、メトロポリタン・オペラでの『蝶々夫人』シャープレス役、16/17シーズンの新国立歌劇場での『ランメルモールのルチア』エンリーコ役が記憶に新しい。オペラのスケジュールをぬって、ヘンデル『メサイア』、ペンデレツキ『ルカ受難曲』などコンサートへも頻繁に出演している。

 

指揮:ニコラ・ルイゾッティ

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イタリア、ヴィアレッジョ出身。イタリア音楽を色濃く表現できる指揮者として、特にヴェルディとプッチーニの指揮には定評があり、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、ボローニャ歌劇場、メトロポリタン・オペラ、バイエルン州立歌劇場など世界中の歌劇場で高い評価を受けている。特にサンフランシスコ・オペラとの関わりは深く、2005年にデビューした後、09年から18年まで音楽監督を務め、その間ドイツ・オペラも含め40演目以上のオペラを指揮してきた。18年にはその功績により同劇場より芸術褒章を授章。現在は、テアトロ・レアルの首席客演指揮者を務める。オーケストラとのコンサートも数多く行っており、フィラデルフィア管、クリーヴランド管、フィルハーモニア管、ローマ・サンタ・チェチーリア国立管、マドリード響、パリ管、ベルリン・フィルなどと共演。サントリーホールのホール・オペラ®では、04年から10年まで毎年指揮を務め、ホール・オペラ®の音楽上の支柱となった。08~10年のモーツァルト「ダ・ポンテ3部作」プロダクションでは、チェンバロやハンマークラヴィーアの弾き振りを行い、多才ぶりを魅せた。

演出:田口道子

国立音楽大学声楽科およびミラノ・ヴェルディ音楽院卒業。メゾ・ソプラノ歌手として活動するとともに演出助手として世界各地の歌劇場で経験を積む。以後、再演演出家としてミラノ・スカラ座、ヴェローナ野外劇場、フィレンツェ五月音楽祭などイタリア各地のほかヴァレンシア、テル・アヴィヴでも活躍、新国立劇場では『トスカ』『トロヴァトーレ』『リゴレット』の再演演出を手掛ける。近年は演出家として活動し、サントリーホール オペラ・アカデミー公演では『セビリャの理髪師』『コジ・ファン・トゥッテ』『愛の妙薬』『ラ・ボエーム』『フィガロの結婚』を演出。訳書に『リッカルド・ムーティ自伝:はじめに音楽 それから言葉』『リッカルド・ムーティ、イタリアの心 ヴェルディを語る』。字幕翻訳も多数。

 

【全三幕粗筋】

第一幕

ヴィオレッタの住む屋敷。今夜も賑やかなパーティーが開かれており、女主人は来客をもてなしている。そこへアルフレードがガストン子爵の紹介でやってきてヴィオレッタに紹介される。歌を1曲歌うよう勧められた彼はいったん辞退するが皆の再度の勧めでグラスを片手に準備をする。一同の沈黙と緊張のなかアルフレッドは情熱を込めて歌い、ヴィオレッタが加わってデュエットになる。さらに皆が加わって華やかに歌い上げる(②「乾杯の歌」)。

別室から、ヴィオレッタが用意した舞踏会の音楽が聞こえてくる。皆で行こうとすると、ヴィオレッタがめまいをおこして椅子に座り込む。何でもないからと一人部屋に残った彼女の所にアルフレッドが来る。アルフレッドはヴィオレッタに、こんな生活をしていてはいけないといい、1年前からあなたを好きだったと告白する(③-1「ある日、幸運にも」)。ヴィオレッタは最初は軽くあしらう(③-2「私を避けて下さい」)が、彼の真剣さに少し心を動かされる。ヴィオレッタは椿の花を渡して再会を約し、「この花がしおれるころに」という。有頂天になるアルフレッドに「もう一度愛しているといってくれますか」とヴィオレッタが尋ねると、「はい、何度でも!」と彼は応ずる。

アルフレッドに続き来客が去って一人になったヴィオレッタは物想いにふける。「不思議だわ」(作品を通じ、彼女はこの言葉を各幕で1回、計3回繰り返す)と純情な青年の求愛に心ときめかせている自分の心境をいぶかる。そして、彼こそ今まで待ち望んできた真実の恋の相手ではないかと考える(⑤「ああ、そは彼の人~花から花へ」)。しかし、現実に引き戻された彼女は「そんな馬鹿なことをいってはいけない。自分は今の生活から抜け出せる訳が無い。享楽的な人生を楽しむのよ」と自分に言い聞かせる。彼女の中でアルフレッドとの恋愛を肯定するもう一人の自分との葛藤に、千々に乱れる心を表す、コロラテュール唱法を駆使した華やかな曲で幕切れとなる。

 

第二幕

<パリ郊外のヴィオレッタの屋敷>

二人の出会いから数か月が経った。ヴィオレッタは貴族のパトロンとの華やかな生活を捨て、この家でアルフレッドと静かに暮らすことを選んだのである。彼女との生活の幸福を語るアルフレッド(①「燃える心を」)は、丁度帰宅した召使いから、この家での生活費のためにヴィオレッタが彼女の財産を売却していたことを聞き、気付かなかった自分を恥じるとともに売ったものを取り戻そうとパリに向かう。ここで歌う②「自責の念が」は、一つの山場です。

そこへヴィオレッタが登場し、彼のパリ行きを聞き(理由は知らない)、いぶかる(2度目の「不思議ね」)。そこにアルフレッドの父親ジョルジョ・ジェルモンが突如来訪する。驚きながらも礼儀正しく迎える彼女に、あたりを見回し「息子をたぶらかして、ずいぶんと贅沢な暮らしをしていますな」といきなりなじったため、ヴィオレッタは「私の家で女の私に失礼なことを言わないでください」と毅然と応じ、たじたじとなるジェルモンに秘密を打ち開ける。彼女が自分の財産を息子との生活のために手放しつつあることを知ったジェルモンは非礼を詫びる。アルフレッドをどんなにか愛しているかと理由を説明する彼女に対し、ジェルモンは本題を切り出す。息子と別れてくれというのである。駄目ですと即座に断るヴィオレッタに、彼はアルフレッドの妹の縁談に差し支えるから、助けて欲しいと迫る(③「天使のように清らかな娘」)。ついに要求を受け入れ、彼女は身を引くことを決心する(「お嬢様にお伝え下さい」)。しかし単に家を去ってもアルフレッドは追いかけてくるだろう。方法は任せて下さいと請合うヴィオレッタに礼を言って、父ジェルモンはいったん去る。

一人になったヴィオレッタは一計を案じ、アルフレッドに手紙を書く。彼女はアルフレッドと別れて元のパトロンとの生活に戻る、という偽りのメッセージを送ろうとしたのである。そこへアルフレッドが帰宅する。彼は父が訪ねていくという手紙を見て、すでに父が来たとは知らずに、ヴィオレッタに大丈夫だなどという。ヴィオレッタは、アルフレッドの父が来るなら席を外して庭にいると言いその場を去る。別れ際に彼女は「アルフレッド、いつまでも愛しているわ、あなたも私と同じだけ愛して。さようなら」と第1幕の前奏曲の後半の旋律で歌う。アルフレッドは彼女の様子を不審に思うが、父親が来ることに動揺しているのだと思い込む。アンニーナが登場し、ヴィオレッタが急遽出かけたこと、手紙を預かったことを告げる。不安にかられつつ手紙を読み、アルフレッドは自分が裏切られたと思い込んで激怒する。そこに父ジェルモンが再登場して、息子を慰め、故郷のプロヴァンスに帰ろうとなだめる(「プロヴァンスの海と陸」)。しかし息子は自分の受けた恥辱を濯ぐのだといい、パリに向かう。

 

<パリ市内のフローラの屋敷>
相変わらず貴族と愛人たちが戯れあう日々である。丁度仮面舞踏会が開かれている。フローラとドビニー侯爵、グランヴィル医師らは、アルフレッドとヴィオレッタが別れたという噂話をしている。ジプシーの占い師やマタドールなどの仮装の後、アルフレッドが登場、彼らはカードの賭けを始める。そこにドゥフォール男爵にエスコートされたヴィオレッタが登場、ドゥフォールはアルフレッドを避けるようヴィオレッタに指示する。アルフレッドはつきまくり、ヴィオレッタへの皮肉を言う。それに激高したドゥフォールも賭けに参加するが、ドゥフォールはアルフレッドに大負けする。そこに夕食の準備ができ、一同退場する。アルフレッドとドゥフォールも後ほどの再戦を約束して退場する。アルフレッドの身を案じたヴィオレッタは彼を呼び出し、自分のことなど忘れ、逃げて欲しいと訴える。それに対してアルフレッドは復縁を迫るが、ジェルモンとの約束で真意を言えないヴィオレッタはドゥフォールを愛していると言ってしまう。それに激高したアルフレッドは皆を呼び出し、これで借りは返したと叫んで先程賭けで得た札束をヴィオレッタに投げ付ける。自分の真意が伝わらず、皆の面前で侮辱された彼女は気を失う。一同がアルフレッドを非難しているところに父ジェルモンが現れ、息子の行動を諌める。自分のやったことを恥じるアルフレッドと、真相を言えない父ジェルモンの独白、アルフレッドを思いやるヴィオレッタの独白、ヴィオレッタを思いやる皆の心境をうたい、ドゥフォールはアルフレッドに決闘を申し込んで第2幕を終わる。

 

第三幕

<パリのヴィオレッタの屋敷>

数か月が経った。アルフレッドは男爵と決闘して勝ち、男爵は傷ついたが快方に向かっている。国外に出たアルフレッドに父親は手紙を書いて、ヴィオレッタとの約束を告白し、交際を許すことを伝えてヴィオレッタの元にもどるよう促しており、そのことをヴィオレッタにも手紙を書いていた。しかし、皮肉なことにヴィオレッタの生命は尽きかけていた。持病の肺結核が進行していたのである。

幕が上がると、ヴィオレッタがベッドに寝ている。彼女はアルフレッドの帰りを今か今かと待ちわびている。何度となく読んだジョルジョからの手紙をもう一度読む(ここは歌わずにほとんど朗読する)。読み終わった彼女は一言「もう遅いわ!」と叫び、過ぎた日を思って歌う(「過ぎし日よ、さようなら」)。「ああ、もう全ておしまい」と絶望的に歌い終わると、外でカーニバルの行進の歌声が聴こえる。

医師がやってきてヴィオレッタを診察し励ますが、アンニーナにはもう長くないことを告げる。そこにとうとうアルフレッドが戻ってくる。再会を喜ぶ二人は、パリを出て田舎で二人楽しく暮らそうと語り会う(「パリを離れて」)。しかし、死期の迫ったヴィオレッタは倒れ臥す。あなたに会えた今、死にたくないとヴィオレッタは神に訴える。そこに医師や父ジェルモンが現れるが、どうすることもできない。ヴィオレッタはアルフレッドに自分の肖像を託し、いつか良い女性が現れてあなたに恋したらこれを渡して欲しいと頼む。彼女は「不思議だわ、新しい力がわいてくるよう」といいながらこと切れ、一同が泣き伏す中で幕となる。

 

【上演の模様】

 先ず「ホールオペラ」という言葉が余り聞き慣れないので、前もって調べました。「ホールオペラ」をググルと、ヒットしたほとんどが今回のサントリーホールの演奏会関連で、一件だけ❝歌劇場ではない通常の劇場やコンサートホールの中にも、舞台または客席の一部の床を低くしてオーケストラピットを設けてオペラに使用することが可能なように作られているものもある。❞と出てきました。サントリーホールに問い合わせると❝オーケストラは舞台上に14型で配置し、その後部客席(所謂P席)に演技用の舞台をしつらえて、そこで歌手たちが歌う❞ということの様です。要するにオペラ用に出来ていないサントリーホールが何とかオペラを上演したいという苦肉の策と思われます。よって「ホールオペラ」はサントリホールのオペラ的上演を指す特殊用語でした。しかも「ホールオペラ」の後ろには、Ⓡマークが付いているので、商標登録した用語の様です。サントリーホールに無許可では、使えない。道理で、多の劇場では使われない訳です。十年前くらいまではサントリーホールで何回か上演された様ですがその後行われなかったのは、不人気もあったからなのでしょうか?

 

さて演奏・演技の様子は?

第一幕

 しっとりと静かに前奏曲が流れる中、幕が開いて場面は華やかな宴会会場に移る処は、ギャップが大きい様に思えないこともないですが、これはヴェルディが冒頭、オペラの暗と明を対比させ先行きを暗示させた、優れて象徴的な表現だと思いました。                                              

①「乾杯の歌」                         

アルフレッド役のデムーロは宴会場の挨拶の第一声で素敵のテノールの片鱗を披露した後、ガストンがヴィオレッタに、アルフレッドがヴィオレッタの病気のことを気にかけていたことを伝えます。ヴィオレッタは好意を抱いたのか、“私がエベの女神の代わりを務めましょう(Sarò l'Ebe che versa)(hukkats注1)”と、お酒をアルフレッドのグラスに注ぐのでした。皆から歌を求められたアルフレッドは最初のアリアを歌うのです。デムーロは、声量も声質も申し分ない歌声で、素晴らしく華やかに歌いました。続くヴィオレッタ役のマルコヴァの第一声は、アルフレッドに負けず劣らず華やかさに加え艶やかな声で、人口に膾炙したこの歌を完璧に歌い切りました。メロディは同じ乾杯の歌でも、二人の歌詞の内容は異なっています。アルフレッドは‘愛の盃’を歌いあげ、ヴィオレッタは‘楽しもう’と歌い、さらに全員で乾杯と歌を楽しもうと歌うこの場面は、最初から派手で華やかな貴族(に支えられた)社会の側面を見せつけました。                                                             

(hukkats注1)                               

「エベ(Ebe)の女神」とは、ゼウスとヘラの娘で永遠の若さの象徴。仏語表示だとHebe。ショーソンが幻想的な歌曲『エベ - フリギア旋法によるギリシャの歌』を残している。                                  

‟眼を伏せ、顔を赤らめて初々しく祝宴へとエベは向かった。神々は魅せられ、空の杯を差しのべると神酒を幼いエベは杯に注いだ。(Les yeux baissés, rougissante et candide, Vers leur banquet quand Hébé s'avançait. Les Dieux charmés tendaient leur coupe vide, Et de nectar l'enfant la remplissait.)”                 

 

③-1第3場「ある日、幸運にも」                      宴もたけなわ、皆で踊ろうとなった時にヴィオレッタは体調不良で、気分が悪くなりアルフレッドを除く全員が退場。一年前からヴィオレッタを思っていることを朗々と歌い上げるアルフレッドでした。 

❝ある日、幸運にも、私の前に稲光のごとく現れたのです。あの日以来私は震えながら、未知の愛に生きてきたのです。その愛はときめき、全宇宙の鼓動、神秘的にして気高く、心に苦しみと喜びをもたらす。(Un dì, felice, eterea,Mi balenaste innante,E da quel dì tremante Vissi d'ignoto amor. Di quell'amor ch'è palpito Dell'universo intero, Misterioso, altero, Croce e delizia al cor.)❞

 ここでのアリアをデムーロは切々と歌い上げました。特に“~amor”を精一杯引き伸ばし、息継ぎなしで次の “Di quell’amor ch’e palpito”niに移った歌唱は見事でした。                                      

③-2第3場「私を避けて下さい」     

    アルフレッドのアリアに対しすぐに反応したヴィオレッタは歌い返します。  ❝それならば私を避けてください。貴方には友情のみを差し上げます。私は愛を知りませんし、そのような尊い愛を受けることは出来ません。正直に申し上げます。他の人をお探しください。そうすれば、私を忘れることは難しくはないでしょう。(Ah, se ciò è ver, fuggitemi Solo amistade io v'offro: Amar non so, né soffro Un così eroico amor. Io sono franca, ingenua; Altra cercar dovete; Non arduo troverete Dimenticarmi allor.)❞

  二人は二重唱で自分の考えを同じ言葉で互いに繰り返すのでした。

 マルゴヴァは軽快な歯切れの良い歌で、すかさずアルフレッドを説得するのです。ここではヴィオレッタは、アルフレッドの真剣な愛の告白に対して、当初 “お戯れを!御冗談を!”といった受け止めだったものが、次第にこれは本物かな?でも困ったな?といった気持ちが頭をもたげて来るのでした。

 帰ろうとするアルフレッドに白い椿の花を渡し(hukkats注2)、再会を約す二人は互いに気持ちが高ぶって歌い交わすのでした。ここでデムーロとマルコヴァは、もう愛し合っているカップルそのもので、素晴らしい歌声の持ち主二人の饗宴の場とも言える程でした。                              

(hukkats注2)                           

ここでの椿の花はヴィオレッタが胸に挿していたものを、アルフレッドに渡すと歌うが、デュマ・フィスの原文では、第10章に「Parce que,dit Marguerite en se degeant de mes baras et en pregnant dans un gros bouquet de camellias rouges apporte le matain un camelia qu’elle passa a ma boutonniere,pace qu’onne peut pas toujours exe cuter le traits le jour ou on les signe.(アクサン記号略)」とあり、朝に届けられた赤い椿の大きいブーケから一本を抜いて、マルグリット(オペラのヴィオレッタ)はアルマン(オペラのアルフレッド)のボタンの穴に刺したことになっている。

 ここの表現は非常に含蓄のある個所で、赤椿はいわば赤信号(白椿は青信号)で今日はダメという意味。その後のやり取りは、焦るアルフレッドが「それではいつ?」と訊く回答として「色が変わった時に」「いつ変わるか?」「明日」となっていて、オペラの台本で「(椿が)枯れた時に」としたのは、原本の理解不足。枯れるには何日もかかるし、第一枯れたら色は褪せれど白には変わらず。しかも台本では「明日に」とアルフレッドの言としているが、これはヴィオレッタのみが回答出来る秘匿事項である。要するにストップ信号の赤色からGO信号の白椿を提示出来るのが明日だという事。オペラで白椿を渡したのでは、ヴィオレッタの意図が全然逆になってしまう。                                            

 一人になったヴィオレッタは、今日会ったアルフレッドとその言動を思い返しながら、心は千々に乱れるのでした。

⑤-1第5場「ああ、そは彼の人か」                   ❝ああ、きっと彼の人だったのよ、喧騒の中でも孤独な私の魂が、神秘的な絵の具で思い描いていたのは!彼は慎み深い態度で病める私を見舞ってくれて、新たな情熱を燃やし、私を愛に目覚めさせたんだわ。その愛はときめき、全宇宙の鼓動、神秘的にして気高く、心に苦しみと喜びをもたらす。無垢な娘だった私に、不安な望みを描いてくれたの、とても優しい将来のご主人様は。空にこの人の美しさが放つ光を見たとき、私の全てはあの神聖な過ちでいっぱいでした。私は感じていたのです、愛こそが全宇宙の鼓動であり、神秘的にして気高く、心に苦しみと喜びをもたらすと!(Ah, fors'è lui che l'anima Solinga ne' tumulti Godea sovente pingere De' suoi colori occulti! Lui che modesto e vigile All'egre soglie ascese, E nuova febbre accese, Destandomi all'amor. A quell'amor ch'è palpito
Dell'universo intero, Misterioso, altero, Croce e delizia al cor. A me fanciulla, un candido E trepido desire Questi effigiò dolcissimo Signor dell'avvenire, Quando ne' cieli il raggio Di sua beltà vedea, E tutta me pascea i quel divino error. Sentìa che amore è palpito Dell'universo intero, Misterioso, altero, Croce e delizia al cor!)❞

    次第に自分がアルフレッドを愛していることに気が付くヴィオレッタは、新たな希望を持ち始め、アルフレッドの一図の愛に応えるべく、それを理想化し、彼こそが夢に追い求めていた彼氏だと考えるのです。マルコヴァは気持ちのこもった しかも表現力に溢れた   歌いぶりで、第一楽章の山場を一気に駆け抜けたのでした。

 ⑤-2第5場「馬鹿な考え~花から花へ」

    しかしヴィオレッタの心には再び疑念がわき、そんな理想の愛など自分の立場ではあり得ないと悲観的になって歌うのです。外からは家に帰り切れないアルフレッドが合わせて歌う声が時々聞こえます。

 ❝馬鹿な考え!これは虚しい夢なのよ!哀れな女、ただ一人見捨てられた女、人々がパリと呼ぶ、人の砂漠の中に。今更何を望めばいいの?何をすればいいの?楽しむのよ、喜びの渦の中で消えていくのよ。私はいつも自由に、快楽から快楽へと遊べばいいの、私が人生に望むのは、快楽の道を歩み行くこと、夜明けも日暮れも関係ない、華やかな場所で楽しくして、いつも快楽を求め、私の思いは飛び行かなければならないの。(Follie! follie delirio vano è questo! Povera donna, sola Abbandonata in questo Popoloso deserto
Che appellano Parigi,Che spero or più? Che far degg'io! Gioire,Di voluttà nei vortici perire. Sempre libera degg'io Folleggiar di gioia in gioia, Vo' che scorra il viver mio Pei sentieri del piacer, Nasca il giorno, o il giorno muoia, Sempre lieta ne' ritrovi A diletti sempre nuovi Dee volare il mio pensier.)❞

 マルコヴァは最後の高音も出ていたし、こうした揺れ動き苦しむヴィオレッタの心を 実に切実な歌いぶりで表現していました。

 

      《続く》

 

以下、第二楽章、第三楽章は、後日記します。

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歌うヴィオレッタ

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ニコラ・ルイゾッティ(指揮)