表記のオペラコンサートは、時々行く隣接市のホールから定期的に届くメールマガジンで、案内があったもので、通常のオペラコンサートとは違って、直木賞作家、林真理子氏が企画・演出したオペラトークと歌とをハイブリドしたコンサートになっています。彼女は、大のオペラ好きであることでも有名です。以下にそのプロモートチラシの記載文を転載します。
人気作家 林真理子がご案内する、眩いオペラの世界!
音楽に造詣が深く、オペラ好きでも知られる作家・林真理子が、これからのクラシック界を牽引する演奏家達と、オペラの魅力や醍醐味を、トークと演奏でお伝えします!
言葉を紡ぐスペシャリストたちの饗宴、オペラを見たことがない方も、オペラ通な方もぜひお見逃しなく。
【会場】大和市芸術文化創造拠点シリウス 芸術文化メインホール 【日時】2021.9.12.(日)14:00〜
【出演】
○林真理子(作家)
○小林沙羅(ソプラノ)
〈略歴〉
東京藝術大学卒業。同大学院修士課程修了。2010年度野村財団奨学生、2011年度文化庁新進芸術家在外研修員。2014年度ロームミュージックファンデーション奨学生。2010年から2015年にはウィーンとローマにて研修と演奏活動を行う。
2017年第27回出光音楽賞受賞。2019年第20回ホテルオークラ賞受賞。
○望月哲也(テノール)
〈略歴〉
東京都府中市出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、同大学大学院音楽研究科修士課程オペラ科修了。学部卒業時に安宅賞、松田トシ賞を受賞。大学院入学時にNTTドコモ奨学金を授与。二期会オペラスタジオ第43期マスタークラス修了。修了時に最優秀賞、川崎静子賞を受賞。第35回日伊声楽コンコルソ第3位入賞。第11回奏楽堂日本歌曲コンクール第2位入賞。第70回日本音楽コンクール(オペラアリア部門)第2位入賞。平成19年度文化庁新進芸術家海外留学制度研修員。09年6月までウィーン国立音楽大学研究課程リート・オラトリオ科にて研鑽を積む。
○河野紘子(ピアノ)
〈略歴〉
札幌市出身。
桐朋女子高等学校音楽科、桐朋学園大学を経て同大学研究科を修了。
高校卒業演奏会、大学ピアノ卒業演奏会に出演。これまでに桐朋学園大学声楽科嘱託演奏員、二期会研修所ピアニストとして勤務。
○浦久俊彦(ナビゲーター)
1961年生まれ。文筆家、音楽プロデューサー。 パリで音楽学、歴史社会学、哲学を学ぶ。フラ ンスでの20年にわたる作曲・音楽研究活動を経て帰国。2007年、三井住友海上しらかわホールのエグゼクティブ・ディレクターに就任。「ショパ ン鍵盤のミステリー」「ベートーヴェン鍵盤の宇宙」 「マーラー交響曲の新世紀」など画期的なコン サート・プロジェクトの仕掛け人でもある。著書に『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』(新潮社) がある。一般財団法人欧州日本藝術財団代表理事。 代官山未来音楽塾塾頭。 サラマンカホール音楽監督。 著書に『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝』など。
【プログラム】
<第1部:トーク・ステージ、林真理子さんが語る~本とオペラのある人生〉
<第2部:コンサート・ステージ〉
【演奏曲目】
①プッチーニ:歌劇「ジャンニ・スキッキ」より “わたしのお父さん”
②歌劇「トゥーランドット」より “誰も寝てはならぬ”
③マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲(ピアノソロ)
④プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」より
“冷たき手を”、“私の名はミミ”、“愛らしい乙女よ”(二重唱)
⑤カタラーニ:歌劇「ラ・ワリー」より “さよなら故郷の家よ” ほか
<第3部:クロストーク・ステージ> オペラに生きる人たちとの対話
<第4部:プレゼント・ステージ>
【演奏会の模様】
<第1部:トーク・ステージ>
1部から最後まで通しで、ナビゲーターの浦久さんが、司会を努めました。
司会が、林さんに質問する形でトークが進められました。
「コロナ禍の生活は?」→
毎晩、夕食を作っていた時期もあった。新聞や週刊誌、月刊誌の連載が増えて来ると忙しくて大変なことも。
作家一般に取っては、良かった側面があつた。本が売れたから。
「ここに最新刊の小説8050がありますが、これについて紹介下さい。」→
物語は、❝息子が部屋に引きこもって7年、このままでは我が子を手にかけ、自分も死ぬしかないーー。従順な妻と優秀な娘にめぐまれ、完璧な人生を送っているように見える80歳の父親だが、有名中学に合格し、医師を目指していたはずの長男が、七年間も部屋に引きこもったまま。夜中に家中を徘徊する黒い影。次は、窓ガラスでなく自分が壊されるーー。❞といったもの。 引きこもり100万人時代といわれる今日的テーマを書いては?という誘いがあったのだが、こうしたテーマは、どうしても暗くなってしまうので、最初は嫌だった。
「初版から随分売れているそうですね」→
お陰様で人気で、図書館などで何十人待ちと聞くと、内心すぐ買って呉れればいいのになどと思ってしまう。(会場の笑い)
「オペラも書かれたそうですが」→
一度でいいからオペラを書いてみたいという夢があったが、でも、三枝さんから言われたのは、とにかくゲイと裸とレズを出せ。そして最後はみんなが、『生きてるっていいな』と笑って帰れるような物語を書くように』と言われ、しっちゃかめっちゃかな内容をかわまず書き進み完成して渡したら、ここも、あそこも、メッタ切りに削除されて、原型を留めないと思われる程になってしまった。きっと、自分が作曲しやすい様にするのでしょうね。(笑い)
「林さんはご自分でもオペラを歌われるそうですね」→
以前からオペラが好きで、海外に取材に行って、パリ・オペラ座やスカラ座の中に入ってみてステージを見ると、あーオペラ歌手はこうした素晴らしいところで歌うのだ、と気持ちが高揚してきて、実際自分も舞台に上がり、少し歌うまねをしてみたり、日本でも歌手の皆さんに混じって歌ったり、今考えると恥ずかしいことばかり。
<第2部:コンサート・ステージ〉
①の「私のお父さん」を歌った小林さんは、基礎がしっかりした発声で、かの有名ないろんな歌手が歌う曲を、立派に歌いこなしました。曲が短すぎるのが残念なくらい。
②の有名な曲も様々な歌手が歌ったのを聴いたことがありますが、テノールの望月さんは、これまで聞いた中でも、かなりの声量で、微妙な節回しの箇所も難なくこなし、全体的にこれは良く出来た歌いぶりだと思う出来栄えでした。
③はピアノ伴奏の河野さんのピアノソロでした。オーケストラの伸び伸びしたメロディは聴きなれていますが、そのピアノ版はめったに聴けません。間奏曲と同じメロディで奇麗な演奏でしたが、伝わる感じはかなり違って聞えました。オケよりも若干ポツポツする途切れた感があった。
④は歌劇『ラ・ボエーム』より有名なアリア二つと、ミミがロドルフォと語り合う二重唱の一節。二人とも大変上手でいい声なのですが、ミミが寒い雪の中、訪ねたある種切ない恋心とロドルフォがそれを受け入れるには貧しすぎるやるせない愛の気持ち そうした影の部分の表現がいまいちかなと思いました。
休憩の後は
<第3部:クロストーク・ステージ> オペラに生きる人たちとの対話
でした。司会の浦久さんが歌手、ピアニスト、作家の順に種々問いかけをし、各人が答えるというトークの部です。
ここで話が出たことを列挙すると次の通りです。
・このホールは響きが良い。様々なホールで歌うが、それぞれ特有の響きの感じがする。立派なホールはその地の財産。
・小林さんは、藝大へ入学する試問でも、卒業演奏でもミミを歌った、得意な役なので、オペラでミミを歌ってみたいという希望がある。作家はムゼッタの役回りが好きと言っていた。
・林真理子作、サエグサ作曲のオペラを数年前東京文化会館でやった時、小林さんは看護師役で、奥様役が佐藤しのぶの医師と不倫関係にある、かなりえげつない役だった。
・作家としては、次のオペラ台本を書くとしたら、平家物語をやりたい。だけど作曲者からは、静御前を自殺させて欲しいといわれて困惑している。
<第4部:プレゼント・ステージ>
ここでは、各演奏者が作家に歌のプレゼントを捧げるという趣向でした。勿論林さんの好きな曲を。
小林さんは、オペラ『ワリー』から「さよなら故郷の家よ」を歌いましたが、最後の高音がやや苦しそうでした。このオペラはほとんど上演されなくて忘れ去られている状態です。自分としてはCDが家にあるので、たまに全曲聴きますが。ワリー役はテバルディです。
望月さんは、プッチーニ『トゥーランドット」からこれまた有名な「誰も寝てはならぬ」をプレゼント。望月さんは最初から最後まで、自信満々といった感じで堂々と登場していました。この曲もほぼ完ぺきにちかかったのですが最後の伸ばす箇所がやや短かったかな?息が苦しかったのでしょう、きっと。
最後に司会者から、「林さんにとって、オペラとは何ですか?」と聞かれて「(作家活動、仕事の単調な)つまらない日常性にぶつかってくる国際性の幸せ」と答えていました。これには同感ですが、音楽鑑賞は単調な日常生活に、新鮮な活力を与えてくれるものなのです。
7~8割位の大入りの会場から大きな拍手が鳴り、「BRAVO!」掲示紙が揺れる中、オペラ歌手はアンコールとして、次の二曲を歌ってくれました。
一曲目、『椿姫』より「乾杯の歌」(二重唱)
二曲目 『メリーウィドウ』より「ワルツ」(二重唱)