HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

オペラ/ベルリーニ『清教徒(藤原歌劇)続き』第二日目/第二幕以降

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 前回の第一幕で若干の捕捉をしますと、

王妃エンリッケッタを逃がそうとするアルトゥーロと、阻止しようとするリッカルドとが剣を抜いて戦い始めたのですが、それを中に入って止めた王妃役の丸尾さんは、経験豊かなメッゾの歌いぶりで、その風格ともども、短時間登場ながら印象深い演技でした。

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リッカルド、王妃、アルトゥーロ

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<第二幕>

 結局晴れやかな結婚式の場が台無しになってしまった広場で、人々が不幸な花嫁を心配して合唱する場にジョルジョが現れ、エルヴィーラの様子をしめやかに歌うのです。

⑦ロマンツァ〈ほどけた美しい髪を花で飾り Cinta di fiori e col bel crin disciolto Talor la cara vergine s'aggira,・・・〉を歌ったジョルジョ役の小野寺さんは、かなりチューニングの効いたバリトンで安定した歌いぶりでした。

 次いでエルヴィーラが登場し少し気が変になった様子、でも狂った程ではないと見えました。ここで光岡さんは、一番の見せ場、聞かせどころの歌を歌います。

⑧シェーナとアリア〈ここで貴方の優しい声が(狂乱の場)>を歌ったエルヴィーラ役の光岡さん、最初、❝希望→放置→死 rendetemi la speme, O lasciate, lasciatemi morir! ❞ の言葉を繰り返し、ゆっくりした甘美なメロディを静かな調子の奇麗な声で歌いました。それにしてもベルリーニの旋律はまこと、甘美なものに溢れていますね。これなら自分の如き素人でもマネして口ずさみたくものばかり。続いて軽快なテンポから成るオケに続いて、修飾音がふんだんに使われた調べを、最後速いテンポで、❛アルトゥーロ早く帰ってきて!Ah, vien, ti posa sul mio cor! Deh! t'affretta, o Arturo mio, Riedi, o caro, alla tua Elvira❜と歌い、最後アアアアアアアア!アアアアアアアア!と上り調子になって叫び、最高音のアーーアから最後の最後、アーと落として決めたのでした。光岡さんこれだけ歌えれば、そう多くはいないトップクラスの日本人コロラテューラ歌手の仲間入りでしょう。 ただ今後の課題として、アリアを高音で歌いきる最後、息が苦しくなるのか伸びが短いので、もっと呼吸が楽に高音が出れば、最高だと思うのですが。

 この様子を見ていたジョルジュはリッカルドを説得するのです。

⑨二重唱<君は君の敵を救わねばならない ~ ラッパを吹き鳴らせ>を歌ったジョルジョ役の小野寺さんとリッカルド役の井出さんの二重唱は、烈しく言い争っている様にも聞こえますが、互いに心の底では、エルヴィーラの先程の様子が可愛そうという気持が強く、互いに理解できる方向へと進むのでした。リッカルドが折れます。

 しかし、ここでそのあと、進軍ラッパを吹き鳴らせ!と兵士を二人で鼓舞するのは、先のエルヴィーラの気持を慮るのと、どの様に整合性があるのでしょう?勇ましい掛け声で歌い終わった後の拍手は大きいものがありましたが。   逃げたアルトゥールのいる王党派を撃破したらジョルジュが頼んだ救出は出来ないと思います。可能な線はむしろここでは捕虜交換とかの交渉かな?勝手な考えですが。

 

<第三幕>

 清教徒軍の激しい攻撃の地から、ほうほうの手で命からがら逃げてきたアルトゥーロが登場、遂に愛する花嫁のもとに帰還した苦労と喜びを歌います。

⑩ロマンツァ〈谷に走り、山に走る Corre a valle, corre a monte  l' esiliato pellegrin,〉を歌ったアルトゥール役の山本さんは、二幕はほとんど出番がなく十分休息出来たのか、みなぎる力で、声高らかに歌うのですが、最高音の声は出しにくいのかも知れません、失敗した箇所が一か所と、相当変に聞こえた裏声的発声の箇所が一か所ありました。高音発声がこれからの課題ではないでしょうか?

 部屋の中にいてアルトゥーロの声を聞きつけたエルヴィーラが外に出てきてやっと再会できた喜びをで歌うのでした。

⑪〈アルトゥーロでしょう、そうですね。Arturo? Sì, è desso!Artur! Mio ben! O gioia!〉を歌ったエルヴィーラ役の光岡さんとアルトゥール役の山本さんは、最後の歓喜の愛の二重唱のかわし合いに進み、これ迄の苦労を思い起せば起こす程、嬉しさがこみ上がって来る様子がよく表現出来ていました。会場は拍手喝采の嵐となり暫くは鳴り止みませんでした。

最後の場面で 、リッカルド、ジョルジョ、エルヴィーラ、アルトゥーロが、合唱付きの四重唱で各自の心の中を歌う場面は最後の見せ場でしょうか。

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 聴き終わってまず感じたことは、

 狂乱の場に関して、同時代のドニゼッティが1835年に作曲した『ルチア』の狂乱の場他と比べると随分穏やかな内向的な狂乱状態だと思いました。これはエルヴイーラが清教徒だから信仰の力で自制が効いているためでしょうか?
それから、何故、エルヴィーラの父親でなくて、伯父があれこれ世話をやいているのでしょうか?父は余り表に出られないのかな?敵兵アルトゥールを婿入りさせようとしたり、その婿が王妃を逃亡させたりしているので、反逆罪で昔の中国王朝ものや韓流歴史ものだったら、「三族誅罰」に相当する逆賊なのですが、どういう訳か逃亡の後の第二幕最初の方で、リカルドは議会の決定書面をもってきて ❝アルトゥーロは犯罪者として処罰された(死刑))❞  ❝議会でヴァルトン卿は無罪、最高栄誉にあたいする❞ と叫ぶのです。

 また清教徒軍の勝利、クロムウェルの栄光が、アルトゥーロの無罪放免にどのような経緯でかかわってくるのか今一つはっきりしないオペラですね。オペラによっては、最初から最後まで合理的な理由があって、見る者をさも有りなん、と納得させる合理づくめの物語で出来ているものもあります。これは台本の出来不出来によるのでしょうか?

 さらに不思議なのは、リッカルドの立場、彼は、最後はどんな気持ちだったのでしょう? 幾ばくかの同情を寄せてしまいます。