【日時】2023.3.15.(水)19:00~
【会場】サントリーホール
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指揮】ミケランジェロ・マッツァ
【出演】
〇アンナ・ネトレプコ(Sop.)
〈Profile〉
1971年、9月18日、ロシア南部のクラスノダールに生まれる。
ロシアの名門サンクトペテルブルク音楽院で声楽を学ぶ。
1993年、モスクワのグリンカ声楽コンクールで第1位。
1994年、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場の「フィガロの結婚」スザンナ役でデビュー。
1995年、サンクトペテルブルク音楽院を修了する。サンフランシスコ歌劇場でアメリカにおけるデビュー。
1997年、若手オペラ歌手を対象とするバルティカ賞を受賞。
1997年、キーロフ・オペラ、イギリス公演に参加。
2002年、ドイツ・グラモフォンと専属契約を結ぶ。以後、ロランド・ヴィラゾン、エリーナ・ガランチャといった歌手仲間と共に活躍、ヨーロッパでの人気を決定的なものとする。
2005年、6月12日、2004年度ロシア国家賞を受賞(33歳)、ウラジーミル・プーチン大統領より伝達される。
2014年、ソチオリンピックの開会式でオリンピック賛歌を独唱。
2017年2月16日、ヴェルディの『イル・トロヴァトーレ』の初日の後、ウィーン国立歌劇場内「グスタフ・マーラー・ホール」において、名誉ある「オーストリア宮廷歌手」の称号を授与される。
〇ユーシフ・エイヴァゾフ(T.)
<Profile>
アゼルバイジャン出身のドラマティック・テノール。1997年にイタリアに渡り、フランコ・コレッリやゲーナ・ディミトローヴァに師事して研鑽を積んだ。イタリア・オペラの英雄的な役を得意とし、ヴェルディ《イル・トロヴァトーレ》のマンリーコ」や《アイーダ》のラダメス、《オテッロ》のタイトルロ-ル、プッチーニ《マノン・レスコー》のデ・グリュー、《トスカ》のカヴァラドッシ、《トゥーランドット》のカラフなどを歌って、圧倒的な大音量と金属的な響き、声の伸びが比類ない。イタリアの諸劇場を皮切りに、世界の主要歌劇場や主要音楽祭を席巻している。2015年にネトレプコと結婚。以後、歌心が加わって、ややたんぱくだった表現が急速に深まった。
【曲目】
○第一部
①ガエターノ・ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』より<ルチア、許してくれ〜吐息はそよ風に乗って> (アンナ・ネトレプコ、ユーシフ・エイヴァゾフ)
②ジュゼッペ・ヴェルディ『ナブッコ』より「序曲」(オーケストラ)
③ジュゼッペ・ヴェルディ『ナブッコ』より<ああ、致命的な文書よ〜かつて私も喜びに心を開いた> (アンナ・ネトレプコ)
④ジュゼッペ・ヴェルディ『リゴレット』より<あの娘がさらわれた!〜ほおの涙が> (ユーシフ・エイヴァゾフ)
⑤ジュゼッペ・ヴェルディ:『アッティラ』より<序曲> (オーケストラ)
⑥ジュゼッペ・ヴェルディ『アイーダ』より<清きアイーダ>(ユーシフ・エイヴァゾフ)
⑦ジュゼッペ・ヴェルディ『運命の力』より<神よ、平和を与えたまえ>(アンナ・ネトレプコ)
⑧ジュゼッペ・ヴェルディ:『アイーダ』より<運命の石が私の上で閉じられている〜さようなら、大地、涙の谷よ>(アンナ・ネトレプコ、ユーシフ・エイヴァゾフ)
○第二部
⑨ピョートル・チャイコフスキー『スペードの女王』より<閉めなくていいわ〜ああ、どうかお慈悲を>(アンナ・ネトレプコ、ユーシフ・エイヴァゾフ)
⑩カミーユ・サン=サーンス『サムソンとデリラ』より<バッカナール>(オーケストラ)
⑪ジャコモ・プッチーニ:『トスカ』より<歌に生き、愛に生き>(アンナ・ネトレプコ)
⑫ジャコモ・プッチーニ『ラ・ボエーム』より<冷たき手を>(ユーシフ・エイヴァゾフ)
⑬ジャコモ・プッチーニ:『蝶々夫人』より>
愛の二重唱(アンナ・ネトレプコ、ユーシフ・エイヴァゾフ)
【演奏を聴いて】
先日の『ドミンゴ&カレーラス/コンサート』も然り、世界のトッププレーヤーが、日本に居ながらにして聴けるとは、こんな贅沢で幸運なことは、有りません。今日のコンサートも、文句無しの歌の饗宴だったといえるでしょう。以下にそのポイントを列挙します。
🔘オペラアリアのプログラムが組まれ、その間にオペラ序曲中心のオーケストラ演奏が挟まれていました。
🔘ミケランジェロ・マッツァ指揮の東フィルの序曲演奏は、流石多くの歌劇場管弦の指揮を経験している人だけあって、オペラ導入への流れを十二分に知っている采配振りを披露、東フィルも持ち前の慣れたピット演奏曲に対してのセンスの良さがありました。さらにこの指揮者は、ネトレプコ夫妻とコンビを組んで何回もコンサートを行っている様で、匙加減も熟知しているのか二人の歌にピッタリ寄り添った管弦指揮をしていた。
🔘オペラアリアも単なる独唱のみでなく、男女のアリアのやり取りと二重唱を、身振り手振りの動き、或いは歩き回る動きを交えて、謂わば演奏会方式オペラに準じた形で演じていた。
🔘此れ等のアリアは、上記プログラムにある様に、有名オペラの名場面が殆どで、オペラ好きならば、いつか何処かで聞いたことのある歌(歌詞が分からない場合でもその旋律)が殆どであった。
🔘ネトレプコは、MET等欧米歌劇場で昨年来歌っていないという噂も聞いていたので、その間のブランクが心配なところであったのですが、それは全くの杞憂でした。潤いのある伸びやかな歌声は、寧ろ喉を休めたせいなのか、水を得た何かと同じで、声量も十二分に、ホールに響き渡っていました。
🔘エイヴァゾフは、かなり以前に聞いたことのあるテノールですが、その時は、声量はかなりあってもやや不安定なところがあり、まだ発展途上といった感じだったのです。ところが、今回の歌声を聴いて、その技術・歌声の発展振りには、目を見張る殆どでした。新しい進展著しものがあります。
🔘二重唱は、謂わばおしどり夫婦コンビの息のピッタリあった二人による詠唱なので、これ以上のデュエットは無い程の非常に優れた歌い振りでした。
🔘二人は、歌うだけでなく舞台でオペラを演じているが如く演技に没頭する姿勢を示し、あちこち歩き回るのでサントリーホールのあらゆる座席にその歌声が、ダイレクトに届き、表情も皆見れる様に配慮していることが、これまで他のコンサートでは見られないことであり、素晴らしい心使いも感じた。
🔘本演奏だけでも多くの歌を歌って21時は、ゆうに過ぎていたのですが、演奏終了後アンコール曲を二曲歌うサービス振りでした。
《アンコール》
①エルネスト・デ・クルティス『忘れな草』
②エドゥアルド・ディ・カプア『オー・ソレ・ミオ』
尚特筆すべきは、日本の歌手、池田香織さんが、二人のデュエットの一部に参加して歌い大きな拍手を得ていたこと。勿論ネトレプコとエイヴァゾフが歌った後は、超満員(チケット売り切れ)の会場から、やんやの拍手と声援が飛んでいました。あちこちから、ブラボー、ブラビーの掛け声も何回も上がりました。
今回の公演は、2017 年以来6年ぶりの来日コンサートで、その間、新型コロナウィルス蔓延やウクライナとロシアの戦闘など、世界的に大きな悪影響を及ぼす大事件が次々と起こりました。そうしたアゲインストの風にも関わらず、世界の音楽を愛する人々は、その風に吹き飛ばされそうになっても、藁をも掴む思いで、必死にこらえて来ています。国中の人々の唇に歌を!!、世界の国々に歌を!! そして誰もの心が安らぎ、あらゆる諍いや困難を乗り越えて、手を携え合える日が一日も早く到来することを、願うばかりです。