HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

フェスタサマーミューザ開幕コンサート

 いよいよミューザの夏祭りが始まりました。

       『弩暑さを 飛ばしてたもれ ファンファーレ!!』

【日時】2021.7.22.(木・祝)15:00〜

【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール

【管弦楽】東京交響楽団
【指揮】ジョナサン・ノット
【ピアノ】萩原麻未 


【曲目】
①三澤 慶「音楽のまちのファンファーレ」~フェスタ サマ-ミュ-ザ KAWASAKIに寄せて

②ラヴェル(マリウス・コンスタン編)『夜のガスパール(管弦楽版)』

③ヴァレーズ『アルカナ』

④ラヴェル『ピアノ協奏曲 ト長調 』

⑤ガーシュウィン『パリのアメリカ人』       

【主出演者の略歴】

《ジョナサン・ノット》

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・生誕 1962年12月25日(58歳)
・出身 イギリス・ウェスト・ミッドランズ州ソリフル
 ・人物・来歴
イングランド中部のウェスト・ミッドランズ州ソリフルの生まれ。当初ケンブリッジ大学で音楽学を専攻したのち、マンチェスター(ロイヤル・ノーザン音楽大学)で声楽とフルートを学ぶ。後に指揮に転向し、ロンドンに学ぶ。フランクフルト歌劇場などでカペルマイスターを務めた。2000年バンベルク交響楽団の首席指揮者に就任。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団など欧州の主要オーケストラに客演している。幅広いレパートリーを持ち、現代音楽にも強みを発揮する。

バンベルク交響楽団とはたびたび来日しており、2009年にはブラームス・チクルスを展開した。また、NHK交響楽団とたびたび共演している。

2014年9月、東京交響楽団第3代音楽監督に就任。2017年1月、スイス・ロマンド管弦楽団音楽監督にも就任。

《麻原麻未》      

f:id:hukkats:20210721233052j:plain 1986年、広島市内の病院で生まれ、その後呉市で育つ。
5歳からピアノを始め、高松和、田中美保子らに師事。数ヵ月後に三原市で開かれた「みはらジュニアピアノコンクール」にてpf会賞受賞。
1993年、広島市に転居。小嶋素子に師事。
2004年〜2005年、クラウディオ・ソアレスに師事。
2005年3月、広島音楽高等学校卒業。
同年、文化庁海外新進芸術家派遣員として単身フランスに留学し、ジャック・ルヴィエとイタマール・ゴランに師事し室内楽を学ぶ。
2010年6月、パリ国立高等音楽・舞踊学校(修士課程)を首席で卒業。
2011年〜2013年、ロームミュージックファンデーション奨学生。
2011年、同学校の室内学科およびパリ地方音楽院室内学科に在籍。
2014年、モーツァルテウム音楽院を卒業。
・2021年5月21日、長女を出産。
 
受賞歴
1992年 - みはらジュニアピアノコンクール pf会賞受賞(全体)。
1996年 - 中国ユース音楽コンクール金賞・最優秀賞。
1996年、1998年 - PTNAピアノコンペティション全国決勝大会C級、D級金賞第一位。
2000年 - イタリア・パルマドーロ国際コンクールピアノ部門で史上最年少優勝(13歳)。
2010年11月18日 - 第65回ジュネーブ国際音楽コンクールピアノ部門で日本人として初優勝
2012年 - 第13回ホテルオークラ音楽賞
2012年 - 第22回出光音楽賞受賞
2012年 - 文化庁長官表彰(国際芸術部門)

【演奏の模様】

 指揮者ジョナサン・ノットの名はこの処聞かない日は無い位、日本の楽団で日常的になりました。またピアノの麻原さんの最近の活躍にも目覚ましいものがあります。この人気と実力を有する二人に、近年益々力をつけているミューザの専属楽団が、満を持して放った音楽祭開催の三本の矢、矢はバラバラに飛散るのでなく、三本が一体と合っして見事扇の的に命中、見る者聞く者立ち上がって拍手喝采、これを讃えぬ者無し。あれ、いつの間にか屋島の那須与一の場面にワープしてしもうた。いやいや、三本の矢と言っても、決してアベノミクスに倣ったのではありません。

 演奏曲目のうちの②と③について、若干感じた事を詳記しますと、

②のガスパールはもともとは、ラヴェルがピアノのための『夜のガスパール』を、オーケストラ版に編曲したもので、元のピアノ版は、フランス語で『Gaspard de la nuit』。Gaspardは男性名、nuitは夜(仏語の最後の子音文字は黙字…サイレントが多い。Parisも同様)。フランスの詩人の詩集をもとに、ラヴェルが20世紀初頭に作曲した3つのピアノ曲[Ⅰ.Ondine(水の精の名) Ⅱ. Le gibet(死刑囚が最後に登るあれです)  Ⅲ. Scarbo(いたずら好きの妖精)]から成るピアノ組曲です。ピアノ曲は、2020年2月に、来日公演したピアニスト、ポゴレリッジ(Pogoと略記)が弾いたのを聴いたことがありその時の記録を繙くと、 "兎に角、キラキラした感じやゆっくりとだが確実に冷え込む夜のとばりに、冷徹に死刑囚を待つ死刑台が月明かりに照らされているかの様な静かなピアノの音、終曲では思いがけない程大きいfffかとも思われる大音量や速いパッセージからの力演に、Pogoが次はどんな音を出すのか固唾を飲んで待つ自分がありました。時には腕を交差させ、腰を浮かせ、鍵盤を叩いている演奏が終わった時は、ラヴェルにこの様な大作ともいえる曲があったのかという驚きと、Pogoの驚嘆的な力強い演奏によるダブルパンチを食らった感じがして一瞬クラクラしました。"

 オーケストラでのガスパール演奏は、今日初めて聞いたので比較対照が有りません。ピアノで聴いた時の印象をもとに考えると、全体的にオケ版の方がダイナミック感が遥かに大きかった。第1楽曲の清明感は、ピアノの高音の代わりに金管で表現、そこにパーカッションのスパイスを僅かに効かせ、ハープも加わって色彩豊かでした。第2楽曲の、静かに鳴り響く鐘の音は、何かキリコの絵を連想させる様な、夜の静寂な空気を感じさせ、ここの標題の不気味感は減殺されていました。

 第3楽曲では、相当な管弦の爆発もあり、標題でいわれる妖精の踊りは、静かなバレエではなくて、激しいコンテンポラリーダンスかと思う程のものでした。

 一方④のコンチェルトは、高度のテクニックを要する難曲であることで有名で、浜松ピアノコンクールの最終選の指定曲目にも入っています。浜松ピアノコンクールに擬した小説『蜜蜂と遠雷』の本選課題曲群の中にも入っています。管弦の規模は、以下の通り他の曲より縮小されていました。

 独奏ピアノ、ピッコロ1、フルート1、オーボエ1、コーラングレ1、E♭クラリネット1、B♭クラリネット(A管持ち替え)1、ファゴット2、ホルン2、トランペット(C管)1、トロンボーン1、ティンパニ2、打楽器2名(大太鼓小太鼓シンバルタムタムトライアングルウッドブロック)、ハープ1、弦五部(第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン8、ヴィオラ6、チェロ6、コントラバス4)

 萩原さんは、第1楽章のスタート時点では、何か迫力がなく、二回続くグリッサンドも勢いを感じません。音の切れ味が余り良くない、特にppの音が。これは連日の暑さで不調かな?と一瞬思ったのですが、すぐに杞憂だということが分かりました。続くffの箇所にさしかかると、突然力が沸いて来たように演奏、続くゆったりした綺麗なメロディを気持ち良さそうに弾き、次の速いパッセージでは、音の切れ味も大分良くなって来ました。

 第2楽章では、ゆったりと歌う様な表現が要る箇所がありますが、もっともっと心を込めてピアノに謳わせて欲しかった。長いソロ演奏部、イングリッシュホルンのソロが結構長く続きますが、荻原さんは控え目な音で、良くそれに合わせいました。でも伴奏的な箇所だからか、何かつまらなそうな様子を感じました。いつも喜々として弾いていたら、聴衆にはそれが伝わって来ますよ。

 第3楽章のかなり速くまたテクニックを要する箇所は力も入り、歯切れも随分良い演奏でした。子犬のワルツ類似の箇所では、音達がハッキリして飛び跳ね、最後の速いテンポでの走り弾きに依り、見事ゴールテープを切りました。

総じて感じたことは、処によりやや出来、不出来のムラがあり、玉石混交の感がありました。しかしさらに安定感が向上すれば、素晴らしいピアニストになること必定です。

 その他の曲も含めオーケストラ演奏は、最初のファンファーレからして、昨年の指揮者なしのリモート映像指揮とは全く別ものでした。ジョナサン・ノット本人の軽やかなフットワークから生み出されるアンサンブルの統合性、音の膨よかさ、これは、久しぶりに聴く、オーケストラとは正に、こうしたものだと思わせる満足感のある演奏でした。殊に今回は、大編成の曲が多く、あの広いミューザのステージを埋め尽くした楽器群は圧巻でした。昨年、一昨年のウィーンフィルの時でさえ、この様な風景は見当たらなかった。特にノットの今回の選曲には、感心することしきりです。兎に角管楽器、打楽器群の多彩なこと、それが必要な曲達だったのです。ウッドブロック、ウインドマシーン、鞭、様々な太鼓や鐘、ドラ、シンバル、チェレスタ、ハープ、シロフォン、それらが大活躍する曲を意識的に選んだと見たい。その心は、今日の『オープニング祝祭日』に相応しい音とアンサンブルを組み立てたかったのでしょう、きっと。特に③の『アルカナ』では、ティンパニーが大暴れ、金管群の大咆哮にパーカッションの合いの手が加わり、弦楽器群は鳴りを潜めるだけ。耳をすませば、ブラバン行進、盆踊り、火祭り、寺院の大例祭、何でも人々が熱中しまた踊り狂うる幻想さえ脳裏に浮かんで来ようというもの、といった様子でした。それにしても鞭の音はまさにピシャリと決まっていました。バーカッションを重用したマーラーでも聞いた記憶はありませんねー。

また選曲に、今回はラヴェルの曲が二曲。何れももともとピアノのための曲ですが、そこは、『オーケストレーションの魔術師』の異名をとったラヴェルです、コンチェルトも、オーケストラ編曲版も、すばらしいもので、ジョナサン・ノットは、自ら『オーケストラの魔術師』を目指したい気持ちがあるのではなかろうかと思われる程でした。