HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『第40回横浜市招待国際ピアノ演奏会』

〈才気あふれる若きピアニストたちのめくるめく響宴〉~リニューアルした横浜みなとみらいホールにて~

 

【主催者言】

横浜市招待国際ピアノ演奏会は、常に新しい文化を取り入れ発信してきた横浜にふさわしく、世界の国際ピアノコンクール入賞者の中から将来を嘱望される才能を発掘し横浜から広く紹介することを目的として、横浜みなとみらいホールで毎年秋に開催されています。

ピアニストとして、教育者として、また数多くの国際コンクールの審査員として世界的に活躍した故・山岡優子氏とその提唱に賛同する音楽家や支援者の尽力により1982年にスタートした歴史ある公演です。

その第1回は横浜市招待国際ピアノ演奏会実行委員会、横浜市、横浜市教育委員会の主催により神奈川県立音楽堂で開催されました。 その後神奈川県民ホールや横浜市市民文化会館関内ホールでの開催も交えつつ、1998年以降は新たに開館した横浜みなとみらいホールに会場を移し、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団の主催、横浜市の共催により毎年途切れることなく開催され今日に至っています。

これまでに世界28か国から180人を超える新進気鋭のピアニスト達がソロ演奏やオーケストラとの共演で横浜の舞台を彩ってきました。 その多くが世界でもトップクラスのアーティストとして活躍する錚々たる顔ぶれであり、この演奏会に出演することが世界の若きピアニスト達にとってのステイタスともなっています。

出演者の選定は、第一線で活躍する演奏家により構成される企画委員会が担います。 35歳以下かつ国際コンクールで2回以上の入賞歴があることを原則として世界から出演者を募るとともに、企画委員会も自ら情報を集め、候補者の中から入念な審査・協議により出演者を決定しています。 第1回開催時以来、山岡氏をはじめ、大野和士氏、加藤伸佳氏、野村光一氏、三宅洋一郎氏、三善晃氏、山田一雄氏(50音順)が企画委員会(当初は実行委員会)に名を連ね、現在の企画委員会は、山岡氏の遺志と企画委員長の任を引き継いだ海老彰子氏、弘中孝氏、堀了介氏、伊藤恵氏、須田眞美子氏により構成されています。

開始当初より、数多くの方々からの温かいご支援をいただきながら長年にわたり継続されてきたことも横浜市招待国際ピアノ演奏会の特徴です。 ピアノの練習場所を無償で提供するなど「おもてなし」の心で出演者を迎え入れてくださった廣瀬修氏。廣瀬氏は多くの企業と横浜みなとみらいホールを繋ぎ、その協賛によってこの演奏会を経営面でもご支援くださっています。 また、ホテルニューグランドの故 原範行氏の提唱により結成された「横浜市招待国際ピアノ演奏会支援の会」に参加する地元横浜の企業や個人の方々からもご支援をいただきました。 楽器会社各社からもさまざまなサポートをいただきました。 現在は株式会社ヤマハミュージックジャパン様より技術面の全面的サポートとご協賛をいただいています。

横浜市招待国際ピアノ演奏会は、出演者と観客や横浜の方々ならびに関係者のみなさまとの交流も大切にしてきました。 近年ではピアノ演奏会の枠を越え、ピアノ・室内楽のマスタークラスや、調律や演奏法、バロックダンスの特別レクチャー、子どもたちとの交流会など充実した関連企画を実施し、より広がりのあるピアノフェスティヴァルとして年々発展しています。

【日時】2022.11.19.(土)15:00~

【会場】みなとみらいホール、小ホール

 このホールは、みなとみらい大ホールのビルの5階にあり、座席数440席。内装は座席も含め全木張り、可動式残響調整板を備えたシューボックス型です。浮き床構造によって外部からの騒音を完全に遮断できるそうです。室内楽や、ピアノ・声楽などのリサイタル、ことにピアノや弦楽器など繊細な音色の楽器には最高の音響らしい。

 ホワイエにはウッドデッキの屋上庭園が隣接、ホワイエからは眼下に青いみなとみらいの海が見渡せるみなと横浜ならではのホールです。

 

 今日は4名ピアニストが演奏、演奏予定時間は3時間を越えるそうです。3時開演で終演は6時半近くになりそう。

 

 

【出演者】4名の新進ピアニスト

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①レミ・ジュニエ(フランス)

<Profile>  

 史上最年少でボンの国際ベートーヴェン・ピアノ・コンクールで入賞を果たし、さらに2013年のエリーザベト王妃国際音楽コンクールで20歳という若さで第2位に輝く。パリ国立高等音楽院でブリジット・エンゲラーから薫陶を受けた後、アルフレッド・コルトーが設立したエコール・ノルマル音楽院でレーナ・シェレシェフスカに師事。ハンブルク音楽演劇大学のエフゲニー・コロリオフのもとでも研鑽を積んだ。さらに、ジョージ・ペーリヴァニアンに師事しオーケストラ指揮を学ぶ。
2015年2月、デビューCDとしてミラーレ・レーベルからオール・バッハ・アルバムをリリースし、ディアパゾン・ドールを受賞。同盤は同年11月に、最も優れた14枚のアルバムにのみ贈られるディアパゾン・ドール・オブ・ザ・イヤーに輝いた。2017年5月、同じくミラーレ・レーベルから、ベートーヴェンのソナタ集を発表。

〈演奏曲〉

①-1ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
①-2プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第4番 ハ短調 作品29 「古い手帳から」


 
②小林愛実(日本)

<Profile> 
 2021年10月「第18回ショパン国際ピアノコンクール」 第4位入賞。
7歳でオーケストラと共演、9歳で国際デビューを果たす。これまでに、スピヴァコフ指揮モスクワ・ヴィルトゥオーゾ、ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ、ジャッド指揮ブラジル響、ポスカ指揮チューリッヒ・トーンハレ管など国内外における多数のオーケストラと共演している。
2010年14歳でEMI ClassicsよりCDデビュー。サントリーホールで日本人最年少となる発売記念リサイタルを開催した。2015年10月「第17回ショパン国際ピアノコンクール」ファイナリストとなった。2018年にはワーナークラシックスとインターナショナル契約し、『ニュー・ステージ~リスト&ショパンを弾く』をリリース。最新CDは、『ショパン:前奏曲集 他』。現在、フィラデルフィア・カーティス音楽院で、マンチェ・リュウ教授のもと研鑽を積んでいる。

〈演奏曲〉

②-1ショパン:スケルツォ第1番 ロ短調 作品20
②-2ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調 作品31
②-3ショパン:スケルツォ第3番 嬰ハ短調 作品39
②-4ショパン:スケルツォ第4番 ホ長調 作品54

 

《15分の休憩》


③テオ・フシュヌレ
〈Profile〉
 2018年にジュネーヴ国際コンクール優勝、フランスの「ヴィクトワール・ド・ラ・ミュジーク・クラシック」で器楽奏者部門の新人賞にノミネートされる。同年、トリオ・メシアンのメンバーとしてリヨン国際室内楽コンクールで第1位および5つの特別賞を受賞。ルノー・カプソン、ジェラール・コセ、エリック・ル・サージュなど国際的に活躍する音楽家と共演している。
2018年、ミラーレ・レーベルからトリオ・メシアンとクラリネット奏者ラファエル・セヴェールの共演でメシアン《世の終わりのための四重奏曲》とアデス《コート・スタディーズ》を収録したアルバムをリリース。2020年には、ベートーヴェンのワルトシュタインとハンマークラヴィーア・ソナタを収録した初のソロ・アルバムをドルチェ・ヴォルタからリリース。
「その存在感と充実したサウンドに衝撃を受ける。……フシュヌレは私たちを真の解釈へと誘ってくれる。」(ディアパソン誌)

〈演奏曲〉

③-1フォーレ:夜想曲 第4番 変ホ長調 作品36
③-2フォーレ:夜想曲 第5番 変ロ長調 作品37
③-3バルトーク:ピアノ・ソナタ

〇石井楓子
〈Profile〉

 1991年神奈川県生まれ。桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学卒業。2013年82回日本音楽コンクールピアノ部門において第1位受賞。その後渡欧し、ケルン音楽大学を経てバーゼル音楽院修士課程・演奏家課程を共に最高点で卒業。2019年 第26回ブラームス国際コンクール第3位入賞。また第2回ドイツ・ブラームスコンクール優勝。バーゼル交響楽団、デトモルト室内管弦楽団、N響、読響、東響、京響、日本フィル、新日本フィル、日本センチュリー、神奈川フィルをはじめとする国内外のオーケストラと共演。2019年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。2021年ドイツ・ブリュートナーによるブラームス作品のCDを発売。これまでピアノを江崎光世、加藤伸佳、横山幸雄、村上弦一郎、クラウディオ・マルティネス・メーナー、ゾルターン・フェイエルヴァーリの各氏に師事。ソロ、室内楽奏者として各地での演奏活動に取り組んでいる。

〈演奏曲〉

④ブラームス: ピアノ・ソナタ第3番 ヘ短調 作品5

 

『演奏の模様』

①レミ・ジュニエ

 タイトルに「noble」「sentimentales」という用語を付けているくらいですから、ラヴェルは、この曲をこの様に弾いて欲しいという願いが強かったのでしょう。しかも全8曲のワルツには、標題というか速度記号と表現記号の説明句がすべてに付いていて、そこまで細かく指定したのでした。例えば、

第1曲:抑え気味のテンポで、ーとても率直に

第2曲:十分に遅くー表情を強めに表して

といった具合に。これではピアニストはかなり弾きにくいでしょう。自分らしい個性的な演奏をする余地が狭くなってしまいます。皆同じように演奏したら面白くないことになってしまいます。

 ジュニエは、1曲目などかなりの強さと速いテンポで弾いていました。2曲目はかなり速いテンポで、また6番目など出だしは静かに弾いて、次第にクレッシェンドで最後はかなり激しく強く弾いていました。一曲目はもっと遅いテンポが合う曲だと思いました。

 

②小林愛実

 ショパンのスケルツォ4曲を通して聴けるなんて、普通のリサイタルでもそうちょくちょくあるものでは有りません。一曲一曲が相当な技術と精力を駆使する必要があるので、全曲演奏となると疲れてしまうからです。小林さんは最後の4番でこそ僅かな疲れを見せたものの、1番2番なぞ男性ピアニストにも負けない精力的な強さがある素晴らしい演奏でした。一般的に一番と二番で人気を二分する様ですが、自分としては、二番が最高、特に冒頭序奏のテーマたる非常に特徴的な動機もカッコいいですが、それ以上に続く高音から下向する優雅な主題の後に奏でられる美しい旋律、これがとても好きです。小林さんはこの箇所をまずまず無難に弾き通し、後に続く強奏部や速い箇所も切れ味の良い運指で通し、それに続くゆっくりした抒情性の旋律は女性らしい繊細さで、最後までショパンらしさを失わず見事に弾き切りました。兎に角、手のタッチの強さ(特に指の強さ)は男勝りなものがありますね。骨格ががっしりしていてそれを動かす筋肉も余分な脂肪が無くしなやかで、何にも増して頭脳コンピュータに保存されている二十年以上にも渡る演奏情報が、瞬時に取り出されて手を間違いなく動かすのでしょう。続く3番4番も派手な処は少ない曲ですが、しっかりと地道にショパンらしさが表現されていました。今日は小林さんのこの演奏を聴いただけでも非常に得した気分になりました。

休憩の後は15分の休憩ですが、この小ホールはみなとみらいホールの五階に有り

③テオ・フシュヌレ

 フォーレとバルトークの演奏でした。フランス人のフシュヌレが、フランスとの接点が余り無いバルトークの曲を何故選曲したかは知りませんが、出来たらフランス音楽との係わりのある曲だったらなとも思いました。①のフランス人、ジュニエが選んだのは、ラヴェルとプロコフィエフ。プロコフィエフはロシアの作曲家ですが、バレエ音楽の関係で、パリのバレエ団と関係が深かった関係からの選曲かも知れない?いや何も理由はなく、二人のピアニスト共、単に弾きたいから選んだのかも知れません。

 フォーレのノックターンは、この二つとも明るい側面が有り、調べも安定しいい響きですね。フシュヌレは淡々としかし情感を込めて弾いている様でした。曲の終盤は恰好力強く演奏。フォーレは多くの曲でショパンの影響を受け継いでいますが、ここでもその傾向があります。夜想曲第4番と第5番は1884年の作品、「夜想曲」という標題が聴き手の抱くイメージに似つかわしい音楽になっています。さぞかし良いことのあった日の夜に相応しい曲でしょう。

 バルトークの演奏は曲を通して常に強いリズムを刻み、特に第一楽章(Allegro)では、低音の重さを感じないリズミカルな演奏で、高音と低音が呼応し、最後は猛スピードで終了しました。

 最終楽章では、非常に速いリズムで、どこか異国風というか東方的旋律が猛スピードで最後はピアノが壊れるのではと思う程の激しい打鍵でフシュヌレは駆け抜けました。

 

④石井楓子

 ブラームスの響きは複雑ですが、ちゃんとブラームス特有の旋律を感じることが出来ます。謂わば確定用語検索でなく、あいまい検索をしてもきちんと絞り込めた検索結果が出る様なもの。石井さんはドイツ留学派でブラームスをかなり弾きこなしている様でして、第一楽章からゆっくりの箇所も速い箇所も力強くブラームスの特徴を抽出出来る響きを奏でていました。第二楽章なぞブラームスの美しい旋律を響かせていましたが、最初から一楽章の力演の尾が引いて、かなり力が入っていたため前半の繊細さが少し損なわれていたかも知れません。ところで第二楽章のこのテーマ、何んとなくベートーヴェンのソナタの旋律とリズムが似ているところがありませんか。短いパッセージですが、ソナタ「葬送」の第一楽章のテーマの一部に。石井さんは30分以上のこの大曲を力強く弾き切りました。

 

《アンコール曲》

休憩前に弾いた二人と、後半に演奏した二人が、前半と後半に別々に連弾でアンコール演奏をしました。

(Ⅰ)演奏:ジュニエ & 小林

ラヴェル『マ・メール・ロワ』より

  ・第4曲 美女と野獣の対話

  ・第5曲 妖精の園

 

おだやかな演奏でした。これがラヴェルの曲なのかと、不思議に思えるくらい静かさを感じる曲です。先日のアルゲリッチと海老さんのデュオ演奏会でも、連弾されていました。自分としては、かなり気に入った曲です。

 

(Ⅱ)演奏:フシュヌレ & 石井

ブラームス『ワルツ Op.39」より、第1曲、2曲、6曲、14曲、15曲

 この曲は、全16曲からなるワルツ集です。もともとはピアノ連弾曲集として作曲されたものですが、その後ブラームス自身によってピアノソロ曲にも編曲されました。      

高音部を受け持った石井さんは、しっかりした打鍵でリズムを刻み、低音側のフシュヌレは、良く呼吸が合った演奏を見せていました。

 

 やはり帰路についたのは、18時半過ぎになりました。ランドマークタワーには、早くも毎年恒例の大クリスマスツリーが飾られました。大きな柱に囲まれ、欧州の大寺院内にいる錯覚を覚えます。

ホールのチケット売り場直上の階にも、小振りのツリーが一週間前位からあります。何れのビルも開業25周年記念なのですね。

 港には係留展示されている帆船「氷川丸」にもイルミネーションが施され、遠くの観覧車も視野に入るクリスマス・シーズンへと季節は移って行くのでした。