HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

オペラ速報/ヴェルディ『ファルスタッフ』

ファルスタッフ〈新制作)オペラ全3幕

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 当オペラのチケットは、かなり以前に初日分は購入していたのですが、公演当日の昨日7月16日(金)昼過ぎに、主催者のチケット会社から突然電話が入り、急に中止になったとのことでした。理由は出演者にPCR検査陽性者が出たとのこと。コロナ禍の昨今、いつかはそういうこもあるかな、とは想ってはいましたが、いざ現実となると複雑な気持です。罹患された歌手の方は、本当にお気の毒です。呼吸器を楽器とする職業ですから、コロナには、日頃人一倍注意されていた筈です。最近の東京の新規感染者数は、増加の一歩をたどり、その内半数以上は、感染経路不明というのですから、もうこれは、自己責任では防げません。大分以前にも書きました様に、感染経路不明の原因を科学的に統計的に探究することがなされず、単に、マスク着用、三密防止、会話自粛、飲食店酒類提供自粛、営業時間短縮など従前からの防止策を訴えるだけでは、感染減少はのぞめない段階に至っているのです。テレビのコロナ関係の番組を見ても、コメンテーターも医者も誰もが、明確に指摘しようとしない事は、第1波、第2波、第3波、第4波の感染者数の変化グラフで、緊急事態宣言などにより、各ピークから減少に転じて底を打って、宣言などが解除されるとまたじわじわとカーブは、増加に転じて来る、その繰り返しなのですが、底のミニマム点を、曲線で結ぶと一貫した増大曲線になる事です。これは何を意味するかと言うと、基本的に上記の対策によっては、防げていない感染要因が、第1波の時からそのまま見逃されていて、宣言時の既存の対策によつては、これ以上減らないデッドラインが、次第に上がって来ている事を示します。これが今後も続くと、宣言をしようが何をしようが、感染者数は膨大になって、減らない事態が生ずるのではなかろうかと危惧します。一体どうなってしまうのでしょう?何処かに癌病巣がある筈だけれど、探すのは非常に難しいので、そのままに放置し、対処療法だけしている様なものです。切り札と言われていたワクチン接種が、ここに来て足踏み状態の感もありますし、また何処だったか、最近何十人ものクラスタが発生して、その内8人が、ワクチン接種を二回済ませた人だったというニュースもありました。

 何れにせよオペラ出演者がPCR陽性ということは、一緒に練習を重ねて来た全員が濃厚接触者になるでしょうから、少なくともダブルキャストの第一グループは検査結果が陰性の人であっても、暫くは待機状態になるでしょう。7月18日(日)も出れないでしょうね。

 そういう訳で今回のオペラは、今日、7月17日(土)第ニ日が事実上の初日となりました。プログラムの概要は以下の通りです。

【日時】2021.7.17(土)14:00~

【会場】東京文化会館大ホール

【原作】ウィリアム・シェイクスピア『ウィンザーの陽気な女房たち』
【台本】アッリーゴ・ボーイト
【作曲】ジュゼッペ・ヴェルディ

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指揮】レオナルド・シーニ

【合唱】二期会合唱団

【合唱指揮】佐藤宏
【演出・衣裳】ロラン・ペリー

【舞台監督】幸泉浩司

【出演】7/17(土)・19(月)
ファルスタッフ:黒田博(Br)
フォード:小森輝彦(Br)
フェントン:山本耕平(T)
カイウス:澤原降水(T)
バルドルフォ:下村将太(T) 

ピストーラ:狩野賢一(Bs) 

アリーチェ:大山亜紀子(Sp)
ナンネッタ:全詠玉(Sp)
クイックリー:塩崎めぐみ(Mez)  

メグ:金澤桃子(Mez)

店の主人:木原

掃除婦:望月

召使:小松、重松、山本

それぞれの配役の関係は次の通りです。

ファルスタッフ(テノール):太った騎士                              フォード(バリトン):裕福な男性
アリーチェ(ソプラノ):その妻
ナンネッタ(ソプラノ):その娘                                  メグ・ペイジ(メゾソプラノ)
クィックリー夫人(メゾソプラノ)                                  フェントン(テノール):ナンネッタの恋人
ドクター・カイウス(テノール):ナンネッタへの求婚者                          バルドルフォ(テノール):ファルスタッフの従者
ピストラ(バス):ファルスタッフの従者

【粗筋】(H.P.より) 

 裕福な夫人アリーチェとメグは、金に困った老騎士ファルスタッフからラブレターを受け取る。ふたりが互いのラブレターを見せ合うと、なんと宛名以外は全く同じ文章。あまりに失礼なファルスタッフにあきれ果て、ふたりは一致団結して彼に仕返しをすることに。
アリーチェからの夫の不在中に誘いを受け、ファルスタッフはいそいそと彼女の家へと逢引に出かける。そこへメグが登場し、アリーチェの夫フォードが戻ってくると告げたため、ファルスタッフは絶体絶命。慌てて洗濯籠に隠れたところを召使いに籠ごと川に投げ捨てられてしまう。
ずぶ濡れの、やけ酒をあおるファルスタッフ。そこへ再びアリーチェから逢引のお誘いが。性懲りもなく喜び勇んで真夜中の公園へと向かうと、アリーチェとフォードの娘ナンネッタが妖精に変装して現れ、ファルスタッフをパニックに陥れる。一方、フォードはこのどさくさに乗じて娘のナンネッタを医師と結婚させてしまおうとしていたのだが、それを察知した妻アリーチェの機転で、ナンネッタと恋人フェントンとの結婚をしぶしぶ承諾する。ファルスタッフも自分が騙されたのだと気付き「この世は全て冗談」と歌って大団円となる。

 この歌劇は 、18世紀初頭に生まれたオペラブッファの流れをくむ喜劇で、ヴェルディが最晩年の1890年代に作曲した最後のオペラです。ヴェルディの喜劇オペラは非常に希少で、このオペラは全三幕(各2場)から成り、1893年ミラノ・スカラ座で初演されました。

 粗筋にある様に、主人公ファルスタッフ(以下ではFと略記)の見境い無い色恋ドタバタ劇を中心としていますが、若い娘ナンネッタとその恋人フェントンの恋愛も絡ませています。

【上演の模様】

《第1幕》

場面は、 英国ウィンザーにある居酒屋ガーター亭、主人公のFは酒が大好きで、居酒屋に入り浸っているのです。このウィンザーは、原作となったシェクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』にある設定場所なのです。

 舞台設定を見ると、如何にもオーソドックスなパブレストランといった感じです。店主が、酒を出すカウンターと酒棚は、英国パブ風を若干取り入れているかも知れない。

居酒屋で呑んでいたFの第一声を聴くと、黒田さんは、声量はあるものの何か上ずって歌っている感じでした。また後半の舞台設定は、左右対称に昇降階段を配したフォード邸を模した家屋風のセットで、夫人たち及びナンネッタ達の、行動、歌唱が、一望に見える様にしたのは、すぐれた演出です。冒頭4人の夫人によるFからの手紙を見せ合ってFの企てを読み取る①四重唱 ❝“Fulgida Alice! amor t’offro... Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah! Ah!(光り輝くアリーチェ~ハハハハ)❞の箇所は、夫人たちが快活かつ明晰な分析を行う様子が生き生きと伝わって来ましたが、皆さん大ホールにしては声が小さいので、余り聴き映えがしませんでした。 

 

《第2幕》

再びガーター亭、 先ず手紙に対する嘘の応答をクイックリー夫人から聞いたFが喜び、有頂天に浮かれ歌う②アリア ❝Alice e mia(アリーチェは俺のもの)❞を黒田さんは、バリトンとは言え、ずっしりと良く響く声ではなく、声量はあるのでしょうが、何かややズレている様な、上ずっている様な歌い方でした。クィックリー夫人役の塩崎めぐみさんは、恐らく相当なキャリアの持ち主なのでしょう。ソロは安定した詠唱とかなりホールに通る声で、嘘の伝言をFに伝えていました。ここまででは、本物感があり、一番点を稼いでいたのではないかな? 

そこに登場したアリーチェの夫(フォード)が偽名(フォンタナ)を使って、Fからアリーチェに対する恋心を聞き出し、またアリーチェにそれを伝えて欲しというFの要請を「あいびきは手配済だ」とだますのでした。妻に対して疑心暗鬼となって歌うフォンタナの ③❝È sogno? o realtà?(夢かまことか)❞ をフォード役の小森さんは、まずまずの出来で歌いあげました。それにしても小森さんのメイクは、サザエさんのお父さん張りのカツラをつけ、怒り狂う場面でも、何か憎めないキャラクターを感じます。それが最後は、娘の結婚を認めるやさしさにつながっていくのでしょうか。

 場面は変わりフォード家、言伝て役のクイックリー夫人が奥様達(アリーチェとメグ)に、「Fが騙されてやって来るので、仕返し計画の準備を」と急がせ、アリーチェがリュートを演奏しているとそこにFが登場、④ ❝ Quand’ero paggio del Duca di Norfolk(私は昔は痩せていた)❞ と歌いました。この歌は、アリーチェ役の大山さんとの二重唱ですが、

この辺りからFの歌は、抑制された、如何にも恋心を出す様な声で歌い、かえってそれ以前のがなり立てる様な歌い方と違って、上手に聞こえて来ました。大山さんは、ヴィブラートをかなりつけた上手な歌唱なのですが、先にも書いた様に、大ホール向けとしては、やや物足りない気がしました?まさにアリーチェに肉弾で迫ろうとするF、そこにクイックリー夫人が急ぎ「メグが来ると」伝えると、慌ててFは大きな洗濯物入れの箱(籠?)に隠されます。やって来たメグは「フォードが怒ってやって来る」と話す間もなく到着したフォード達はFを探し出すため家探しをしたのですが、発見されたのはFならぬ、自分の若い娘、ナンネッタと恋人フェントンの愛の戯れの姿でした。

 籠の中のFはアリーチェの召し使達により、皆の見守る中、テムズ川に投げ込まれてしまいます。 

《第3幕》

場面はガーター亭に戻ります。ずぶ濡れになったFが衣服を乾かし、足をお湯に漬けて温まっている。酒をあおりながら⑤ ❝Ehi! Taverniere(おい亭主)❞と早口でなく随分ゆっくりと歌うのですが、これは酔っているからなのでしょうか黒田さんは、怒り心頭といった感じで歌いました。

 再度登場したクイックリー夫人の、こんなことになってアリーチェは後悔している、ウィンザー公園の樫の木の下で逢引きします という言葉に、またまたFは騙されてしまうのです。クィックリー夫人の「すぐにだまされるのだから」という独り言と、一瞬ふんとした態度のFが、瞬間で、偽話にのってくる場面も笑いを誘う場面でした。疑うことが少ないFは元々善良な人間なのかも知れない。それとも見境いの無い恋狂い、女狂い?    説明が抜けましたが、第1幕から、あちこち面白い場面があり、Fの従者のドタバタした動き、Fが居酒屋を自分の家の様の如く、ぬるま湯に漬かったが如く、だらけきった様子でくつろいでいるFの姿自体が、漫画チックで面白さがあります。Fの衣服、太りきった姿かたちも、伝統的なこのオペラのFと変わらず、ヴェルディの初演も、かくの如きかと思わす喜劇役者の外見でした。

 一方フォードも、女房達のFを懲らしめようとする策謀に相乗りしたのでしたが、同時に愛娘のナンネッタを医師のカイウスと結婚させようと二重の計略を立てるのです。当時も医師は結婚相手として魅力的な職業だったのでしょうか?しかしこれを知ったクイックリー夫人たちは一計を立てるのでした。

 3幕後半、場面は変わって逢引予定のウィンザー公園、暗い夜のしじまに、外灯が幾つか灯っており、次第に雲(霧?)を表現するドライアイスの蒸気が漂う不気味な情景になるのです。この辺りの情景作りも、映像を使ったり、鏡面反射を使ったりして上手く表現していたと思います。

 若いフェントンがテノールの美声で、⑥ ❝Dal labbro il canto estasiato vola(喜びの歌は愛しい人の唇から出でて)❞ と恋の歌を綺麗に歌い上げます。(後半はナンネッタの歌声も交えた二重唱になり)、山本さんは、朗々と歌い、(ソプラノの歌も)なかなかのものでした。

 山本さんは今回初めて聴いた歌手ですが、安定性のあるテノールですね。声量がもっとあれば言うことないですが。対する全さんも初めてです。今日は若い二人はピッタリの雰囲気を出していました。

 前後しますが、一計をクイックリ夫人から聞いたアリーチェとナンネッタ(白いレースのガウンを羽織った妖精姿)が登場して、修道士姿のフェントンが現れます。 Fも登場、アリーチェの言葉通り、Fは逢引きしようとした途端、メグが「悪魔がやってくる」と叫び、妖精女王に扮したナンネッタが ⑦❝Sul fil d’un soffio etesio(夏の爽やかなそよ風の中を) ❞ と歌い始めるのです。                        このソプラノアリアは、これまでのヴェルディの多くの悲劇オペラには見られない、無垢の澄んだ見事なアリアです。高音を長く引き伸ばす箇所も全さんはきちんと歌いました    。

また3幕のこの場面では、配役の仮装をどの様に演出するかも注目点の一つでしたが、

Fの角の生えた被り物は、狩をする猟師を模したものなのでしょうか?

悪魔登場のかけ声に、恐れをなし怖くて、地面に伏せるFを、皆寄ってたかってなぶり者にして、仕返しをするのですが、さすがに3婦人は、軽く叩く様子で、残酷場面にしなかったのも、良い演出でした。

 フォードが娘をカイウスに結婚させる企みの最後として、指名した妖精が仮面を取るとそれは娘ではなく、Fの従者バルドルフォだったのです。一方アリーチェの宣言した緑服の妖精と修道士の結婚は仮面を取ると、これこそナンネッタとフェントンの仮装であり、フォードも結婚を認めざるを得なくなって、この恋人同士は目出度く結ばれたのでした。

 終幕間際の⑧全員による、伝統の早口言葉によるフーガ的多声部合唱が響き、F一人の囁きを挟んで、管弦が切れ味良いフィナーレを高らかに鳴らしました。

最後の「すべてこの世は冗談」というFの言葉は、ヴェルディ自信の人生体験の総決算だったのかも知れません。最後にファルスタッフの「すべてこの世は冗談」という言葉に、ヴェルディの言いたかった事が凝縮されていると思いました。

 プロモート・ヴィデオを前もって見ましたが、「誰もが主役になり得るオペラ」と話したキャストがいました。確かに『ma ride ben chi ride la risata final.』です。最後に一番笑ったキャスト、それは一体誰だったのでしょう?