ヘンデルのオペラ『セルセ(Serse)』の第二日目を観て来ました。兎に角面白かった。演奏は、バロックコンサートそのもの、鈴木秀美指揮のバロック・オーケストラでは、如何にもヘンデルらしい響きのアンサンブルを堪能、伴奏の域を越えます。オペラではアリアも聴き応えのある物ばかり、舞台では、ダンスを多く取り入れて内容表現をバックアッブ、選りすぐったアリアを中心に進む物語を、通常のオペラより分かり易くし、かといって演奏会方式とも異なる舞台の醍醐味も感じることが出来る、新しいオペラの形式を創り出している。そうか、これが、「ニューウェーブ」かと納得したり感心したり、演出を手掛けた中村芙蓉さんという名は、今回初めて知りましたが、今日のオペラに関しては、大成功だったっと思います。
このオペラは、ゲオルグ・フリードリッヒ・ヘンデルが 1737-8年に作曲したイタリア語のオペラ・セリアです。オペラ・セリアと言えば一般的に、喜劇オペラ(オペラ・ブッファ)に対して「Seria(伊)=Serious(英)」の意味の如く、Seriousなオペラでした。しかし、今回は、「ニューウェーブ・オペラ」とチラシでも大きく謳っているので、どんな風に演出されたものなのかも、興味がありました。オペラ・セリアはほとんどが宮廷や君主・貴族のために作曲され演じられました。ヘンデルは、ドイツ人作曲家で、1710年に25歳でハノーヴァー選帝侯ゲオルグ・ルートヴィッヒの宮廷楽長となりました。1714年にイングランドでスチュアート王朝の王統が途絶えたため、縁戚だった選帝侯が、英議会などの要請によりイングランド王ジョージ1世として即位したことにより、ヘンデルもその後を追ってたびたび英国に渡り、作曲したオペラなどの上演もして人気を博していて、1727年には英国に帰化しました。
ヘンデルはオペラを約50曲作曲しましたが、没後は大部分が忘れられてしまった。ただオペラの一部、例えば上記の『セルセ(クセルクセス)』中の「オンブラ・マイ・フ(懐かしい木陰よ)」は「ヘンデルのラルゴ」とも呼ばれて親しまれ、そのほか『ジュリアス・シーザー』中のクレオパトラのアリア、『リナルド』の中の「私を泣かせて下さい」などの歌は、現代でも有名な曲として知られています。1990年代当りからはオペラの再興・蘇演が非常に盛んとなり、ヘンデルは、今日では器楽曲よりもバロック・オペラの代表的作曲家として人気が高まっています。こうしたことから今回演奏された『セルセ』はたまにしか上演されないオペラなので、是非観に行きたいと思っていましたが、都合上初日(土)は聴きに行けませんでした。
プログラムの概要は次の通りです。
【日時】2021.5.23.(日)14:00~
【会場】めぐろパーシモンホール
【管弦楽】ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウ(NBO)
【指揮】鈴木秀美
【器楽編成】二管編成弦楽五部5~6型+チェンバロ2+テオルボ+ブロックフルーテ2
【合唱】二期会合唱団
【演出】中村蓉
【監督】大島幾雄
【衣装】田村 香織
【装置】松生紘子
【照明】喜多村 貢
【舞台監督】幸泉浩司
【出演】
セルセ:澤原行正
アルサメーネ:本多 都
アマストレ:長田惟子
アリオダーテ:田中夕也
ロミルダ:塚本正美
アタランタ:新宅かなで
エルヴィーロ:堺 裕馬
【粗筋 H.P.より】
第一幕
フランス風序曲の後、セルセ(Sと略記)王は将軍アリオダーテ(Aと略記)の娘のロミルダ(Roと略記)を見初める。しかしロミルダはセルセの弟のアルサメーネ(Arと略記)とひそかに愛しあっていた。セルセはロミルダと結婚しようとし、それを止めようとしたアルサメーネを追放する。傷心のアルサメーネはロミルダへの手紙を書き、従者エルヴィーロ(Eと略記)にことづける。
一方、セルセには遠い国にアマストレ(Amと略記)という婚約者がいた。アマストレは危険を避けるために男装してセルセのもとまで旅するが、セルセが自分以外の者と結婚しようとしていると知って怒り、男装を解かないままセルセに復讐しようと考える。
第二幕
エルヴィーロが花屋に変装してやって来るが、アルサメーネに横恋慕しているアタランタ(At)がエルヴィーロをだまして手紙を奪う。アタランタはこの手紙を自分あてのものといつわってセルセに渡し、自分とアルサメーネ、セルセとロミルダが結ばれるように画策する。セルセはこの手紙をロミルダに見せるが、ロミルダの愛は変わらない。
ペルシア軍はヨーロッパを攻撃するための橋を建設する。このときセルセはアルサメネに会ってアタランタと結婚するように言うが、アルサメネは自分がロミルダを愛していると主張する。その後、嵐によって橋は破壊される。
アマストレは自殺しようとするが、エルヴィーロに助けられる。その後、ロミルダがセルセに誘惑されて危険な状態になるが、男装したアマストレに助けられる。
第三幕
アルサメネとロミルダに責められ、アタランタは自分の嘘を認める。
セルセに脅迫されたロミルダは、父の将軍が認めるならばセルセと結婚すると言ってしまう。それを物陰から聞いていたアルサメネはロミルダを非難し、ふたりの関係に亀裂が走る。
セルセは将軍に向かって「ロミルダが王家の人間と結婚すること」の許可を求める。将軍は喜んで認めるが、娘の結婚相手をアルサメネだと思いこむ。
セルセがアルサメネを殺すことを恐れたロミルダはアルサメネに危険を告げようとするが、ふたりは喧嘩になる。しかし将軍のところでは結婚式の準備が整っており、ふたりを見るとその場で結婚させる。そこへセルセがやってきて将軍の誤解に気づき、アルサメネにロミルダを殺すように命令するが、アマストレが割ってはいり、自分の正体をあかす。セルセはそれまでの自分の行いを謝罪し、アルサメネとロミルダの結婚を祝福する。
【主な演奏曲目】
〇第一幕
・序曲
・ジグ
・セルセのアリア「オンブラ・マイ・フ」
・シンフォニア
・ロミルダ他のアリオーソ「おお皆さま---」
・ロミルダのアリア「可愛い綺麗なあの小川は」
・セルセ/アルサメーネのアリア「彼女に愛していると伝えよう」
・アタランタのアリア「ええ、そうよ 愛しい方」
・ロミルダのアリア「ましてや心に不実の影がさし」
・アマストレのアリア「姿は変えても心は変わらない」
・兵士合唱「かっての喇叭は戦闘に隊伍を組めと響いたが」
・アリオダーテのアリア「運命(の星)を我が意に従わせようとは思わない」
・セルセのアロア「この心の炎を思えば思う程に
・アタランタのアリア「なよかな仕事、気取った微笑み」
〇第二幕
・エルヴィーロのアリエッタ「美しい庭で咲いたお花はいかが」
・アタランタ及びエルヴィーロのアリオソートとレシィタティーヴォ「泣き暮らすようにと愛は私に定めている」
「ああ!美しいお庭の花はいかが?」
・エルヴィーロのアリエッタ「ああ不実な虎だ!」
・アタランタのアリア「あの方はおっしゃるでしょう」
・セルセとアリアロミルダの二重唱「彼を愛するか」「愛します」
・セルセのアリア「ソナタを蔑む者を」
・ロミルダのアコンバニャート「あの人を愛する?」
・ロミルダのアリア「それは妬みです。」
<30分の休憩>
(二幕続き)
・アマストレのアリア「不実な人よ 私は裏切られました」
・アルサメーネのアリオソーゾ「この苦しみを終わらせるために」
・エルヴィーロのアリア「愛する愛しいバッカスの飲み物の国に」
・アマストレとセルセの二重唱「嫉妬とは大きな苦しみだ」
・ロミルダのアリア「抗う星々の怒りに屈する者は」
〇第三幕
・シンフォニア
・アタランタのアリエッタ「大丈夫よ、お姉様に軽蔑されても」
・アリオダーテのアリア「天井の愛のかくも素晴らしい運命を」
・アマストレのアリア「私の苦悩の原因は私自身にある」
・アルサメーネとロミルダの二重唱「私の真心を余りにも侮辱なさる」
・合唱ゼウスが定めたことを」
・合唱「薄幸の者が」
・セルセのアリア「恐ろしい地獄の残忍な復讐の神々よ」
・合唱「私たちには平和が戻り」
尚、演奏会に来る前に予習として、家にあった3枚のCDを聴いておきました。
Carolyyn Watkinson(Serse;Mezzo) Paul Esswood(Arsamene;Countertenor )
Ortrun Wenkel(Amastre;Contralto) Barbara Hendricks(Romilda;Soprano)
Anne Marie Rodde(Atalanta;Soprano) Urlik Cold(Ariodate;Bass)
Ulrich Studer(Elviro;Baritone) Eensemble Vocal Jean Bridier ・
La Grande Ecurie et la Chambre du Roy Jean Claude Malgoire,Conductor
【上演の模様】
登場人物の配役は先に書いた通りですが、ヘンデルは初演の時、歌手の声域と声種を、以下の様に指定していました。
セルセ(ソプラノカストラート)、アルサメーネ(コントラルト音域の重いソプラノ)、アマストレ(コントラルト)、ロミルダ(ソプラノ)、アタランタ(ソプラノ)、アリオダーテ(バス)、エルヴィーロ(バス)
オペラはレスィタティーヴォで会話が進み、その間に多くのアリアが挟まれています。
以下に自分で聴いて良かった箇所、好きな個所をピックアップしました。
〇第一幕
冒頭最初のアリアが超有名な曲であるのも不思議ですね。
1場
①Serse(王)が歌う
❝ Ombra mai fu di vegetabile cara ed amabile soave più ❞ 「いまだかつてなかった いとしく、優しく、とても心地よき 木の陰よ」
アルサメーネがエルヴィーロを伴って、登場展望台で歌うロミルダに近づきます。
冒頭から驚いたのはダンサー13人が歌手に交じって、というより歌手がダンサーに交じって演技しながら出てきた事。ダンサーは黄色や緑、一部紫の衣装をまとい、セルセ王はシャツにチョッキ、半ズボンに白っぽいソックス姿です。オンブラマイフを歌う時はダンサーが集合、人垣でプラタナスと木陰を表現そのそばでセルセは超有名曲を歌いますが、男の高めの声でのこの歌は合わないのか、良い印象は有りません。先ず元気がない声、王たる堂々さが無い(これはステージが進むにつれそうだったかという理由が分かりましたが)、綺麗な声でない(いつも女声で聴き慣れているからなのか?)先行き案じられました。
2場
②ROMILDA (nel belve dere) (展望台で)
❝O voi, che penate per cruda beltà un Serse mirate,che d'un ruvido tronco
acceso sta,e pur non corrisponde altro al suo amor,che mormorio di fronde❞ 「おお、つれない美女のために苦しんでいるあなたがた、セルセ様のようなかたが ざらざらした木の幹に恋焦がれているのを、あの人の愛には葉っぱのざわめきしか返ってこないのに」としみじみと歌うのです。これはオンブラマイフを皮肉っているのでしょうか?恋人のアルサメーネは従者エルヴィーロを伴い、こっそり歌を聴いています。 ロミルダ役の塚本さんは本格ソプラノの麗しい声で歌いました。
3場
この場に王のSerseが登場、自分に関する歌を誰かが歌っているのを聴いて、アルサメーネに、あの者を知っているか、もっと歌が聴きたいと言うと、ロミルダはさらに清らかさに満ちた歌を歌うのでした。 ③ROMILDA ❝Va godendo vezzoso e bello quel ruscello la libertà. E tra l'erbe con onde chiare lieto al mare correndo va❞
「この小川は自由気ままに 可愛らしく美しく楽しみながら流れていく 草原の間をきらめく波とともに 陽気に海へと駆けていく」 チェンバロ伴奏に時々ブロックフレーテの相いの手が入って、塚本さんが軽快にさわやかに歌ったこの歌もいいですね。
この様な歌を歌って愛を掻き立てる女は、後宮に入れようと思うと王は言うのです。 これも隠れて聴いていたアルサメーネは、自分と愛し合っているロミルダのことなので大慌て、❛歌う者はロミルダという名で、将軍の姫君なので、はした女を入れる後宮には相応しくない❜と王に反対します。すると王セルセはそれでは花嫁としようと言うと、すかさずまた反対して、王女でない臣下の将軍の子なので、玉座には上げられませんと答えます。しかしセルセ王は、ロミルダに執着し、アルサメーネは、そのことをロミルダに伝えてくれといわれても、今度も口を濁しているので王は、自分で伝えに行くといってアリアを歌うのでした、(余が彼女に愛していると告げる・・・・)と。王が退場すると、同じメロディでアルサメーネ歌いました。
S役の澤原さんの歌とAr役の本多さんの歌を比べると男と女の違いと言うより声質の差ですね。前者はやや声が研ぎ澄まされていない、後者は印象に深くない声です。歌は本多さんはうまかった。
4場
Roの心変わりを心配するArが、「古い樫の木でさえも大地震で揺れ動く」と例えますが、Rは決然と心は離れないと言って愛を確かめるアリアを歌います。
(樫の木と言えば、日本にも本当に何百年経つかも分からない程の古木の大木があったことを記憶しています。余談ですが。)
5場
王のSが現われ、思った通りにしようと、Arを即刻出ていけと怒るのですが、Roを手放すと約束すれば、情けを掛けてやると鞭と飴で脅すのです。Arは私は出て行って死んでやると、アリアを歌うのでした。舞台では王の部下らしいダンサー達によって恋人同士は拉致され連れ去られてしまいました。
6場
これまでの様に王Sの横暴な愛情と、恋愛を引き裂かれたRoとArの変わらない恋慕の思いの葛藤に加え、Roの妹アタランタのAに対する横恋慕が物語をややこしくし、彼らのやり取りが第15場まで続きます。ここでは、その中で、聴き処の歌、良かったなと思った場面の歌や印象深い歌を列挙することにします。
6場~7場ではアリアより、むしろその伴奏の器楽曲の方が、とても綺麗に澄んだいかにもバロック調の心地良い響きがありました。印象に残る歌を敢えて挙げれば、7場最後のアリア(不実の影によってでさえも、私の心を裏切りたくはない)でしょうか。
8場で初めて王セルセの許嫁アマストレが、第9場では、Roの父親アリオダーテが登場します。アマストレ役の長田さんは、かなり太い声の男装したら女性と分からないかも知れない声質ですが、良く聞くとやはり女声、ソプラノと言うよりメッゾに近い声。
かなり力強く歌っていました。
④9場の合唱 「人々を軍隊に呼びあつめたトランペットが優しい調べに変わり・・・」と速いテンポで、やや宗教音楽ッポク、勇壮な調べを響かせムーア人との戦争勝利を讃えます
歌を聴いた限り、セットの上の階上で歌う姿を見る限りは男声合唱に聞こえましたが、女声も交じっていたのでしょうか?
11場で王の裏切りを知るアマストレ。ここでの注目歌唱は、 ⑤王のアリア「心の中の炎を思う程・・」です。Sの燃え上がる心の炎と苦悩をゆったりと歌うのですが、ここでの歌い方は歌手によって出来不出来がはっきりする処、S役の澤原さんは、立ち上がりよりは声が出ていましたが、やや物足りない感じでした。
⑤13場でアマストレが歌うアリア「傷ついた私の心は、復讐を立派に果たせるだろう・・・」ここでも軽快な管弦のアンサンブルがバロック特有の透き通った調べを奏で、Am役の長田さんは、それに歌を乗せるのですが、“復讐”という怨念の籠った感じは余りしないアリアでした。
15場、第一幕最後のアリア
⑥「優美な仕草や愛嬌のある笑顔、目くばせで惚れさせられる・・・」と歌うRoの妹アタランタは随分策略家ですね。この歌は軽快でリズムが面白いし、策略を考えること自体漫画チックで滑稽感のあるアリアです。これを新宅さんは生き生きした透明な若い声で歌いました。新宅さんの役柄は性格が決して良いものではなく共感が呼べませんが、ただその歌う歌は場面場面に相応しいしかもコミカルな愛嬌もあって、仲々役柄にマッチした歌手だと思いました。声質は真直ぐの澄んだ良く通る綺麗なソプラノで、例えれば、NHKの子供番組の歌のお姉さんかな?
〇第二幕
1場
冒頭の花屋に扮したElが歌うのですが、今日はこれまたびっくり、花屋でなく花を愛でる、花をあしらった飲み物を出すカフェバーの舞台セットに、ElとArがたむろして飲んだ愚れています。
⑦エルヴィーロは、如何にも滑稽感を表面に出し、お調子者風にして花風味のカクテルを出し、王の城下に潜り込むのでなく、「花やバー」にRoが来ないか待っている様子。
Arに頼まれた手紙をRoに渡すためでした。ここで歌う堺(バリトン)のElは、声質は
まだまだ研ぎ澄まされていない感はありますが、太い魅力的な歌を歌っていました。
それを小耳にはさんだAmは花屋バーで色々聞き出そうとします。ここでのElが歌うアリアもどきのレシィタティーヴォがふざけた調子で面白かった。 ⑧❝Ariodate ,de chisuta citta signor,che stare a re vassallo, aver figlia Romilda,~❞とおどけた調子で歌いました。笑ってしまいます。「セヴィリアの理髪師」バジリオを思い出します。
今日の演出は意外性がある場面もかなり有りましたが、それらは、良く考えこまれた優れた場面設定だと思いました。オペラの本筋から脱線し過ぎていない、というか成程そういうことも有りか!と説得力のある舞台運営でした。しかもSeria でなくComicoなオペラを追求している姿勢が出演者達にも 満ちみちていました。
5場の冒頭で歌うRoの嘆き悲しむみしかも疑心暗鬼の狂乱とまでは行かないですが、怒り狂って取り乱して歌う
⑨「彼を愛せるの?本当ではないでしょう?・・・」は、塚本さんがかなり大声で処によりキーと叫ぶ高音で歌っていました。
7場最後の
⑧Arの嘆きのアリアはしみじみと怒りを腹にしまって歌うのでしたが、天にも恨みつらみを言いたい気持ち、その気持ちを本多さんは相当怒りをぶちまける歌い方で歌っていました。
それから合唱がいいですね。8場冒頭の
⑨「勇敢な心のみが、アジアと対岸を結び付けることが出来た。万歳、万歳、王様!」と歌う軍船の船乗りたちの歌声、スカッとします。この合唱が何回か繰り返されます。
9場で王と弟の対決というか、愛する女をめぐるやり取りがあるのですが、レシィタティーヴォなので歌としては置いておいて、この辺のアリアを挙げるならば、10場のアタランタの「陛下は私に愛するなとおしゃいますが」やセルセ王の「心は希望し恐れる・・・」でしょうか。
11場では雷鳴が鳴る筈なのですが、ティンパニーで表現するのかなと思っていましたが、これは省略。
12場の最初ではアマストレが王に近づき、互いの苦しい気持ちを歌います。
⑩SとAmの二重唱「嫉妬は大いなる苦しみだ。」は交互に別な人に関する愛の悩み・苦しみを歌いますが、澤原さんと長田さんは、相当力を込めていた感じでした。
⑪ロミルダのアリア「抗う星々の怒りに屈する者は」は塚本さんのこのオペラの(タイトルロール)ではないですが、主役とも言える程の立派な歌い振りでした。
〇第三幕 ここに至って、問題をこじらせた手紙のいきさつの真相が明らかにされ、ロミルダとアルサメーレの誤解が解ける場面です。
冒頭のシンフォニアも将に古典音楽の弦の響きを展開する落ち着くいい調べでした。鈴木オーケストラは指揮者のヘンデルを深く良く理解していることが分かるタクトの振り でした。時として歌手のアリアでは手を休めしかし歌う歌手の顔は見つめ目でも合図を出していたのでしょうか。
この楽章では一曲だけ挙げるとしたら11場での
⑫Serseの歌うアリア、❝Crude furie deglorridi abissi~❞ 「恐ろしい獄の残忍な怒りよ・・・」でしょうか。ここでは澤原さんは最後の力を振り絞って、主役はこのSerse
だと謂わんばかりい歌っていました。
満席に近い会場からは終演後大きな拍手が、カーテンコールの度にも鳴り響きました。
兎に角今日のオペラは、非常に楽しかった。これまで何回もオペラを聴いてますが、これまでにない非常に面白い舞台でした。これならば、(字幕だけでは言葉が良く理解出来難い)日本のオペラファンの理解と共感を得ることが出来、さらに広い層にオペラファンが広まっていくのではなかろうかとも思える演奏、演技、演舞でした。