これまで、カウフマンの生の声は聴いたことが無く、カウフマンが2020年にウィーンで行った演奏会を収録した映画が、10月から各地で上映していることは、知っていました。
行きたいと思ってはいましたが、諸般の事情から見に行けませんでした。昨日(11/19)チネチッタの上映最終日に都合を付けて見てきましたのでその時の状況を記します。
【配給元解説】
ワルツとオペレッタの故郷で行われた最新コンサートとインタビューを収録 。
“21世紀のキング・オブ・テノール”と称される歌声をウィーンで生まれた珠玉の名曲と共に大スクリーンと最高の音響で体感。
世界中でチケットが即完!オペラ界で最も“生”で見る事が難しいと言われるカウフマンの最新コンサートを映画館でプレミア体験!!
実力と容姿を兼ね備え、日本でも大きな人気を誇りながらも、近年は来日が実現していないヨナス・カウフマン。本作は、ヨハン・シュトラウスの「こうもり」や「ヴェネツィアの一夜」、レハールの「メリー・ウィドウ」などといったウィーンで生まれた名曲の数々を披露した彼の最新コンサートを、劇場用作品として収録。
カウフマンが愛する街ウィーンをロケーションに、貴重なオフショットを収録!ウィーンの人々や文化、オペラとの歴史的な繋がりを探求するため、プラーター公園、グリンツィングのパブ、ウィーン中央墓地といったオーストリアの名所を訪れるカウフマンを貴重なインタビューと共に収録。
【出演者】
テノール:ヨナス・カウフマン
ソプラノ:レイチェル・ウィリス=ソレンセン
【管弦楽】プラハ交響楽団
指揮:ヨッヘン・リーダー
【会場】ウィーン コンツェルトハウス
【演奏プログラム】
ヨハン・シュトラウス2世、
フランツ・レハール、
ロベルト・シュトルツ他
日本語字幕付(インタビューのみ)/上映時間98分
2020 MORE2SCREEN.ALL RIGHTS RESERVED./提供dbi inc./配給:ギャガ
【演奏曲】
①ヨハン・シュトラウス2世/シュタッラ 『喜歌劇 踊り子ファニー・エルスラーより 《ジーヴェリングのリラの花》』
②ヨハン・シュトラウス2世喜歌『こうもりより 時計の二重唱《しなやかな身のこなし あの魅惑的な腰》 』
③ヨハン・シュトラウス2世喜歌劇『ヴェネツィアの一夜 』より序曲
④ヨハン・シュトラウス2世喜歌劇『ヴェネツィアの一夜より 《魅力あふれるヴェネツィアよ》』
⑤ヨハン・シュトラウス2世喜歌劇『ヴェネツィアの一夜より《ああ、眺めるだけなら素敵なのだが》(入江のワルツ)』
⑥ヨハン・シュトラウス2世喜歌『ウィーン気質より 二重唱《ただこの夢だけは許せない》(ウィーン気質のワルツ)』
⑦ヨハン・シュトラウス2世『チクタク・ポルカ』
⑧エメリッヒ・カールマン 『喜歌劇サーカスの女王より 《星のように美しい、お伽話のような二つの瞳》』
⑨ロベルト・シュトルツ 『プラーター公園は花盛り』
⑩ロベルト・シュトルツ 『行進曲《ウィーンからの挨拶》』
⑪ロベルト・シュトルツ 『喜歌劇 春のパレードより 《ウィーンは夜が一番美しい》』
⑫ヘルマン・レオポルディ『ヘルナルスの小さなカフェで 』
⑬ハンス・マイ 『今日はわが人生で最高の日』
⑭ルドルフ・ジーツィンスキー 『ウィーン、わが夢の町』
⑮フランツ・レハール
『喜歌劇 メリー・ウィドウ よりヴィリアの歌《昔あるところにヴィリアという森の妖精がおりました》 』
⑯フランツ・レハール
『喜歌劇 メリー・ウィドウより 二重唱《唇は語らずとも》(メリー・ウィドウのワルツ) 』
⑰カール・ツェラー 『喜歌劇 小鳥売り より《チロルでは薔薇が贈り物》 』
⑱ペーター・クロイダー 『《お別れには「じゃあね」とささやこう》 』
⑲ゲオルク・クライスラー 『死神ってウィーン人に違いない 』
【演奏の模様】
演奏曲目は大きく分けてAカウフマン独唱、Bオーケストラ演奏、C二重唱 Dソプラノ独唱、で演奏されました。
勿論この映画はカウフマン主役の映画ですからAがほとんどで、Bで間合いと一休みを取って、Cで趣を変え、Dはついでにソプラノの独唱で花を手向けた と言ったところでしょうか。
カウフマンは、独ミュンヘンに1969年生まれの51歳のテノール歌手。ミュンヘンの音楽大学で声楽を学び、チューリッヒ歌劇場、メトロポリタン歌劇場他世界の名だたる劇場でオペラの主役を演じています。
若い時にはリリックテノールでしたが、声帯の故障で発声法を改善し、現在のドラマティコの暗く重い声となったそうです。力強さと繊細さを兼ね備え高音も輝かしく出せる歌手の様です。
さてAの独唱ですが、①の第一声よりこれは本物だといった直感が働きました。兎に角、声に力と声量があり、音程も非常に安定して正確です。
次の独唱は④ですが、声量はあるけれど、乾いた声質というか、パヴァロッティの様な輝き、潤い、は余り感じられません。声域が低くバリトンにかなり近づく「ヘルデンテノール」では、「リリコのテノール」とは自ずから声質は異なるのでしょう。
歌の合間にウィーンの街を散策するカウフマンをカメラが追い、”ウィーンの歌は最初からこういう風に歌うと決めないで、臨機応変に歌う”と話すカウフマンを映します。
④⑤はヨハンシュトラウスⅡ世の喜歌劇『ヴェネツィアの一夜』からの歌ですが、⑥は同じく喜歌劇『ウィーン気質』からの歌です。この喜歌劇からの二重唱は第二幕やフィナーレで歌われるのですが、もともとはオーケストラ曲として作曲したものを喜歌劇に転用しているのです。このオーケストラ版は11月9日、サントリーホール初日のウィーンフィルをアンコールでゲルギエフが指揮して大歓声を浴びた曲です。
カウフマンの二重唱の相手のソプラノはレイチェル・ウィリス=ソレンセン(米国)です。
この歌手は昨年来日した時その歌を聴きました。昨年9月の英国ロイヤルオペラ『ファウスト』で当初予定のソーニャ・ヨンチェヴァの代役としてマルグリートを歌いました。その時の公演の記録を参考まで文末に掲載します。
リサイタルの初めての二重のせいかソレンセンの歌い振りはやや上がっているかの印象。一方カウフマンはソレンセンに近寄ったり表情を様々に変えながら見つめたり、ソプラノをリラックスさせ様としている様子でした。デュエットとしての出来映えはまずまずだったでしょうか。でも「ウィーンかたぎ」という程のウィーンらしい歌い振りでは二人ともなかった。ウィーンを感じませんでした。オーケストラもそうです。チェコのオーケストラのせいでしょうか。他のワルツ的旋律の箇処も、あのウィーンナーワルツ独特の三拍子、「ンジャチャ ンジャチャ」がよく表現で来ていない。これは歌、演奏全体を通して感じた点です。
カウフマンの独唱で一番良いと思ったのは、⑨ロベルト・シュトルツ『プラーター公園は花盛り』でした。少し抑制気味に歌い、歌の最後は長ーく息を伸ばして終了しました。大きな拍手が湧きました。この公園はウィーンの人々の愛する憩いの場で、映像でもカウフマンが公園内でくつろぐ場面を映していました。こうした映像は、コンサートの映像の途中であちこちウィーン市内の景色やカウフマンの語りを映したりして、気持ちや考えを伝え様としていましたが、カウフマンは先ずまじめな人ですね。如何にもドイツ人らしいやや堅苦しさや不器用さまで感じました。南欧の歌手の様なオープンで開放的な明るさとは真逆だと感じました。
オーケストラの演奏は一流のアンサンブルの響きを有していましたが、やはりウィーンらしさは余り感じられませんでした。これはウィーンフィルの演奏をタラフク聴いて間もなくだったからでしょうか?
ソレンセンもソロで一曲歌いました。⑮フランツ・レハール
『喜歌劇 メリー・ウィドウ よりヴィリアの歌《昔あるところにヴィリアという森の妖精がおりました》 』です。
この歌はオーソドックスなソプラノの歌い振りで声も良く出ていて、非常にうまく歌ったと思います。会場からの拍手もカウフマンを凌ぐほどの大きなものでした。
最後の曲⑲ゲオルク・クライスラー 『死神ってウィーン人に違いない 』はオーケストラをカウフマンはストップしてピアノを中央に運びこむ様に要請、ピアノ伴奏で歌いました。この企画はフィナーレとして全く失敗だと思います。ピアノ伴奏の歌が素晴らしいとは全然思えませんでしたし、最後の盛り上がりにも欠けるものでした。
総じての感想は、世界的に人気があるカウフマンは、やはりその声質に合ったオペラを歌うのが最適であって、いつの日か有名オペラのタイトルロールを引っさげて来日公演を行う時が来ることを期待します。
今回の映画鑑賞は、コロナ感染急拡大の情勢下なので、家族の反対もあったのですが、クラシック音楽映画は元々観客が少ない上、最終日だったので観客はさらに少ないだろうという予想のもとに行きました。その通りドンピシャリで、ほぼ劇場貸し切り状態で見ることが出来ました(他に観客が1名いましたが)。コロナ蔓延の昨今ですので、人が少ない所を努めて選んで行動しています。
なおこの映画は渋谷のル・シネマでもやっていると思います。
追記:残念なことに、来週11/27(金)の内田光子さんのコンサートが、中止となってしまいました。来日が出来なくなったそうです。最近のコロナ禍は、日本もひどい状況ですが、欧米はさらに深刻な事態だと聞きます。11/28のグリゴーロ、11/29のバイエルン放送交響楽団、軒並み聴けなくなってしまいました。あ~あ!ワクチン開発は、まだなのですか?
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≪英国ロイヤルオペラ≫
- 『ファウスト』速報・・・【グリゴーロ好調!エンジン全開!!】
東京文化会館での初日を観てきました(2019.9.12.16:30~20:00)。ファウスト役グリゴーロは、パヴァロッティの後継者という人もいる前評判通り、好調の歌を披露し、観衆のやんやの喝采を浴びました。最初の見せ処、第3幕の独唱Cavatine(カヴァティーナ)「Demeure chaste et pure(この清らかな住まい)」では、伸びやかなグリゴーロらしいリリックテノールの歌声が会場一杯に広がり、一瞬の静寂の後に大きな拍手と歓声が会場に響き渡った。 マルガリート役のソレンセン(Sp)は有名なアリア第3幕の「Il était un roi de Thulé (トゥーレの王様がいた)<トゥーレの王様の歌>」の他「宝石の歌」「若しや私が小鳥なら」等の有名な曲たちを、無難に歌い終わりましたが、若干伸びやかさが足りないかな?と思った。第5幕ラストシーンでマルグリートに、「Viens viens,Margueite (逃げよう)」と必死に語り掛けるファウストとの二重唱では、絶望の感情が切々と滲みるソレンセンの歌い振りは尻上がりに調子が出てグリゴーロに負けない強さがありました。まだ若いですし、主役の場数をへ踏めば踏む程うまくなるに違いない。一方、メフィストフィレスは全体を通しての舞台登場率が高く、その出来不出来はオペラの成否に大きく影響します。今回のメフィスト役、ダルカンジェロ(Bs)は第2幕で、「Le veau d'or est toujours debout!(金の子牛はいつも立っている)<金の子牛のロンド>」を不気味さを秘めた力強さで歌いました。堅実なBsと見ました。グノーのこのオペラではその他の登場人物にも、素晴らしいアリアでの活躍場面が割り振られています。 Margueiteの兄のヴァランタンは第2幕でアリア「Avant de quitter ces lieux(国を離れる前に」を歌いますが、ヴァランタン役のデグー(Br)は妹一人残して出征する気持ちに憂いを込めながら、堂々としかも端正な声で歌いあげました。出来が良かったので拍手をしようかなと思った瞬間、オケの音がなり始まり出来ませんでした(同じ様なケースが、先週の『ランスへの旅』でもあった)。第3幕冒頭でジーベルの「Faites lui mes avex…Fleurs écloses près d'elle(彼女に伝えて…を、彼女の近くの花達<花の歌>)」を、ボーリアン(Ms)が 歌いましたが、如何にもフランス風という感じが少し弱かったかな?意識してシャンソン風にやや速いテンポで歌ってみては如何が。
その他合唱もオーケストラもまとまりが良く活躍していました。特に帰還した兵士達の
コーラスは、管弦楽も良く知られている曲がバックなので、相当迫力を感じました。
尚、特筆すべきは、各幕の場面の演出に、バレエや舞踊を多用していることです。さすがバレエ団を抱える来日公演、綺麗なバレエを見る楽しみが、歌を聴く楽しみを倍加したような気がしました。
概要は以上ですが、詳細は後日にします。