ウィーンフィルの公演が11/8からサントリーホールにて開催されていましたが、11/14土の最終日を聴いて来ました。連日の演奏で楽団員の皆さんはもとより指揮のゲルギエフさん、大変お疲れのことと思います。 全演奏会は聴けませんでしたが、都合三回の演奏日に足を運びました。
ウィーンフィル登壇前のステージ
これまでに聴いた演奏曲目は、 (1)プロコフィエフ『ピアノ協奏曲第2番』(2回) (2)プロコフィエフ『バレー組曲「ロメオとジュリエット」』 (3)チャイコフスキー『交響曲第6番悲愴』 (4)チャイコフスキー『ロココ風の主題による変奏曲』 (5)ストラビンスキー『火の鳥』(2回) (6) ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲』 (7)ドビュッシー『交響詩「海」』
他に、アンコール曲 (8)チャイコフスキー『「四季」より10月秋の歌』(ピアノ独奏) (9)チャイコフスキー『「眠りの森の美女」から第4曲(パノラマ)』(2回) (10)ショパン『ワルツ7番嬰ハ短調』(ピアノ独奏) (11)バッハ『無伴奏チェロ組曲第3番より「ブーレ」』 (12)J.シュトラウスⅡ世『ワルツ「ウイーンかたぎ」』 と、少しご馳走を食べ過ぎて消化不良気味に似た状態でした。もう少し充実した記録を残したかった思いはあります。 今日の演奏会の概要は以下の通りでした。
【日 時 】 2020年11月14日(土) 16:00開演
【会 場 】サントリーホール
【出 演 】ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
【指 揮】ワレリー・ゲルギエフ
【曲目】 ①ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲(Prélude à "L'après-midi d'un faune" ) 』
この曲はドビュッシーが詩人マラルメの小説『牧神の午後』に関して書かれた作品である。夏に牧神が昼寝をして夢想に耽る内容で、牧神の象徴であるパンの笛をフルートが演じ重要な役割を担っている。主題はフルートソロの嬰ハの音からスタート 。
②ドビュッシー『交響詩「海」ー3つの交響的スケッチ(La Mer , trois esquisses symphoniques pour orchestre )』
この曲を作曲した1905年は、ドビュッシ-が不倫から発展した女性関係により、妻のロザリーと離婚した年です。不倫相手エンマとは同年に結婚したというのです。結婚前には英国海峡の島やノルマンディーの海岸を彼女と逃避行したという。まるでショパンがジョルジュ・サンドとマジョルカ島に避難したみたく。こうした愛と旅は作曲家の創作エネルギーを噴火させるのでしょうか。
③ストラビンスキー『バレエ音楽「火の鳥」』(全曲、1910年版)
《あら筋》
フォーキンによる『火の鳥』の台本はロシアの
2つの民話の組み合わせによる。ひとつは「イワン王子と火の鳥と灰色狼」で、ツァーリの庭に生える黄金のリンゴの木の実を食べに来る火の鳥をイワン王子 が捕まえようとする冒険譚、もうひとつは「ひとりでに鳴るグースリ」で、不死身のカスチェイ にさらわれた王女のもとを王子が訪れ、王女がカスチェイをだまして魂が卵の中にあることを聞き出す話である。本来は子供向けの話だが、大人の鑑賞にたえるように大幅に手が加えられている 。なお、ストラヴィンスキーの師であったニコライ・リムスキー=コルサコフも共通の題材による歌劇『不死身のカシチェイ』を書いている。イワン王子は、火の鳥を追っているうちに夜になり、カスチェイの魔法の庭に迷いこむ。黄金のリンゴの木のところに火の鳥がいるのを王子は見つけて捕らえる。火の鳥が懇願するので解放するが、そのときに火の鳥の魔法の羽を手に入れる。次に王子は13人の乙女にあい、そのひとりと恋に落ちるが、彼女はカスチェイの魔法によって囚われの身となっていた王女(ツァレヴナ)だった。夜が明けるとともにカスチェイたちが戻ってきて、イワン王子はカスチェイの手下に捕らえられ、魔法で石に変えられようとする。絶体絶命の王子が魔法の羽を振ると、火の鳥が再び現れて、カスチェイの命が卵の中にあることを王子につげる。王子が卵を破壊したためにカスチェイは滅び、石にされた人々は元に戻り、王子と王女は結ばれる 。
【演奏の模様】
①ドビュッシー『Prélude à "L'après-midi d'un faune"』
牧神とはギリシャ神話の半人半獣(顔は人間、角があり四肢はヤギ)の神、パンのことで、葦笛を持って吹きながら農耕や牧畜を司さどっています。
冒頭からフルートの何とも不思議な調べが響きはじめました。このメロディは、最期まで、たびたび出て来るメインテーマです。 第1フルーティストは、凄くいい音色をたてているのですが、心なしか元気がない、やや迫力が足りない感じがします。これは、座席に依るのかな?前回と前々回は、ピアノ演奏があったため、二階の鍵盤がよく見えるLeft席だったので、ステージからの直線距離はかなり短くて、従ってオーケストラの音も随分大きく聞こえたのでした。 それに比し今日は、ステージからの直線距離が比較的遠い、1階の後ろの席だったせいなのかも知れませんが。それともFtが抑えて演奏したのかな?しかし次に続くObもKrも力強さがありましたよ。合いの手を入れるハープ(二台)のポロンポロンという音もいとおかし。
Vn群のアンサンブルが卓越した響きを有したのですが、低音弦がややおしとやかな感じでした。鉄琴やトライアングルなどのパーカッションの音がピリッと利いていて印象的。
指揮のゲルギエフは、今回は背中しか見えないので、身振り手振も表情もほとんど分かりませんが、初日に見た指揮ぶりに近いと思います。
②ドビュッシー『La Mer,trois esquisses symphoniques pour orchestre』
この曲の初版の楽譜の表紙には何と北斎の「波間の富士(富士山はカット)」が掲載されたそうです。
ドュビッシー、ストラビンスキー、壁には浮世絵
ドビュッシーは浮世絵を好み自室の壁にも掛けてあったと言いますから、不倫の事といい随分凝り性なのですね。 この曲の演奏直前に、Hr.が左翼から右翼に移動、その近くにTubが入りました。
この曲は三つの曲から構成されています。 Ⅰ.De l'aube a midi sur la mer(海の夜明けより真昼まで) 確かに、冒頭から暫くは、空は薄明かるくなりつつあるが、しかしまだ黒い帳に覆われた夜の海の、不気味さが抜けきらない情景を浮かびあげらせます。この曲でもFtやObがソロ的に吹く場面があり、活躍。コンマスのソロ的演奏箇所は細い音で綺麗に仕上げていました。
Ⅱ.Jeux vagues (波の戯れ)
寄せては砕け砕けては寄せる波の情景を瞼に浮かべながら聴きました。ここでもコンマスのソロ的活躍がありましたが、線がやや細いかな?後半はかなり強い弦のアンサンブルの中で打楽器が小粒でもピリリと効いていました。
Ⅲ.Dialogue du vent et de la mer (風と海の対話)
低音弦と打楽器のアンサンブルから金管楽器への移行がやはり素晴らしい。
この曲では、木管楽器のソロ的演奏、金管のファンファーレや打楽器の等の活躍場面があって、聴きごたえと見ごたえのある曲でした。強奏の箇所もありましたが、全体としては比較的おとなしい曲でしょうか?
③ストラビンスキー『バレエ音楽「火の鳥」
この曲は1910年パリオペラ座で初演され、大好評を博してストラビンスキーの名を世に知ら示めました。ストラビンスキーは1959年に来日 しN響をこの曲で指揮したそうで す。
マリインスキー劇場火の鳥
【器楽構成】
Ft4(ピッコロ持ち替え )、Ob3、EnHr1、Kr3、BasKr1、Fg3(CntFg持ち替え 1)、Hr4、Tmp3、Trb3、Tub1、Timp、BasDrm、Simb、Tri、グロッケンシュピールシロフォン、チェレスタ、ピアノ、Hrp3、弦楽五部(12-12-10-8-6) 鐘
バレエはめったに観ないのですが、この曲はサントリーホール初日(2020.10.9)に、ゲルギエフの指揮で、ウィーンフィルが演奏しました。過去にも時々聴く音楽です。
【曲構成】
1 導入部
2 カスチェイの魔法の庭園 3 イワンに追われた火の鳥の出現 4 火の鳥の踊り 5 イワンに捕らえられた火の鳥 6 火の鳥の嘆願 7 魔法にかけられた13人の王女達の出現 8 金のリンゴと戯れる王女たち 9 イワン王子の突然の出現 10 王女たちのロンド
11 夜明け
(イワン王子カスチェイ城に突入) 12 魔法のカリヨン、カスチェイの番兵の怪物たちの登場、イワンの捕獲 13 不死の魔王カスチェイの登場 14 カスチェイとイワンの対話 15 王女たちのとりなし 16 火の鳥の出現 17 火の鳥の魔法にかかったカスチェイの手下たちの踊り 18カスチェイ一党の凶悪な踊り 19 火の鳥の子守歌 20 カスチェイの目覚め 21 カスチェイの死、深い闇 22 カスチェイの城と魔法の消滅、石にされていた騎士たちの復活と大団円
まずこの曲は金管楽器の活躍が著しいと思いました。あらゆる吹奏楽器がメロディの長短はあるにせよそれぞれ舞台の全面に躍り出ています。「3火の鳥の踊り」では登場した日の鳥が煌めく炎をキラキラさせながら踊る情景が目に浮かびます。
一番印象的響きは「18カスチェイ一党の凶悪な踊り」でした。Hrn.などの金管と打楽器の響きとリズムがとても邪悪な感じが出ていてまたウィーンフィルのアンサンブルが素晴らしく迫力のあるものでした。尚アンコール演奏が有り、 チャイコフスキー『「眠りの森の美女」から第4曲(パノラマ)』した。この曲は11/7のミューザでの演奏の時も アンコルとして演奏されたものです。 ところで昨年11月には、同じくウィーンフィル来日公演(2019.11./6at ミューザ川崎)で、エストラーダ指揮で演奏されたストラビンスキーの『春の祭典』を聴いたのですが、その時の印象は鮮烈でした。100名を越える大編成でしたが、今回は約80名規模の編成だったせいかも知れませんが、若干違った印象がありました。
今日の演奏で今回の日本でのウィーンフィル演奏会はすべて終了です。何か気が抜けた様な気持ちもあります。11月の今後の海外演奏者来日予定の演奏会はほとんど、中止や延期となっています。グリゴーロのリサイタルなどは一回延期になって、今月末予定だったものが、再延期となり、一年先に逃げて行ってしまいました。中止でないから払い戻しはしませんが、来年やれる見込みはとうなのでしょう。今週は日本においても第3波かと言われている位の感染爆発がありました。でも1500人/日規模ですから今までの日本の感染者数としては大きくても欧米各国と比べたら何十分の一か百分の一の小さい数です。
オーストリアでも感染者が爆発的に増えていて、外出禁止令を含む外出制限が出ているとのことです。挙句に最近、テロまで起きたらしい。NHKネットニュースでウィーン支局長の近況報告が掲載されていましたので参考まで転載します。 ウィーンフィルの皆さんご家族が心配でしょうから一時も早く帰国されたいでしょう。でも帰国後の演奏活動は思うようにならないかも知れません。暫く日本の温泉にでも漬かって、ゆっくり疲れを癒やされては如何が?
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《参考》
『 新型コロナウイルスNHKDATAニュース』 新型コロナ 世界からの報告『2度目の外出制限。ウィーンは今』 2020年11月12日
「音楽の都」ウィーンのあるオーストリア。実は、ヨーロッパでは新型コロナウイルス対策の“優等生”として評価されてきた国のひとつです。そのオーストリアでもここにきて再び感染が拡大し、2度目の外出制限に踏み切ることになりました。ウィーンの禰津博人支局長が現地の様子を伝えます。
<”優等生”のオーストリアは今ー> オーストリアは、春先の感染拡大の第1波では、ヨーロッパでもいち早く、外出制限に踏み切り、封じ込めに成功。 その後、制限を段階的に緩和して、経済活動の再開に道筋をつけました。 ヨーロッパでは、その取り組みは”優等生”として評価されてきました。 オーストリア政府は9月から、「コロナ信号」という取り組みを始めています。 緑、黄、赤、オレンジと信号機のように感染のリスクを示し、リスクに応じて、自治体ごとに柔軟な感染対策を行うというものです。経済回復に深刻な打撃を与えかねない2度目のロックダウンは何とか避けたいというねらいからです。
<2度目の外出制限で街はー> 9月上旬は「コロナ信号」は緑色の地域が目立っていました。しかし10月に入ると、感染は再び拡大し、10月下旬には1日の感染者が5000人を超えました。その結果、11月上旬には、「コロナ信号」は、「最も危険」を示す赤一色に全土が染まってしまいました。 オーストリアは医療体制が充実していますが、それでも政府は、このペースが続けば、11月中旬にはICU=集中治療室が限界に達するおそれがあるとしています。 そして、ここに来て、ついに、2度目の外出制限に踏み切らざるをえなくなりました。 11月3日から始まった外出制限は、飲食店の店内営業の禁止(デリバリーなどは可)、観光目的のホテル営業禁止、原則、夜間外出禁止などです。 街中で話を聞くと「感染を抑えるためにはしかたがない」と理解を示す人も。 一方、レストランの経営者などからは悲痛な声も聞かれます。 ウィーン下町で伝統的なオーストリア料理を振る舞う、ヨーゼフ・グルーバさんのレストランでは、最初の外出制限では、例年のわずか1割にまで売り上げが落ちました。 その後、制限が緩和され、この秋、ようやく6割ちかくまで戻っていたやさきに、2度目の外出制限となりました。 オーストリアではこの時期、ガチョウ料理を楽しむ習慣があります。 グルーバさんはテイクアウトなど店外販売に望みをつないでいますが、販売開始した初日に訪れた客は1人もいませんでした。 「先行きがみえません。クリスマスになっても、本当に外出制限が解除されるのか不安です。テロも起きたので多くの人が気軽に外食できなくなるのではとも考えてしまいます」 影響は”音楽の都”にも 「音楽の都」ウィーンも大きく揺れています。 9月からはウィーン国立歌劇場でオペラが再開。多くの音楽家も活動を本格化させようとしていました。 しかし、外出制限で、11月は、劇場や博物館は閉鎖され、コンサートなどイベントはすべて中止になりました。 その影響は日本人にもー。 ことしのヨハネス・ブラームス国際コンクールで優勝したソプラノ歌手、森野美咲さんと、このコンクールで最優秀伴奏者に選ばれたピアニスト、木口雄人さんは、11月、コロナ禍で初めてとなる小規模のコンサートを行おうと準備を進めていました。 ところが、外出制限でキャンセルせざるを得なくなりました。 森野さんはさすがに、ショックは隠せない様子でした。 「やっと舞台に立てると思っていたので、本当に残念でやるせない気持ちです。ウィーンでも感染が拡大しているので、安全のためにはしかたがないという思いもあります。今は我慢、試練の時です」 観光への影響も避けられそうにありません。 オーストリアは、GDPのおよそ15%を観光産業が占める観光立国で、冬は、かき入れ時です。しかし、例年多くの観光客が訪れる、ウィーン名物のクリスマスマーケットも、11月中の開催は見送られました。 また、オーストリアは、ウインタースポーツも盛んで、毎年、ヨーロッパ諸国のスキー客の半分以上がオーストリアを訪れます。 しかし、この冬は、コロナの影響でヨーロッパ諸国との往来の規制が強まっており、ドイツなど国外からのスキー客も見込めない状況です。 「この冬の観光客は半分以下になりそうです。12月には何とかスキー場をオープンしたいのですが、感染者が増えているので、今後どうなるかも不透明です」
<テロが追い打ちー>
そんな、感染再拡大で深刻な影響を受けるオーストリアに追い打ちをかける事件がー。 「こちらには近づかないで!」記者(私)が突然、警察官に止められたのは11月2日夜8時半頃。その日の取材を終え、ウィーン中心部にある支局を離れ、駅方面に向かったところでした。中心部の繁華街は、見たことがないほど警察車両や警察官の姿で物々しい雰囲気に。一体何が起きているのか。 事態が飲み込めない中、数分後、「市内で複数の銃撃音。多くの市民が逃げている」という情報が飛び込んできました。 銃撃があったのは、新たなコロナ対策として、1か月にわたる外出制限がまもなく始まるというタイミングでした。 ヨーロッパでは治安の良さで知られるオーストリア、そしてウィーン。 現場付近は今も多くの弾痕が残され、テロの衝撃を物語っています。 市民からは深い悲しみ、やり場のない声が聞かれました。 「私のウィーンで、こんなことが起きてしまうなんて。これまで信じていたものが失われてしまいました。」 「すでにコロナや、経済の落ち込みで我々は苦しんでいる。さらにテロまで起きてしまうなんて、一体誰に祈ればいいのでしょう」。 ウイルスが再拡大するなか、テロが首都を襲うという、深刻な事態。オーストリアの人たちの間では、大きな不安が広がっています。 そんな中、多くの市民から聞かれたのが「いつものクリスマスを迎えたい」。 私もそう願うばかりです。
NHKウィーン支局長 禰津 博人 (ねづ ひろひと)