【日時】2022.10.18.(火)19h~
【会場】サントリーホール
【管弦楽】パリ管弦楽団
【指揮】クラウス・マケラ
【独奏】アリス=紗良・オット(Pf.)
〈Profile〉
ドイツ語圏を中心とする各地でのピアノコンクール優勝経験を持つ。オーストリアのザルツブルク・モーツァルテウム大学でカール=ハインツ・ケマリンクに師事。
父親がドイツ人、母親が日本人。日本語・ドイツ語・英語を流暢に話せる。日本語はミュンヘンの日本人学校で身につけた。
2008年にはドイツ・グラモフォンと専属契約を結んだ。
2017年5月23日放送の『セブンルール』(関西テレビ)では以下の「ルール」が紹介された。本番前は指を温めるためにルービックキューブを揃える。ステージの上では裸足、家でクラシックは聴かない(番組の取材時には自室でサザンオールスターズを聴いていた)、買い物はインターネットで、ウイスキーはストレート、待ち時間は極力作らない、練習するより経験する、等。
1995年ドイツ連邦青少年音楽コンクール優勝。
1998年イタリア・リゲティ国際コンクール優勝。
1999年ハンブルク・スタインウェイコンクール優勝および特別観客賞受賞。
2000年グロートリアン・シュタインヴェークピアノコンクール優勝。
2001年カール・ラングピアノコンクール優勝。
2002年カール・ラングピアノコンクール優勝。
2003年リンダー・ロータリー・ヤング・ミュージックコンクール優勝、ケーテン・バッハ・青少年コンクール優勝および市長特別賞受賞。バイロイト音楽祭に招かれ、ワーグナー愛用のピアノを使用してリサイタルを開催。
2004年イタリア・シルヴィオ・ベンガーリ・コンクール優勝(史上最高得点)、中村紘子の招きにより日本でのデビューを果たす。ドイツのramレーベルよりCDデビュー。
2005年ヨーロッパピアノ指導者連盟コンクール優勝。
2010年「クラシック・エコー・アワード2010」にてヤング・アーティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞。
【曲目】
①ドビュッシー『交響詩《海》』
(曲について)
《「海」管弦楽のための3つの交響的素描(La Mer, trois esquisses symphoniques pour orchestre )》は40歳になったドビュッシー(1862年~1918年)が、翌年から二三年かけて作曲した管弦楽曲。1905年に発行された総譜の表紙には、葛飾北斎の版画作品が用いられていたことは有名です。
「冨嶽三三十六景《神奈川沖浪裏》」
ドビュッシーは、1899年に結婚したロザリー・テクシエ(愛称リリー)という11歳年下の妻がいたが、『海』を作曲中の1904年に銀行家夫人で同い年のエンマ・バルダックとの仲を深め、ついには不倫の間柄となった。 ドビュッシーは7月にリリーを実家に送り返すとエンマと逃避行に旅立ち、イギリス海峡にあるジャージー島、ドーヴァー海峡に面したノルマンディー地方のディエップを順に巡り、9月下旬にパリに戻った。その後、ドビュッシーとリリーの別れ話はリリーのピストルによる自殺未遂(10月13日)にまで発展し、このことは11月4日付けの『フィガロ紙』によって報じられた。「ドビュッシーは銀行家夫人の財産目当てに妻を捨てようとしている」という噂が広まり、ドビュッシーは世間の批判の矢面に立たされ、これまで親交のあった友人の多くも彼から離れていった。
当初リリーにはドビュッシーと別れる意思がなく、離婚に向けた調停は、『海』を書き上げた1905年3月の末になってようやく始まることになった。話がまとまるまでにはさらに数ヶ月を要したが、結局、ドビュッシーは1905年7月17日に正式にリリーと離婚し、エンマを以降の生涯における伴侶とした。エンマはこの時すでにドビュッシーの子供を身ごもっており、同年10月30日にはドビュッシーとエンマの娘、クロード=エンマ(愛称シュシュ)を出産した。それは『海』の初演が行われた約2週間後のことである。
②ラヴェル『ピアノ協奏曲ト長調 』(ピアノ:アリス=紗良・オット)
(曲について)
ラヴェルは、1928年に行った自作を指揮してのアメリカ合衆国演奏旅行が大歓迎で迎えられたことから、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、アジアを回る大規模な2度目の演奏旅行を計画し、これに向けて自身がソリストを務めることを前提としたピアノ協奏曲の作曲にとりかかった。ラヴェルの友人ギュスターヴ・サマズイユによれば、ラヴェルには1906年に着手したものの未完で終わってしまったバスク風のピアノ協奏曲『サスピアク=バット』(“Zazpiak Bat”)があり、この主題の一部がピアノ協奏曲に転用されたとされる。
作曲は1929年に着手されたが、同年冬からは『左手のためのピアノ協奏曲』との同時進行となり、『左手のためのピアノ協奏曲』完成からさらに丸1年を経過した1931年にようやく完成した。
完成当初、ラヴェルは自身のピアノ兼指揮で初演することを望んでいたが、自分の力量を見極めて(体調不良で医者から静養を薦められたこともあった)、信頼するピアニスト、マルグリット・ロンに独奏を任せた。2か月近いリハーサルの末、1932年1月14日、パリのサル・プレイエルにおいて、ロンの独奏とラヴェル自身が指揮するラムルー管弦楽団によって行われた初演は大成功をおさめ、作品は初演ピアニストのロンに献呈された。ただし、初演の時の実際の指揮者は、ペドロ・デ・フレイタス・ブランコであったという説もある。初録音のレコードはフレイタス・ブランコが指揮し、ラヴェルはレコーディング・ディレクター的な立場だったにも拘らず、マーケティング面を考慮してラヴェルが指揮したことにされたという。
当初予定されていた演奏旅行はラヴェルの健康状態の悪化により、ウィーン、プラハ、ロンドン、ワルシャワ、ベルリン、アムステルダムなど、ヨーロッパの20の都市を回るものに縮小されたが、ピアノ協奏曲は各地で好評をもって迎えられ、多くの会場において、鳴り止まぬ拍手に応えて第3楽章がアンコール演奏された。
③ストラヴィンスキー『火の鳥 <全曲版>』
(曲について)
セルゲイ・ディアギレフ(19世紀終盤から20世紀初めにかけて活躍したロシアの総合芸術プロデューサー)は1910年のシーズン向けの新作として、この題材によるバレエの上演を思いついた。最初、ニコライ・チェレプニンが作曲を担当することになっていたが、不明な理由によって手を引いた。『魔法にかけられた王国』作品39(1912年出版)の一部に、この時にチェレプニンが作曲した音楽が含まれる。ついで1909年9月にアナトーリ・リャードフに作曲を依頼したが、これはうまくいかなかった。リャードフの怠け癖によって作品が出来上がらなかったという逸話が有名だが、実際にリャードフがディアギレフの依頼を引き受けたという証拠は残っていない。ディアギレフはほかにグラズノフや、ニコライ・ソコロフにも依頼したかしれない。しかしいずれもうまくいかなかったので、1909年の公演で『レ・シルフィード』の編曲を依頼した若手作曲家のストラヴィンスキーに作曲を依頼し、ミハイル・フォーキンにストラヴィンスキーと相談しながら台本を作成するよう指示した。フォーキンは指示通りストラヴィンスキーと相談しつつ台本を仕上げた。ほどなく並行して作曲していたストラヴィンスキーも脱稿した。依頼を受けてから半年あまりであった。
初演は1910年6月25日にパリ・オペラ座にて、ガブリエル・ピエルネの指揮により行われた。
【演奏の模様】
①ドビュッシー:交響詩《海》
今回のマケラの演奏はBプログラムという事ですが、この『海』は、さきおとといの池袋芸術劇場のAプログラムでも演奏された曲です。今回の演奏は前回とどう違うのか同じなのか耳を澄まして聴きました。三管編成弦楽五部16型
Ⅰ. De l’aube midi sur la mer
静かに弦とハープ、ミュートトランペットが絡みながら神秘的な夜明けの時を告げていきます。ゆらりゆらりと、まるでゆっくりした映像のように海は戯れ始めるのが目に浮かびます。
波をはじけて柔らかく反射する光を表すが如きハープの音は、真昼へと向かう壮大な音楽へと昇華して、次第に真昼へと推移していくよう。
Ⅱ. Jeu de vagues
波たちが活動的に元気よく戯れます。弦の小刻みのアンサンブルに管の響きが絡み合い、はじける水しぶきたちの姿が、まるで海の妖精であり色彩豊かに舞い上がるイメージ。
太陽の光を集めて反射し、美しく光る海面が目の前に展開するかの様な管弦の響きをマケラは引き出していた。
Ⅲ. Dialogue du vent et de la mer
低音弦楽がなりだすと、海が少し荒れはじめ、波は大きくうねり始める様。そしてスピードを速めて通り過ぎていく風…さらに荒れる海、音を立てて激しく唸る海、切り裂くように吹きすさぶ、風、風、風。風は海をもてあそび、海は負けじと大きな波しぶきを弾き返す。そんな躍動感でいっぱいの風と海とのダイアローグです。Timp.の響きもHrn.とVn.の掛け合いもまた良し。
この曲を聴きながら瞼には、かってフランスの画家クールベが描いた沢山の『海』の絵を思い出しました。クールベは1865年から数か月滞在したノルマンディー地方、トゥルーヴィルの海を何枚も数か月で仕上げました。
将にドビュッシーの音で描いた『海』の三楽章は、クールベの描いた海そのものだったのでしょう。
マケラは、三楽章終盤に金管ファンファーレのオプションを入れて演奏していました。
最後、Timp.奏者が両腕を大きく開き、バンバンバン、バンバンバンと強打してダンと一打ちで終わるのは恰好いいですね。
全体的に、マケラ・パリ管の演奏はシャープで流麗でありながら、決して繊細さを失わないオシャレ感がありました。
海の透明感と底知れぬ深い暗さを対照的にえぐり出すのに成功していたと思います。
②ラヴェル『ピアノ協奏曲ト長調 』
この曲はラヴェルの作曲した数少ないピアノコンチェルトで、国際的なコンクールの最終課題曲にもランクインされている難曲の一つとしても知られています。
『左手のためのピアノ協奏曲』とは対照的にオーケストラの規模は小さいが、管楽器や打楽器の多彩さとハープの使用が共通する。
《楽器構成》コンチェルトシフトで、規模縮小です。
独奏ピアノ ピッコロ1 フルート1 オーボエ1 コーラングレ1 E♭クラリネット1 B♭クラリネット(A管持ち替え)1 ファゴット2 ホルン2 トランペット(C管)1、トロンボーン1 ティンパニ2 打楽器2名(大太鼓、小太鼓、シンバル、タムタム、トライアングル、ウッドブロック、鞭)ハープ1 弦五部(第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン8、ヴィオラ6、チェロ6、コントラバス4(五弦のもの)
〇第1楽章 Allegramente(明るく、楽し気に)2/2拍子ト長調
ソナタ形式。ピシャリという鞭の音でインパクト強く始まり、何回かの上行下降クリッサンドを繰返した。ピアノが奏でる複調のアルペッジョに乗ってピッコロがバスク風の第1主題を奏でる。ややテンポを落とし(Meno vivo)、ピアノがロ短調の第2主題を奏でるが、この主題についてはスペイン風であるとも、ブルース風であるともされている。提示部ではさらに3つの主題が現れ、その後、展開部、再現部と進むが、型通りのソナタ形式ではない。特に再現部末尾において、ピアノのカデンツァに先立ちハープ・木管楽器によるカデンツァが挿入されている点は独創的である。途中で仄かな感傷的部分を挟みながらも、終始リズミカルでユーモラスなイメージが続き、ブルーノートの使用やトロンボーンのグリッサンド、トランペットのフラッタータンギングなどにジャズの影響がうかがえる。最後の旋律など様々な時に良く聴く身近なメロディですね。
この楽章の前半では、大抵のピアニストは、上行、下降するクリッサンドを弾き、かなり目立つのですが、今回の演奏では、めだってそうしたものは、無かっ模様。そいいう版があるのですかね?
〇第2楽章Adagio asswai 3/4拍子ホ長調
叙情的なサラバンド風の楽章。ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』や、サティの『ジムノペディ』に通じる擬古的な美しさをたたえていて、モーツァルトのクラリネット五重奏曲に感化されたとも言われます。冒頭のピアノ独奏は、全108小節の3分の1弱にあたる33小節、時間にして2分以上もあり、ピアノ協奏曲としては異例の長さです。旋律は3/4拍子ですが、楽章の終止まで常に続けられる伴奏は6/8拍子のように書かれており、一種のポリリズムを形成しています。長い独奏による主題提示の後に、弦の繊細な和声にのってフルート、オーボエ、クラリネットが途切れること無く旋律を奏で、ファゴットやホルンも出て来て盛り上がった後、イングリッシュホルンのソロが最初の主題を再現するのでした。ここではピアノがアラベスク風の装飾的な音符によってイングリッシュホルンと対話し、短2度や長7度の不協和音を奏でる弦が音楽を一層感傷的なものにしていました。イングリッシュホルンのソロが終わった後、木管楽器が旋律を受け継ぎ、ピアノのトリルで儚げに終わる。簡かつ精緻な筆致による美しい音色は、ラヴェルの作品の中でも際立っているものでしょう。
〇第3楽章Presto 2/2 拍子ト長調
ドラムロールに乗ってトランペットを中心とする金管楽器が特徴的なリズムを刻み、ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカ』やサティの『パラード』に通じる、サーカスやパレードのような雰囲気のメロディが開始されます。第2楽章と打って変わった諧謔さと活力にあふれた動的な楽章です。ピアノはトッカータ風で、只の半音階を左右のオクターヴにずらしたりなど、独特の使い方も見せ、冒頭のリズムのほか、甲高い変ホ調クラリネットによる第1の主題、平行和音による第2の主題、6/8拍子の行進曲風の第3の主題が登場し展開されました。変則的なソナタ形式と見なすこともできます。前2つの楽章に比べると短いですが、「管弦楽の魔術師」ラヴェルらしい巧みなオーケストレーションにより各楽器が躍動し、楽章冒頭のリズムによって華やかに曲が締め括られました。
確かに第一楽章の記号表示の通り、全体としても明るくて愉快な曲に思えました。
アリスさんの演奏は、総じてゆっくりとした(時間をかけた)女性的な柔らかな演奏でした。正直言って、第一楽章や第三楽章前半などでは、もう少し強い打鍵で、大きな音を立てて貰いたいと思った箇所もありました。しかし第三楽章の後半になると、前半の脱兎の如き疾走では、ゴールまで到達出来るのかな?力が残っているのかな?と懸念したのですが、それは全くの杞憂でした。手の平下に指を伸ばし、指を立て気味にして、強く鍵盤を叩くように弾いていました。結果、繰り出す音は、強く大きく、その勢いで一気にゴールにかけこんだのです。弾き終わった瞬間、してやったとばかり、右手を鍵盤から大きく上にあげました。この箇所の演奏を聴いて、なるほど、このピアニストは、こうした弾き方も出来る人なんだと分かり、それ以前の物足りなさが、一気に解消しました。
会場からの大きな拍手を受けて、 ピアニストは、良く会場に透る声で、「一昨日来日したのだけれど、トラブルがあって荷物が日本に同時に着かず、まだミュンヘン空港にあり、今日の演奏会に着る服に困ったこと、管弦楽団員が貸して呉れたので助かった」と、流暢な日本語で語って聴衆を湧かせていました。しかもアンコール曲を弾くとのこと。「以前このホールで弾いた時、随分音響が良い、特に、音がきえる時や音を出し始めた時の微かな音が良いと思ったので、それに相応しいエストニアの曲を弾きます」と言って、弾き始めました。
アルヴォ・ペルト『アリーナのために』です。
非常に静かでゆっくりした曲で、我々日常せかせかと忙しく生きている者が忘れかけている様なメロディで、ホールに綺麗に響いていました。心が洗われる感じでした。
≪20分の休憩≫
③ストラヴィンスキー『火の鳥 <全曲版>』
《楽器編成》ステージ上では休憩中に、元の大編成用の椅子配置に並び替えられました。ハープが一つ追加。
フルート4(ピッコロ持ち替え 2)、オーボエ3、イングリッシュ・ホルン1、クラリネット3、バス・クラリネット1、ファゴット3(コントラファゴット持ち替え 1)、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ、バスドラム、スネアドラム、シンバル、トライアングル、タンバリン、タムタム、グロッケンシュピール、シロフォン、チェレスタ、ピアノ、ハープ3、弦五部(16-16-14-8-6)
バンダ:トランペット3、テナー・ワーグナー・チューバ2、バス・ワーグナー・チューバ2、鐘
《全曲》
1 導入部
2 カスチェイの魔法の庭園
3 イワンに追われた火の鳥の出現
4 火の鳥の踊り
5 イワンに捕らえられた火の鳥
6 火の鳥の嘆願
7 魔法にかけられた13人の王女たちの出現
8 金のリンゴと戯れる王女たち
9 イワン王子の突然の出現
10 王女たちのロンド
11 夜明け
12 魔法のカリヨン、カスチェイの番兵の怪物たちの登場、イワンの捕獲
13 不死の魔王カスチェイの登場
14 カスチェイとイワンの対話
15 王女たちのとりなし
16 火の鳥の出現
17 火の鳥の魔法にかかったカスチェイの手下たちの踊り
18 カスチェイ一党の凶悪な踊り
19 火の鳥の子守歌
20 カスチェイの目覚め
21 カスチェイの死、深い闇
22 カスチェイの城と魔法の消滅、石にされていた騎士たちの復活、大団円
【参考・粗筋】
フォーキンによる『火の鳥』の台本はロシアの2つの民話の組み合わせによる。ひとつは「イワン王子と火の鳥と灰色狼」で、ツァーリの庭に生える黄金のリンゴの木の実を食べに来る火の鳥をイワン王子が捕まえようとする冒険譚、もうひとつは「ひとりでに鳴るグースリ」で、不死身のカスチェイにさらわれた王女のもとを王子が訪れ、王女がカスチェイをだまして魂が卵の中にあることを聞き出す話である。本来は子供向けの話だが、大人の鑑賞にたえるように大幅に手が加えられている。なお、ストラヴィンスキーの師であったニコライ・リムスキー=コルサコフも共通の題材による歌劇『不死身のカシチェイ』を書いている。
イワン王子は、火の鳥を追っているうちに夜になり、カスチェイの魔法の庭に迷いこむ。黄金のリンゴの木のところに火の鳥がいるのを王子は見つけて捕らえる。火の鳥が懇願するので解放するが、そのときに火の鳥の魔法の羽を手に入れる。次に王子は13人の乙女にあい、そのひとりと恋に落ちるが、彼女はカスチェイの魔法によって囚われの身となっていた王女(ツァレヴナ)だった。夜が明けるとともにカスチェイたちが戻ってきて、イワン王子はカスチェイの手下に捕らえられ、魔法で石に変えられようとする。絶体絶命の王子が魔法の羽を振ると、火の鳥が再び現れて、カスチェイの命が卵の中にあることを王子につげる。王子が卵を破壊したためにカスチェイは滅び、石にされた人々は元に戻り、王子と王女は結ばれる。
これらの曲は、やはりバレエを見ながら聴くのが、最上だと思いました。火の鳥が、リンゴを食べに来て軽快に躍る旋律、王子が、火の鳥を捕まえ様として追いつ追われつ、捕まえたり離れたり、パリ管弦楽曲の軽快で迫力の或る演奏で、バレエが踊られるのを見てみたいものです。
オーケストラ演奏の曲の中では、第18曲「カスチェイ一党の凶悪な踊り」が、物凄い迫力なのと如何にもドス黒い感じを出しているので、(いつも注目しているのですが、)今日のマケラパリ管弦楽団は、これまでに無い弩迫力でした。この曲の演奏の時ステージの周囲が赤色の照明で照らされ、邪悪感を出した演出は良かった。主催者のアイデアなのでしょう。
全曲最後の盛り上がりは、ラトル・ロンドン響にも負けない位のホールを揺るがすオーケストラの爆発的な音の塊、それをまともにぶつけられた聴衆は、ただただその衝撃を自らの手を叩くことにより迎え打ちし、少しでも和らげようとするが如き大興奮の渦がホールを飲み込みました。鳴りやまぬ拍手に対し何回目かに登壇したマケラは、英語で感謝とアンコール演奏することを告げ、指揮台に上りました。曲目は、
グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲
でした。この曲は多くの人がいつかどこかで聞いた事のある旋律の曲だと思います。いい調べです。
尚、2020年11月のウィーンフィル来日公演時にドビュッシーの『海』とストラビンスキーの『火の鳥全曲』他を演奏した時のhukkats 記録を参考まで、文末に抜粋・再掲して置きます。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2020.11.14.hukkats Hyoro Roc(再掲・抜粋)
《速報3》音楽大使『ウィーン·フィルハーモニ管弦楽団サントリーホール公演最終日(2020.11.14. 16:00~)』
今日の演奏会の概要は以下の通りでした。
【日 時 】
2020年11月14日(土) 16:00開演
【会 場 】サントリーホール
【出 演 】ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
【指 揮】ワレリー・ゲルギエフ
【曲目】
①ドビュッシー『牧神の午後への前奏曲(Prélude à "L'après-midi d'un faune") 』
②ドビュッシー『交響詩「海」ー3つの交響的スケッチ(La Mer, trois esquisses symphoniques pour orchestre)』
この曲を作曲した1905年は、ドビュッシ-が不倫から発展した女性関係により、妻のロザリーと離婚した年です。不倫相手エンマとは同年に結婚したというのです。結婚前には英国海峡の島やノルマンディーの海岸を彼女と逃避行したという。まるでショパンがジョルジュ・サンドとマジョルカ島に避難したみたく。こうした愛と旅は作曲家の創作エネルギーを噴火させるのでしょうか。
③ストラビンスキー『バレエ音楽「火の鳥」』(全曲、1910年版)
《あら筋》
フォーキンによる『火の鳥』の台本はロシアの
2つの民話の組み合わせによる。ひとつは「イワン王子と火の鳥と灰色狼」で、ツァーリの庭に生える黄金のリンゴの木の実を食べに来る火の鳥をイワン王子が捕まえようとする冒険譚、もうひとつは「ひとりでに鳴るグースリ」で、不死身のカスチェイにさらわれた王女のもとを王子が訪れ、王女がカスチェイをだまして魂が卵の中にあることを聞き出す話である。本来は子供向けの話だが、大人の鑑賞にたえるように大幅に手が加えられている。なお、ストラヴィンスキーの師であったニコライ・リムスキー=コルサコフも共通の題材による歌劇『不死身のカシチェイ』を書いている。イワン王子は、火の鳥を追っているうちに夜になり、カスチェイの魔法の庭に迷いこむ。黄金のリンゴの木のところに火の鳥がいるのを王子は見つけて捕らえる。火の鳥が懇願するので解放するが、そのときに火の鳥の魔法の羽を手に入れる。次に王子は13人の乙女にあい、そのひとりと恋に落ちるが、彼女はカスチェイの魔法によって囚われの身となっていた王女(ツァレヴナ)だった。夜が明けるとともにカスチェイたちが戻ってきて、イワン王子はカスチェイの手下に捕らえられ、魔法で石に変えられようとする。絶体絶命の王子が魔法の羽を振ると、火の鳥が再び現れて、カスチェイの命が卵の中にあることを王子につげる。王子が卵を破壊したためにカスチェイは滅び、石にされた人々は元に戻り、王子と王女は結ばれる。
【演奏の模様】
②ドビュッシー『La Mer,trois esquisses symphoniques pour orchestre』
この曲の初版の楽譜の表紙には何と北斎の「波間の富士(富士山はカット)」が掲載されたそうです。
ドュビッシー、
ストラビンスキー
壁には浮世絵
ドビュッシーは浮世絵を好み自室の壁にも掛けてあったと言いますから、不倫の事といい随分凝り性なのですね。
この曲の演奏直前に、Hr.が左翼から右翼に移動、その近くにTubが入りました。
この曲は三つの曲から構成されています。
Ⅰ.De l'aube a midi sur la mer(海の夜明けより真昼まで)
確かに、冒頭から暫くは、空は薄明かるくなりつつあるが、しかしまだ黒い帳に覆われた夜の海の、不気味さが抜けきらない情景を浮かびあげらせます。この曲でもFtやObがソロ的に吹く場面があり、活躍。コンマスのソロ的演奏箇所は細い音で綺麗に仕上げていました。
Ⅱ.Jeux vagues (波の戯れ)
寄せては砕け砕けては寄せる波の情景を瞼に浮かべながら聴きました。ここでもコンマスのソロ的活躍がありましたが、線がやや細いかな?後半はかなり強い弦のアンサンブルの中で打楽器が小粒でもピリリと効いていました。
Ⅲ.Dialogue du vent et de la mer (風と海の対話)
低音弦と打楽器のアンサンブルから金管楽器への移行がやはり素晴らしい。
この曲では、木管楽器のソロ的演奏、金管のファンファーレや打楽器の等の活躍場面があって、聴きごたえと見ごたえのある曲でした。強奏の箇所もありましたが、全体としては比較的おとなしい曲でしょうか?
③ストラビンスキー『バレエ音楽「火の鳥」
この曲は1910年パリオペラ座で初演され、大好評を博してストラビンスキーの名を世に知ら示めました。ストラビンスキーは1959年に来日しN響をこの曲で指揮したそうです。
マリインスキー劇場 火の鳥
【器楽構成】
Ft4(ピッコロ持ち替え )、Ob3、EnHr1、Kr3、BasKr1、Fg3(CntFg持ち替え 1)、Hr4、Tmp3、Trb3、Tub1、Timp、BasDrm、Simb、Tri、グロッケンシュピールシロフォン、チェレスタ、ピアノ、Hrp3、弦楽五部(12-12-10-8-6) 鐘
バレエはめったに観ないのですが、この曲はサントリーホール初日(2020.10.9)に、ゲルギエフの指揮で、ウィーンフィルが演奏しました。過去にも時々聴く音楽です。
【曲構成】
1 導入部
2 カスチェイの魔法の庭園
3 イワンに追われた火の鳥の出現
4 火の鳥の踊り
5 イワンに捕らえられた火の鳥
6 火の鳥の嘆願
7 魔法にかけられた13人の王女達の出現
8 金のリンゴと戯れる王女たち
9 イワン王子の突然の出現
10 王女たちのロンド
11 夜明け
(イワン王子カスチェイ城に突入)
12 魔法のカリヨン、カスチェイの番兵の怪物たちの登場、イワンの捕獲
13 不死の魔王カスチェイの登場
14 カスチェイとイワンの対話
15 王女たちのとりなし
16 火の鳥の出現
17 火の鳥の魔法にかかったカスチェイの手下たちの踊り
18カスチェイ一党の凶悪な踊り
19 火の鳥の子守歌
20 カスチェイの目覚め
21 カスチェイの死、深い闇
22 カスチェイの城と魔法の消滅、石にされていた騎士たちの復活と大団円
まずこの曲は金管楽器の活躍が著しいと思いました。あらゆる吹奏楽器がメロディの長短はあるにせよそれぞれ舞台の全面に躍り出ています。「3火の鳥の踊り」では登場した日の鳥が煌めく炎をキラキラさせながら踊る情景が目に浮かびます。
一番印象的響きは「18カスチェイ一党の凶悪な踊り」でした。Hrn.などの金管と打楽器の響きとリズムがとても邪悪な感じが出ていてまたウィーンフィルのアンサンブルが素晴らしく迫力のあるものでした。尚アンコール演奏が有り、 チャイコフスキー『「眠りの森の美女」から第4曲(パノラマ)』した。この曲は11/7のミューザでの演奏の時も アンコルとして演奏されたものです。 ところで昨年11月には、同じくウィーンフィル来日公演(2019.11./6at ミューザ川崎)で、エストラーダ指揮で演奏されたストラビンスキーの『春の祭典』を聴いたのですが、その時の印象は鮮烈でした。100名を越える大編成でしたが、今回は約80名規模の編成だったせいかも知れませんが、若干違った印象がありました。
今日の演奏で今回の日本でのウィーンフィル演奏会はすべて終了です。何か気が抜けた様な気持ちもあります。11月の今後の海外演奏者来日予定の演奏会はほとんど、中止や延期となっています。グリゴーロのリサイタルなどは一回延期になって、今月末予定だったものが、再延期となり、一年先に逃げて行ってしまいました。中止でないから払い戻しはしませんが、来年やれる見込みはとうなのでしょう。今週は日本においても第3波かと言われている位の感染爆発がありました。でも1500人/日規模ですから今までの日本の感染者数としては大きくても欧米各国と比べたら何十分の一か百分の一の小さい数です。