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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

ミューザ夏祭りフィナーレ『原田(慶)東響+清塚(Pf.)』コンサート

東京交響楽団 フィナーレコンサート【フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2023】

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【主催者言】
 音楽祭のグランド・フィナーレを飾るのは、東響正指揮者・原田慶太楼!

 スペイン、リズム、ダンス、土着、郷愁……そんなキーワードが思い浮かぶ万華鏡のようなプログラム。バスク地方のリズムが香る「道化師の朝の歌」、キューバ発祥の古いダンスに着想した、物悲しいメロディとリズムが交錯する「ダンソン第9番」、そしてジャズの要素も含むラヴェル最晩年の協奏曲では、マルチに活躍する人気ピアニスト清塚信也が登場。原田が情熱をもって取り組む日本人作品から若き芥川也寸志の出世作も挟み、チャイコフスキーに始まったサマーミューザは再びチャイコフスキーへ回帰、『眠りの森の美女』で華麗なる大団円へ!

 

【日時】2023.8.11.(金・祝)15:00~

【管弦楽】東京交響楽団

【指揮】原田慶太楼

【独奏】清塚信也(Pf.)

【曲目】

①ラヴェル『道化師の朝の歌(管弦楽版)』


②アルトゥロ・マルケス『ダンソン第9番(ダンソン・ヌメロ・ヌエヴェ)』


③芥川也寸志『交響管弦楽のための音楽』


④ラヴェル『ピアノ協奏曲 ト長調 』

 

⑤チャイコフスキー:バレエ組曲『眠りの森の美女』 Op. 66a

 

【プレトーク】14:20~14:40 その日の演奏作品を紐解きます。

 

【演奏の模様】

 今日のプログラムはフィナーレという事もあってか、多彩な曲が演奏されました。ラヴェルから始まり、マルケスというメキシコの現代作曲家、それからチャイコフスキーに至り、芥川也寸志まで含まれます。選曲のテーマは「踊り」だと指揮者の原田さんは言います。そう謂われてみれば確かにラヴェルは将に踊りの曲に打ち込んだし、チャイコフスキーのバレエ曲は勿論、マルケスの曲は、キューバ発祥の音楽どダンスで、メキシコにも広がり、今でも高齢者を中心に人気のあるダンソン(英 DANZON)の音楽とダンスを取り込んだそうな。芥川の曲もリズムに乗った軽妙は調べが、ある種踊り的な感覚をよびさまします。尤も原田さんは、この曲にはロシア的要素が込められており、次のロシアバレエ音楽との関係性や日本の作曲家の曲を広めて行きたいという意図もある様です。

 

 演奏開始前のプレトークでは、先ず指揮者の原田さんが登場、上記の選曲に関して、自分がロシアで指揮を学んでいた頃の恩師が、クラシック音楽に最も近いものはバレエ、それを多く観て勉強しなさいと言われたそうです。バレエ程クラシック音楽が凝縮されているもはない、同感の至りですね。またフィナーレなので華やかなコンサートにしたい、様々な要素を入れた今回のコンサートは一種の ❝ごった煮❞に近いのでそれに相応しい独奏奏者は清塚さんを置いて他にいないので、招聘したと言って早速清塚さんの登場となったのです。その後の二人のプレトークは将に「ボケとツッコミ」漫談さながらの二人のやり取りに会場は大いに沸いて笑いの渦となりました。チケットを買う時このお二方が出席するコンサートなら炎上、間違いなしと踏んでいましたがその通りでした。原田さんの言う❝ごった煮❞とは、クラシックも出来てジャズにも精通し、ラシアンバレエ等の踊る雰囲気も熟知し、またラヴェルの迫力あるジャズっぽい曲も弾ける器用さを有しているのは、ピアニストはゴマンと居る中で、それが可能なピアニストは、清塚さんしかいないという意味だと思います。

 

①ラヴェル『道化師の朝の歌(管弦楽版)』

 原題は『Alborada del gracioso』スペイン語で「おどけ者が歌う朝のセレナーデ」位の意味でしょうか?舞曲的意味合いも含んでいる様です。もともとはピアノ曲として作曲され、その第4曲『鏡』から後にラヴェル自身によって管弦楽曲に編曲されました。ラヴェルにはスペイン系の血が流れていたのですね。楽器編成二管編成弦楽五部12型。弦楽器のPizzicato奏でスタート、リズミカルな舞曲的な調べが繰り広げられ途中から、Fg.の旋律が鬱々と流れると、何回かテーマのリズムが繰り返され、やがてラヴェルらしいエネルギーの発散につながります。スネアのリズム、カスタネットの響きなどスペイン情緒に満ちた曲でした。思ったよりも随分短い曲でした。


②アルトゥロ・マルケス『ダンソン第9番(ダンソン・ヌメロ・ヌエヴェ)』

 Cl.の調べもOb.の調べも錯綜する背景には弦楽の南米的雰囲気を有するスパニッシュリズムが流れ、ブラスと低音弦の次第に速くなる掛け合いアンサンブルは異国風踊りを象徴しているかの様でした。さらに速くなるリズム感はサルサやタンゴ、ボサノバにも相通じる様な錯覚まで想起させられました。これも比較的短い曲、10分足らずだったでしょうか?


③芥川也寸志『交響管弦楽のための音楽』

<楽器編成>木管(ピッコロフルート2、オーボエ2、コーラングレクラリネット2、バスクラリネットファゴット2、コントラファゴット)  金管(ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ)  打楽器ティンパニバスドラムスネアドラムシンバル)  弦楽五部 

 芥川という作曲家の名前は有名ですが、その音楽は意外と知られていない。特に最近の若い人にはと思います。そういう自分だって芥川のレコード一つ持っていないのですからお恥ずかしい。芥川龍之介の文学作品はいまや古典と言ってもいいぐらいで、いまでも地道な読者層はいると謂われます。その三男である也寸志の名は龍之介の大学の同級生、恒藤恭の名前をもらい、別漢字をあてたらしい。ついでの話として、天才龍之介をもってしても、恒藤恭には法科大学の学業では後塵を拝し、いつも2位で恭を抜くことは出来なかったそうです。因みに恒藤は後に京都帝大法学部教授となりました。

 今回の演奏曲は、也寸志が賞を取った出世作です。楽器編成二管編成弦楽五部(12-12-8-8-6)全二楽章構成、

第1楽章Andantino

第2楽章Allegro

 最初木管楽器の緩いパッセジの交錯から弦楽器に依るやはり緩い軽快なアンサンブルに移行、管楽器都弦楽アンサンブルのボールのやり取りが続き、すると低いバスクラリネットの調べが低音菅や低音弦楽器を引きずり出し、再度管と弦のやり取りが繰り返される比較的穏やかな印象の楽章でした。

 しかし次楽章ではスタートと同時にシンバルが打ち鳴らされると、それを合図に金管楽器の小刻みな旋律音が何回か繰り返されました。バレエ音楽のパロディだったかな?それ以降は金管、木管、弦楽アンサンブルが、一気に力を放ち、ただリズムの基本は同じです。後半は原田さんも団員もかなり力を入れて大きな斉奏音を立てる熱演でした。

 

≪20分間の休憩≫

 

 この間、ピアノが舞台中央前面に移動され、オケも再配置されました。

④ラヴェル『ピアノ協奏曲 ト長調 』

 清塚さんは彼方此方で演奏会を開いていることは知っていましたが、生演奏を聴くのは、あれは確か4年前になりますか?例の武道館コンサートに行って聴いて以来です。いつもテレビで拝見していて、器用で頭が切れ、しかも音楽もひけるし、その関係を言葉でも表現出来る新しいタイプの優れた音楽家だと思って見ていました。サマーミューザフェスタのフィナーレは毎年聴きに行くので、そこに清塚さんが出演演奏すると分かり、これは願ったりかなったりだと期待していました。演奏前の原田さんとのトークも期待していた通りだったし、ラヴェルのピアノ演奏も期待どおりでした。この曲は世界的なピアノコンクールの本選の課題曲の一つとされていることもあり、多くのピアニストが珍しくもなくよく演奏会で弾く難曲の一つです。清塚さんの軽妙でジャズっぽいセンスをまじえた洒脱な表現は、将にラヴェルの意を介したが如し。クリッサンドの上行、下行は元気がよく、第一楽章の最後のPf.旋律は美しかったし、第二楽章カデンツァではラヴェルの筋肉質を抑制するかのようなゆっくりと淡々と弾くのもこれも有りかなと思わせるピアニシズム、高音跳躍音がとても綺麗、最後は上行、下行を経て一気に弾き切り、手と腕を大きく跳ね上げるのでした。すぐにピアノから飛び跳ねる様にステージ前に立った演奏者、会場からは惜しみない大きな拍手が捧げられました。確かにマツーエフの様に、重戦車から大砲をバンバン打ちっぱなしの様な迫力からは遠い演奏ですが、バーンスタインのパリ・シャンゼリゼー劇場での弾き振り演奏の録画を見れば、今回の様な演奏も有りかなと納得されます。

 会場の大きな歓呼に答えて、清塚さんはアンコール曲を演奏しました。

 

  《アンコール曲》 ラヴェル『亡き王女のためのCHIIL』

 

 ほとんどジャズと言っていい程のジャズ化された「亡き王女のパヴァーヌ」でした。相当速いテンポで清塚さんは一気に弾き切った感じ。ここで❝ CHIIL ❞という語は、ヒップホップ等の分野のスラングでは結構使われていて、通常の英語とはやや意味が異なります。「心地良いとか」「もったりする」「遊ぶ」「ゆっくりする」とか。 清塚さんの弾いたピアノ演奏は「亡き王女のためのパヴァーヌ」としては通常の一番対極にある演奏だと思いました。

 

⑤チャイコフスキー:バレエ組曲『眠りの森の美女』 Op. 66a

 最後はチャイコフスキーの名曲中の名曲の一つと言っても良いバレエ音楽です。原田さんの東響は(14-12-10-6-6)だったでしょうか。座席からは一部見えない所があります。こうした時プログラムノートに書いて置いてくれると助かるのですが。N響や都響のプログラムには楽器構成が書いてあります。

 一つの演目でも膨大となるバレエ音楽の中から、演奏会用に抜粋されたものがバレエ音楽(管弦楽版やピアノ演奏版他)です。

 今回のバレエ音楽は,演奏会用組曲,op.66aとして、作曲者自身が選んだ次の5曲が演奏されました。

  1. 序奏とリラの精
  2. パ・ダクシオン~バラのアダージョ(第1幕)
  3. 長靴をはいた猫(第3幕)
  4. パノラマ(第2幕)
  5. ワルツ(第1幕)

 流麗に流れる多くの曲、その中には誰でも何時か何処かで聴いた事のあるメロディが耳に届いたことと思います。

 目を閉じるとその美しい踊りの場面が目に浮かぶ様でした。曲も綺麗だしうっとりとしてしまいます。

 

〇第1曲序奏とリラの精

(バレエプロローグ1曲目、3曲目)

 

〇第2曲アダージオ(パ・ダクシオン)

   (バレエ第一幕8曲目)

 

〇第3曲パ・ド・カラクテール(長靴をはいた猫と白猫)

     (バレエ第三幕24曲目)

 

〇第4曲パノラマ

 (バレエ第二幕17曲目)

〇第5曲ワルツ

 (バレエ第一幕6曲目)

 

【参考】

  • 序奏
    曲は邪悪な妖精カラボスを表す,暗くリズミカルな主題が重厚に演奏されて始まります。その後,しばらくしてイングリッシュホルンが対照的になだらかに流れるようなリラの精の主題を演奏します。この2つの主題は,バレエ全体を貫くライトモチーフです。リラの精の主題が大きく盛り上がった後,第1幕に入っていきます。

    ●第1幕
    世継オーロラ姫の誕生に沸くフロレスタン14世の城の大広間。その命名式の場です。時代は17世紀という設定です。
    1)行進曲
    荘厳な行進曲にあわせて貴族たちが入ってきます。式典長のカタラブットは招待客名簿を調べます。その後,モデラートの部分の後,トランペットの響きとともに行進曲に戻ります。ここで王と王妃が登場します。この時,オーロラ姫の入ったゆりかごも運びこまれます。


    2)踊りの情景
    引き続いて,穏やかな音楽に乗って妖精たちが入ってきます。ここで出てくる妖精は次の6人です。

    1.夾竹桃(美の精)
    2.三色ひるがお(優雅の精)
    3.パンくずの精(食物の精)
    4.歌うカナリアの精(雄弁士の精)
    5.激しさの精(健康の精)
    6.リラの精(知恵の精)
    こういった妖精たちを中心とした優雅な踊りが続きます。

    3)パ・ド・シス
    6人の妖精たちがその才能を自己紹介していくような踊りです。まず,ハープの伴奏の上でクラリネットがロマンティックに歌うようなメロディで始まります。この部分では6人の妖精たちがゆったりと踊ります。最後,活発な踊りになった後,各精の短い独舞が6つ続きます。

    (a)アレグロ・モデラート,変ロ長調 クラリネットとオーボエによって穏やかに歌われる曲
    (b)アレグロ,ト短調 
    (c)アレグロ・モデラート,ニ長調
    (d)モデラート,ニ長調 カナリアが歌うような細やかな音の動きが特徴的
    (e)アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ,ヘ長調
    (f)テンポ・ディ・ワルツ,ハ長調,リラの精によるゆったりとしたワルツ,タンブリンの音が印象的です。

    最後,活気に満ちたコーダとなります。6人の妖精+群舞による華やかな踊りとなり,「妖精組曲」が終わります。

    4)終曲
    アンダンテの音楽で始まりますが,リラの精がオーロラ姫の入るゆりかごに近づこうとすると,暗く不気味な音楽に一転し,ねずみの大群に引かれたカラボスが登場します。カラボスは式典長に「なぜ私を招待をしなかったのか」と迫ります。カラボスは「オーロラ姫は16歳になったら紡錘で指を指し,それがもとで死ぬだろう」と呪いの言葉を吐きます。

 

 全体的に良い演奏だったと思うのですが、それまで何曲も弾いて団員の皆さんも指揮者も若干お疲れだったのか、ややラフな処も有り、特に5ワルツなど少し弾き急ぎの感もありました。アンサンブルの清透性を減じていたかも知れません。開演14時からその前のプレトークを含めると悠に2時間は過ぎており、指揮者も少し焦っていたのかも知れません。アンコール曲も弾く予定だったからでしょうか。

 それでも、弾き終わって指揮者が動き出すと満員の館内は喝采と歓声の渦と化しました。若さ溢れる原田さんは少しも疲れを見せず、一度袖から戻るやいなや台に飛び乗り、すぐにアンコール曲を弾き始めました。

 

《アンコール曲》芥川也寸志『行進曲<風にむかって走ろう>』

 この曲もきっとどこかで聴いたことがある曲かも知れません。芥川也寸志の曲とは知らなくとも。

 

 総じて今回のフィナーレコンサートはコロナ禍も一応一段落したことも有り、予想以上の賑々しさと華やかさで始終和やかで面白い雰囲気が続き、これはひとえに、指揮者の原田さんと東響団員の皆さん、及びそれを陰で支えた関係者の皆さん、極上のエンターメントを届けてくれた清塚さん、そして音楽への感心と情熱を失わない満員の聴衆の皆さん(自分もその一人ですが)との協動の作用の結果だと思います。これからも毎年「フェスタ・サマー・ミューザ」が待ち遠しいと思われる素晴らしいコンサートを企画・継続して頂きたいと願います。