HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

竹澤恭子、ベートーヴェン『二大ヴァイオリンソナタ「春」&「クロイツェル」リサイタル』拝聴(2020.10.24土)

 竹澤さんの演奏は、10/8に、サントリーホールで、新日フィルとの共演で、ブラームスのコンチェルトを弾いたのを聴きました。その演奏が素晴らしかったので、機会があればまた聴きたいなと思っていた処でした。
 その機会が割りと早く廻って来たのです。と言いますのも、10月下旬にサントリーホールで五嶋みどりリサイタルがあり、ベートーヴェンの「春」と「クロイツェル」を聴く予定にしていたところ、来日不可ということで中止になってしまったのです。
 いろいろ調べてみると、10月20日(今日)、竹澤さんのリサイタルがあることが分かり、先日、五嶋みどりチケットを払い戻しして、すぐに竹澤恭子リサイタルのチケットを購入したのでした。

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 今回の演奏会は、オールベートーヴェンプログラムということもあり、これまで多くのベートーヴェン関連演奏会が、中止に追い込まれる中、今年も残すところあと少しとなりましたが、ベートーヴェンイアーを彩る貴重な演奏会となりました。
 リサイタルの概要は以下の通りです。

【日 時】

 2020.10.24(土)14h~

【会 場】    
  第一生命ホール(中央区晴海)

【演奏者】
 竹澤恭子(Vn) 
 江口玲(Pf)

【演奏者略歴】
◎竹澤恭子
1982年、第51回日本音楽コンクール第1位、1986年インディアナポリス国際ヴァイオリン・コンクールで優勝。ニューヨーク・フィル、シカゴ響、ロンドン響、ロイヤル・コンセルトヘボウ管など、世界の主要オーケストラと共演。指揮者では、メータ、デュトワ、シャイー、エッシェンバッハ、ブロムシュテット、小澤征爾らと共演している。国際コンクールの審査員も数多く務め、国内外の音楽祭にも出演を重ねる。使用楽器は、ストラディヴァリウス・ソサエティから貸与された1699年製ストラディヴァリウス「レディ・テナント」。2020年4月より東京音楽大学教授を務める。

◎江口玲
 東京藝術大学作曲科、ジュリアード音楽院ピアノ科大学院修士課程、及びプロフェッショナルスタディーを卒業。欧米及び日本をはじめとする各国でのリサイタルや室内楽、協奏曲を数多くのヴァイオリニスト他と定期的に共演。国際的な活躍を続ける。洗足学園音楽大学大学院客員教授、東京藝術大学ピアノ科教授。

【演奏曲目】
①ベートーヴェン『ヴァイオリンソナタ第5番ヘ長調「春」』
②ベートーヴェン『ヴァイオリンソナタ第7番ハ短調』
③ヴァイオリンソナタ第9番イ長調「クロイツェル」

【演奏の模様】
 紫色の薄衣の演奏服を羽織り登場した竹澤さんは、挨拶するとピアノを向いて音を調節し、やおら楽器を掲げると何回となく聴いたことがあるメロディを弾きはじめました。①『春』です。一音聞いただけで、これは素晴らしいと分かる響き、ピアノも申し分なくヴァイオリンと溶けあっています。二人の奏者は、会場一杯に明るい爽やかな春の香りを広げました。ヴァイオリンはもとより、ピアノのメロディも素晴らしく、ひょっとしてこの曲をベートーヴェンは、『ヴァイオリンとピアノのためのソナタ』として、作曲したのではなかろうかとさえ思われました。第二楽章のPfの見せ所と思われるスター部の演奏でも、ゆったりとコロコロと鍵盤上を動き回ります(鍵盤は見えない座席でしたが)。江口さんは、素晴らしい竹澤さんの演奏に、少しも気後れすることなく立派な演奏をしていました。軽快な三楽章、ここはVnとPfが僅かに音をずらして弾いているように聞こえます、あたかもカノンの様に。

 このソナタの最終楽章はお二方共かなり力を込めて弾いていました。竹沢さんは以前聴いた時のブラームスの時より柔和な表情で時折ピッツィを入れながら弾いておられた。VnもPfもこの曲は文句なしのいい演奏でした。 

②この曲はそれ程多くの回数は聴きいてませんが知っていました。

 ドラマティックな冒頭のPfの導入部に竹沢さんが続き、かなりの強奏です。 

 ソナタ7番はソナタ6番と8番の三組でロシア皇帝に献呈されたそうですが、9番の「クロイツェル」に展開されて行く様な雰囲気の部分も感じ取られませんか?何というか籠った情熱の一部発散というか不完全燃焼の情熱でしょうか? 
 単純だが平穏で純粋さを感じるゆったりした二楽章のメロディ、単調なメロディも竹澤さんの手にかかると、高級料理に変化したが如く魅力的なものに感じられて来ます。
 終盤それまでの穏やかな雰囲気を一変させるPfの一撃、江口さんはかなり力を込めて弾いていたのに対し竹澤さんは、同じ主題を穏やかにスタートしました。ピツィと穏やかなVnの調べは最後はかなり弱い重音で演奏を終えました。第二楽章はかなり長く10分程もありました。

 三楽章は軽快な舞曲風のリズムで先導したPfに対し竹澤さんが追い打ちをかけ、二人で掛け合い転がし合い、成熟した演奏でした。短い楽章。

最終の4楽章はPfの強い不気味な音で開始、かなりの速やさで、この不気味な響きはどれだったかピアノソナタを聴いた時にも似たような響きのものを感じました。。
 この②のソナタを聴き終わって、やはり①の「春」の個性豊かで多くの人々にスーと受け入れられる曲とは違った厳粛性、難しさが感じられました。

 

③二十分の休憩の後、後半の曲、「クロイツェル」です。

 この曲は、「春」と同じ様に有名な曲で、セットで演奏されることが多い。やはり誰が聴いても印象深い曲です。しかも「春」と違って、情熱的な激しさも有しています。

 この曲は三楽章構成。リサイタル前半演奏の二つのソナタは四楽章構成でしたが、べートーヴェンのヴァイオリンソナタの中では、かなり三楽章構成が多いのです。1~4番が三楽章、5番「春」は四楽章、6番は三楽章、7番は四楽章、8、9番は三楽章、10番は四楽章です。こうしてみると三楽章構成が7割、四楽章が3割となります。

 ベートーヴェンのピアノソナタですと、1番から4番までは従来一般的な様式の4楽章構成でしたが、5番のソナタで初めて3楽章にして、ベートーヴェンは伝統的なウィーン流を脱したとも言われています。もっともベートーヴェンは3楽章形式にこだわった訳でなく、次のピアノソナタ6番は3楽章ですが、7番はまた4楽章構成に戻り、8番、9番、10番は再度3楽章、11番~13番はまた四楽章に戻っており、こうして色々見てみると、ベートーヴェンが確たる信念で楽章構成を決めていた証拠は無いでしょう。作曲している過程で増補したり削除した結果そうなっただけの事と考えたいです。ただピアノソナタでは、2楽章構成の曲が、「ワルトシュタイン」を含む19番から24番まで(但し23番は3楽章)続くのは何らかの考えがあっての事だと推察されます(後期ソナタにも二楽章のものが多いですね)。ヴァオリンソナタではさすがに2楽章の曲はありません。

 さて演奏の方はどうでしょう。さすがヴァイオリニストに捧げられた曲だけあって、冒頭から技術的に変化と盛り上がりに満ちた旋律で、それを竹澤さんは、最初ゆっくりとした重音演奏で開始、次第に駆け出し始め強奏に至るまで流石と思わせる成熟した演奏でした。その技術の高さは、2楽章でのハーモニック演奏による高音が象徴しています。

普通そうした高音は単に金属質の細く高い音に過ぎない場合が多く、決していい音と思われないですが、今回は違った。幅のある潤いのある非常に高い音楽性のある音でした。

 また楽章によっては緩急が交錯する部分も多く、演奏者によっては極端に速くした遅くしたり、ややわざとらしく曲に表情を付けるケースもありますが、竹澤さんは速くなり過ぎず、遅くなり過ぎず、適度と思えるテンポでメリハリを付けていました。名曲の名人による名器での演奏で、途中余りに心地良くなり眠気をもようしてしまいました(もっともこれは寝不足という個人的な理由もあるのですが、)。 機会があったら今度三大コンチェルトを聴いてみたいと思います(新日フィルとの共演の際はブラームスのコンチェルトでした)。


 一方江口さんの演奏はさすがに素晴らしく、ベートーヴェンはピアノを如何に重用していたかがよく表現されていました。江口さんの演奏したピアノは、通常の黒塗りのピアノではなく、焦げ茶色の如何にも木質感のあるもので、しかもその演奏音がきっかりした感じの音でなく、僅かに雑味の感じられる柔らかな音に聞こえたので、もしかしてピアノがいつも聴くスタンウエイとは違うのかなと思い、休憩時間に舞台に近づいてピアノを良く見たら「Steinway」の小さな字が見えました(どういう訳か&Sonsは書いてなかったですけれど)。

 尚、アンコール演奏がありました。曲目は次の通り。
<アンコール>
④クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ

⑤シューベルト(ヴィルヘルミ編):アヴェ・マリア 

④ではVnはかなり低い音域でゆっくりとした調べを奏で、竹澤さんの醸し出す音は、心に滲みる様でした。

⑤の演奏の前に竹澤さんのトークがあり、コロナ禍の中この演奏会が中止にならなくて、多くの人に聴きに来て頂き嬉しい、コロナの一日も早い終息を願って弾きますと言った旨を語っていました。

 今回の演奏は、NHKFMで12月22日の夜に放送されるとの掲示がありました。

 

≪追記≫

ニュースによると、ウィーンフィル演奏会のチケットを、サントリーホールが追加販売し始めたとのことです。ということは、まだ確定ではないそうですが、9分9厘来日公演が実現されそうなのでしょうか?でも相撲でも、「うっちゃり」とか「勇み足」で負けることがありますからね。

 関係者の皆様のご尽力には敬意を表しますが、あとは「高名の木登り」のたとえを胸に心して見事着地して頂きたいものです。