HUKKATS hyoro Roc

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『森下幸路ヴァイオリンリサイタルーブラームス全ソナタ演奏会』

 

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【日時】2021年4月2日(金)19:00~

【会場】東京文化会館小ホール

【出演】

ヴァイオリン:森下幸路

ピアノ:川畑陽子

 

《経歴》

《森下幸路》

京都市生まれ。4歳よりヴァイオリンを始め、幼少を米国で過ごす。ー丶小林健次、田中千香士、江藤俊哉・アンジェラ夫妻、三善 晃をはじめとする各氏に師事。桐朋学園大学入学後、米国シンシナティ大学特別奨学生としてドロシー・ディレー女史に学び、最優秀賞(オーナーズ表彰)受賞。

 帰国し1989年、桐朋学園大学音楽学部卒業 。在学中より、東京ゾリステンや新星日本交響楽団(現・東京フィル)のゲスト・コンサートマスターを務めるかたわら、92年まで安田謙一郎弦楽四重奏団のヴァイオリン奏者を務めた。また小林道夫氏と「ベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ全曲室内楽シリーズ」を開催、東京における「オール・シューベルト/ヴァイオリン室内楽作品シリーズ」は話題を呼んだ。94年には東京文化会館において、小林道夫氏のピアノにより「オール・シューマン・プログラム」で公式リサイタル・デビュー、紙面でも絶賛された。96年からは毎回テーマを設けて挑む「森下幸路10年シリーズ」と題したリサイタルを東京文化会館と仙台でスタート。第12回からは京都公演も加わる。

 97年にはスペインのセヴィリアでのリサイタルをはじめ、全国各地でリサイタルやクラシック入門、啓発のためのコンサート・シリーズを積極的に開催。ギターの福田進一氏とも全国ツアーをおこなった。2011年より毎夏に北ドイツ音楽祭、13年からたびたび台湾に招かれ、14年にはガーク音楽祭(オーストリア)にも出演。15年にはバルカン室内管弦楽団のゲスト・コンサートマスターに招聘。18年にはモスクワに招かれ、マスタークラス、そしてソリストとしてノヴァヤ・オペラ劇場においてワシリー・ワリトフ指揮オペラハウス管弦楽団と共演した。2000年まで仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター。現在は大阪交響楽団首席ソロ・コンサートマスター及び浜松フィルハーモニーのコンサートマスターの任にある。またオペラの分野では指揮者や歌い手の信頼も厚い。CD等のリリース多数。

 1997年度宮城県芸術選奨新人賞、2005年浜松ゆかりの芸術家顕彰受賞。2013 年より大阪音楽大学特任教授を務めている。【使用楽器 将軍堂(Mr.H.Hiruma)貸与の Antonio Stradivari “Reichardt” 1680

 

《川畑陽子》

5歳よりピアノを始め、1987年桐朋学園大学音楽学部を卒業。同大学ソルフェージュ研究員を経て、94年まで桐朋学園子供のための音楽教室講師を務める。海外ではニース、ザルツブルグ等の音楽祭に参加し、音楽祭記念演奏会に出演。オランダにおける国際コンクールでの伴奏者として、また、97年にはスペインのセビリャにおける芸術祭に出演するなど活発な演奏活動を行っている。ヴァイオリニストの森下幸路とは数多く共演を重ね、常に高い評価を得ている。これまでに、ピアノを徳丸聰子、J.ファッシーナ、B.シキ、G.ヨハネセンの各氏に、室内楽を山根美代子、野島稔、三善晃の各氏に師事。

 

【曲目】

ブラームス:

①ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト長調 Op.78「雨の歌」

 

②ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ長調 Op.100

 

③ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調 Op.108

 

 

【演奏の模様】

森下さんのリサイタルは、昨年の同時期に今回と同じ会場で、全く同じブラームスプログラムで予定されていたものが中止になった模様で、今日はその時以来なのでしょうか?経歴を見ると、かなり経験豊かなヴァイオリニストですが、今回初めて聴きました。

 ブラームスのヴァイオリンソナタは一昨年竹澤恭子さんの演奏他を聞いたことがありますが、連番通して聴いたのは今回が初めてです。参考まで竹澤さんのリサイタルの記録を文末に再掲しておきます。 

①第1番(約30分弱)

 第1楽章の冒頭のメロディは、本来如何にもブラームスの匂い芬々とした特有なもので、表面的には、先輩たち(バッハ、ベートーヴェン、ハイドン、モーツアルト、シューマン)の影響を微塵も感じさせない独特の響きを持っています。しかし森下さんは立ち上がりエンジンがかからないのか、何かふやけた様な感じのシャープさが無い音で、くねくねした調べも不明瞭でした。さらに調子が上がらないのがピアノ伴奏、え、これがブラームス?と思う程、通常だったら響く綺麗なピアノの調べが伝わって来ません。Vnは、ピツツィカートの前の高音は綺麗に出ていました。

主題を繰り返す箇処に続く重音部になると、Vnはやっと調子が出て来たのか、良い音を立てていました。でもVnとPfが、今ひとつ噛み合わない。Pfは、自分のペースで、ズンズン前に進んでいく感じでした。

 第二楽章はかなりゆっくりしたピアノのイントロの後、同様なテンポでヴァイオリンがしめやかな調べを奏で始め、森下さんと川畑さんのアンサンブルがスタートしたのですが、何か心が厳粛な感じがしません。相変わらず、Pfの音がいいとは言えない。でも大分呼吸は合ってきた様ですが、終盤の重音部なぞVnとPfがまだちぐはぐでした。™最後までテンポは崩さず、時折森下さんの出す高音が効果的。Pfの最後の高音も綺麗に聞こえました。

 第三楽章は、この曲が「雨の歌」と後世名付けられた所以となった箇所で、ブラームスの歌曲『雨の歌作品59-3(hukkats注)』のメロディが第三楽章に取り込まれています。歌曲のゆったりした歌の部分より、速いテンポの歌の伴奏ピアノのメロディに注意して聴けば、ヴァイオリンに取り込まれたメロディだと分かります。

 この楽章に入った途端、VnとPfは見違える様な素晴らしい演奏となりました。森下さんは、心を込めて丁寧に音を紡ぎ出し、川畑さんは抑えた演奏で、かなりブラームスのピアノの響きを出すようになっている。二人とも歌う様に弾いていました。

 この楽曲は、立ち上がりこそ今ひとつでしたが、終楽章の雨の歌部分で見事な演奏だったので、「終わり良ければすべて良し」と言えるでしょう。

②第2番(約25分弱)

 第1楽章の冒頭のピアノの穏やかな甘い調べに、すぐヴァイオリンも同調して弾き始め、ピアノとヴァイオリンとが愛をささやきあうのかの如く、いい感じの音で会話は続きます。非常に親しみやすいメロディです。速いテンポになってもその優しさは激しい中でも消えず、この楽章は、今日の森下さんの演奏の中でも一番気に入りました。Pfの音もコロコロと浅瀬の川のせせらぎとなって、Vnの心地良いそよ風を載せている。川畑さんのピアノは、強弱織り交ぜ力強さも出て、ますますブラームスの伴奏の域を越えたピアノの妙意を表現しています。Vnは本当に見違える程の素晴らしい音を出していました。これがストバリのマジックなのでしょうか?仕えるご主人さまの言いなりには、なかなかならないけれど、一旦信頼を獲得すれば、見事な働き手となる。

 こうした流れは2楽章になっても変わらず、ゆっくりした落ち着いた演奏でした(演奏時間も通常より長かった)。

 こうした特徴はブラームスがこれを作曲した時の心境を表していると思われます。即ち1番から7年経った1886年に作曲されたこの曲は、ブラームスの生活面、精神面の充実した状態から生み出されたのでしょう。第三楽章の低い音の演奏も森下さんは良く表現出来ていました。

 ③3番(約30分)

 Vnの第一声からして綺麗な音を立て、冒頭から力強いアンサンブルが流れました。Pfも肩の力が抜けた感じがします。高音が良く鳴っていてff野の吹っ切れたアンサンブルもPfのソロの部分もいい感じです。この楽諸はくねくねと小さな調べが続く箇所も全体としてもかなり暗いイメージを感じました。

第二楽章で森下さんは、息をフット抜いて軽く弦で弓をこすりいい音をたてたり、また重音の和音の響きが良くて、やはり想像していた通りの一流の演奏者であることを示していました。テーマの調べは魅力を感じる響きでした。

後半では軽快なPfの音の流れに、伴奏的にVnが寄り添い、この辺りはPfが主導の感があり、次第にスピードを上げVnは強奏し、Pfはffで力を込めて弾いている、最後のやり切れない心をぶつけるが如くの箇所も息が合ったVnとPfのアンサンブルでした。

 

それにしても①から③何れのソナタでもピアノの活躍が目覚ましいですね。「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」かと思える程、ピアノに命を吹き込んでいます。さすがブラームスです。

 尚、予定の曲の演奏終了後、以下のアンコール三曲の演奏がありました。

  〇リヒャルト・ホイベルガー作曲: 喜歌劇「オペラ舞踏会」 Op. 40 -より第3幕 真夜中の鐘(クライスラーによるピアノとヴァイオリン編)

  〇ブラームス作曲「5つの歌曲より<歌が導く様に>」

  〇R.シュトラウス作曲「モルゲン」

何れも素敵な曲でした。

  三曲目の前に森下さんのトークがあり、「このコロナ禍の時をどう過ごしていたか」を話していました。これまでお世話になった先輩達はどうしているのか気になって、指揮者の外山雄三氏を八ヶ岳のご自宅に訪問したこと、この様な時代に皆のためになるにはどうすればいいか?と質問したこと、そしたら外山さんはそれは私にも分からない、ただ練習をするのみと返答したこと、家に戻ってからひたすら自分の不得意な処や昔習った先生方の指導の言葉を書き留めていたのをおさらいし、その意味をかみしめてひたすら練習の日々を暮らしたこと等を語っていました。

  

(hukkats注)

ブラームスが1873年に作曲した歌曲、『8つの歌曲と歌作品59』の第3曲「雨の歌」のメロディを、ヴァイオリンソナタ1番の第3楽章に取り入れたので後世「雨の歌」の副題が付いた。

 この歌曲の以下の歌詞は、ブラームスの同郷の詩人グロートの作詞。ブラームスはこよなくこの歌を愛していた模様。幼い時の雨の日、友人と遊んだ時の雨の感触を素朴に歌い上げているが、特に赤字部の歌詞などは、ブラームスの音楽創造の糧となっていたとも思える。

Walle,Regen,walle nieder,
Wecke mir die Träume wieder,
Die ich in der Kindheit träumte,
Wenn das Naß im Sande schäumte!

Wenn die matte Sommerschwüle
Lässig stritt mit frischer Kühle,
Und die blanken Blätter tauten,
Und die Saaten dunkler blauten.

Welche Wonne,in dem Fließen
Dann zu stehn mit nackten Füßen,
An dem Grase hin zu streifen
Und den Schaum mit Händen greifen.

Oder mit den heißen Wangen
Kalte Tropfen aufzufangen,
Und den neuerwachten Düften
Seine Kinderbrust zu lüften!

Wie die Kelche,die da troffen,
Stand die Seele atmend offen,
Wie die Blumen,düftertrunken,
In dem Himmelstau versunken.

Schauernd kühlte jeder Tropfen
Tief bis an des Herzens Klopfen,
Und der Schöpfung heilig Weben
Drang bis ins verborgne Leben.

Walle,Regen,walle nieder,
Wecke meine alten Lieder,
Die wir in der Türe sangen,
Wenn die Tropfen draußen klangen!

Möchte ihnen wieder lauschen,
Ihrem süßen,feuchten Rauschen,
Meine Seele sanft betauen
Mit dem frommen Kindergrauen.

 

《hukkatsu記事再掲2019.10.6.》////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////

昨日聴きに行った竹澤さんのコンサートの記録です。

  先週末2019年10月5日(土)竹澤恭子ヴァイオリン・リサイタルを聴いてきました(15h~@川口リリア音楽ホール)。リリアに行くのは、昨年4月以来です。あの時は忘れもせぬ、ピリスの日本最終ピアノ公演を聴き洩らし残念がっていた時、翌日に最終の追加公演があることを知り、主催者に電話してやっとチケットを一つ譲って頂きリリアに駆け付けたのでした。竹澤さんのお名前は依然から存じあげていたのですが、これまで演奏会がほとんどなかったか、あっても気が付かなかったのか、とにかく一度も聴いたことの無い演奏家でした。 実は来週、奏楽堂で漆原朝子さん達のVn演奏会を聴く予定になっているのですが、竹澤さん、漆原さんお二方は1982年第51回日本音楽コンクールで覇を競った間柄でその時は竹澤さんが優勝しました(参考まで、この年のコンク-ルではその後活躍が目立つ錚々たる顔ぶれの方々が上位入賞しています。ピアノ部門の仲道さん、若林さん、声楽部門の釜洞さん、番場さんetc.)それから月日は流れ四十年弱、漆原さんは、芸大教授に大成され、竹澤さんはパリを拠点として目覚ましい活躍をされている国際派ヴァイオリニストに成長されました。そうした方々の演奏会を相次いで聴ける又とない良い機会なのでぜひ聴きに行きたいと思ったのでした。
 曲目は前半が、①クララ・シューマン『三つのロマンスOp.22』②ブラームス『ヴァイオリンソナタ第1番ト長調Op.78「雨の歌」』。後半が③ショーソン『詩曲Op.25』④クライスラー『小品集』から6曲でした。ピアノ伴奏は、津田裕也さん。紺碧色のドレスに身を包んだ竹澤さんが登壇すると会場から静かな拍手が鳴り響きました。リリアには幾つかのホールがあり、今回は、大きなメインホールではなく約600の座席を有する音楽ホールでしたが、木質材が壁と床に貼られ音響効果は良さそう、舞台後方には小さいながらも、立派なパイプオルガンが鎮座しています。開演直前の座席は、前方は一杯で後ろに行くに従い空席がチラホラ、後部座席の2/7位は完全に空いていました。比較的音の小さいVnリサイタルなので、その箇所は未使用にしたのかも知れません。①の曲はa.アンダンテ・モルトb.アレグレットc.情熱的に速く の三つの曲から成り、クララの秘めた情念が伝わって来る様な感じの曲でした。登壇した奏者はにこやかな笑顔だったものが、演奏開始と同時に厳しい表情に変わり、あたかも精魂を込めて音を紡ぎ出している、音の生みの苦しみに耐えながら最適な演奏を探っているかの様子で、これは次のブラームスの時も、ショーソンの時も同じ様子でした。その結果、素晴らしい調べが泉から溢れ出るが如き印象を受けました。またピッチカートの挿入が効果的だった。それにしても使用されているストバリは何と複雑で良い音が出るのでしょう。同じ音を長く伸ばす時、同じ音階で音色が、例えれば黄色にも赤にも青にも微妙に変わるのです。将に七変化の音色。その音を引き出す演奏者の腕前はもう達人の域に達していると言って良いでしょう。次曲②ブラームスのソナタでは重音奏法、ピッチカート奏法、ハーモニックス奏法等々のパーツが各処に嵌め込められていて技術的にかなり難しい曲だと思いますが、竹沢さんはそれを慎重に、だが軽々と弾きこなしていました。この曲では伴奏の津田裕也さんのピアノが特に綺麗に聴こえた。特に第2楽章イントロの独奏など。第3楽章の冒頭は所謂「雨の歌」、自作曲の歌曲のメロディを用いています。ややしんみりしたメロディが流れた。ヴァイオリンで聴くとかなり違った印象のメロディですね。ともかく全体的に一番強く感じたことは、ブラームスはこの曲を「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」としたかったのでは?と思いたくなる程、ピアノの活躍が目立ったということでした。
 休憩を挟んで後半の最初はショーソンの代表作『詩曲』。確かに名人が弾くと益々名曲に聴こえます。表情豊かな演奏で何も言う事が無い素晴らしさです。
 次のクライスラー小品集は、さすがヴァイオリンの名手が編曲しただけあってどれもがこの楽器の特性を生かした曲でした。シャミナード原作曲の『スペイン風セレナーデ』では前記のハーモニックス奏法等の技巧が冴えていました。一番の収穫はドヴォルザーク原曲「スラブ幻想曲」がとてもいい曲だったこと。初めて聴いた曲でしたが、新たな発見といった感じ。それにしてもスペイン関係の曲が多かった。お好みなのでしょうね。ブラームスが得意とは聞いていますが。
 まとめますと、今回の演奏は、最初から最後までブレずに心を込めて会場一杯に音の造形を描き出した、経験とキャリアの為せる技だと思いました。
 尚、アンコールが二曲演奏され、①ロンドンデリーの歌、②タイスの冥想曲(マスネ)②の演奏後は会場の万雷の拍手、ブラボーなどの歓声も飛び交っていた。
益々来週(2019.10/31)の藝大の先生方の演奏会が楽しみになって来ました。