HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

庄司紗矢香(Vn)&ヴィッキングル・オラフソン(Pf)デュオ・リサイタル

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 庄司さんは様々なオーケストラから引っ張りだこの、超人気ヴァイオリニストなので説明するまでも無いですが、録画で聴くと何かか細さというか、やや弱い感じがしていました。生演奏で聴くとどうかと思って初めて聴きに行ったのでした。

 一方、ピアノのヴィキングル・オラフソンの名は初めて聞きます。ネット情報で調べると以下の様なピアニストでした。

1984年アイスランド生まれ。2008年にジュリアード音楽院でロバート・マクドナルドのクラスを卒業。ジュリアード・オーケストラ、アイスランド交響楽団などと共演。オックスフォード大学とレイキャヴィーク大学で音楽のマスタークラスの指導者として迎えられるだけでなく、クラシック音楽に新しい扉を開くことを目的とした学生のためのアウトリーチ・リサイタルも開いている。5つのピアノ協奏曲を初演。彼はまた、音楽を広めるためにメディアに出演し、アイスランド放送のための約10本のテレビシリーズ「音楽エピソード」の制作も行った。2012年にはレイキャヴィク・ミッドサマー音楽祭を創設して芸術監督を務める。また、2015年からはスウェーデンのヴィンターフェスト音楽祭の芸術監督に就任した。アイスランド音楽賞、アメリカン・スカンジナビア社会文化賞、ジュリアード・バルトーク・コンクール賞、ロータリー財団文化賞など、多くの賞を受賞。庄司紗矢香やビョークらとも共演し、アイスランドに新風を吹き込む若き音楽家。彼は伝統的なコンサート・ピアニストであると同時に、ビョークやオーラヴル・アルナルズ等コンテンポラリー・コンポーザーたちともコラボレーションを行い新たな世界を切り拓いている。

【日時】2020.12.13.(日)14:00~

【会場】みなとみらいホール

【出演】庄司早矢香(Vn)

         ヴィッキングル・オラフソン(Pf) 

【曲目】

①J.S.バッハ『ヴァイオリン・ソナタ第5番』


②バルトーク『ヴァイオリン・ソナタ第1番』

 

③プロコフィエフ『5つのメロディOp.35』


④ブラームス『ヴァイオリン・ソナタ第2番』

 

【演奏の模様】

 登壇した庄司さんは、足を少し引きずって歩いていて、ピアノの前の譜面台の処には、椅子が置いてあり、坐って演奏しました。きっと足(多分右足だと思います)を痛めたのでしょう。 

さて演奏の方は、

①バッハのヴァイオリンソナタは、6つありますが、何れもケーテン時代のもので、如何にもバッハらしい曲ばかりです。逆な言い方をすれば、皆感触が似ているということ。その中でこの5番のソナタは、一番長い曲です。短調で通しているのが大きな特徴。

1-1 まるでVcの様に低い音でしめやかなしっとりしたメロディを庄司さんは奏で始め、オラフソンは淡々とピアノでその伴奏的調べを合わせています。

1-2 バッハらしい速いメロディでフーガ調、前楽章もこの楽章も、Pfが主導している感有り。デュオの割には庄司さんが見えて来ません。

1-3 重音演奏も低く小さな音だったので、はっきりとその特徴が掴めず、一瞬、庄司さん不調かな?と頭をよぎった考え、これは後で間違いだったと分かりましたが。

1-4 この楽章もPfの演奏がデュオの域をはみ出て活躍、音が卓越していました。

  バッハでは、庄司さん目立った演奏ではなかったと感じました。これは座っていたせいもあるのでしょうか?体を横に頻繁に揺すりながら弾くのですが、立って足に力を入れて支えた時の様に弓が強く弾けないのかも知れません。

 

②足の調子が歩くとかなり悪いのでしょう。舞台袖に戻らずすぐに次のバルトーク開始です。この曲は初めて聴きますが、30分以上の大曲で、曲の響きは全体的に良いものを持っています。

1楽章ではまだVn演奏は冴え冴えとした音は高音にとどまり、Pfが力演、第2楽章になるとかなり良い響きを拡散していました。3楽章では冒頭からVnが良い音を出し、中間部でもかなり力が入って来ました。ハーモニクス奏法による非常に高い音を出して演奏する箇所は流石だと思った。終盤はPfが主導権を発揮していました。

4楽章では民族調の調べが続き、Vnの独奏的部分、不協和音的重音ピッティカートのカスネットに聴きまごう響き等々、随分高度なテクニックを有する難曲部分も庄司さんは益々演奏に没頭して弾いていました。いったん終わりかと思わせぶりに又音が響きそれを何回か繰り返してやっと真の終わりに頭+する曲でした。ピアののオラフソンは時々庄司さんの方を見て確認しながら、隙間なく、手落ちなく、ピッタリと寄り添って演奏していて見事でした。

 

③プロコフィエフのこの曲は初めて聴きます。こうしてみると初めての曲が多いですね。世の中には何と沢山の作曲家そして膨大な曲があるのでしょう。プロコフィフの曲は最近ですと、11月にウィーンフィルの『ロメオトジュリエット』『ピアノ協奏曲第2番』を聴きましたが、いつものイメージの曲とはかなり異なる印象の曲でした。アメリカ亡命時代懇意にしていた音楽家一家の夫人の為に書いたソプラノ用の歌を後にヴァイオリン用に編曲したものと言われます。

  第1曲Andanteの最初から美しいメロディが流麗に響き、特にピアノの抑えた音が美しい。まるで仏蘭西印象派の絵みたい。この曲をヴァイオリン用に編曲したのはプロコフィエフがフランス滞在時代だというのですから納得です。

 第2曲Lent,ma non troppoも朗々と、しかし静かに歌う様に旋律を追っています。その後やや早いステップで小走りに進みますが、すぐに元の歩みに戻る感じ、1曲も2曲もPfは伴奏に徹していました。

 第3曲Animato,ma non allegroでは最初からVnは激しい曲調で弾き始めすぐに穏やかな旋律に収まります。庄司さんは①、②の時よりは、調子が上昇基調に乗ったみたい。

 第4曲Allegretto leggero e scherzandoでは、軽快な舞曲風の調べを軽々と演奏、最後非常に高い音域の音を駆け上って終了です。

 最終第5曲での穏やかなメロディを聴き、あたかも日向でまどろんでいたら、顔に一陣の風が吹き、あたり空を見上げると急速に黒い雲が太陽の光を遮り、次第に雲が薄くなって雲間から一条の光が差し込む情景を夢想してしまいました。最後のハーモニックの音を庄司さんは綺麗に出していました。ピアノのオラフソンは3曲以降も伴奏に徹していました。誰作曲の曲か分からないで聴いていたら、プロコフィエフの名は出てこないでしょう、きっと。それ位プロコフィエフの他の曲とはイメージが異なっていました。                   

 最後の曲は④ブラームスのソナタです。『ヴァイオリン・ソナタ2番』ですがこれも①のバッハの曲の様に、「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」と言った方が良い程、ピアノの活躍が目覚ましい曲なのです。これはブラームスの事を考えればさも有りなんと理解できます。ブラームス自信ヴァイオリニストでなくピアニストだったのですから。しかもピアニストのクララを一生、敬愛していたのですから。ピアノ伴奏をおろそかにする筈が無いのです。                          

 ブラームスのソナタ1番は、昨年10月に竹澤恭子さんが演奏するのを聴いたことがあります。その時の印象は、全力を挙げてブラームスの体躯からメロディを引き出すため、苦労に苦労を重ねて素晴らしい音を捻出し紡いでいる感じがしたものでした。ところが今日の庄司さんは、前半の①、②の曲から後半の③の曲に至るまで、次第にピッチを上げてスピード競技を走っているランナーの様に上昇傾向の中にあって④のブラームを弾いた訳です。何か難しいテクニックも軽々と駆使して、た易くブラームスの素晴らしい曲を引き出していた感がしました。これは庄司さんの天才性に依るのでしょうか。 

 ①、②辺りまでは、聴きながら冒頭に書いた疑念がまだ晴れませんでしたが、次第におやこれは、さすがだなと思う箇所が増えて、やはりか細く見える体躯の中には強いエネルギーを秘めていて、今回はそれを発揮するのに若干時間がかかったのだと、認識を新たにしました。一楽章から三楽章の細部については感じたことがいろいろありますが割愛します。

 今日の演奏は庄司さんの天才性を示したばかりでなく、ブラームスの天才性も分かるものでした。兎に角お洒落で大人の響きを有するかっこいい曲ばかりですね。

 なお万雷の拍手を受けて、アンコールがありました。              バルトーク作曲『ルーマニア民族舞曲』、弾むようなリズミカルな調べ、弓で弦を叩く様な奏法やハーモニックス奏法を駆使し、非常に速いパッセージなど民族的雰囲気に満ちた演奏でした。

 足を引きずりながら何回か舞台と袖をゆっくり往復し、拍手に応じる庄司さんを見ると、やはり痛々しくも有り可哀そうな気もして、アンコール演奏までしたサービス精神には感心しましたが、ところが再度出てきた庄司さんは二曲目までアンコール演奏したのです。これには驚くと同時に感激しました。

パラディス作曲『シチリアーノ』。しっとりとした仲々いい曲でした。庄司さんは心から音を出している感じ、オラフソンも息がぴったり合っていました。

補記:マリア・テレジア・フォン・パラディス(1759~1824)はオーストリアの作曲家(&声楽家&ピアニスト)。モーツァルトの生涯とクロス点もあった様です。