HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『National Gallery of London 展(at上野・西洋美術館)』鑑賞(Ⅴ)

◎テーマゾーンⅤ.スペイン絵画の発見(8作品)

 先ず絵画鑑賞に入る前に、今回の各地の梅雨前線による豪雨により、突然の災難に見舞われた方々、亡くなられた方々、負傷、病状悪化された方々、避難生活を余儀なくされた方々に心からお見舞い申し上げます。今日のニュースによりますと山形県の最上川が氾濫し、多くの住宅が冠水したとのこと。最上川と言いますと先週土曜日の7/25に東京文化会館で『もがみ』という曲名のピアノ協奏曲を聴いて来たばかりで、これまでの過去の「最上川」の思い出に浸っていたところでしたのに。 

 何といっても全国区的に有名で多くの人が知っているのは、民謡「最上川舟歌」だと思います。

若かりし頃新卒で配属された職場に、この歌の名人がいました。勿論民謡の分野にもその道のプロがいて、例えば大塚文雄さんの歌うこの曲を聴くと、声の張りと民謡独特の節回しの高い技術とが備わった素晴らしい歌い振りだということは知っていました。ホフマンの舟歌、ボルガの舟歌と合わせ、“世界三大舟歌”だという人もいるそうです。ただ職場の素人名人は、そうしたプロの人たちとは違って、あたかも現地の船頭さんが歌うが如く、素朴で訛りの入った方言で歌うのです。大きな声量では有りませんが十分な節回しと、何とも味のある心に滲みる歌い振りでした。今でも忘れられません。本人は、普段雄弁ではなく、どちらかというと朴訥派かな?ただ内には思いやりと強さを秘めており、本人は坂田近郊出身だと言っていました。忘年会になると皆その歌を聴かないとお開きにならないくらいで、今思い出してもいい歌でした。改めて調べてみるとこの歌詞の最初の方に何と “はやりかぜなど ひがねよに”  とあるのです。新型コロナ風邪が猛威を振るっている今日この頃、被災地の皆さんに同上の歌でコロナ感染には十分気を配って、元気に復活されることを祈ります(幸い山形県のコロナ感染者数は、今日時点で都合75人と全国県別ですと下から数えて12番目と大変少ないのが救いです)。

 さてテーマゾーンⅤの展示は、スペイン画家たちの作品を収集したNGLの所蔵品の中から17世紀~18世紀初頭にかけての代表的なものを展示しています。

f:id:hukkats:20200729221730j:plain

エル・グレコ作『神殿から商人を追い払うキリスト』

 中でもエル・グレコが晩年にトレド在住の時に描いた『神殿から商人を追い払うキリスト』は、彼が好んで描いたテーマで、信仰の場の神聖さを取り戻そうと、私欲にかられ神殿で商売をする商人たちを追い払うキリストの姿であり、カトリック教会の浄化運動を象徴しています。グレコはクレタで生まれたギリシア人で、そこでビザンチン美術を学び、二十代半ば頃ヴェネツィアに渡って、ルネッサンス画法を身に着けています。その後三十代半ばでスペイン、マドリッドに移動、祭壇画等を描きましたが、フィリッペ2世の宮廷画家になる夢は達せられず、古都トレドに移住してそこで生涯を閉じます。グレコの絵では人物が非常に縦長の顔、スタイル、長い手足などに描かれる特徴があり、一目で彼の絵であることが分かります。

 相当以前にトレドに行った時、サント・トメ教会にある彼の最高傑作と謂われる『オルガス伯の埋葬』を見ましたが、参列の人物顔は緻密に描かれ、天界の聖母マリア、昇天した伯爵やキリストもエル・グレコとしては丹念に描いているのを見て感心した記憶があります(トレドの街の印象は、非常に狭い路地、古臭い建物、高台の街の周囲下方に流れるタホ川の流れる水量の多さに若干驚きました。)

 次にスペイン画家と言えばすぐに思い出すのは、ベラスケスです。彼の描く肖像画は、日本にも何回も来て展示されているので、肖像画のスペイン宮廷画家として有名になりましたが、実はベラスケスがフィリッペ2世の宮廷に入る以前のセビージャ時代(17世紀初頭)には厨房画(ボデゴン)を多く描いており、今回展示されている『マルタとマリアの家のキリスト』もそのうちの一つです。

f:id:hukkats:20200729221952j:plain

ベラスケス作『マルタとマリアの家のキリスト』

 絵の右奥の窓枠の外の隣室で椅子に座っているのがキリスト、その説教に聴き入るマリア、手前の部屋、厨房左には大きく若い女性が描かれ、何やら乳鉢で摺りつぶしています(現在でも使う金属製の乳鉢はその当時からあったのですね)。その背後の老婆は隣室の方を指さし何か指示している。若い女性は隣室のマリアの姉マルタです、表情は少し暗く何か嫌がっています。想像たくましくすれば、老婆は早く料理をしてキリストをもてなす様にとマルタを急かせ、マルタは「私だってキリストさまの講話を聴きたいのに、何故マリアだけ聴いているの?一緒に料理をして呉れれば早く出すことが出来て、説教も一緒に聴けるのに」と不満顔なのです、という解釈も成り立つのではないでしょうか?絵画を見て楽しむためには、専門家の解説は勿論参考になりますが、見て自分がどう感じたかは百人百様でいいのでは?楽しめればいいそれでいいと思います。 

 今回の展覧会(東京)は、当初3月開催予定だったものが、コロナの為延期となり、緊急事態宣言が解除されてから改めて6月18日に開催されたものです。東京会期が10月18日までで、その後大阪で来年1月31日までと、一年近くこれ等の名画が日本に留まることになり(多分今年2月には日本に輸送していたことでしょうから)、これは一つの展覧会としては恐らく例のない記録的なことだと思います。英国の理解、協力があって実現したのでしょう。 

 しかしコロナ禍のもとしかも東京では感染が、第一波の時よりも拡大している状況下で開催されており、三密を絶対避け「美術館でクラスター発生」という事態は何としても発生させない様に対策をとられる様、愛好家の一人としても主催者に願う気持ちで一杯です。これまで日時予約制で、いろいろ工夫を凝らして開催しているので、人気も衰えないようですが。ただ行って見た時の売店の混雑は若干気になりました。

 

 ここ数日音楽会に行くのは自粛しているので、今回来日中止となったバイエルン放送交響楽団の演奏を流しているNHKFM『ベスト・オヴ・クラシック(19:30~21:10)』を聴きながら作業しています。