HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『小曽根真クラシックピアノ曲演奏会(2020.7.25.)』at東京文化会館

 今回の演奏会は、ジャズピニストの小曽根真が、当初文化会館でアラン・ギルバート指揮、都響の組合せでSop. M-Sop. Ten. Bar.の独唱者及び合唱団と共に、ベートーヴェンの『ピアノと合唱と管弦楽のための幻想曲(合唱幻想曲)Op.80』を演奏することになっていましたが、コロナ禍で指揮者が来日出来ず、合唱も密触を避けられないことから、指揮者及び曲目変更でしかも間隔を置いた座席配置に変更して、実施にこぎつけたものです。

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 小曾根氏もトークの中で、“前夜までいつ中止の電話が入るかびくびくしていた”と言っていましたが、ここ一週間の東京の感染者激増は、誰もが危惧する状態でした。

 私も足を運ぶのに逡巡したのですが、変更後の曲目にモーツアルトの『ピアノ協奏曲第23番』を引くと分かり、それは是非聴いて置きたいと考えて敢えて出掛けたのでした。モーツアルトのピアノコンチェルト27曲の録音ソフト(演奏者はいろいろですが)

をかなり以前に揃え、よく聴いていました。その中で第23番はポリーニとルービンシュタインの録音があり、ラジオやテレビ、演奏会でもよく演奏される曲なので、ジャズ出身の演奏家がどの様に弾くのか非常に興味があったのです。もう一曲の『もがみ』という曲は、ろくに調べもしない で、“ジャズピアノ曲かな?”くらいの認識で演奏会に臨んだのでした。

 指揮者、オーケストラ、演奏者と曲目は以下の通りです。 

【出演】

ピアノ:小曽根真

指揮:太田弦  

管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

曲目:①モーツァルト作曲『ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K488』

②小曽根真作曲『ピアノ協奏曲「もがみ」』 

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 会場に入ってみると1階前4列は封鎖され、観客席は行政の「ガイドライン」に添って前後左右は空けた座席配置にチケットを席替えしています。ステージの上には多くの椅子、譜面台、大きな弦楽器、打楽器などがずらっと並んでいました。これだけ多くの演奏者が現れるのかと思うと、開演が心待ちになりました。

①のオーケストラ構成は 弦が1Vn(8).2Vn(8).Va(6).Vc(4).Cb(3). 管はFt(1).Cl(2).Fg(2).Hr(2). 打はなし。

 弦は小規模で管も最小の数を揃えた構成です。これはピアノ演奏の音量とオケの音量のバランスを考えての事だと思います。いつだったか大規模オーケストラ背景に、上原さんがチャイコフスキーのコンチェルト1番を弾いたのを聴きましたが、オケが力一杯フル演奏すると上原さんのピアノの音が、全然聴こえない部分がありました。コンチェルト演奏時のオケ構成を如何にするかは重要ですね。楽譜で指定されている時は演奏の音加減を考える必要があるでしょう。客席でどう聴こえるかを考えて。

 ピアノコンチェルト演奏はホントに久し振りに聴きますね。あれは確か1月に、阪田知樹さんが、東フィルバックにラフマニノフのコンチェルト3番を、弾いたのを聴いた時以来です。モーツアルトのコンチェルトだと俄かに思い出せない程前になります。この11月には内田光子さんが来日演奏する予定なので、聴きに行きますが。

 さてこの曲は超有名で良く演奏され、ピアニストならば誰でも上手に弾ける曲だと思います。ただ良く知られた曲であればある程難しいとも謂われます。ジャズ演奏家がどう弾くか?最初の楽章を聴き耳をそば立てて聴いていましたが、特に中盤まではジャズ演奏家を感じるところはなかったのです。誰が弾いているか分からないで聴いたとしたら、普通のピアニストが弾いていると思った事でしょう。若干平易でメリハリに欠けるかな、という感じはしましたが。ところが終盤のカデンツァの箇所に来たら、モーツアルトのいつも聴き慣れた楽譜とは異なる音が迸り出したのです。テンポも早まり音量も次第に上がり、これはまさにジャズ手法の演奏ではないですか。カデンツァの時間も通常より相当長く、弾き終わってオケの最後のアンサンブルに受け継ぐと何かホットした気持ちになりました。若干驚いたせいもある、これが今回のコンサートのタイトルに謳われている「Jazz meets Classic」なのかと納得したりして。

 第二楽章のadajio は相当ゆっくりなテンポで弾いていました。しかもかなり弱い音で。音色の清明感がやや物足りなかった気がしました。後半は音量も上がり音がキラキラとしてきました。

 第三楽章はオケの弦が相当、力を込めて弾いていましたが、管の音はあまり聞こえなかった。ピアノもそれに負けずに力強く弾いていました。高音が綺麗に出ていて、前の楽章より調子が上がってきた感じがします。

 全般的に、最初の頃は連続する音の指使いの中で、他の指の音と比較して打音がやや弱いと感じた音も散見されました。音が抜けるのではないのですが。ムラがあるという訳でもないのですが。(これは最後の小曽根さんのトークを聴いて納得、最初は少し上がっていたからなのか?とも思いました。)

 今回のカデンツァはクラシックピアニストでは絶対まねのできない、小曽根さん独自の表現だと思います。カデンツァなのだから、モーツアルトの楽譜通りでなくともクラシックの枠ははみ出ません。2月に聴いたポゴレリッチの様に独自のピアノ演奏世界を築ける可能性が大いにあるのです。今後クラシックピアノ曲の通常演奏もバンバンやって欲しいものです。

 尚、この演奏後に、アンコールとして、女性クラリネット奏者が前に出て来て、小曽根さんのピアノと重奏しました。Clのソロでスタート、穏やかな前奏、Pfが高音でゆっくりと弾き始め次第に下降してClと響き合う。非常に短い曲でしたが、良い演奏でした。曲名は、コロナ禍の為ロビーでの掲示はなく、分かりません。写真撮影で密になるのを避けるためとのことでした(文化会館に問い合わせてもまだ分かりません)。

②の「もがみ」は事前情報を何も入れず聴いたので、最初ジャズその物の演奏かと思っていました。ところが館内で得たプログラムを見るとあの井上ひさしさんから作曲依頼を受けた小曽根さんが何回も  “ジャズ演奏家なので、クラシックのピアノ曲の作曲は無理です” と断っても“君なら必ず出来るから”と励まされ、ついに出来上がったコンチェルトなのだそうです。『国民文化祭・やまがた 2003』で初演されたとのこと。道理で聴いていて、何か滔々とした流れの感じや、舞い踊りを感じる様なメロディが含まれた、日本古来の芸術の空気を持った現代音楽、それもアメリカン的、ガーシュインやストラビンスキー的雰囲気も感じるピアノ曲だと思いました。とりわけ特記すべきことは、オーケストラがパートによっては増員された楽器群があり、大規模な打楽器群の参加もあり、随分と大きな編成になったことです。Hrp(1)1Vn(10).2Vn(10).Va(8).Vc(8).Cb(6).Ft(2).Picc(1).Ob(2).Cl(2).Trb(3)Eh(1).Trp(2).Hr(4).Tb(1)と増員、他に沢山の打楽器群(良く見えないものもありましたが)、マリンバ、木琴、鉄琴、ウインドマシン?、鐘、大太鼓、トライアングル、小太鼓、銅鑼、パーカッション(ジャズ用?)、ティンパニー。ハモンドオルガン等々。

 演奏の面白さはマーラーの交響曲を聴いて以来の  ‘見るオーケストラ’ の楽しみも堪能しました。

    小曽根さんのピアノ曲は、あちこちジャズっぽい部分もありましたが、概ね立派なクラシック現代音楽に位置づけられるものだと思います。日本人がこれだけの曲を作曲したとはすごいですね。これから考えると、交響曲も作曲出来るのではなかろうかとその才能のこれからの発揮を大いに期待したいところです。

 演奏が終わって、小曽根さんのトークが有り、「コロナ禍でいつ中止の知らせが入るか気が気でなかった。今日ステージに出てくる時、あれ、何を演奏するんだったけ?そうそうモーツアルトだった」とあせった趣旨の事を、ユーモアを交えながらジャズミュージシャンらしいザックバランな口調で話していました。

 それから、『もがみ』の作曲を依頼された故井上ひさしさんの奥様、ゆり夫人が演奏会場に見えられていることも紹介していました。

 そして最後にアンコール曲をピアノ独奏で1曲演奏。『Where do we go from here 』と前置きしました。

 なかなかしっとりとした演奏でいい曲でした。説明は何も有りませんでしたけれど、世界で(特に米国で)相当有名なpopular曲で、多くの歌手がカヴァーしている模様。小曽根さんがピアノ用にアレンジしてカヴァーしたものではないかと想像されました。恐らくこのコロナ禍の世界が今後どこに行くのかという意味もあると思います。

 これが文化会館での今月の最後の演奏会でした。日曜日からは暫く休館になるとのことです。私もしばらくは東京詣では控えることにします