HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

『アンドラーシュ・シフ』ライブ録音鑑賞

 今手元に、アンドラーシュ・シフがシューマンの曲の演奏会をスイス、チュ-リッヒのTonhalleで行ったライブ録音が2枚組あります。20年ほど前の演奏ですが、昨年11月に東京文化会館での演奏を聴いた時、シフは確か67歳でしたから、50歳直前の脂ののった時期のライブなので、大変活力に満ちた演奏であることが、録音を通しても窺えます。演奏曲目は三曲とアンコール一曲の四曲で、①シューマン作曲『Humoreske(ユーモレスク) Op.20』、②同作曲『Novelletten(冒険物語集)Op.21[Ⅰ~Ⅷ]』、③同作曲『Klaviersonate (ピアノソナタ)f-Moll Op.14』④同作曲『Nachtstucke(夜曲集) Op.23よりⅣ』

 ① はシューマンがクララとの結婚の前年1839年、ウィーン滞在中に作曲したもので、7つの曲から構成。[Ⅰ.Einfach.Ⅱ.Hastig.Ⅲ.Einfach und zart.Ⅳ.Innig.Ⅴ.Sehr lebhaft Ⅵ.Mit einigem Pomp Ⅶ. Zum Beschluss ] 30分近い大曲です。
 Ⅰは冒頭、綺麗なメロディがゆったりと流れ、ついで早く軽やかなメロディに変わる。それがさらに速くなり、そして又ゆったりとしたメロディ。
 Ⅱは綺麗だが速いテンポで始まり次第に活発となりトーンは清浄な透明感のある音の連続。シフの音色は録音でもとても洗練された感じがし、生で聴いたらもっと広がりのあるしかも早いテンポのパッセージなど、力強いタッチの一つ一つの息使いまでを耳にすることが出来たことでしょう。

 Ⅲ~Ⅶも基本的にはこれらの傾向は変わらず、全体的にとてもまじめなロマンティックな曲集です。クララに献呈された曲ではないですが、間違いなくクララを念頭に作曲されたと思われる愛情のこもった曲集です。演奏中夢うつつで聴いていた聴衆が演奏終了とともに、ハッと目が覚めて静かに拍手しているといった感じの録音でした。

 ② はさらに大曲で、8つの曲即ち、Ⅰ. Markiert und kräftigⅡ. Äußerst rasch und mit BravourⅢ. Leicht und mit Humor Ⅳ. Ballmässig. Sehr munter Ⅴ. Rauschend und festlich Ⅵ.Sehr lebhaft ⅦÄusserst rasch Ⅷ.Sehr lebhaft  から構成され、50分近い大曲です。 この曲のシフを聴いていると緩急、強弱が縦横無尽に鍵盤を音が駆け巡る感じで、迫力があり非常にテクニカルで、表現豊かな演奏を満喫出来ました。中でもⅠは落ち着いた調べからお洒落な調べに変化する箇処が、Ⅴでは前半と後半に二回続くタラララタラララタラタラタというパッセージが気に入りました。

 ③ は①、②に比べ演奏会で多く弾かれる「ピアノソナタ3番」です(昨年キーシンの来日演奏会で弾いたのを聴きました)。これは4つの楽章[Ⅰ.Allegro brillante Ⅱ.Scherzo Molto comodo ⅢQuazi variazioni Andantino de Clara Wieck Ⅳ.Perestissimo possibile]から成り、シューマンのピアノソナタの中では、最も規模が大きく約30分の大曲です。ここで第3楽章に‘Clara Wieck’の記載があります。即ちクララ・ヴィークは結婚前のクララの名前です。この曲は1835年に作曲され、結婚は1840年ですから、結婚前のクララの曲のテーマから取り入れた変奏曲である事を示しています。シューマンは楽譜にクララの名前を記す程、この曲で気を引かせたかったのでしょうか?
 シフの演奏はテンポも軽快で切れ味がよく、全然疲れを見せない位の勢いで弾いています。演奏終了後の大きい拍手、歓声も反映されていて、臨場感のある録音でした。
(昨年12月の小澤さんのムッター、斎藤記念オケの天覧演奏会の時のCDは、拍手、歓声をグラムフォンが録音から完全カットしているので、村上春樹の解説が付いていても何か、画竜点睛を欠く感がしたことがありました。)

 全体を通して、シフの演奏は迫力満点です。昨年のシフの演奏会では、最後の曲でやや疲れを感じさせる場面もありました(もう少しで古希も近いですからね)。

 尚④のアンコールの曲は四つの夜曲から成り、その終曲でした。しっとりとした落ち着いた演奏は、ショパンのノックターンにも勝るとも劣らない、夜の雰囲気を醸し出していました。