
【主催者言】
第22回東京音楽コンクール各部門の覇者が、ソリストとしてオーケストラと共演します。ソリスト自身が選んだプログラムを披露するとともに、朝岡聡によるインタビューで演奏家の魅力と素顔に迫ります。
東京文化会館から羽ばたく新進アーティストの熱演に、どうぞご期待ください。
【日時】2025.1.13.(月)15:00〜
【会場】東京文化会館 大ホール
【管弦楽】読売日本交響楽団
【指揮】関高健
【司会】朝岡聡
【出演、曲目】
①トランペット:東川理恩 *金管部門第1位及び聴衆賞
・ベーメ『トランペット協奏曲 へ短調 Op.18』
②ソプラノ:小川栞奈 *声楽部門第1位及び聴衆賞
・J.シュトラウスII『春の声 Op.410』
・オッフェンバック『オペラ ホフマン物語』より 「生け垣に小鳥たちが」
・グノー:オペラ『ロミオとジュリエット』より 「私は夢に生きたい」
・ベッリーニ:オペラ 『夢遊病の女』より 「ああ、信じられないわ」
《休憩》
③ヴァイオリン:金子芽以 *弦楽部門第1位及び聴衆賞
・メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64』
【演奏の模様】
①東川理恩・ベーメ『トランペット協奏曲 へ短調 Op.18』
このコンクールでは、管楽器部門の選考は金管と木管が隔年交互に行われ、一昨年の優勝は、Trmp.とHrn.の二名が優勝しました。その二年前はTrmb.奏者、女性のトランペッターが優勝したのは、さらに前々年前の三村梨紗以来実に6年振りです。
しかも今回の選曲は、余り耳にしないベーメと言う作曲家のコンチェルトです。この曲についてのプログラムノート記載の解説を引用します。
オスカー・ベーメ (1870-1938) はドレスデン近郊に生まれ、ライブツィヒで音楽教育を受けた。ブダペスト 歌劇場でトランペット奏者を務めた後、1897年にロシアへ移住し、以後はトランペット奏者・コルネット奏者と してペテルブルクのマリインスキー劇場などで活動するかたわら、トランペットをはじめとする金管のための曲 を多数書いている。しかしソヴィエト連邦となったロシアでスターリンが政権を握ってからは外国人排斥の動き が高まり、ドイツ系だったベーメは反国家的な罪を着せられてカザフスタンに近いオレンブルクに追放され、 ここで処刑されたと伝えられている。
彼の代表作のひとつに挙げられる本日のトランペット協奏曲は楽器の特性と技巧性を存分に発揮したロマン ティックな作品で、19世紀ロマン派時代のきわめて数少ないトランペット協奏曲として好んで取り上げられている。 もともとはA管のトランペット用に作曲されて1899年に出版された作品で、調性もホ短調だったが、その後A管 のトランペットが廃れてしまったことで、一般的なB♭管で演奏できるように作曲者死後の20世紀半ばになって へ短調の楽譜が出され、以後へ短調の協奏曲として演奏されてきた。
〇全三楽章構成
第1楽章(アレグロ・モデラート)
第2楽章(アンダンテ・レリジオーソ)
第3楽章(アレグレット~ロンド、アレグロ・スケルツァ ンド)
東川さんは、最初から少しも臆せず堂々とした様子で、演奏し始めました。かなり速いフレーズも難なく吹きこなし、オーケストラと良く溶け合っていました。カデンツアでは見事な腕前を発揮、2楽章のゆったりとしたメロディーを、力強いタッチで滔々と表現、途中からテンポアップした流れが次楽章での軽快な調べに発展、その勢いをもって最後まで吹き通しました。東川さんの話にもあった様に、仲々素敵な耳当たりの良いコンチェルトでした。それを見事聴衆に知ら示した実力は流石だと思いました。
朝岡さんの質問に答えて、❝クラシックばかりでなくジャズなども吹いている❞そうで、色々間口を広げる努力をしている様でした。
②小川栞奈
1. J.シュトラウスII『春の声 Op.410』
小川さんはすべて、コロラトゥーラソプラノの代表的曲を歌うという事でした。最初のこの曲も次曲もその次も、非常に有名なアリアばかりです。
1.は最初なのでやや硬くなったのか、声質にも柔らかさが不足し、歌い振りも不安定なところが散見されました。その後持ち直しコロラトゥーラも決まりかけ、跳躍音も上手く入ったと思った途端、高音の跳躍音がやや不安定、しかし弱い下行コロラはうまく行きました。最高音はしっかりと出ていたし、Fl.との掛け合いも上手く行きました。総じてこの歌を聴いた限りでは、これから解決する課題は多いと思いました。
2.オッフェンバック『オペラ ホフマン物語』より 「生け垣に小鳥たちが」
この歌は機械仕掛け人形のオランピアが、割りとゆっくりした曲に合わせて歌うのです。小川さんは、身振り手振りを交えながら、人形らしさを演技しながらその動きに合わせて、コロラを交えて歌いました。関高さんが、ネジ欠になった処でネジを巻き、復活した小川・オランピアは面白おかしく振付ながら強わ声や弱わ声を交じえて、歌いました。最初の歌よりもこの二番目の歌の方が出来が遥かに良かったと思います。
3.グノー:オペラ『ロミオとジュリエット』より 「私は夢に生きたい」
この歌も2.に続き、フランス物のオペラのアリアでした。オペラ第一幕キャプレット家のパーティーで令嬢ジュリエットが歌うアリエッタです。
JULIETTE
Ah! Je veux vivre Dans ce rêve qui m'enivre;Ce jour encore,Douce flamme,Je te garde dans mon âme Comme un trésor!Cette ivresse De jeunesse Ne dure, hélas! qu'un jour!Puis vient l'heure Où l'on pleure,Le cœur cède à l'amour,Et le bonheur fuit sans retour.Je veux vivre, etc Loin de l'hiver morose Laisse-moi sommeiller Et respirer la rose Avant del'effeuiller. Ah!Douce flamme,Reste dans mon âme Comme un doux trésor Longtemps encore!
はっきり申してフランス語が不明瞭、アクセントが異なる(これは2.でも同様でしたが)。コロラトゥーラ以前の課題解決が必要かと思われました。
4.ベッリーニ:オペラ 『夢遊病の女』より 「ああ、信じられないわ」
このオペラは昨年10月9日に新国立劇場オペラパレスで上演されたのを見ました。その時の記録を文末に参考まで抜粋再掲して置きます。
今回の小川さんの演奏は、全四曲歌われた中で、このアミーナの歌が一番の出来だと思いました。前半はかなり長がーい歌で、アミーナが失望した気持ちの揺れを粛々と歌い進む涙を呼ぶ場面です。
これを小川さんは、しっとりとした落ち着きを持って低めの調べでも安定した歌い振りを見せ、又後半では誤解が解けて、再び許婚者の信頼を取り戻し、結婚へと前進できる喜びを、ここでは将にコロラトゥール歌唱を駆使して、しかも1~3では見られなかった切れ味も見せて、見事に歌い切ったのでした。歌い終わると会場からは、大きな拍手と歓声が沸き起りました。朝岡さんのトークにも有りましたが、彼女はこうしたベルカント物が、今は一番歌いやすいのかも知れません。勿論その歌の練習度、咀嚼度にもよりますが。今後、持ち歌を徐々に広げていく中で、基本的な問題点を一歩一歩クリアーして行かれんことを祈ります。
《20分の休憩》
③金子芽以
・メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲』
金子さんの演奏は第1楽章から第3楽章の隅々まで、完全無欠、完璧と言っても良い程の演奏でした。欠点を探すのは難しい。しかし一つ言えることは、これは金子さんが優勝した本選を聴きに行った時に、同じメンデルスゾーンの曲を弾いて選外だった栗原壱成さん(その後の日本音楽コンクールではリヴェンジの優勝でした)の演奏に関して感じたことを次の様に記しました。
『①栗原壱成(ヴァイオリン)メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」
栗原さんの演奏、第1楽章のスタートパセッジのおんしょくは、・・・・・・・・・・(略)・・・・・・・この協奏曲は一番と言っていい位広く知られたコンチェルトですので、それだけに聴いた人を驚かす様な演奏部分がないと、全体的に平易に聞こえてしまうのではないでしょうか。』
今回の金子さんの演奏に、将にその時感じたことに近い印象を受けました。 何れにせよ、朝岡さんも言う様に、まだ二十歳前だという事ですから、今後益々腕を磨かれ世界に羽ばたくことを期待したいと思います。
/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////2024-10-10 HUKKATS Roc.(抜粋再掲)

【日時】2024.10.9.(水)14:00〜(三日目)
【会場】NNTTオペラパレス
【演目】ベルリーニ作曲オペラ『夢遊病の女』
La Sonnambula / Vincenzo Bellini
【上演時間】約3時間(第1幕85分 休憩30分 第2幕65分)
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【指 揮】マウリツィオ・ベニーニ
【合唱】新国立劇場合唱団
【演出】バルバラ・リュック

【美 術】クリストフ・ヘッツァー
【衣 裳】クララ・ペルッフォ
【照 明】ウルス・シェーネバウム
【振 付】イラッツェ・アンサ&イガール・バコヴィッチ。
【演出補】アンナ・ポンセ
【舞台監督】髙橋尚史
【振 付】イラッツェ・アンサ&イガール・バコヴィッチ。
【Introduction(主催者)】
不実を疑われた一人の花嫁 潔白の鍵を握るのは夢遊病
充実の指揮・歌唱陣で贈るベルカント・オペラの傑作
ベルカント・オペラを代表する作曲家ベッリーニの『夢遊病の女』を新国立劇場初上演します。スイス・アルプスの山村の結婚をめぐる物語は極めてロマン的で、叙情的な音楽に満ち、「なつかしい眺め」「なぜ憎めないのか」、そしてクライマックスの「ああ信じられないわ」と美しいアリアが続きます。全編を通じて村人たちの合唱が入り、アリアと合唱が交互に場面を展開していくのも印象的です。
本プロダクションはテアトロ・レアル、バルセロナ・リセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場との共同制作で、2022年12月にマドリードで初演されています。バルバラ・リュックの演出は彼女ならではの感性で閉ざされた山村の女性の心情を浮き彫りにし、話題となりました。
指揮はイタリア・オペラの名匠にして、このプロダクションのマドリードでの初演を指揮したマウリツィオ・ベニーニ。アミーナには期待の新星クラウディア・ムスキオ、エルヴィーノには大スターのアントニーノ・シラグーザと、ベルカントの粋を極める達人が集まります。
【キャスト】
- アミーナ (Sop.) もとは孤児だった村娘。エルヴィーノの婚約者。夢遊病者。
◉クラウディア・ムスキオ

- エルヴィーノ(T.)地主をしている裕福な青年。
◉アントニーノ・シラグーザ

- ロドルフォ(Bs) 妻屋秀和
久しぶりに村に戻ってきた領主
- テレーザ(Ms) 谷口睦美
水車小屋の女主人であり、 アミーナの養母
- リーザ(S) 伊藤晴
宿屋の女主人
- アレッシオ 近藤圭
リーザに恋する青年
- 公証人 渡辺正親
粗 筋】
《第一幕》
村人達が集まり、アミーナとエルヴィーノの結婚を祝っている。
だがエルヴィーノに想いを寄せる宿の女主人リーザは悲しい表情を浮かべる。
アミーナは孤児だった自分を育ててくれた養母や村人に感謝を伝えている(①)。
公証人とエルヴィーノが到着。
エルヴィーノは結婚指輪をアミーナに渡して結婚の儀式が行われる(②)。
そこへロドルフォが通りかかる。
ロドルフォは亡くなった前の領主の息子で、お忍びで村を見に戻ってきたのだ。
城への道を聞かれたリーザはロドルフォに自分の宿に泊まるようにすすめる。
日が暮れてきて、村人達は幽霊が現れる時間だと家に帰っていく。
ロドルフォはアミーナの美しさを褒め称えます(③)、二人が楽しそうに話しているのを見てエルヴィーノはやきもちを焼くが、仲直りをする。
リーザの宿のロドルフォの部屋。
ロドルフォが次期領主である事に気がついたリーザはロドルフォの部屋に行って気に入られようとする。
窓の外に誰かがいる気配がしたため、リーザはあわてて隠れるが、その時にスカーフを落としてしまう。
やってきたのはアミーナ。
アミーナは夢遊病で、寝ている間に喋ったり歩き回ったりしてしまうので。
エルヴィーノへ思いを口にしながらロドルフォの部屋の中を歩き回った後、その場で寝入ってしまう。
リーザはアミーナが浮気をしたとエルヴィーノに知らせに部屋をとびだし、ロドルフォはアミーナをそのままにして部屋を出る。
村人たちとアミーナの養母のテレーザは次期領主のロドルフォに挨拶しようと部屋にやってくる。
そこで寝ているアミーナを見つけてテレーザは驚き、リーザが落としたスカーフをアミーナのものだと勘違いして持ち帰ろうとする。
リーザに教えられてやってきたエルヴィーノ。
アミーナはようやく目を覚ますが、記憶がないために説明ができない。
彼女が浮気をしたと思い込んだエルヴィーノは結婚を破棄すると言い出し、アミーナは悲しみのあまり泣き崩れる。
《第二幕》
村人たちはアミーナをなんとかして救おうと、領主の助けを借りようとする。
アミーナはエルヴィーノに身の潔白を証明しようとするが、エルヴィーノは信じようとせず結婚指輪をとりあげ、自身の苦しい胸のうちを語る(④)。
エルヴィーノは怒りのあまり、リーザとの結婚を決める。
エルヴィーノはリーザと結婚するために教会へ行こうとするが、そこへ領主となったロドルフォが現れ、アミーナは潔白だと伝える。
ロドルフォはアミーナが夢遊病という病気である事を説明するが、エルヴィーノは疑う気持ちを捨てられない。
そこへテレーザが現れ、リーザに宿屋の部屋で拾ったスカーフを見せ、リーザもロドルフォの部屋にいたはずだと問い詰める。
エルヴィーノはリーザにまで騙されていたとがっかりする。
そこへアミーナが夢遊病状態で屋根の上を歩いてやってきて、その危なっかしさに皆は緊張しながら見守っている。
アミーナは眠りながらも恋人を失った不幸を嘆いている。(⑤)
その姿を見て全てを知ったエルヴィーノは、アミーナに再び結婚指輪をはめると、アミーナは正気を取り戻して歌います。(⑤)
皆が祝福するなか、アミーナとエルヴィーノは結婚する(⑤)。
【上演の模様】
楽器編成:二管編成弦楽五部10型
全二幕物
《第一幕》
指揮者がピット内に入り挨拶してからオーケストラの序奏が鳴らされると、すぐに幕が上がりました。舞台では、一本の太い木(松系統の木か?)の叢で、黒装束のダンサー(全員同じ服装)10人に取り囲まれた白いロングドレスの女性が、立位でダンサー達の動きに同期している様、別な表現だとダンサー達に翻弄されている様です。それは後で考えると、夢遊病にかかっている女性、アミーナの精神的苦痛を、目に見える形に表現したかったのでしょう。
①エルヴィーノ(新郎予定)との結婚式にのぞむアミーナ(新婦予定)が養母テレサに伴われ登場、母への感謝の気持ちと嬉しい気持ちを歌いました。(Come per me sereno...Sovra il sen~)
アミーナ役の代役クラウディア・ムスキオの初印象は、見た目は、未だ20代と思しき、田舎娘にはとても思えない垢抜けした、まだかなり美形のソプラノでした。またその歌い振りが初々しいのです。例えれば、ネトレプコ的声質かな?いやいやネトレプコのザルツブルク音楽祭デビューの時の声に少こーしだけ似ているかな?と錯覚しただけです。
最初のアミーナのアリアからして、すこぶる難しい技巧的歌だったせいなのか?若しくは、前日家で、デセイがアミーナ役で歌う録画を見たせいなのか?ムスキオの高音部の歌唱は、コロラチューラがあまり効かず、最高音部では、やや金属音、キーキ声でした。でもかなり美しい優しい調べを繰り出して、歌う姿は自信に満ち、幸先良いと感じられました。
②エルヴィーノがやって来て、結婚証明書に署名、指輪をアミーナに贈りました。そして「明日、明るくなったら教会で式をあげよう」と歌うのです。(Prendi: l'anel ti dono~)
それに応じて合の手で歌うアミーナ、二重唱とはいえ、主役はエルヴィーノの歌です。エルヴィーノ役アントニーノ・シラグーザは相当手練れた歌いこんだ様子のテノールで、細かい変化も自然に声を震わせ、最初から最後まで安定した歌いぶりでした。完全にシラグーザ主導の二重奏でした。
今回初めてシラグーザを聴いたと思い、あらためて<Profile>を見ると、かなりのキャリアを有する歌手でベテランの域に達していると言っても良いテノールでした。道理で旨い筈です。
③前領主の息子ロドルフォが久し振りに故郷のこの村にやって来て(おしのびです)、美しいアミーナを見かけて歌いました。(Vi ravviso,o luoghi ameni~)バックで合唱も少し入りました。ロドルフォ役の妻屋さんは、いつもながらの変わりない低い良い響きの声でアミーナの美しさを讃えて歌いました。
リーザの宿に幽霊が出るという噂に興味を持ったロドルフォは、宿に泊まることに。
そして幽霊の正体は、夢遊病のアミーナだと分かり、ロドルフォのベッドに来て眠りにつくアミーナをそっとして置き、自分は、ベッドを譲って、別床で寝たのでした。
朝ロドルフォがいる筈のベッドにアミーナが寝ているのを見た宿の主人リーザは、そのことをエルヴィーノに知らせると、大混乱が始まり、皆怒り狂いアミーナを責めたてて姦しく歌うのでした、エルヴィーノも村人役の合唱団も。当然結婚は破談の方向へ。
ここまで、ソリスト達の詠唱に勝るとも劣らぬ歌唱で劇の盛り上がりに貢献したのが、合唱団です。数えた訳ではありませんが、三、四十人いたでしょうか?。最初から最後まで、ソリストの歌に合いの手を入れたり、両者でかけ合ったり、また合唱単独で歌って場面表現や場面進行・転換に寄与していました。
《第二幕》
④エルヴィーノが嘆きながらアミーナのところに現れ、アミーナはエルヴィーノに無実を再び訴えますが、エルヴィーノは聞く耳を持ちません。すべては壊れてしまった(Tutto è sciolto)と歌います。
エルヴィーノ役のシラグーザは、第一幕でも本物のリリコ・テノールを響かせ、舞台をずーっと引き締めていましたが、この場面では、これまでにない失望、悲しみ、怒りの感情を載せて相当激しい調子で歌って、ここのアリアでも万来の拍手を受けていました。ここから、エルヴィーロがアミーナの無実を悟るまで、相当な葛藤をする場面が続きました。結婚を取り止め、指輪を取り外したり、宿の女主人リーザと結婚する方向に走ったり(それはすんでの処でストップしましたが。)
最後の場面で、ロドルフォが、「アミーナは<夢>であること、それが皆幽霊と勘違いしていた真相だということ」を村人やエルヴィーノに説明し、それのことを、屋根に上ったアミーナの様子を見て初めて人々はやっとその真相を理解したのでした。誤解は解かれた。屋根のひさしに上って歌うアミーナの詠唱程、皆を涙に誘うものは無いでしょう。
⑤「ああ、信じられないこんなに早く花が散ってしまうなんて(Ah non credea mirarti.)」
花びらを一つ一つむしりながら屋根から下にまるで桜の花が散る様にひらひらと(この場面は光に反射する効果で表現していましたが)花びらが散り、アミナーの結婚に至る寸前で崩壊してしまったエルヴィーノとの愛を象徴すして歌うムスキオの歌唱は、この日一番の出色の出来でした。コロラチュールは申し分なく、跳躍音もほぼ完璧に、それより何よりも、切々と歌う心からの悲しさの吐露、それが歌が本筋であることを、人々に訴える説得力のある歌い振りでした。そして人々の誤解が解け指輪が元のさやに納まってホッとしてアミーナが歌う最後の場面、
⑤エルヴィーノはようやく彼女の潔白を信じ、過ちを悔い、彼女に指輪を返し、皆が「アミーナ万歳!」と叫ぶと、アミーナは意識を取り戻し、喜びを歌いあげます。(Ah! non giunge~)
歌い終わると会場からは大きな拍手と歓声、ブラボーの叫びが轟きました。