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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

第22回東京音楽コンクール本選(声楽部門)

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【日時】2024年9月1日(日)16:00審査開始(15:15開場/18:15終演予定/19:05表彰式開始予定)

【会場】東京文化会館 大ホール 

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

【指 揮】園田隆一郎

【出場者】 

16:00~

①砂田愛梨(ソプラノ)

①-1.G. ドニゼッティ:オペラ『ドン・パスクワーレ』より「騎士はその眼差しに」

①-2.オペラ『連隊の娘』より「こうして決まってしまうのね~フランス万歳」

 

16:22~(予定)

②山田 知加(ソプラノ)

②-1.R.ワーグナー: オペラ『タンホイザー』より「厳かなこの広間よ」

②-2.P.I. チャイコフスキー: オペラ『エフゲニー・オネーギン』より 手紙の場「破滅してもいいわ」

 

16:44~(予定)

③ノ・グァングン(バス) 

③-1.P.I. チャイコフスキー: オペラ『エフゲニー・オネーギン』より「誰でも一度は恋をして」

③-2.G.ロッシーニ: オペラ『セビリアの理髪師』より「陰口はそよ風のように」

③-3.G.ヴェルディ:オペラ『ドン・カルロ』より 「ひとり寂しく眠ろう」

 

(休憩) 17:02~17:22(予定)

 

17:22~(予定)

④小川栞奈(ソプラノ)

④-1.G.ヴェルディ:オペラ『ファルスタッフ』より「夏の爽やかなそよ風の吹く中を」

④-2.C.グノー: オペラ『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」

④-3.V.ベッリーニ: オペラ 『夢遊病の女』より「ああ、信じられないわ」

 

17:45~(予定)

⑤市川 敏雅(バリトン)

⑤-1.G. ドニゼッティ:オペラ『ドン・パスクワーレ』より 「天使のように美しい娘」

⑤-2.G.プッチーニ: オペラ 『ジャンニ・スキッキ』より「声は似ていたか?~頭にはナイトキャップ」

⑤-3.E.コルンゴルト: オペラ『死の都』より「私の憧れ、私の空想(ピエロの歌)」

⑤-4.U.ジョルダーノ: オペラ 『アンドレア・シェニエ』より「祖国の敵」

 

【演奏の模様】

①砂田愛梨(ソプラノ)

 砂田さんは、東京音大大学院を出てNNTTオペラ研修所に入り、第18期生修了後主にイタリアで研鑽、伊国各種コンクールで優秀な成績を修めた様です。国内外のオペラ劇場でも活躍中の謂わば現役のソプラノ歌手と言って良いでしょう。

①-1.G. ドニゼッティ:オペラ『ドン・パスクワーレ』より「騎士はその眼差しに」

砂田さんは一番手で少し上がっていたのか?出だしの発声は、声に強さが有り声量も十分だったのですが不安定な処がありました。音程に最適化の余地があります。

①-2.オペラ『連隊の娘』より「こうして決まってしまうのね~フランス万歳」

高音域に変化する時に不安定さが見られた。即ち高音域への変化がもっと自然さが欲しい。 オペラ歌手としての劇場映えのする声の条件は備えていると思うので、如何にそれを最適化するか、潜在的伸びしろは大きいと思われます。

 釜洞さん(hukkats注)に師事したことも有る様ですが、釜洞さんの様な柔らかい表現が出来てくると耳当たりが良くて心地良い歌声になると思うのですが。

釜洞さん(hukkats注)

 昔若い頃ラジオを聴いていたらとても柔らかいいい声で歌を歌うソプラノ歌手がいました。調べたら神戸女学院を出てまもなく日本音楽コンクールで優勝したての釜洞裕子というソプラノ歌手でした。その後一度も聴きに行く機会が無いままでしたが、録音で聞いてもいい声をしていて、日本人ソプラノのレヴェルも随分上がったなと思ったものでした。

 

②山田 知加(ソプラノ)

最近は若い女性の名前が、大変凝ったお洒落なものが多いですね。特に器楽奏者の場合、楽器に因んだり、音楽を暗示する名前が凄く多く見かけられます。今回のソプラノ三者も最初何と読むのか分からない、分かってからは成る程と読み方と使用漢字には感心しました。二番手の山田さんは、名古屋を地盤として成長してきたソプラノです。地元の音大卒業後、「びわ湖声楽アンサンブル」で鍛えてきた模様。ワーグナー『タンホイザー』とチャイコフスキーのオペラ『エフゲニ・オネーギン』からの一節でした。

②-1.R.ワーグナー: オペラ『タンホイザー』より「厳かなこの広間よ」

第二幕冒頭、ヴァルトブルク城歌の殿堂の大広間で、タンホイザーの思い人エリザベートが彼との再会と歌合戦の復活を喜び歌う場面です。管弦楽が、いかにもワーグナーらしい美しくもありしかもドラマティックな旋律を奏で、続いて山田さんが声を張り上げました。❝Dich, teure Halle, grüss' ich wieder,froh grüss' ich dich, geliebter Raum!In dir erwachen seine Lieder,und wecken mich aus düstrem Traum.    <中略>    Wie jetzt mein Busen hoch sich hebet,so scheinst du jetzt mir stolz und hehr;der dich und mich so neu belebet, nicht länger weilt er ferne mehr.Sei mir gegrüsst! sei mir gegrüsst! ❞

オケ伴奏ではモティーフは何回も繰り返され、喜々とした様子が表わされていました

山田さんの歌声は、かなりコントロールが効き熟練されたものでした。伸びやかでもありました。もう少しオケの響きに合わせた喜々とした雰囲気が出せればさらに良かったと思います。何分広間を文化会館、エリザベートを山田さん、タンホイザーを聴衆に見立てれば、この殿堂に新たに命の息吹きを吹き込むのは、聴衆の力と山田さんの力という事になりましょうか。喜びで一杯に満たして下さい。欲を言えばドイツ語をもっともっと勉強して欲しい気もしました。

②-2.P.I. チャイコフスキー: オペラ『エフゲニー・オネーギン』より 手紙の場「破滅してもいいわ」

これも第1幕の超有名なオペラの中の大きな見せ処、聞かせ処の場面です。手紙を書いているタチヤーナ、あて先は一目で気に入った好青年オネーギン。書きながらあれこれ考え想像し、悩む彼女でした。結構長い歌で、それを山田さんは安定した状態で、チャイコフスキーのオケの美しい管楽器の調べや弦楽アンサンブルに合わせて、何回も何回もテーマ旋律を繰り返し歌いました。チャイコフスキーはロシアの大詩人プーシキンの詩が元となっている物語に作曲したのですから、渾身の力を入れたと思われます。因みにプーシキンの詩は、多くのオペラ(ボリス・ゴドノフ、ルスランとリュドミラ、エフゲニ・オネーギン、青銅の騎士、スペードの女王etc.)に生かされています。

 歌は分厚い管弦楽の調べで始まり、山田さんは、かなり歌が上手いと思いましたが、管弦楽の調べに載せるのに、最適化されている歌唱とは言い難いものでした。Vc.のアンサンブルがいい響き。長い場面で、後半結構大きな声を張り上げて歌う箇所もOK。その後も安定した歌い振りでした。でもやや単調のきらい有り、もっとメリハリが必要と思いました。Ob.のソロ音からHrn.が合の手を入れ、→再度Ob.ソロ→Hrn.→1Vn.アンサンブルが鳴り出した後、山田さんがしみじみと歌った箇所は一番の出来だったと思います。弦楽アンサンブルのテーマの強奏も美しく、時々大声を張り上げる山田さんをバックアップし、最後も先ず先ずの歌唱でした。矢張舞台で実際にオペラを歌っている人の歌は、聴いていて耳に安心感の様な物が伝わってきますね。

 次は、バスの男性歌手なのですが、今日見た審査結果によると、ソプラノが1~3位を独占した様ですので、④小川栞奈(カナ)さんの歌を先に記します。

④小川栞奈(ソプラノ)

 小川さんは、都立藝術高校から藝大に進んだのですね、藝大オペラで夜の女王を歌った体験が有る模様。夜の女王と言ったら何と言ってもコロラトゥール歌唱が有名、「コロラトゥールの女王」と言いたら往年のグルベローヴァです。もう5年も前になるかな?亡くなる前年の来日公演を聴いた事が有ります。小川さんは5年前の第88回日本音楽コンクールで2位を獲得しました(その時の1位はテノールの小堀さん、現在はオペラ界で大活躍していますね)。これまで小川さんの名前は各種のオペラ公演で余り見かけませんでした。さて歌唱の方ですが、日本音楽コンクールの時と同じ作曲家のニ作品に三つ目として、ヴェルディの作品を加えた様です。東京音楽コンクールの選曲などの要綱は知りませんが、多分持ち時間が有るのでしょう。その中で歌うことには二曲であれ三曲であれ構わないのでしょう、きっと。

 

④-1.G.ヴェルディ:オペラ『ファルスタッフ』より「夏の爽やかなそよ風の吹く中を」

ヴェルディのこの演目は昨年2月にNNTTオペラで観ました。このアリアは第三幕で登場人物のナンネッタ(金持ちのフォード氏の若い娘)が妖精姿で妖精女王に扮し、❝Sul fil d’un soffio etesio(夏の爽やかなそよ風の中を) ❞ と歌い始めるのです。

 小川さんは、今回聴いたソプラノの中では一番柔らかい声質で夏の爽やかなすずろげな様子は表現出来たと思いましたが、立ち上がりだったからでしょうか?高音が出切っていなくて歌唱の変化も少しぎこちない感じがしました。終盤の場面での長ーく伸ばす高音は良かった。このアリアを聴いた限りでは大ホールには向いていない声量と歌い振りと思われました。

 

④-2.C.グノー: オペラ『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」

これは第一幕のジュリエットの家でのパーティで、ジュリエットの乳母が「お嬢様の年頃には私は結婚していました」だからパーティでいい人(男性)を見つけて下さいといった趣旨の話をしたら、はにかんで歌ったのが、この歌でした。

❝ Ariette

JULIETTE
Ah!Je veux vivre Dans ce rêve qui m'enivre;Ce jour encore,Douce flamme,Je te garde dans mon âme Comme un trésor!Cette ivresse De jeunesse Ne dure, hélas! qu'un jour!Puis vient l'heure Où l'on pleure,Le cœur cède à l'amour,Et le bonheur fuit sans retour.Je veux vivre, etc Loin de l'hiver morose Laisse-moi sommeiller Et respirer la rose Avant de l'effeuiller.Ah!Douce flamme,Reste dans mon âme Comme un doux trésor Longtemps encore!

(Ah!生きていたいの私を酔わす夢の中で;今日もまだ甘い炎を心の中にとっておくわ。宝物のようにね。この酔い心地 若さゆえの ああ、続かないのよ!わずかな間しか!
すぐにやってくるのよ 涙のときが、愛に打ち震える、そして、幸せはすぐに逃げてしまってもうもどらない。生きていたいの、etc 陰鬱な冬から遠ざかって 私をまどろんだままにしておいて、そしてバラの香りをかぐわ、枯れてしまう前にね、ああ!甘い炎よ、私の心に残っていてね。すてきな宝物のようにこれからもずっと!)❞と歌ったのでした。この歌の中にロメをとジュリエットの悲劇が暗示されているかの様な内容ですね。

 小川さんの歌唱は、声は美しいがどちらかというとか細い方で、この有名な出だしからの旋律は歌唱のテンポが速いのか?メリハリがなくフランス語の発音が殆ど聞き取れません。もっと一語一語明確な発音で、即ちレガート的でなくノン・レガート奏法を強調してメリハリを付けて歌うのが普通だと思うのですが。上行する旋律のコロラトゥールも不明確だったし高音部のコロラも今一つと言った感じがしました。どういう訳か管弦楽のトライアングルの音だけが印象深かった。申し訳ないのですが、せいぜい60点くらいの出来かなと思いました。

 

④-3.V.ベッリーニ: オペラ 『夢遊病の女』より「ああ、信じられないわ」

 この演目は来月初め、NNTTオペラで上演されるので見に行くことにしています。今回の歌の場面は、第二幕にあります。主人公のアミーナが、夢遊病で別の男性の部屋にいることを発見されて破談となってしまい、愛するエルヴィーノの愛を失ってしまったと信じたアミーナが、夢遊病で徘徊しながら歌うアリアなのです。

❝Ah! non credea mirarti Sì presto estinto, o fiore;Passasti al par d'amore, Che un giorno sol durò.Piange sui fiori.( ああ、信じられないわ、花よ、こんなにも早くしおれてしまうなんて。愛と同じようにはかなく、お前はしおれてしまった。たった1日しか続かなかった愛のように…)❞

自分としては、夢遊病にかかっているという人を、これまでの何十年間の人生の中で一度も聞いた事も新聞、テレビ、ラジオのニュース等でも無いですが、世界中にはそうした患者さんが結構いるのでしょうね、きっと。オペラ化される位ですから。昔フランスのソプラノ、ナタリー・デッセイの演奏を聴いた事が有ります。コロラトゥール歌唱のお手本の様な素晴らしものでした。

 さて小川さんのこの歌の歌い振りは、100点満点に近い出来でした。すべてがうまくいっていました。変化する表現も高音域のコロラトゥールも最後の最高音も(若干絶叫調になりましたが)見事に発声出来て、幕切れの最高潮をもの凄い勢いで歌い切ったのです。この時ばかりは会場からは大きな拍手の他に「ブラボー」の歓声が何回か上がりました。恐らくこの歌唱で小川さんは、逆転優勝したのでしょう。一事が万事、これだけの歌唱を見せれば、他の曲もきっと調子が良ければ上手に歌えるし、今後の伸びしろも大きいと判断出来たのでしょう、きっと。

 

《20分の休憩》

 

 休憩の後は上記の③小川さんと⑤市川さんが歌いましたが、前半最後の③グァングンさんの歌を次に記します。

③ノ・グァングン(バス)

 グァングンさんは韓国オペラ界で活躍している現役バスの歌い手の様です。

③-1.P.I. チャイコフスキー: オペラ『エフゲニー・オネーギン』より「誰でも一度は恋をして」

ここでまた②の山田さんに続き「オネーギン」からの歌でした。この歌は第3幕でグレーミン公爵が❝恋は若い日だけに花咲くものではない。タチヤーナを得て幸せになった❞

と歌うのです。タチヤーナやオネーギンの歌からするとやや目立たないアリアかも知れませんが、グァングンさんは、いい声のバスで落ち付いた雰囲気で歌いきりました。それ程目覚ましいバス(例えばギャウロフの様な)では無いですが、個人的には非常に好感が持てる声質でした。続いて、ロッシーニとヴェルディの二曲、合計三曲が歌われました。

③-2.G.ロッシーニ: オペラ『セビリアの理髪師』より「陰口はそよ風のように」

ソロ音だと明確にグァングンさんのいい声が、しっかりと歌っているのが分かるのですが、オーケストラの全強奏部になると、やや影が薄く聞き取りにくくなった箇所も有りました。

③-3.G.ヴェルディ:オペラ『ドン・カルロ』より 「ひとり寂しく眠ろう」

 この歌はバス歌手としてはかなり高音部での歌唱が多く、それでもグァングン流バリトンの声域で素晴らしく聞こえる歌声を張り上げ、こんな領域でも歌えますよという事をアピ-ルしているかの様でした。かなりいい線上に並ぶのではなかろうかと思いましたが、結果は以外や選外でした。

 

実際はこの後休憩に入りました。

 

*** 休憩 intermission 20 minutes***

 

⑤市川 敏雅(バリトン)

⑤-1.G. ドニゼッティ:オペラ『ドン・パスクワーレ』より 「天使のように美しい娘」

⑤-2.G.プッチーニ: オペラ 『ジャンニ・スキッキ』より「声は似ていたか?~頭にはナイトキャップ」

⑤-3.E.コルンゴルト: オペラ『死の都』より「私の憧れ、私の空想(ピエロの歌)」

⑤-4.U.ジョルダーノ: オペラ 『アンドレア・シェニエ』より「祖国の敵」

市川さんは四曲も歌いました。それぞれ短い時間で合計は時間限度の範囲内だったのでしょうけれど、どうしても作曲家が異なると、それぞれの特異点が異なり、求められるクリアしなければならない点や水準も多岐に渡ってしまうと思うのです。結果、合計点が低くなる恐れが十分ありました。市川さんの歌い振りは(ソプラノばかり聴いていた耳には)とても心地良いバリトンの響きが有りましたが、ややくぐもって聞こえる箇所も有りました。⑤-1では、安定感ある成熟した歌声を披露、声量も声の強さも十分感じられ、変化も上手く歌う器用な側面が見えました。⑤-2では、表現のうまさがあり、オケに負けない強い歌声を発揮しました。⑤-3の歌では、朗々と伸びやかな歌い振りで、最後の⑤-4でも表現力は十分にあり、演技的発声もOK、オケ伴奏の迫力ある斉奏下でもオケに負けないしっかりとした発音と発声が認められました。こうしてみてみると、合計点はかなりいい線に浮上するのではと思っていましたが、残念な結果となりました。

こうして振りかえって考えてみると、そもそも男声と女声に甲乙つけるのは非常に難しいという事が分かります。オリンピックには女性チームと男性チームが有って、別々に戦う様に、声楽部門も、男声部門、女声部門に分けた方がフェアーな感じがしますがどうでしょう?また次いでに奇抜な考えを申しますと、テノール部門にはどう見ても無理があるカウターテナーやカスタラート(裏声でソプラノ領域を発声)の新部門を作ることは如何が?そもそも歌手人口が少ないので成り立たないかな?

ところで、台風一過というか10号は台風蒸発と言ったらよいか?何れにせよ過去の事例の如く、その過ぎた後は、間違いなく秋に一歩近づいた感じがします。今日の雨の合間の晴れ間に一時でしたが、鰯雲が見えました。

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 夜の虫の鳴き声も増えて来ました。また晩、夜、早朝は冷房なしで過ごせる日も出て来ました。確実に秋は忍び寄っている様です。