
【日時】2026.2.26.(木)19:00〜
【会場】サントリーホール
【出演】ベルリン・フィル八重奏団

◯ヴァイオリン:樫本大進、ロマーノ・トマシーニ
◯ヴィオラ:アミハイ・グロス
◯チェロ:クリストフ・イゲルブリンク
◯コントラバス:エスコ・ライネ
◯クラリネット:ヴェンツェル・フックス
◯ホルン:シュテファン・ドール
◯ファゴット:シュテファン・シュヴァイゲルト
〈Profile〉
ベルリン・フィル八重奏団は、結成から80年以上という、ベルリン・フィルハーモニーのメンバーが組織する多くの室内楽アンサンブルの中で、もっとも長い歴史と伝統をもつ団体のひとつである。その歴史は、1928年、8人の楽員たちがシューベルトの八重奏曲を演奏するために集まったところから始まった。メンバーは現在に至るまで、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のトップ奏者および世界第一級の演奏家によって構成されており、ヨーロッパをはじめ、世界の諸都市で演奏活動を行っている。
【曲目】
①ドヴォルザーク/ウルフ=グイド・シェーファー編曲『5つのバガテル(八重奏版)』
(曲について)
ウルフ=グイド・シェーファー(Ulf-Guido Schäfer)は、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席クラリネット奏者などを務めた名手であり、ドヴォルザークの楽曲を室内楽(特に八重奏)向けに繊細かつ独創的に編曲した作品群で知られている。今回演奏される曲は、シェーファーが、ドヴォルザークの「5つのバガテル」を八重奏用に編曲による、クラリネットを含むアンサンブルでの演奏、この曲は、2017年1月に同奏団により、日本で世界初演された。
ドヴォルザークの「5つのバガテル」については、の民族色豊かな陽気さと、サロン風の親しみやすさを兼ね備えた、短く魅力的な5曲の小品集です。ドヴォルザークがボヘミアの伝統的な旋律やリズムを好んで用いていた時期の作品。元々は2つのヴァイオリン、チェロ、そして当時家庭用として人気があったハルモニウム(現在はピアノで代用されることが多い)のために書かれた。
小品(バガテル)という名の通り、軽快で親しみやすい旋律が特徴で、演奏時間も約15分〜20分程度。5曲の小品で構成され、舞曲風の要素や情緒的な旋律が含まれる。
②フーゴ・カウン『八重奏曲 ヘ長調Op.26』
(曲について)
ドイツ後期ロマン派の作曲家による室内楽曲です。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーらによって演奏・録音されるなど、実力ある演奏者によって評価されている、豊潤な響きを持つ作品です。
一般的に弦楽器に管楽器が加わる混合八重奏、または弦楽八重奏(第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを2本ずつ、または管楽器を含む)の音楽的スタイル。 20世紀初頭のドイツ・ロマン派の流れを汲み、重厚かつ美しい旋律が特徴。
ドイツ後期ロマン派の知られざる名曲として評価されている。
③シューベルト『八重奏曲 ヘ長調 D803』
(曲について)
1824年3月に作曲された、クラリネット、ホルン、ファゴット、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのための全6楽章の室内楽曲。トロイヤー伯爵の委嘱により、ベートーヴェンの七重奏曲をモデルに作曲され、温かみのあるメロディと長調の明るい響きが特徴的な、シューベルトの円熟期を代表する傑作である。
【演奏の模様】
今回の演奏会は、珍しい「八重奏団」による演奏会、しかもベルリン・フィルのメンバーから成る奏団だということなので、かなり前からチケットを買って楽しみにしていました。
この演奏団は上記<Profile>にある様に、1928年結成と言いますから、シューベルト没後100年記念の演奏会用に結成されたのでしょう。(再来年は没後200年ですね。)
演奏曲目は、3曲ノミネートされていますが、そのうちのシューベルトの曲に特に惹きつけられました。
第1にシューベルトが、八重奏曲を書いていたという事自体喫驚、弦楽四重奏曲に飽き足らず、ピアノ五重奏に拡大して名曲『鱒』を1819年に書いた(勿論作曲依頼があってのことですが)こと、しかもヴァイオリン2台の一つをコントラバスに変えた発想が先進的に思えます。そして今回の「八重奏曲」、この曲は、1824年3月頃、フェルディナント・トロイヤー伯爵の依頼により作曲したもので、ベートーヴェンの七重奏曲に触発された側面があるとは言え、シューベルト最大の編成の室内楽曲の傑作となったのでした。楽器編成は、「鱒」で減らしたヴァイオリンを2台に戻した他は、ベートーヴェンの七重奏曲と同じです。即ちビオラ、チェロ、コントラバス、ホルン、ファゴット、クラリネットです。
このスモール室内楽とも言える編成は、アンサンブルのバランスを考慮したものでしょう。若し、ホルンでなく他の金管、例えばトランペットやトロンボーンでは、高音域の響きに偏り過ぎるだろうし、勿論テューバにする訳にも行かないでしょう。木管のフルートやオーボエにしても然りです。今回、シューベルト以外のプログラム曲の編曲にあたっても、この八重奏曲の楽器編成用になされていることは必然だったのかも知れません。
こうした事から以下演奏(特にシューベルトの曲)の模様は、出来るだけ、弦楽四重奏団(Q)の演奏、弦楽奏と管楽器の掛け合い、全体としてのSmall 室内楽団の三つの観点から 聴き見して行きたいと思います。勿論この三要素ははっきりと分離して演奏されたものではなくて、複雑に入り組んで錯綜する場合が多かったのですが。
①ドヴォルザーク/ウルフ=グイド・シェーファー編曲『5つのバガテル(八重奏版)』
開演時10分前にホールに入ると会場は、殆ど満席の観客で一杯でした。ベルリン・フィルの演奏会ならいざ知らず、たった8名のアンサンブル演奏会が、満席とは、如何に今回注目を浴びているかの査証です。演奏者が登場 、舞台中央付近で半円陣を組み立奏です。左下手から順に、1Vn.樫本、その奥2Vn.トマシーニ、さらに奥Va.グロス、半円陣の中央Vc.イゲルブリンク、右手Hrn.ドール、その手前Fg.シュヴァイゲルト、さらに手前、舞台袖側にCl.フックスです。
◯全5曲構成。
第1曲
第1曲(アレグレット・スケルツァンド)は快適な運びの中で幾分メランコリックなスラヴ風の旋律が奏でられる。
第2曲(テンポ・ディ・メヌエット、グラツィオーソ)は優美な趣の曲。第3曲 (アレグレット・スケルツァンド)は第1曲と同じ旋律で開始され、力強く発展する民俗舞曲風の曲である。第4曲(カノン、アンダンテ・コン・モート)はノスタルジックな旋律がカノンを織りなす。
第5曲(ポーコ・アレグロ)は快活な旋律と躍動的なリズムで運ばれるが、途中に哀愁を含んだエピソードが挿入される。
この曲ではCl.が大活躍でしたが、それは当たり前かも知れません。編曲者のシェイファーは元々クラリネット奏者だったというのですから。
②フーゴ・カウン『八重奏曲 ヘ長調』
冒頭から、低音弦の重い調べが響き、次いでHrn.+1Vn.の強音⇒Vc.⇒1Vn.tとHrn.そしてVn.アンサンブルから1Vn.が抜け出し、1Vn.⇒Vc.の速い力奏では弦楽奏の力強い旋律斉奏や次いで劇的調べへの推移、Cl.の合いの手奏⇒Hrn.の抑制音などなど、聞いていて耳に親和する響きでした。奏者が並んだ半円内の音の調和、半円から飛び散る音も調和的、と中々魅力のある曲の名手達に依る感動する演でした。
《20分の休憩》
③シューベルト『八重奏曲 ヘ長調』
全六楽章構成、時間にして一時間弱という大曲です。
第1楽章アダージョ~アレグロ~ピウ・アレグロ Adagio – Allegro – Più allegro
第2楽章アダージョ Adagio
第3楽章アレグロ・ヴィヴァーチェ~トリオ~アレグロ・ヴィヴァーチェ Allegro vivace – Trio – Allegro vivace
第4楽章「アンダンテと変奏」(ウン・ポコ・ピウ・モッソー~ピウ・レント) Andante – Variations: Un poco più mosso – Più lento
第5楽章「メヌエット」(アレグレット~トリオ~アレグレット~コーダ) Menuetto. Allegretto – Trio – Allegretto – Coda
第6楽章アンダンテ・モルト~アレグロ~アンダンテ・モルト~アレグロ・モルト Andante molto – Allegro – Andante molto – Allegro molto
第1楽章、弦に対し管が合の手を入れて静かに開始、管がテーマ旋律を奏で、弦楽は当初Q(カルテット)の演奏音に対してのFag.やHrn.の掛け合いが渋く響きますが、すぐにシューベルトらしい曲相に転換、軽快な調べが迸りました。Cl.が主導音を立てて1Vn.がキザミ伴奏の箇所もありました。①のドヴォルザークの時もそうでしたが、Cl.のフックスは曲に合わせて時々膝を折って(屈伸)調子を取っていました。Hrn.のドールも負けてはいません。強いソロ音を柔らかく出して響かせ、この間弦は1Vn.中心で弱いキザミ奏に徹していました。この辺りはSmall室内楽の趣き。
第2楽章になると、冒頭からCl.が渋くも美しいソロ音をゆったりと響かせ、弦楽は静かにそれに寄り添っていました。次いで1Vn.がそっとCl.演奏に寄り添い、次第に主役は1Vn.へと移るとHrn.も参画して来るも自己主張せず、1Vn.とCl.の二重奏、1Vn.とHrn.の重奏、Fg.とも重奏、やはりこの辺りは1Vn.が主役の感がありました。
第3楽章は速くて全楽前奏で開始、弦楽奏やCl.奏が全楽全奏に合いの手を入れ、Small室内楽の様相。後半では弦楽QとCl.のソロが掛け合いますが、前半と終盤のリズムを刻む調べには、やや諧謔的な響きが有りやはりScherzo楽章らしい感じを受けました。尻切れとんぼ的終結。
第4楽章は配布プログラムノートに依れば、オペラ「サラマンカの友人たち」の旋律から取ったと書かれていましたが、シューベルトのオペラですって?観たこと無い、シューベルトにオペラがあったとは知りませんでした。調べてみると主なもので6種あるらしい。でも上演例はほとんどない模様。最初から最後まで美しい弦楽奏にCl.の憂いを帯びた調べが続きました。変奏を含めたテーマ奏を中心に両者を主軸とする重奏がシュベ節を繰り出しました。終盤のHrn.に依るテーマ奏に1Vn.の速い修飾音で掛け合う全楽奏以降もSmall 室内楽の様相でした。
第5楽章のメヌエットはやや冴えない響きでしたが、Qと管の掛け合いがゆったりと進みHrn.と1Vn,の掛け合いも堂に入ったもの。流石ベルリンフィルのコンマスと首席Hrn.名手。両者の斉奏はHrn,が抑制的な発音でぴったりのアンサンブルでした。
第6楽章冒頭、Vc.の荒々しいトレモロ強奏音が響きHrn.も合わせて音を立て、再度Vc.トテモロがクレッセンドすると、今度はHrn.が短い調べを奏でて、この序奏は次の弦楽を含めた軽快なリズムの旋律奏に引き継がれました。管楽器も鳴っていますが弱く、この辺りはQ(=カルテット)中心と言っていいでしょう。この軽快なテーマが変奏を交えて何回か繰り返され、最後の繰り返しでは、弦楽奏と管楽奏が拮抗する室内楽奏の響きと成りました。突然Va.が激しいトレモロ急奏をすると、同テーマをVn.がHrn.を従えてfollow、再度同軽快な調べをVn.がテンポアップしてQも一斉に走り出し、管も伴って曲のクライマックスは室内楽団の響きその物(少し弱いですが)一気に奏者完走でした。
《アンコール曲》シューベルト『楽興の時第3番』
この曲はNHKラジオ音楽番組のテーマソングになっていた曲です。演奏楽器の組合せは異なりますが、多くの人の知っているシューベルトの名曲の演奏に、ほぼ満員の会場からは大きな拍手喝采が起こりました。
