HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

東京春祭ワーグナー『トリスタンとイゾルデ(続き)』演奏会形式(第二幕、第三幕)!

💮圧倒的な男声ソリスト陣の歌声!!

💮女声ソリスト男声に圧倒されるも、立派に大健闘!!

💮ヤノフスキー・N響、アンサンブルのみならず奏者個々の力量発揮!!

💮男声合唱団、力強い響きをくり出すも、やや力味過ぎの箇所も!

💮演奏会形式超えの舞台効果の工夫が光る!!    

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【日時】2024.3.27.(水)15:00〜19:30(予定)

【会場】東京文化会館

【演目】ワーグナー楽劇『トリスタンとイゾルデ』全三幕(演奏会形式)、独語上演、日本語字幕付

【上演時間】約5時間(第1幕80分、休憩30分、第2幕65分、休憩30分、第3幕75分)

【管弦楽】NHK交響楽団

【指揮】マレク・ヤノフスキー

【合唱】東京オペラシンガーズ

【合唱指揮】エベルハルト・フリードリッヒ、西口彰浩

【音楽コーチ】トーマス・ラウスマン

【出演】

〇トリスタン(テノール)

スチュアート・スケルトン

<Profile>

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州生まれ。次世代を担うヘルデンテノールの代表格としてウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場 、ベルリン州立歌劇場、ハンブルク州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、パリ・オペラ座、イングリッシュ・ナショナル・オペラ、チューリッヒ歌劇場など世界各地の一流歌劇場で活躍。レパートリーは幅広いが「ピーターグライムズ」でのタイトルロールは特に定評があり・2004年にフランクフルト・オペレでのロールデヴュー以来世界各地で出演。

 

〇マルケ王(バス)

フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ

<Profile>

シリアス・バスという分野の役どころでは、世界的に最も名の知られた歌手の一人で、グルネマンツ、マルケ王、ザラストロ、ロッコ、オスミン、ダーラント、フィエスコ、ファーゾルト等を歌う。世界のあらゆる有名歌劇場に出演しており、そのなかにはバイエルン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、マドリードのテアトロ・レアル、パリ・オペラ座、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場等がある。

また、一流の音楽祭にも登場しており、バイロイト音楽祭、バーデン=バーデン音楽祭、ザルツブルク音楽祭、エクサン・プロヴァンス音楽祭、等が挙げられる。

 

〇イゾルデ(ソプラノ)

ビルギッテ・クリステンセン

<Profile>

ノルウェー出身のソプラノ歌手。オスロの国立音楽アカデミーで学び、ノルウェー屈指の歌手としての地位を確立した。17世紀初頭の作品から現代作品に至るまで、とてつもなく広いレパートリーを築いている。

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オペラでは、パリ国立オペラ、チューリッヒ歌劇場、ベルリン国立歌劇場、ドレスデン・ゼンパーオーパー、シュトゥットガルト州立歌劇場、アン・デア・ウィーン劇場、チリ市立劇場、ヴェルサイユ王立オペラ、ルーアン・オート=ノルマンディー歌劇場、モスクワ・ボリショイ劇場、ルールトリエンナーレ、インスブルック古楽音楽祭等に出演。最も頻繁に出演しているのはノルウェー国立オペラである。
これまで演じた役には、《ドン・ジョヴァンニ》ドンナ・アンナ、《皇帝ティートの慈悲》ヴィテッリア、《椿姫》ヴィオレッタ、《トゥーランドット》リュー、《道化師》ネッダ、《カルメン》ミカエラ、《ドン・カルロ》エリザベッタ、《仮面舞踏会》アメーリア、《ピーター・グライムズ》エレン・オーフォード、《こうもり》ロザリンデ、《マハゴニー》ジェニーの他、タイトルロールにはベートーヴェン《レオノーレ》、グルック《トーリードのイフィジェニー》と《アルチェステ》、ヘンデル《アルチーナ》、ハイドン《アルミーダ》、ヴェルディ《アイーダ》等が挙げられる。
また、コンサート歌手として、ヨーロッパ中のコンサートホールや音楽祭に定期的に出演している。
これまでにヨーロッパを代表する指揮者たちと共演しており、そのなかにはリナルド・アレッサンドリーニ、ファビオ・ビオンディ、ジャンルカ・カプアーノ

 

〇クルヴェナール(バリトン)

マルクス・アイヒェ

<Profile>

ドイツのザンクト・ゲオルゲンに生まれ、カールスルーエとシュトゥットガルトで学んだ。マンハイム国民劇場でキャリアをスタートさせ、《ラ・ボエーム》マルチェッロ、《フィガロの結婚》アルマヴィーヴァ伯爵、《コジ・ファン・トゥッテ》グリエルモ、《タンホイザー》ヴォルフラム、《ドン・ジョヴァンニ》や《ヴォツェック》のタイトルロール等、レパートリーにおける重要な役を開拓した。

 

国際的にも引く手あまたで、ウィーン国立歌劇場とバイエルン国立歌劇場とは数年にわたる専属契約により、《トリスタンとイゾルデ》クルヴェナール、《ヘンゼルとグレーテル》ペーター、《ナクソス島のアリアドネ》音楽教師とハルレキン、《カプリッチョ》オリヴィエと伯爵、《エフゲニー・オネーギン》タイトルロール、《スペードの女王》エレツキー公爵、《死の都》フリッツとフランク、《神々の黄昏》グンター、《ファウスト》ヴァランタン、《ばらの騎士》ファニナル、《マノン》レスコー、《ニュルンベルクのマイスタージンガー》ベックメッサー等を歌った。
2007年よりバイロイト音楽祭に定期的に客演し、《ニュルンベルクのマイスタージンガー》コートナー、《ラインの黄金》ドンナー、《神々の黄昏》グンター、《タンホイザー》ヴォルフラムを歌った。19年からは現行のトビアス・クラッツァー演出による《タンホイザー》で、ヴォルフラムを歌っている。また同年、《ばらの騎士》ファニナルで、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場にデビューした。

 

〇メロート(バリトン)

甲斐栄次郎

<Profile>

東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科声楽専攻(オペラ)修了。1998年第29回イタリア声楽コンコルソ シエナ部門第1位・シエナ大賞受賞。1999年第4回藤沢オペラコンクール第3位入賞。2002年6月イタリア、リーヴァ・デル・ガルダで開催された第8回リッカルド・ザンドナイ国際コンクール第3位入賞、同年11月プーリア州レッチェで開催された第10回ティト・スキーパ国際コンクール第1位。平成14年度五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。

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1996年二期会オペラスタジオ第39期マスタークラス修了、修了時に最優秀賞及び川崎靜子賞を受賞。1998年文化庁オペラ研修所第11期修了。1999年より文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークにおいて研鑽を積む。2002年五島記念文化財団の助成により、イタリア、ボローニャへ留学。2000年テル・アヴィヴ(イスラエル)で開催されたIsrael Vocal Arts Institute(IVAI)、キアーリ(イタリア)にて開催されたInternational Institute of Vocal Arts(IIVA)の両オペラ・プログラムに参加。テル・アヴィヴでは、パイズィエッロ作曲《セヴィリアの理髪師》フィガロを務める。2001年カザルマッジョーレ(イタリア)で開催されたIVAIプログラムに再び参加、《フィガロの結婚》フィガロを務める。
2003年9月、ウィーン国立歌劇場にデビュー。その後、同劇場において10年間に渡り専属ソリスト歌手として活躍。レパートリーは60役を超え、42役で約330公演に出演。2003年12月、トーマス・ハンプソン主演の《シモン・ボッカネグラ》においては、急病の歌手に代わりパオロ役で急遽出演し、暗殺者を緻密に表現、存在を深く印象付けた。同役では、ヌッチ、ドミンゴ、フリットリ、フルラネット、サッバティーニらとも共演。2012年5月、エディータ・グルベローヴァとの共演で、歌唱、演技共に高い評価を得たドニゼッティ作曲《ロベルト・デヴェリュー》ノッティンガム公爵をはじめとし、《ランメルモールのルチア》エンリーコ、《愛の妙薬》ベルコーレ、《ラ・ファヴォリータ》アルフォンソ11世、《蝶々夫人》シャープレス、《ラ・ボエーム》マルチェッロ、《マノン・レスコー》レスコー等、特にイタリア・オペラ作品において高い評価を得ている。

 

〇ブランゲーネ(メゾ・ソプラノ)

ルクサンドラ・ドノーセ

<Profile>

同世代で最も有名な歌手の一人であり、世界の主要なオペラハウスやコンサート・ホールで批評家や聴衆から高い評価を得ている。
特にモーツァルトとフランスのオペラ・レパートリーに定評があるが、近年はドイツのドラマティックなレパートリーにも取り組んでおり、サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との《パルジファル》クンドリ、ウラディーミル・ユロフスキ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との《ワルキューレ》ジークリンデやジュネーヴでの『指環』チクルスにおけるフリッカ、

チューリッヒ歌劇場とウィーン国立歌劇場におけるマンフレート・トロヤーン《オレスト》エレクトラ、アダム・フィッシャー指揮バンベルク交響楽団との《青ひげ公の城》ユディット等で大成功を収めた。
2023/24年シーズンは、サンフランシスコ・オペラに戻ってクレマン・マオ=タカーチ指揮により、カイヤ・サーリアホの非常に評判となったオペラ《イノセンス》ウェイトレスに出演。

 

牧童(テノール)大槻孝志

舵取り(バリトン)高橋洋介

若い水夫の声(テノール)金山京介

 

 

【主催】東京・春・実行委員会

【共催】NHK交響楽団

【後援】ドイツ連邦共和国大使館、日本ワーグナー協会

 

【粗筋】

《プロローグ》

先妻に先立たれたコンウォールの領主マルケ王は、臣下の薦めで、敵対するアイルランドから後妻を迎えることになる。講和を目的とした政略結婚だ。

マルケ王の甥トリスタンは、直前の戦いの際、軍を率いて出征し、敵将モロルトを殺して勝利をおさめたものの、自らも深手を負う。

負傷兵の介護にあたっていたアイルランドの王女イゾルデは、負傷したトリスタンの治療にあたる。モロルトはイゾルデの許嫁だったのだが、その遺体に残された刃こぼれから、相手がトリスタンだったことに気付く。ワーグナーは、治癒の過程で、二人の間に愛が芽生えたとし、それを悲劇の発端と位置づけた。傷が癒えて帰国したトリスタンは、イゾルデを妃として迎える役として、再びアイルランドに赴く。

 

《第一幕》

イゾルデを迎えて帰国する船内が舞台。トリスタンとイゾルデの間には愛憎が絡みあった激しい葛藤が渦巻くが、イゾルデはトリスタンを殺した後、自らも命を絶とうと決意。侍女ブランゲーネに毒酒を用意させる。それを知ったトリスタンは毒酒の杯を飲み、イゾルデも後を追って飲み干す。

ところが、侍女ブランゲーネが、毒の代わりに媚酒を入れたため、心中にはならず、目覚めた二人の心は新たに燃え上がる。そうした中、船は、婚礼を祝う歓喜の中、コンウォールに到着する。

 

《第二幕》

王妃となったイゾルデは、トリスタンと密会を重ねる。それを知った家臣メロートは、友であるトリスタンを裏切り、奸計を練る。『王が部下を連れて狩りに出た』という情報を流し、それに釣られた二人の逢瀬の場の最中に、王と共に乗り込んでくるのだ。トリスタンはメロートに決闘を挑むが、致命傷を負い、忠臣クルヴェナールの助けを借りて故郷カレオールに逃げ延びる。

 

《第三幕》

海岸の古城に身を隠したトリスタンの傷は深く、イゾルデとの再会を望みながらも、死を待つのみ。やがてイゾルデの船が到着。かろうじて死に目には間に合ったものの、トリスタンはイゾルデの腕の中で息を引きとる。

遅れてマルケ王の船も到着、クルヴェナールはメロートを切って仇を打つが、自らも家臣達の刃に倒れる。王は、媚薬がらみの事情を知ったため『赦そうと思って』来たと語るが、もはや手遅れ。イゾルデは亡骸を前に〈愛の死〉を絶唱して事切れる。

 

【上演の模様】

 

《第二幕》

 この幕の大部分が、イゾルデとトリスタンの不義の密会の場面です。それまでも何回となく二人は隙を見計らって密かに会っていた筈ですが、今回は王達多くの廷臣が狩りに出かけたのをこれ幸いと、待合わせの約束をしたのでした。そして最後にはマルケ王にばれてしまうのでした。

 幕が上がりオーケストラは、今日の大編成Vc.(10)他の落ち着かない弦楽奏の調べが鳴り響く中、Hrn.等の金管(当時は角笛だったのでしょう)のファンファーレや

イゾルデが歌います。Cl.やFg.の合いの手の音が聞こえます。
❝私の胸には炎が燃え、この心を焼き尽くすようだけれど、その火は明るくこの魂を照らし出してくれるの。 愛の女神はこう望んでいるわ。「夜よ、来たれ。私が光の消えたところで、(松明のところへ急ぐ)輝けるように」❞と。そして侍女ブランゲーネに言いつけるのでした。     

(扉から松明を外す。)
❝さあ、見張り台に行って、よく見ていて!この松明がたとえ私の生命だとしても、喜んで消すわ、決してためらったりしない!

(彼女は松明を地面に投げ、火は次第に消える。ブランゲーネはうろたえながら向きを変え、見張り台へと通じる外の階段を上っていき、やがて姿を消す。イゾルデは木立の向こうに耳を澄まし、窺う。はじめのうちはおずおずと遠慮がちだが、そのうち気が高ぶって我慢できなくなり、木立に歩み寄って確信に満ちたようすで覗き込む。彼女はハンカチを振るが、それもおとなしいのははじめだけで、だんだん激しくなり、ついにはあふれる情熱を込めて相当な速さで振る。突然、嬉しそうな表情を浮かべるので、恋人が遠くに見えたことが分かる。彼女はどんどん身を乗り出すが、もっとよく見えるように階段のところまで引き返し、その一番上の段から、近づく恋人にハンカチを振り続ける。それから彼女は迎えようと飛び出していく。)

 今回は、客席2階R席をこの見張り台に見立て、そこに座った侍女役ドノーセが、以下の様に歌うのでした(2階のあの席は、下の1階や上階(R3階以上)よりも座席の周りがゆったりしていて、足元も広くなっているので、座席数を確かめてみたらやはり少ない座席であり、少なくとも1.5倍の広さは有るでしょう)。演奏会形式でも中々工夫していると思いました。高い席からの歌なので侍女役ドノーセの歌声は、明快なソプラノとして会場に広がりました。

ブランゲーネの警告の歌(見張り台から聞こえてくる)
❝愛の夢に浸るお二人のために、私は寂しい夜に一人見張りをしています。どうか私の声をお聞きになって。まどろむお二人に、災いが近づきそうな予感。どうかお願いですからお目覚めになって。お気をつけて!お気をつけて!まもなく夜が明けるわ。❞

 そもそも、狩りの留守居に乗じて密会するという考えは、マケル王の廷臣でトリスタンの親友メロートからの提案でしたが、侍女はこれを罠ではないかと警戒していて、皆がいつ狩りから戻って来るか心配だったのです。

 細心の警戒の中、トリスタンが現れ、イゾルデとの久し振りの邂逅に喜び歌う二人、ここでの『愛の二重唱』は長大で濃密で、しつこい位の二人のベッタリ感が伝わって来る場面でした。

 

トリスタン
(飛び込んできて)
イゾルデ!愛する人!

イゾルデ
トリスタン!愛する方!
(二人は夢中で抱き合い、
舞台前方まで出てくる)
あなたは私のもの?

トリスタン
ふたたびきみは僕のもの?

イゾルデ
あなたを抱きしめていいのね?

トリスタン
現実だろうか?

イゾルデ
そうよ、やっと!

トリスタン
僕の胸に!

イゾルデ
ほんとうにあなたなの?

トリスタン
ほんとうにきみなんだね?

イゾルデ
あなたのまなざし、

トリスタン
きみの唇、

イゾルデ
あなたの手、

トリスタン
きみの心。

イゾルデ
ほんとうに私なの?ほんとうにあなたなの?
私が感じているのはあなたなのね?

トリスタン
ほんとうに僕なの?ほんとうにきみなの?
幻じゃないんだね?

二人
まるで夢のよう!
魂が歓声を上げ、
甘く崇高な幸せが
勇敢で美しい姿を
現す!

トリスタン
味わったことのない幸せ!

イゾルデ
何よりもすばらしいわ!

トリスタン
崇高な喜び!

イゾルデ
永遠につづくのよ!

トリスタン
永遠につづくんだね!

イゾルデ
ああ、こんな幸せが
訪れるなんて予想もしなかったわ!

トリスタン
愛の天国に
上ったみたいだ!

イゾルデ
嬉しくてはしゃぎたいわ!

トリスタン
嬉しくてうれしくてたまらない!

二人
世間から遠ざかって、
天の高みに!

イゾルデ
トリスタンは私のもの!

トリスタン
イゾルデは僕のもの!

二人
私(僕)のものであなた(きみ)のもの!
私(僕)たちは永遠に一つ!

イゾルデ

時間は融通が利かなくて、
ほんとうにのろのろしているんですもの!

トリスタン
近いのに遠く感じて、
引き裂かれるような気がするんだ。
近くにいる時は幸せだけど、
遠くにいる時はまるで砂漠のようだ。

イゾルデ
あなたは暗闇で待っていて、
私は光の中で待っていたわ。

トリスタン
ああ、光、
その光が
なかなか消えなかった!
太陽は沈み、
昼は終わったのに、
いじのわるいことに
その余韻は松明に
受け継がれて、
僕が愛する人のもとに行けないように、
彼女の扉に
掲げてあったんだ!

イゾルデ
でもあなたの愛する人が
その明かりを消したのよ。
ブランゲーネは心配してくれたけれど、
私はひるまなかった。
愛の女神の力と加護を得て、
昼に抵抗したわ。

トリスタン
その昼なんだ!
悪意に満ちた昼は
敵意をむき出しにして、
憎しみと嘆きを見せつけるんだ!
愛の苦しみを
呼び起こした仕返しに、
ありとあらゆる光を消して、
厚かましい昼を追いだしてしまいたいよ。
昼はその光で
苦難と痛みを
目覚めさせて、
追いつめる。
夜になってさえ、
黄昏の明かりを
いとしい人の家に灯して、
僕を脅しながら居座っているんだ。

 延々といつ尽きるともない二人の愛の掛け合い、時には重唱で、時には掛け合い二重唱で歌うスケルトンとクリステンセンはここぞとばかりに持てる力の限りを使って歌い上げていました。矢張りここが一番の聴き処では無かったでしょうか。

 ところで上記したトリスタンの歌では「昼はその光で苦難と痛みを目覚めさせて、追いつめる」とありますが、ここでの「闇礼賛」と言うか「光排斥」は、トリスタンがイゾルデを愛するようになってから、心の中で醸成された信念、哲学みたいなものと言えるでしょう。要するに、光の世界(日中など)では、愛するイゾルデは、王妃であり、自分の叔父王の妃であり、自分は義理の甥にあたりそうした人達の部下である訳です。その範囲内での存在と行動が求められますし、光の世界では法や常識が遍く網をかぶせて人々を監視しています。トリスタンとの愛の世界に入れるのは、こうした束縛が解け放たれる闇の世界(夜など)であるという達観に達したのでした。この考えが次の第三幕では、発展的に拡大され死へのあこがれにまで至るのです。

 二人が、愛の世界に浸っている中、事態は急変、大変なことになってしまったのでした。侍女の懸念がやはり当たっていたのです。これは二人の現場を取り押さえるわなだったのでした。マルケ王は、メロートの讒言により不義の愛の現場を押さえるため、急遽狩りから戻って来てしまった。二人の驚きは如何程だったか。いや意外と覚悟は出来ていたのかも知れません。

 二幕最後の場面は、マルケ王が、自分が信頼していた甥に裏切られた驚き、口惜しさ、悲しさを切々と歌い通しました。マルケ王役ヨゼフ・ゼーリヒは、これまた超一流の深味と強さのあるバス声を、大ホールの空間に轟かせたのでした。

 そしてトリスタンはメロートの剣により深い傷を負ってしまったのも次の三楽章の下準備なのでしょうけれど、別なストーリ、別なやり方はなかったのでしょうか、とも思ったりして。

 例えばトリスタンは罪を認めて(自分たちも罪悪感は認識していた筈ですから)素直に牢に繋がれて王の処断を待つとか、トリスタンを諦めて、二度と会わないと叔父に誓約するとか、(これは出来ないかな?)死を覚悟すれば何でも出来た筈です。この楽劇の三楽章結末では王は二人を許す案を持ってトリスタンの処に駆け付けたのですから、時間を稼げれば、死に急がなければ、別な道が二人に開けた可能性もあったでしょうに。決闘だって腑に落ちません。王は直ちに処断せよとまでは、言っていないのだし。メロートが先に剣を抜いた事になっていますが、トリスタンが戦わず何もしなければ、メロートはトリスタンを撃てない筈、だってそれは私心で罪人である王の甥を殺める違法行為でしょうから。王の命令が有れば別ですが、王は直ちに処刑せよとは絶対言えなかった可能性が大です。ワーグナーはどうしても二人に死の場面を設定したかったのでしょう。そうした愛の路も有るという事を示したかったのでは?

 

《第三幕》

 第一幕に準ずる位結構長い前奏曲のあと、瀕死の重傷を負ったトリスタンは旧い領地に逃げおおせ、死人の様に横たわる彼方では、もの寂しい調べをコールアングレが切々と低音で奏でます。トリスタンの旧領はフランス・ブルターニュ地方といいますから、多分母親がマルケ王の兄弟で、英コーンウオール領から対岸のブルターニュの国に嫁いだのでしょう。その領地が残っていたのかも知れない。度々状況を雄弁に語るコールアングレ、今回は特別にその女性奏者の演奏席が、舞台上手(向かって右翼)の端に設けられて演奏されました。これも中々の演出。流石映像のNHKです、演奏会形式であっても、見て楽しめる試みをしています。同じ位置ではその後、別な奏者がトランペット様の楽器を吹きました。イゾルデがブルターニュの瀕死の(或いは殆ど死に状態なのかも知れない)トリスタンの処に着いた時その際、鳴らされた楽器がそれです。「ホルツトランペット」と言う木製楽器です。

左上ホルツTrmp. 右下普通のTrmp.

スコアにはイングリッシュホルンでの演奏が指定
されていますが、ワーグナーは「アルペンホルン
の形状をした木のラッパが望ましい。」と書いたらしい。
 さてイゾルデを一刻千秋の思いで待ちに待って、遂に彼女に会えたトリスタンは、嬉しくて天にも上る気持ちだったのでしょう。そしてこと切れたのでした。それ以前は、二楽章の愛の二重唱で度々発露していた、「光排斥闇礼賛」を「光の世界=まがい物 対 闇の世界=真の愛の世界=死の世界」と言う考えを、死の床で苦しみにうなされながら歌う様は、壮絶以外の何物でもありませんでした。歌のみの表現とはいえ、スケルトンは物凄いエネルギーを発した歌い振りで流石と誰にでも思わす様な説得ある最終歌唱でした。
 その死後にやって来たマルケ王の免罪の歌も、ゼーリヒは、この場面ですから二幕とはまた違った悲しさ口惜しさをに溢れた鋼鉄の如き重々しい声で、最終場面を闇に沈み込ませたのです。
 そして最後に彼の有名なイゾルデが歌う「愛の死」が響き始めました。クリステンセンは、少し疲労感はある様でしたが、最期の力を振り絞って堂々と歌ったのです。欲を言えば、もう少しテンポを遅くした方が、最終の雰囲気が更に出たかも知れません。
 それにしても、凄い歌詞ですね。最後の最後、

❝in des Welt-Atems wehendem All--ertrinken,versinken --unbewusst ---höchste Lust!

この世界の吐息の吹きすさぶ宇宙のすべての中に・溺れ、沈み・我を忘れ・この上なき歓び!❞
まさにトリスタンが望んだ闇の世界、愛の世界、それはワーグナーの考えでは「宇宙」だったのかも知れない。凄いですね。素粒子論哲学者みたい。肉体は滅んでも魂が生き残る神の世界でなく、肉体滅びて素粒子にバラバラになっても、宇宙の中に吸い込まれ永遠の命と化す、その喜びは永遠の愛を得たのに等価である。とは。
演奏が、終ってヤノフスキーがタクトを下げたら、拍手が出たら、何かあったのでしょう、一瞬拍手が止んで、数秒後に今度は大きな拍手・喝采が沸き起こりました。掛け声もあちこちから掛けられ、会場と舞台上は一番の華やかな賑わいとなりました。あちこちで、スタンディングオーベーションの状態となり、演奏音は、何回も何回もてを取り合って挨拶していました。

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