HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

東京春音楽祭/ヤノフスキー指揮『トリスタンとイゾルデ』(演奏会形式)鑑賞(第一幕)

💮圧倒的な男声ソリスト陣の歌声!!

💮女声ソリスト男声に圧倒されるも、立派に大健闘!!

💮ヤノフスキー・N響、アンサンブルのみならず奏者個々の力量発揮!!

💮男声合唱団、力強い響きをくり出すも、やや力味過ぎの箇所も!

💮演奏会形式超えの舞台効果の工夫が光る!!    

 

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【日時】2024.3.27.(水)15:00〜19:30(予定)

【会場】東京文化会館

【演目】ワーグナー楽劇『トリスタンとイゾルデ』全三幕(演奏会形式)、独語上演、日本語字幕付

【上演時間】約5時間(第1幕80分、休憩30分、第2幕65分、休憩30分、第3幕75分)

【管弦楽】NHK交響楽団

【指揮】マレク・ヤノフスキー

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【合唱】東京オペラシンガーズ

【合唱指揮】エベルハルト・フリードリッヒ、西口彰浩

【音楽コーチ】トーマス・ラウスマン

【出演】

 

〇トリスタン(テノール)

スチュアート・スケルトン

<Profile>

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州生まれ。次世代を担うヘルデンテノールの代表格としてウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場 、ベルリン州立歌劇場、ハンブルク州立歌劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、パリ・オペラ座、イングリッシュ・ナショナル・オペラ、チューリッヒ歌劇場など世界各地の一流歌劇場で活躍。レパートリーは幅広いが「ピーターグライムズ」でのタイトルロールは特に定評があり・2004年にフランクフルト・オペレでのロールデヴュー以来世界各地で出演。

 

〇マルケ王(バス)

フランツ=ヨゼフ・ゼーリヒ

<Profile>

シリアス・バスという分野の役どころでは、世界的に最も名の知られた歌手の一人で、グルネマンツ、マルケ王、ザラストロ、ロッコ、オスミン、ダーラント、フィエスコ、ファーゾルト等を歌う。世界のあらゆる有名歌劇場に出演しており、そのなかにはバイエルン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、マドリードのテアトロ・レアル、パリ・オペラ座、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場等がある。

また、一流の音楽祭にも登場しており、バイロイト音楽祭、バーデン=バーデン音楽祭、ザルツブルク音楽祭、エクサン・プロヴァンス音楽祭、等が挙げられる。

 

〇イゾルデ(ソプラノ)

ビルギッテ・クリステンセン

<Profile>

ノルウェー出身のソプラノ歌手。オスロの国立音楽アカデミーで学び、ノルウェー屈指の歌手としての地位を確立した。17世紀初頭の作品から現代作品に至るまで、とてつもなく広いレパートリーを築いている。

オペラでは、パリ国立オペラ、チューリッヒ歌劇場、ベルリン国立歌劇場、ドレスデン・ゼンパーオーパー、シュトゥットガルト州立歌劇場、アン・デア・ウィーン劇場、チリ市立劇場、ヴェルサイユ王立オペラ、ルーアン・オート=ノルマンディー歌劇場、モスクワ・ボリショイ劇場、ルールトリエンナーレ、インスブルック古楽音楽祭等に出演。最も頻繁に出演しているのはノルウェー国立オペラである。
これまで演じた役には、《ドン・ジョヴァンニ》ドンナ・アンナ、《皇帝ティートの慈悲》ヴィテッリア、《椿姫》ヴィオレッタ、《トゥーランドット》リュー、《道化師》ネッダ、《カルメン》ミカエラ、《ドン・カルロ》エリザベッタ、《仮面舞踏会》アメーリア、《ピーター・グライムズ》エレン・オーフォード、《こうもり》ロザリンデ、《マハゴニー》ジェニーの他、タイトルロールにはベートーヴェン《レオノーレ》、グルック《トーリードのイフィジェニー》と《アルチェステ》、ヘンデル《アルチーナ》、ハイドン《アルミーダ》、ヴェルディ《アイーダ》等が挙げられる。
また、コンサート歌手として、ヨーロッパ中のコンサートホールや音楽祭に定期的に出演している。
これまでにヨーロッパを代表する指揮者たちと共演しており、そのなかにはリナルド・アレッサンドリーニ、ファビオ・ビオンディ、ジャンルカ・カプアーノ

クルヴェナール(バリトン)

マルクス・アイヒェ

<Profile>

ドイツのザンクト・ゲオルゲンに生まれ、カールスルーエとシュトゥットガルトで学んだ。マンハイム国民劇場でキャリアをスタートさせ、《ラ・ボエーム》マルチェッロ、《フィガロの結婚》アルマヴィーヴァ伯爵、《コジ・ファン・トゥッテ》グリエルモ、《タンホイザー》ヴォルフラム、《ドン・ジョヴァンニ》や《ヴォツェック》のタイトルロール等、レパートリーにおける重要な役を開拓した。

国際的にも引く手あまたで、ウィーン国立歌劇場とバイエルン国立歌劇場とは数年にわたる専属契約により、《トリスタンとイゾルデ》クルヴェナール、《ヘンゼルとグレーテル》ペーター、《ナクソス島のアリアドネ》音楽教師とハルレキン、《カプリッチョ》オリヴィエと伯爵、《エフゲニー・オネーギン》タイトルロール、《スペードの女王》エレツキー公爵、《死の都》フリッツとフランク、《神々の黄昏》グンター、《ファウスト》ヴァランタン、《ばらの騎士》ファニナル、《マノン》レスコー、《ニュルンベルクのマイスタージンガー》ベックメッサー等を歌った。
2007年よりバイロイト音楽祭に定期的に客演し、《ニュルンベルクのマイスタージンガー》コートナー、《ラインの黄金》ドンナー、《神々の黄昏》グンター、《タンホイザー》ヴォルフラムを歌った。19年からは現行のトビアス・クラッツァー演出による《タンホイザー》で、ヴォルフラムを歌っている。また同年、《ばらの騎士》ファニナルで、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場にデビューした。

 

〇メロート(バリトン)

甲斐栄次郎

<Profile>

東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、東京藝術大学大学院音楽研究科声楽専攻(オペラ)修了。1998年第29回イタリア声楽コンコルソ シエナ部門第1位・シエナ大賞受賞。1999年第4回藤沢オペラコンクール第3位入賞。2002年6月イタリア、リーヴァ・デル・ガルダで開催された第8回リッカルド・ザンドナイ国際コンクール第3位入賞、同年11月プーリア州レッチェで開催された第10回ティト・スキーパ国際コンクール第1位。平成14年度五島記念文化賞オペラ新人賞受賞。

 1996年二期会オペラスタジオ第39期マスタークラス修了、修了時に最優秀賞及び川崎靜子賞を受賞。1998年文化庁オペラ研修所第11期修了。1999年より文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークにおいて研鑽を積む。2002年五島記念文化財団の助成により、イタリア、ボローニャへ留学。2000年テル・アヴィヴ(イスラエル)で開催されたIsrael Vocal Arts Institute(IVAI)、キアーリ(イタリア)にて開催されたInternational Institute of Vocal Arts(IIVA)の両オペラ・プログラムに参加。テル・アヴィヴでは、パイズィエッロ作曲《セヴィリアの理髪師》フィガロを務める。2001年カザルマッジョーレ(イタリア)で開催されたIVAIプログラムに再び参加、《フィガロの結婚》フィガロを務める。
2003年9月、ウィーン国立歌劇場にデビュー。その後、同劇場において10年間に渡り専属ソリスト歌手として活躍。レパートリーは60役を超え、42役で約330公演に出演。2003年12月、トーマス・ハンプソン主演の《シモン・ボッカネグラ》においては、急病の歌手に代わりパオロ役で急遽出演し、暗殺者を緻密に表現、存在を深く印象付けた。同役では、ヌッチ、ドミンゴ、フリットリ、フルラネット、サッバティーニらとも共演。2012年5月、エディータ・グルベローヴァとの共演で、歌唱、演技共に高い評価を得たドニゼッティ作曲《ロベルト・デヴェリュー》ノッティンガム公爵をはじめとし、《ランメルモールのルチア》エンリーコ、《愛の妙薬》ベルコーレ、《ラ・ファヴォリータ》アルフォンソ11世、《蝶々夫人》シャープレス、《ラ・ボエーム》マルチェッロ、《マノン・レスコー》レスコー等、特にイタリア・オペラ作品において高い評価を得ている。

 

〇ブランゲーネ(メゾ・ソプラノ)

ルクサンドラ・ドノーセ

<Profile>

同世代で最も有名な歌手の一人であり、世界の主要なオペラハウスやコンサート・ホールで批評家や聴衆から高い評価を得ている。
特にモーツァルトとフランスのオペラ・レパートリーに定評があるが、近年はドイツのドラマティックなレパートリーにも取り組んでおり、サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との《パルジファル》クンドリ、ウラディーミル・ユロフスキ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との《ワルキューレ》ジークリンデやジュネーヴでの『指環』チクルスにおけるフリッカ、

チューリッヒ歌劇場とウィーン国立歌劇場におけるマンフレート・トロヤーン《オレスト》エレクトラ、アダム・フィッシャー指揮バンベルク交響楽団との《青ひげ公の城》ユディット等で大成功を収めた。
2023/24年シーズンは、サンフランシスコ・オペラに戻ってクレマン・マオ=タカーチ指揮により、カイヤ・サーリアホの非常に評判となったオペラ《イノセンス》ウェイトレスに出演。

 

〇牧童(テノール)大槻孝志

〇舵取り(バリトン)高橋洋介

〇若い水夫の声(テノール)金山京介

 

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【主催】東京・春・実行委員会

【共催】NHK交響楽団

【後援】ドイツ連邦共和国大使館、日本ワーグナー協会

 

【粗筋】

〇プロローグ

先妻に先立たれたコンウォールの領主マルケ王は、臣下の薦めで、敵対するアイルランドから後妻を迎えることになる。講和を目的とした政略結婚だ。

マルケ王の甥トリスタンは、直前の戦いの際、軍を率いて出征し、敵将モロルトを殺して勝利をおさめたものの、自らも深手を負う。

負傷兵の介護にあたっていたアイルランドの王女イゾルデは、負傷したトリスタンの治療にあたる。モロルトはイゾルデの許嫁だったのだが、その遺体に残された刃こぼれから、相手がトリスタンだったことに気付く。ワーグナーは、治癒の過程で、二人の間に愛が芽生えたとし、それを悲劇の発端と位置づけた。傷が癒えて帰国したトリスタンは、イゾルデを妃として迎える役として、再びアイルランドに赴く。

 

〇第

イゾルデを迎えて帰国する船内が舞台。トリスタンとイゾルデの間には愛憎が絡みあった激しい葛藤が渦巻くが、イゾルデはトリスタンを殺した後、自らも命を絶とうと決意。侍女ブランゲーネに毒酒を用意させる。それを知ったトリスタンは毒酒の杯を飲み、イゾルデも後を追って飲み干す。

ところが、侍女ブランゲーネが、毒の代わりに媚酒を入れたため、心中にはならず、目覚めた二人の心は新たに燃え上がる。そうした中、船は、婚礼を祝う歓喜の中、コンウォールに到着する。

 

〇第

王妃となったイゾルデは、トリスタンと密会を重ねる。それを知った家臣メロートは、友であるトリスタンを裏切り、奸計を練る。『王が部下を連れて狩りに出た』という情報を流し、それに釣られた二人の逢瀬の場の最中に、王と共に乗り込んでくるのだ。トリスタンはメロートに決闘を挑むが、致命傷を負い、忠臣クルヴェナールの助けを借りて故郷カレオールに逃げ延びる。

 

〇第

海岸の古城に身を隠したトリスタンの傷は深く、イゾルデとの再会を望みながらも、死を待つのみ。やがてイゾルデの船が到着。かろうじて死に目には間に合ったものの、トリスタンはイゾルデの腕の中で息を引きとる。

遅れてマルケ王の船も到着、クルヴェナールはメロートを切って仇を打つが、自らも家臣達の刃に倒れる。王は、媚薬がらみの事情を知ったため『赦そうと思って』来たと語るが、もはや手遅れ。イゾルデは亡骸を前に〈愛の死〉を絶唱して事切れる

 

【上演の模様】

 他のワーグナーの楽曲でも同様なのですが、前奏曲は比較的長くて非常に美しく、しかもオペラの内容を暗示する曲が多いのが特徴です。この「トリスタンとイゾルデ」の第一幕及び第三幕の前奏曲にも特徴があって、楽劇の内容と密接に関係しているのです。その辺りの関係を、千葉フィルのH.P.掲載の楽曲解説「ワーグナー〈トリスタンとイゾルデ〉第Ⅰ幕・第Ⅲ幕の前奏曲と《愛の死》の楽曲解説」に、詳しい掲載が有るので参考まで、文末に引用しました。

 前奏曲に於ける弦楽奏及び管・打の響きは、ステージ上に陣取ったオケからの演奏音は、ピット内からの場合と違って、些かもくぐもることなく、文化会館の大ホールにシャープ且つ柔らかに広がり聞こえました。殊にスタート時のVc.アンサンブルが慎重に重々しい調べを立てて、物語の立ち位置を暗示する効果十分といったところ。船上の場面で、新国劇の同名オペラだと、甲板に模したセットの上に伏すイゾルデ、マストの上からは船員の歌声が船上に降りて来ますが、その中で、" ・・・アイルランド娘"の語が、暗にイゾルデを揶揄していて、彼女は、内心屈辱を感じている。何分、戦争の講和条件として、コーンウォール領主マルケル王に敗戦国からの貢物とされたイゾルデは、内心絶対にそうはさせないと決心しており、死ぬ覚悟でやって来たのです。この戦いに負ける以前の戦い時からのくされ縁であるトリスタンと、刺し違える考えも歌います。内心では、トリスタンに惹かれる恋の芽生えも感じながら。イゾルデは、そうした複雑な心理から、侍女のフランゲーネに「同船しているイゾルデに、自分の処に来るように」と歌います。イゾルデ役クリステンは、立ち上がりそれ程圧倒的なソプラノでは無かったのですが、そこは欧州の歌劇場で場数を踏んでいるベテラン、ぶれない安定した歌声で、苦し紛れのイゾルデを演じていましたが、オケが強奏・全奏になるとそれを突き破る強さは声に感じられません。一方、侍女・ブランゲーネ役のドノーセも世界で活躍するメゾソプラノですがここではソプラノ域に近い歌声で、イゾルデと丁々発止やり取りをしましたが、先日聴いた新国劇のキンチャ(イゾルデ役)と藤村さん(ブランゲーネ役)のコンビ程の緊迫感は感じられませんでした。

 イゾルデの伝言を聞いたトリスタンは、どこにいても彼女に仕えているとか、舟を安全にマルケル王の処まで進める舵取りの手は休められないとか、とぼけた返答をサラッとした調子で歌ったのですが、トリスタン役のスケルトンは ❛サラッと❜と言っても、しっかりとした強さを込めた、ヘルデンテノールと言っても柔らかい声質も感じられる歌声で返歌したのです。彼は後の場面になればなる程緊迫感のある硬い鋼板の様なテノールを発揮するのです。❝トリスタンの来訪を、王妃候補として部下に命令する❞と言ったイゾルデの居丈高の伝言を聞いたトリスタンの部下クルヴェナールは、❝勇者トリスタンは、そんなアイルランドの小娘の言いなりになる筈が無い。千人のイゾルデが束になって泣き出すかも知れない❞と返答したと伝えよ、」と歌って返歌を駄目押ししたのでした。この後の幕でもそうですが、この楽劇はメイン・キャスト5~6人の他に端役と言っては何ですが、主役中心の物語進行を補助する役目の男性歌手が数人登場します。今回は彼らは何れも堂々とした立派な歌声で歌っていました。いつでもどこでも主役を張れると思われる歌手ばかりでした。その後、イゾルデと侍女のやり取りが結構長く歌われましたが、歌えば歌う程二人共実力を発揮してきたなと言った感じでした。特にイゾルデは、トリスタンが敗戦して負傷した敗軍の将として現れた時、自分の婚約者がトリスタンの手にかかって戦死したこと、それでもトリスタンを罰せられなくて結局助けてやった思いや、トリスタンが千回の誓いで以て自分に永遠の感謝と忠誠を尽くす誓約をしたことなど切々と歌うのでした。この場面を聴くとワーグナー先生やや無理筋ではないかと思ってしまいます。戦いに敗れた敗軍の将が面前に引きずり出されて、異性の勝者が敗者に同情し、一目惚れの恋心を抱くことはあると思うのですが、ただこのケースでは、その敗軍の将トリスタンが、自分の許嫁の将(モロルト)の死体の頭に刺さっていた金属片がトリスタンの欠け落ちた刀剣の一部という事から、彼こそモロルト殺害の張本人だと認識したイゾルデが、逆上することはあっても、トリスタンを恋心から許して傷まで治癒して帰郷させること等、非常に不自然であり有り得ないストーリーだと思うのです。これまでそれに近い物語など読んだことも聞いたことも有りません。こうして、イゾルデはまんまとトリスタンをおびき寄せ、一緒に服毒自殺を持ちかけるのでした。またここで二つ目の???。毒薬と思って二人が飲んだのは実は惚れ薬だったという謎。イゾルデは、薬箱の幾つかの瓶の一つ、毒薬瓶に目印を付けていたと歌ったのです。後の幕で、侍女がその瓶は自分がすり替えたと言った趣旨の歌を歌いますが、侍女ブランゲーネはその瓶に毒薬が入っているという事を知っていたのでしょうか?ひょとしてその薬箱はイゾルデの母親が持たせたのではなく、侍女が用意したものなのでしょうか?母親なら持たせるでしょう。だって自分の娘が敵国に政略結婚で嫁がせるのですから、いかなる困難が待ち構えているか知れません。そうした時は恥をさらさず名誉を守りじし出来る様に毒薬を持参させることは十分考えられます。プライドが高い場合、それが高ければ高い程、有り得ます。ただここで難題なのは、キリスト教では自死を禁じていること。良く知らないのですが、ワーグナーは通常のキリスト教徒で無かったのかも知れません。キリスト教が肌に合わなかったのかな?「神々の黄昏」の神はどう見たってイエス・キリストでもなくギリシャ神話のゼウスでもなく、何か古い欧州の神話の神の様な気がしますし「ローエングリン」の神々もキリスト教ではないでしょう。
 ところで、コーンウォールもアイルランドも宗派は違ってもキリスト教徒の国ですから、この辺りは矛盾を感じます。

 こうして恙なく?(或いは首尾よく)トリスタンに自分と一緒に薬瓶の液を飲ませることに成功したイゾルデは、上記した様に毒薬で無くて惚れ薬だったのですからサー大変、二人は盛りのついた馬の様に鼻息荒くいななき「好き」だとか「愛している」とか抱き合って「一つになって生きる」とかわめくのです。若し本当に侍女が薬をすり替えていたらこれは主人に対する反逆罪物ですね。ブランゲーネの仕業でなく、イゾルデの母親が仕組んだ事だと思いたいです。
 このイゾルデとトリスタンの愛の歌のやり取りの二重唱は第一幕の圧巻な処でした。スケルトンは持ち前のヘルデンテノール全開、クリステンセンも全力を振り絞ってスケルトンに負けじと声を張り上げていました。

 

第二幕(続く)

 

 



 

 

 

 

 

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(参考)

〇第一幕の前奏曲

自らの心を隠して、叔父の花嫁としてイゾルデを迎えに行くトリスタンの葛藤を描いた心理劇。「トリスタン和音」として注目されることになる①は、チェロによる①bと、オーボエによる半音上昇①aからなる。

 

 内に秘めた『憧れ』として始まる①は、低弦のピチカートを境に、押しとどめることの出来ない愛の流れ②へと変わってゆく。ためらいと熱い想いが鬩ぎ合う③が繰り返された後、両ヴァイオリンが二重唱さながらに呼応しあい④、奔流と化してゆくが、その頂点は断罪的に遮られ、諦めの中に沈んでゆく。第Ⅰ幕は、この音楽に物語としての前史を添え、言葉による赤裸々な愛の告白として拡大したものだ。

 

 

〇第三幕の前奏曲

 瀕死の深手を負いながら、カレオールの古城で、イゾルデとの再会だけを夢にみながら待つトリスタン。重厚な弦による⑤と、管を絡めた⑥の交替からなる。半音上昇による焦がれ①aは記号としても重要。

 

 今回のコンサート(㊟千葉フィルの演奏会)、当初は「第Ⅰ幕の前奏曲と《愛の死》」という一般的な組み合わせの予定だったのだが、練習を始めてみたところ、どうも表現が淡白過ぎるように思えた。アマオケに限らず我が国の器楽奏者は、交響曲や管弦楽曲から音楽に入るので、指示が少ないオペラのスコアだと、薄味な演奏になり易い。実はワーグナーのスコアもその典型。例えば②の後半の3小節にまたがったスラーは、演奏の段階で弓使いを工夫しないと音楽にならない。⑤も同様で、後期ロマン派ならではの息の長いカンタービレを習得してもらう良い機会にもなると考え、追加することにした。

 

〇イゾルデの《愛の死》

⑦に乗ってイゾルデが「穏やかに、静かに、彼が微笑み、目を優しく開けているのが、あなた方には見えないのですか?」と歌い始める。


 内容的には、イタリアで当時頂点を極めていたベルカント・オペラに於ける“狂乱の場”に通じるのだが、ワーグナーはコロラトゥーラ的な技巧の見せ場にはせず、長大なうねりと母性的な光りの中に、包みこもうとする。

そのためイゾルデの歌唱以上にオケ・パートが雄弁に書かれているので、今回のような歌抜きの《愛の死》も一般化しているのだが、実際に演奏してみると、歌の抜けた空白の大きさを実感させられる。

例えば、憧れ①bと⑦を重ねた⑧や、ワーグナーが真実の愛を表す時に記号として用いる⑨ターン(刺繍音)といった重要な音型が、埋もれてしまうのだ。セッション録音のようにマイクで拾えればオリジナルのままでも、それらしく聴こえるのだが、今回は、歌唱パートを、部分的に木管や弦で補充している。

 イゾルデの絶唱は、⑨aを波のように繰り返しながら第Ⅱ幕の愛の二重唱を再現してゆくが、今度はメロートに踏み込まれる修羅場で遮られることもなく、拡大型⑨bの法悦に到達。最後は①aのオーボエが嬰ニに達したところで、第3音を保持しながらロ長調の和音の中に結ばれる。



 
今回のN響のプログラムノートには上記の如き詳細な記載がないので、にわかに耳で聴いただけでは、以上の辺りの表現がどうなされたかの詳細は掴めませんでした。