4年振のパリ・オペラ座来日公演(主催者言)
2020年2月末から3月頭にかけて、パリ・オペラ座バレエ団は『ジゼル』と『オネーギン』による来日公演を行った。その後パリに戻ったダンサーたちは数日の休日があり、さあ仕事再開!と張り切ったところで新型コロナ感染症防止のため劇場は閉鎖され、団員はステイホームとなって......。それから4年、そんなエピソードを知らぬ若い世代のダンサーも含めた来日公演が2月に待たれている。ジョゼ・マルティネス芸術監督にとっては初の来日公演だ。演目は2月8日から11日までがルドルフ・ヌレエフの『白鳥の湖』で、2月16日から18日までケネス・マクミランの『マノン』。前回の来日公演後にエトワールに昇進したパク・セウンとポール・マルクの2名に加え、ジョゼが就任後に任命したオニール八菜、マルク・モロー、ギヨーム・ディオップという3名のエトワールたちが日本で初めて主役で全幕を踊る機会となる。
【演目】白鳥の湖 全四幕
【世界初演】1984年12月20日、パリ・オペラ座バレエ
【鑑賞日時】初日 2024.2.8.(木)18:30〜
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【管弦楽】東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【指揮】ヴェロ・ペーン
【台本】 ウラジーミル・ベギチェフ、ワシリー・ゲルツ
【振付】 ルドルフ・ヌレエフ
【原振付】マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ
【装置】エツィオ・フリジェリオ
【衣業】フランカ・スクアルチャピーノ
【照明】ヴィニーチョ・ケーリ
【制作】ミシェル・デルギュット
【制作・ツアーマネージャー】マリー・テセドル
【舞台監督】モイラ・ドラットル
【技術監督】シルヴァン・ブロンドー
【照明】ジャン=セバスティアン・ウォルフ、エティエンヌ・ラクチュール
【装置】ミシェル・フルキエ
【小道具】アルノー・レニョ
【大道具】ドミニク・シルヴィナ
【衣装】サビーヌ・マルティネズ、ステファニ・ルムグス、 フロラン・ボン、モリーヌ・デーリエ、 カルメン・ゴンサルヴェス、サンドリーヌ・ウシェー サラ・ジョリヴェル、パスカリーヌ・リュサニェ、ロール・ペキン
【ヘア・メイク】サンドリーヌ・ブレ、クリステル・リュイズ 、ルイーズ・バイヨ、サビーヌ・ブレイ、 マエル・シャブッシー、ティフェーヌ・パンジョ
『白鳥の湖』は5公演に7名のエトワールをちりばめた4配役という贅沢さ。昨年末に2演目の準主役の配役も発表され、公演への興味がよりかき立てられるのでは? 今後が気になるプルミエ・ダンスールとスジェたちの名前が並んでいる。『白鳥の湖』のロットバルト役にはアントニオ・コンフォルティ、トマ・ドキール、ジャック・ガストフと若手スジェの有望株3名だ。トマはオニール八菜×ジェルマン・ルーヴェと、アントニオはヴァランティーヌ・コラサント×ギヨーム・ディオップ、ジャックはパク・セウン×ポール・マルクそしてアマンディーヌ・アルビッソン×ジェレミー=ルー・ケールの2組と踊る。なお、今回の来日公演で王子役を踊るプルミエ・ダンスールのジェレミー=ルー・ケールはシーズン2016/17年以降、ロットバルト役に配役され続け、昨シーズンではジークフリード役とロットバルト役の掛け持ちだった。作品の世界に精通したダンサーによる王子の初役に期待しよう。
ジークフリート王子が愛を誓うオデット。彼女に呪いをかけて白鳥に化身させたロットバルトを、2019年2月〜3月のオペラ・バスティーユの公演でトマ・ドキール(スジェ)はコリフェ時代に初役で踊った。さらにアジアツアーおよび昨シーズンもこの役に配役され、彼の当たり役と言える。
ジャック・ガストフ(スジェ)がロットバルトに初役で取り組んだのは2022年12月の公演。
2020年7月の「若きダンサーたち」の公演において『白鳥の湖』のパ・ド・トロワでロットバルト役を踊った。この来日公演がロットバルトでの初全幕挑戦だ。
【初日配役・出演】
オデット/オディール オニール八菜
ジークフリート王子 ジェルマン・ルーヴェ
家庭教師 ヴォルフガング/ロットバルト トマ・ドキール
《第1幕》
ジークフリート王子、ヴォルフガング
王妃 クレール・ガンドルフィ
ワルツ
カミーユ・ボン、アリス・カトネ、ニーヌ・セロピアン、ポ リーヌ・ヴェルデュザン ヤン・シャイユー、フロリモン・ロリュー、シリル・ミティリ アン、ファビアン・レヴィヨン
セリア・ドゥルイ、オルタンス・ミレ=モーラン、アンブ ル・シアルコッソ、カミーユ・ド・ベルフォン、桑原沙希、 パティントン・エリザベス・正子、ルナ・ペニェ、ジェニ ファー・ヴィゾキ、カミーユ・カラザン、ジュリア・コーガ ン、リサ・ガイヤール=ボルトロッティ、グロリア・プボー アレクサンドル・ボッカラ、ニコラ・ディ・ヴィコ、アレク サンドル・ガス、ラム・シュンウィン、マチュー・コンタ、 ジュリアン・コゼット、レオ・ド・ビュスロル、ロレンゾ・レ ーリ、イサック・ロペス・ゴメス、アレクサンダー・マリア ノフスキー、エンゾ・ソガール、ルーベンス・シモン
騎士
ケイタ・ベラリ、ナタン・ビッソン、サミュエル・ブレ、 ャン=バティスト・シャヴィニエ、シリル・ショクルン、コ ランタン・ド・ネイエール、マニュエル・ガルリド、オジリ ス・オナンベレ・エヌゴノ
パ・ド・トロワ ブルーエン・バティストーニ、イネス・マッキントッシ ュ、アルチュス・ラヴォー
《第2幕》
オデット、ジークフリート王子、ロットバルト
白鳥
セリア・ドゥルイ、ニーヌ・セロピアン、ロール=アデライ ド・ブーコー、アンブル・シアルコッソ、カミーユ・ド・ベ ルフォン、桑原沙希、パティントン・エリザベス・正子、 ルナ・ペニェ、ディアーヌ・アデラック、トスカ・オーバ、 イゼ・ブルティニエール、イロナ・カブレ、カミーユ・カラ ザン、ジュリア・コーガン、リサ・ガイヤール=ボルトロッ ティ、アリシア・ヒディンガ、リサ・プティ、グロリア・プボ ー、ルシアナ・サジオロ、ロドリーヌ・ショール、山本小 春、サラ・バルテズ、アンジェリック・ブロス、クレール・ テッセール
4羽の小さな白鳥
アリス・カトネ、オルタンス・ミレ=モーラン、オーバー ヌ・フィルベール、ジェニファー・ヴィゾキ
4羽の大きい白鳥
カミーユ・ボン、カン・ホヒョン、ムセーニュ・クララ、ビ アンカ・スクダモア
《第3幕》
ジークフリート王子、オディール、ロットバルト、王妃
チャルダッシュ
ブルーエン・バティストーニ、アントワーヌ・キルシェー ル
オルタンス・ミレニモーラン、ムセーニュ・クララ、オー バーヌ・フィルベール、ビアンカ・スクダモア、ニーヌ・ セロピアン、桑原沙希、パティントン・エリザベス・正子、 ニノン・ロー
ダニエル・ストークス、ジュリアン・コゼット、イサック・ ロペス・ゴメス、ルーベンス・シモン、ケイタ・ベラリ、 ナタン・ビッソン、アレクサンドル・ラブロ、オジリス・オナンベル・エヌゴノ
スペインの踊り
カミーユ・ボン、セリア・ドゥルイ アルチュス・ラヴォー、フロリモン・ロリュー
ナポリの踊り
ポリーヌ・ヴェルデュザン、シリル・ミティリアン
アリス・カトネ、アンブル・シアルコッソ、ルナ・ペニェ、
ジェニファー・ヴィゾキ
アレクサンドル・ボッカラ、ラム・シュンウィン、マクシ
ム・トマ、マニュエル・ガルリド
マズルカ
カン・ホヒョン、カミーユ・ド・ベルフォン、イゼ・ブルティ
ニエール、カミーユ・カラザン、リサ・ガイヤール=ボル トロッティ、グロリア・プボー、ロドリーヌ・ショール、マ ルゴ・ゴディタラザック
アントニオ・コンフォルティ、ニコラ・ディ・ヴィコ、アレク サンドル・ガス、マチュー・コンタ、レオ・ド・ビュスロル、 ロレンゾ・レーリ、アレクサンダー・マリアノフスキー、 エンゾ・ソガール、シリル・ショクルン
花嫁候補
イロナ・カブレ、アリシア・ヒディンガ、山本小春、ディ アーヌ・アデラック、リサ・プティ、リュシアナ・サジオロ
白鳥の姿
ユン・ソジュン
第4幕
オデット、ジークフリート王子、ロットバルト
【上演の模様】
会場の東京文化会館には大勢のバレエ・ファンが集まり、エントランスは長い行列、ホワイエは人でごった返していました。初日のチケットは売り切れだそうです。今回の演目『白鳥の湖』はバレエの中でも最も知られた人気の高い演目で、しかも上演が世界的な「パリオペラ座バレエ団」による三年振りの来日公演だからなのでしょう。客筋はオーケストラやオペラの時と大分様相が異なり、若い人々、殊に若い女性客が随分多いと思いました。国内バレエに行った時に見掛ける親子連れは余りいませんでした。
初日の主役は、オデット姫がオニール八菜、ジークフリート王子が、ジェルマン・ルーヴェです。その他の配役は上に記した通りです。
今回はマリウス・プティパの振付をもとに、ヌレエエフがパリオペラ座バレエ独自の振付をした版で上演されました。目だった違いとしては、例えば、全体を通して、王子のメランコリーで憂鬱な雰囲気を醸し出している点とかオデットの瀕死の白鳥の場面の代わりに、彼女を取り巻く白鳥の群れが群舞として瀕死状態を何回か演出したり、王子が姫(白鳥)やオディール(黒鳥)とパ・ドドゥを踊っていると、ロットバルドが度々割り込んで邪魔をしてパ・ド・トロワになったり、また最後の場面は王子(倒れて多分死んでしまう)と姫(白鳥に戻され飛び去ってしまう)の大変悲劇的な結末となっていました。又販売されている「プログラム」によれば、その他細部では曲の順番を一部替えたり、最後のアダージョではティンパニが強く連打され、テンポが次第に遅くなって止むのですが、王子と姫は二人の宿命を象徴するその打音に身を屈して次第に悲劇的な結末に沈んで行くといった風に独自の表現となっているのです。
それにしてもチャイコフスキーのこのバレエ曲の偉大さには脱帽です。世界中に広く知られたこの名曲は、オーケストラ演奏を聞くだけでも素晴らしいのですが、バレエの踊りを見ながら聴けば、より一層その感動的響きが伝わって来るでしょう。音楽と踊りがピッタリ合致した作品です。古今東西、名作の名を欲しいままにするのも当然ですね。
今日のヴェロ・ペーン指揮のシティ・フィルの演奏は、これらチャイコフスキーの名曲のお手本の様にほぼ完璧に弾きこなしていました。特に、踊り手単独で演ずる際の管や弦楽のソロ演奏は、かなりの名手が演奏しているとお見受けしました。特に王子と姫のパ・ド・ドウでコンマスの美しいヴァイオリンソロで踊ったり、その後チェロのソロが有ったり再度コンマスのソロで踊ったり、大変ウットリとする場面でした。シティフィルのコンマスは(ピットの中まではよく見えませんでしたが)多分若手ヴァイオリニストの戸澤采紀さんの父哲夫さんではないかと思います。素晴らしい音色の演奏でした。チェロソロも多分首席の演奏だったのでしょう。Vn.に負けず劣らぬいい旋律を奏でていました。
ただ難をいえば、オケのテンポが指揮者に煽られて急ぎ足になり過ぎる箇所が何箇所か有りましたが、総じて立派な指揮と演奏だったと思います。