ある人とは、そう、ブーニンとコンクールで覇を競ったフランス人ピアニスト、ジャン=マルク・ルイサダです。ルイサダがブーニンの自宅を訪れたのです。コンクール以降、彼はブーニンの最良の友となった様です。(ショパンコンクールを目指す若手ピアニストでルイサダの指導を仰ぐ人は多いみたいですね。)
こうしてルイサダに励まされたブーニンは吹っ切れた気持ちで、八ヶ岳での演奏会を遂行したのでした。
次の目的地は新潟県長岡市です。
どうしても弾きたい曲、それはショパンの『ポロネーズ変イ長調Op.61《幻想》』いわゆる「幻想ポロネーズ」でした。
この曲は、舟歌等と共に晩年の傑作といわれます。ショパンが39歳で亡くなる3年前の1849年に出版されていて、如何にもショパンらしい悲愴なパッセッジに混じって、幻想的な雰囲気の美しい旋律が静かに流れます。パリに出て来てからその短い人生の中の様々なこと、リストとの邂逅、ジョルジュ・サンドとの愛の生活、マジョルカ島のこと、病気治療と愛に敗れ失意で戻ったパリの最後の生活等など、様々な人々の思い出や複雑な気持ちを、五線紙にぶつけたショパンのこの曲は、将にブーニンの心情を代弁しているが如くなのでしょう。