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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

NNTTオペラ/ドニゼッティ『ドン・パスクワーレ』初日鑑賞

新国立劇場オペラ「ドン・パスクワーレ」

抱腹絶倒の結婚大作戰!

綺羅星のごとき歌手が繰り広げるオペラ・ブッファ(主催者言)

 オペラの華であるベルカント・オペラから、ドニゼッティのオペラ・ブッファの代表作『ドン・パスクワーレ』を上演します。オペラ・ブッファの様式に則って、パッソ・ブッフォのタイトルロール、スープレット・ソプラノのノリーナといったキャラクターの登場人物がコミカルな物語を繰り広げる構成で、ノリーナのカヴァティーナ 「あの騎士の眼差しは」、エルネストの「遥かなる土地を求めて」 など魅力的なアリアや、声の妙技が堪能できるアンサンブルが次々に展開します。

ヴィツィオーリ演出のプロダクションは、ミラノ・スカラ座、ラヴェンナ、ボローニャ、カリアリ、ジェノヴァ、オマ ーン、トリエステなど各地で上演されている人気プロダクション。オーソドックスながら繊細な心理表現や効果的なシ ーン展開といった現代的な感性が光る秀逸な演出です。

 世界随一の人気バス歌手ミケーレ・ベルトゥージが得意のドン・パスクワーレ役で待望の新国立劇場初登場。ノリーナ に新星ラヴィニア・ビーニ、エルネストには『ドン・ジョヴァンニ』 ドン・オッターヴィオで甘い美声が絶賛されたフ ランシスコ・ガテル、マラテスタには抜群の技術を誇る上江隼人が出演。圧倒的豪華歌手陣により、ベルカント・オペ ラの楽しさあふれる極上の上演をお届けします。

 

【上演予定時間】2時間30分(第1幕・2幕80分 休憩25分 第3幕45分)

【会場】NNTTオペラパレス

【管弦楽】東京交響楽団

【指揮】レナート・バルサドンナ

【合唱】新国立劇場合唱団

【合唱指揮】富平恭平

【演出】ステファノ・ヴィツィオーリ

【美術】スザンナ・ロッシ・ヨスト

【衣装】ロベルタ・グイディ・ディ・バーニョ

【照明】フランコ・マッリ

【再演演出】澤田康子

【藝術監督】大野和士

【歌手】

ドン・パスクワーレ:ミケーレ・ペルトゥージ(バス)

マラテスタ:上江隼人(バリトン)

エルネスト:フアン・フランシスコ・ガテル(テノール)

ノリーナ:ラヴィニア・ビーニ(ソプラノ)

ドン・パスクワーレミケーレ・ペルトゥージ

 

マラテスタ上江隼人

 

エルネストフアン・フランシスコ・ガテル

 

ノリーナラヴィニア・ビーニ

 

【粗筋】

第一幕
 独り身の老人ドン・パスクワーレは、言うことを聞かない甥エルネストを懲らしめるため、結婚して子供を作り、彼の相続権を奪って文無しにしようと計画する。
 パスクワーレに招かれたマラテスタ医師が、自分の妹を相手として提案し、美しくて天使のような娘だとほめる。
 喜んだパスクワーレは、すぐ会ってみたいと言ってマラテスタをせき立てる。もう、若さが戻ってきたような気でいる。
 エルネストが現れ、ノリーナという未亡人を愛してるのだと言って、伯父が勧める結婚をかたくなに断わる。パスクワーレは、エルネストに家を出て行けと命じる。パスクワーレが結婚の意図を宣言し、エルネストを驚愕させる。
 遺産が奪われたことで、エルネストは自分の夢が絶たれたことを知る。さらに驚いたことに、パスクワーレの花嫁の世話をしたのは、友達だと思ってたマラテスタだという。パスクワーレは、甥の落胆を見てほくそ笑む。
 一方、ノリーナは恋愛小説を読みながら、女の手管に笑い声を上げたり、自分の思いを独白したりしている。エルネストからの、突然の別離の手紙で失意に沈むノリーナだが、マラテスタが現れて、恋人達のための演技だと聞かされてほっとする。マラテスタは、自分の妹に扮して、パスクワーレと偽の結婚式を挙げることをすすめる。そして、彼を困らせて、言うことを聞かせるように仕向ける提案をする。ノリーナは、修道女に扮することに同意し、そぶりを練習してみせる。

第二幕
 パスクワーレ宅の居間で、ドン・パスクワーレに勘当されたエルネストが、ノリーナを失ってしまうことを嘆く。マラテスタが、純粋無垢な「ソフロニア」を紹介すると、パスクワーレは一目惚れし、すぐに結婚を決める。
 即座に結婚式となり、乱入したエルネストが、ノリーナの不実を責めようとする。すかさず、マラテスタが脇へ連れて行き、計画を台無しにしないよういさめる。エルネストは、式の証人をすることとなる。
 偽の公証人が証書を作成し、パスクワーレが花嫁に財産の相続を定めるやいなや、ノリーナはたおやかな乙女から、派手好きで高飛車な女に豹変する。パスクワーレが嘆く間に、マラテスタがエルネストにたくらみを打ち明ける。ドン・パスクワーレは、自分が、たいへんな間違いを犯したのではないかと思い始める。

第三幕
 派手に改装された居間で、パスクワーレは新妻が計上した請求書の山を前に、途方に暮れる。さらに、山のような買い物を持って召使いたちが戻ってくると、ついに堪忍袋の緒を切らした老人は、夫としての権威を示すことを決意する。
 着飾ったノリーナが、観劇に行くと言って居間を通り過ぎる。阻止しようとしたパスクワーレは、平手打ちの一撃を食らう。
平然と、明朝パスクワーレが起きる頃に帰宅すると、言い放って出て行くノリーナ。その時、ノリーナは謎の恋人からの、夜中に庭で逢い引きしようという、誘いの手紙を落としていく。
 愕然としたパスクワーレは、マラテスタに使いを出すと退場。残された召使いたちは、このような無秩序な家に奉公することの利点を歌い上げる。
 あとで、エルネストは、マラテスタに庭で待つことを約束する。パスクワーレと密談したマラテスタが、「ソフロニア」の不貞の現場を押さえると請け合う。嫉妬に狂ったパスクワーレは、マラテスタに全てを任せる。
 星空の下、エルネストはノリーナに恋歌を歌い、ノリーナも情熱的に答える。そこに、パスクワーレとマラテスタが踏み込むが、男は屋敷に逃げ込み、ノリーナは貞淑な妻の演技をする。
 マラテスタは、エルネストが妻ノリーナを紹介しに来たと告げる。
まだ、妻を演じているノリーナが、他の女と一つ屋根の下に暮らすなんて、まっぴらごめんだと怒ってみせる。家を出て行くという妻に、パスクワーレは喜びを隠さない。エルネスト登場。ノリーナの扮する「ソフロニア」の抗議を無視して、パスクワーレは、エルネストにノリーナとの結婚の承諾を与え、遺産相続も約束する

パスクワーレは、「ソフロニア」と思っていたのが、実はノリーナ本人だったことを知って、びっくり仰天。最後は、全員が声を合わせて、結婚は老人のすることではないと歌う。そして、パスクワーレは、全てを許してハッピーエンドとなる。

 

【上演の模様】

 ドニゼッティのこのオペラは、彼の「愛の妙薬」程は有名でなく、上演の機会も「連隊の娘」「ランメルモールのルチア」ほど多いものでは有りません。しかし彼最後の作品であり、それまでの数十本に及ぶオペラの集大成的側面も有しています。どの切り口を聴いても耳当たりの良いメロディーばかりで、聴いていて心地良いものでした。(単に好みの問題かもしれませんが自分としては好きな作品ですね)

 タイトルロールのペルトゥージは多くの先進国歌劇場の舞台で活躍してきた世界的バスと言って良いキャリアを有していますが、初日の歌い振りを聴いた感想は、正直言って、それ程深い感銘を受けたとは言い難いものでした。確かに発声の第一音はインパクトある強いバス声ですが、すぐに弱めた声になって何か声を温存している感じでした。従って歌のフレーズの最初の強さが維持されないので、朗々として腹にズッシリと届く響くバスの魅力を感じる場面は殆どありませんでした。(初日だったから調子が出なかった?ズート安全運転?セーヴ運転?まさか衰退の兆しがある?そんな筈が無いですよ、まだ60歳前です。自分の耳が変?)主役ですから歌う場面が多いのは分かりますが・・・。

 それに比し、エルネスト役のテノールのガテルは健闘したと思います。第一幕でこそ本領発揮と言った歌い振りは見られませんでしたが、その高音の魅力は歌の端々に感じられました。圧巻は第二幕の冒頭でした。パスクワーレに家を出て行けと命じられて、家の外で自分の不運と恋人との別れを嘆き歌う場面では、朗々と得意中の得意な歌を歌っているという風にテノールの美声を張り上げていました。 ❝もしあなたが、愛する人よ! 幸せならば あなたの忠実なる恋人は、それで満足です。❞ですって。直接恋人に言う台詞ならやや大げさかもしれませんが、独り言ですから。心からそう思っていたのでしょう。またトランペットのソロが哀愁を帯びた素晴らしい安定した演奏でしたね。東響のどなただったのでしょうか?大きな拍手をしようと思って身構えていたのですが、間髪を入れず、次のオーケストラの旋律が鳴り響いたため会場から拍手するタイミングは有りませんでしたが。

 唯ガテルは、この様な素晴らしさをその後全幕を通して一貫して歌うことは無く、まだ自分の型を確立した領域には達してはいないテノールだと思いました。今後の発展が楽しみな歌手です。

 上江さんのマラテスタは安定的な演技といつもの魅力を感じるバリトンでしたが、全幕を通しては、特段素晴らしいという風には感じませんでした。このオペラでは相当出番も多く重要な役で、作曲家も相当いい歌を張り付けているのですから、上江さん位の歌い振りは当たり前かも知れません。

 もう一人の重要な役であるノリーナ、彼女の方が見方によっては、このオペラの影の主役とも言えると思うのですが、ノリーナ役のソプラノ、ラヴィニア・ビーニは、老パスクワーレが一目ぼれする程の魅力、しかもマラテスタの修道女である清楚な妹役を見事に演じていました。結婚照明書にサインした途端、手のひらを反してウサギ状態から猛獣的攻撃性に豹変する演技と歌う声まで強く出る箇所は、良く表現で来ていたと思いましたし、各処のアリアでもコロラテュールも上手で、いい声の歌だと感心する場面は多かったのですが、全体の歌い振りを振り返って思い出すと、今だ発展途上のソプラノの感が強かったですね。その伸びしろには相当期待出来ると思います。

 最後に舞台は回り舞台の動きをフルに活用して、一つの舞台セットを曲げ、開け、広げ、又折り曲げて、場面、場面の部屋や小さな家をセット化していたのは随分省力化と省資源化した合理的なもので、違和感が無い優れた演出だと思いました。

 

 

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