HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

都響第991回 定演 ~ブルックナー生誕200年記念演奏会

f:id:hukkats:20240113221251j:image

【日時】2024.1.13.(土)14:00〜

【会場】池袋・藝術劇場

【管弦楽】東京都交響楽団

【指揮】下野竜也

〈Profile〉

 1969年鹿児島生まれ。鹿児島大学教育学部音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部附属指揮教室で学ぶ。1996年にはイタリア・シエナのキジアーナ音楽院でオーケストラ指揮のディプロマを取得。1997年大阪フィル初代指揮研究員として、(故)朝比奈隆氏をはじめ数多くの巨匠の下で研鑽を積む。1999年文化庁派遣芸術家在外研修員に選ばれ、ウィーン国立演劇音楽大学に留学、2001年6月まで在籍。

2000年東京国際音楽コンクール<指揮>優勝と齋藤秀雄賞受賞、2001年ブザンソン国際指揮者コンクールの優勝で一躍脚光を浴びる。

国内の主要オーケストラに定期的に招かれる一方、ローマ・サンタ・チェチーリア国立アカデミー管、ミラノ・ヴェルディ響、ストラスブールフィル、ボルドー管、ロワール管、ウィーン室内管、カンヌPACA管、チェコフィルハーモニー管、シュツットガルト放送響、南西ドイツフィルコンスタンツ、シリコンバレー響をはじめとした国際舞台での活躍も目覚ましい。

2006年、読売日本交響楽団の初代正指揮者に迎えられ、2013年4月から17年3月まで同団の首席客演指揮者を務める。2011年、広島ウインドオーケストラ音楽監督に就任、14年4月から京都市交響楽団常任客演指揮者、17年4月からは同常任首席客演指揮者を務めた。2017年4月、広島交響楽団音楽総監督に就任した。

霧島国際音楽祭、サイトウ・キネン・フェスティバル松本をはじめ、数多くの音楽祭にも参加。近年はオペラの分野でも新国立劇場、日生劇場、二期会をはじめとした注目の公演で指揮を務めている。

これまでに出光音楽賞、渡邉曉雄音楽基金音楽賞、新日鉄音楽賞・フレッシュアーティスト賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞、芸術選奨文部科学大臣賞、MBC賞、東燃ゼネラル音楽賞奨励賞、南日本文化賞特別賞などを受賞。鹿児島市ふるさと大使、おじゃんせ霧島大使。

2017年4月から2023年3月まで京都市立芸術大学音楽学部指揮専攻教授として後進の指導に当たった。

 

【独奏】津田裕也(Pf.) 

 

 〈Pofile〉

 仙台市生まれ。2001年東京芸術大学入学。同年、第70回日本音楽コンクール第3位。02年第7回宮崎国際音楽祭にてウラディーミル・アシュケナージ氏によるレッスンを受講。05年東京藝術大学を首席卒業、安宅賞、アカンサス音楽賞、同声会賞等、数々の受賞を果たし、同大学大学院修士課程に進む。07年第3回仙台国際音楽コンクールにて第1位、および聴衆賞、駐日フランス大使賞を受賞。仙台市より「賛辞の楯」を、宮城県より芸術選奨新人賞を授与される。同年10月よりベルリン芸術大学においてパスカル・ドヴァイヨン氏に師事し研鑽を積む。10年東京藝術大学大学院修士課程を首席修了、併せてクロイツァー賞を受賞。11年ベルリン芸術大学を最優秀の成績で卒業、その後ドイツ国家演奏家資格を取得。同年ミュンヘン国際コンクール特別賞受賞。
 ソリストとして、ベルリン交響楽団、東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、大阪交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、広島交響楽団、ドイツ室内管弦楽団等と共演。
 東京をはじめ日本各地でソロリサイタルを開催するほか、NHK-FM「名曲リサイタル」、東京・春・音楽祭、仙台クラシックフェスティバル、武生国際音楽祭、木曽音楽祭などに出演。10年からはドイツ各地でもソロリサイタルを開催、地元紙にて好評を博す。simcレーベルよりソロアルバム「悲愴、さすらい人幻想曲」を発売。15年にはフォンテックより「メンデルスゾーン:ピアノ作品集」をリリースし、高く評価される。最新盤は18年7月に同レーベルよりリリースした「ショパン:後期ピアノ作品集」。

 

【曲目】

①モーツァルト『ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491』

(曲について)

モーツァルト自身が記した作品目録によれば、本作は1786年3月24日にウィーンで作曲され、初演は同年4月7日、ウィーンのブルグ劇場で開かれたモーツァルト自身の予約音楽会で行われた。翌月の5月1日にはオペラ『フィガロの結婚』(K. 492)が初演されている。

暗く情熱的な作品であり、ニ短調のピアノ協奏曲とは違い、唯一短調で始まり短調で終わる構成となっている。アルフレート・アインシュタインによれば、ベートーヴェンはモーツァルトの曲に感嘆し、自分の曲の中で「2、3の貢物を捧げている」と述べている。

 モーツァルトの弟子であるヨハン・ネポムク・フンメルは本作のカデンツァを作曲しただけでなく、ピアノ・フルート・・ヴァイオリンチェロ用の編曲を残している。


②ブルックナー『交響曲第1番』

(曲について)

1865年に着手、1866年に完成、1868年に初演された(第1稿)。

その後、1877年・1884年に、細部の改訂を行ったことが判明している(ロベルト・ハース、レオポルト・ノヴァークによって「リンツ稿」とされたものは、活動の拠点を既にリンツからウィーンに移した1877年時点での改訂が含まれている)。

さらに、最初の作曲から24年を経過した1890年から1891年にかけ、約1年を費やし、この曲は全面的に改訂された。時期的には、交響曲第8番の改訂を終えた直後から、改訂作業に着手している。同じ主題と曲の進行をもちながらも、曲の様式がかなり違ったものとなった。こちらの方は、この当時のブルックナーの活動地域から「ウィーン稿」、「ウィーン版」などと称される。この稿は、ウィーン大学に捧げられた。

 

【演奏の模様】

 本演奏前に今回の能登半島地震の被害者の皆さんにと館内放送があり、小規模のアンサンブルで追悼の演奏が行われました。

《追悼曲》J.S.バッハ『管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068よりエア(アリア)』

 米国における追悼式典では、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」が演奏される機会が多い様ですが、わが国では、バッハの「G線上のアリア」が多いですね。傷ついた心をいやす音楽として、「G線上のアリア」が、欧米以上に、我が国では定着しているのでしょう。

 

①モーツァルト『ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491』

全三楽章構成

第1楽章 Allegro

第2楽章 Larghetto

第3楽章 Allegretto

 聴き始めた最初の方の津田さんの演奏では、仲々心が籠ったオケとのマッチングも良い演奏だと思って聴いていましたが、中盤からPf.ソロと木管との掛け合を津田さんは落ち着き払って軽やかに淡々と弾く辺りでは、欲を言えばモーツァルトをもっと感じさせる溌剌さが欲しかった気もしました。後半に入ってのカデンツァ演奏は、モーツァルトの書いたものではなく編曲者のフンメルのものでしょうか、二度繰り返す調べ及び低音域から高音域、再度低音域さらには上行する旋律の響きも良く、高音域に達しての右手トリル、左手での旋律奏も流石と思わせるものでした。終盤低音域での左手強打健、及び右手で速いパッセッジを弾く辺りからオケも入って最後の強奏、ドラスティックなテーマ奏を強いボーイングで弾く弦楽と力を籠める管楽器の管弦楽の進行に合わせるソロピアニス津田さん、オケに協調的姿勢が目立ちました。要するに安定性は非常にあって良いのですが、オケに対して無難な演奏と言った印象をそのあとの楽章でも感じられ、もっとモーツァルトの苦悩と言うか懊悩と言うか短調で表現出来るぎりぎり精一杯の溌剌さみたいな印象をもっと感じられたら面白かったと思います。

 その他二楽章のゆっくりしたシューベルトを予感する様な?(そんな事ある筈ないですが?)旋律奏は美しかったし、後のOb.とのーマ斉奏も良かった。都響の男性Ob.奏者の音色はいつ聴いてもいいですね。

 また三楽章の速いテンポの演奏でも、ソロPf.と木管とのやり取りは続き、管が津田さんの演奏を引き立てる役割を果たしていたと思いました。

 総じて津田さんのモーツァルトは減点法ではほとんど減点されない立派な演奏と言えるでしょう。しかし加点法では、それ程見事な華々しい処、モーツァルトらしい天才性を表現出来た箇所は少ないのではないかと思われます。 

 演奏が終わって大きな拍手に応えてソロアンコール演奏が有りました。

《アンコール曲》ベートーヴェン『6つのバガディル』から第5曲

津田さんは、静かな旋律をゆっくりと、心でなぞる様に弾きました。冒頭演奏の『G線上のアリア』に呼応するが如く。

《20分の休憩》

休憩中にピアノは片付けられ、オーケストラの規模は拡大されました。二管編成(Fl.3 Hrn.5.Trmb.3)弦楽五部16型(16-14-12-10-8)

②ブルックナー『交響曲第1番』

全四楽章構成

第1楽章 Allegro

第2楽章 Adagio

第3楽章 Scherzo:Lebhaft

第4楽章 Finale:Bewegt. feurig

この曲は上記した様にブルックナーが40歳目前に作曲した無番号のへ短調の交響曲に次いで作った最初の番号付きの交響曲です。しかし作曲家本人はこの曲の改訂の意思を持ち続け、20年以上も経って所謂ブルックナー特徴を完成させた8番の交響曲作曲直後に書き直したものですから、かなりよく聞くブルックナーの交響曲に比肩する分厚い響きを有していました。

 第1楽章でこそブルックナー開始はなく、また全体を通して所謂ブルックナー休止(ゲネラルパウゼ)も4楽章にそれらしい箇所が一か所あったかも知れないですが(ブルックナーのゲネラルパウゼとしては短い方かな?)ほとんど見られないのは、初稿の姿を彷彿とさせるからでしょうか。

全体は一時間程の長い密度の濃い曲なので、全体を通して自分の良かったと思った箇所、印象的な箇所に絞って記しますと、先ず1楽章の最後の箇所、弦楽アンサンブルが速いテンポで流麗に流れる中、Timp.が合図となって金管群(Trmb.Trmp.Hrn.)が全力で雄叫びを上げ走り出し、弦楽もそれに負けずに強奏・協奏、で一区切り、これでおしまい!かと思ったら木管(Ob. Fl.)が静かにソロ音を立て、Vc.ソロが同じ旋律を繰り返し、同じテーマを弦楽奏が引き取って急速なクレッシェンドと共にテンポを速めて、再度金管群の咆哮と全楽全奏のクライマックスの再現、この息をのむ様な静まりと急速な盛り上がりの迫力が見事でした。

 また都響の弦楽の響きの美しさを感じた箇所はあちこちに有りました。例えば、第2楽章中盤にかけてのVn.アンサンブルの伸びやかな調べに対する低音弦の合いの手も光り、Ob.が同一テーマで合いの手を入れる箇所、又同楽章最後のFl.∔Ob.のソロ音が響く中、Va.アンサンブルに他弦も絡みさらには金管群も入って強奏に向か箇所等多数。

それから何と言っても印象的なのは、第3楽章のユニークな旋律とテンポを有したオーケストレーション。冒頭から調子良く比較的低音域の強奏アンサンブルと畳み掛ける様な金管群の調べ、これがテーマソングの様に何回も繰り返され迫力ある場面を演出させます。下野さんは力を入れてリハーサルを重ねた箇所なのでしょう。自信をもってこの強奏テーマを楽章を通して牽引していました(リハーサルの模様はU-Tubeで見ることが出来ます)。面白いテンポと旋律の楽章ですね。

 そして何と言っても最終楽章のスタートからの迫力あるアンサンブルのぶつかり、金管軍が木管と弦楽の蠢きを何ものぞと凌駕していきり立ち、互いに合同して会場一杯に広げるアンサンブルの怒号、この迫力ったら無いですよね。しかもここでも咆哮の後はあっさりとすぐ静まる怒り、穏やかになってすぐ激高するアンサンブル、これが人間の性格だったら皆逃げてしまいます。夫婦間だったら即離婚。でもこれが「ウィーン稿」作成過程でそうなったのか初稿からそうなのかは分かりませんが、何れにせよ、これは「ブルックナー休止」の兆候ではなかろうかと思った次第です。今度1番の初稿版に基づく演奏も聞いてみたくなりました。

 演奏が終わるや否や(下野さんが手を降ろすか降ろさないかの間際に)会場からは大きな歓声と拍手が迸り出ました。ブラボーは上階席奥から何回も。矢張りブルックナーの響きには人間の感覚はしびれて酔い痴れてしまう様です。

f:id:hukkats:20240114040830j:image