【生中継開始時間】ベルリン時間2023.12.31.17:30
日本時間2024.01.01.01:30
2023年の年末は、首席指揮者キリ ル・ペトレンコとテノールのヨナ ス・カウフマンにより大いなるドラ マが展開されます。敵討ち、近親婚、そして愛という至高の幸福が描 かれたワーグナーの楽劇《ワルキュ ーレ》。その第1幕が上演され、カ ウフマンは得意とする役どころのジ ークムントを、情熱的かつ闘争的に 歌い上げます。コンサートの幕開け を飾るのは《タンホイザー》からの 抜粋で、その荘厳な物語を凝縮した 音楽をお聴きいただけます。(ベルリンフィル)
【演目】ベルリンフィル・ジベルスターコンサート2023
【日時】2024.01.01.01:30(日本時間)〜
【会場】ベルリンフィル・デジタルコンサートホール
【管弦楽】ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
【指揮】キリル・ペトレンコ
【出演】
ヨナス・カウフマン(Ten.ジークムント)
ヴィダ・ミクネビキューテ(Sop.ジークリンデ)
トビアス・ケーラー(Bas.フンディング)
【曲目】
Ⅰ.リヒャルト・ワーグナー『タンホイザー』序曲とヴェーヌスベルクの音楽(ウイーン版)
Ⅱ.ワーグナー『ワルキューレ』より第1幕(演奏会形式)
【演奏の模様】
Ⅰ.リヒャルト・ワーグナー『タンホイザー』序曲とヴェーヌスベルクの音楽(ウイーン版)
既報『・・・ベルリンフィル/ジルベスターコンサート生中継を聴く(その1)』で記録
《20分間の休憩》
Ⅱ.ワーグナー『ワルキューレ』より第1幕(演奏会形式)
この楽劇は、ワーグナーの四部作楽劇の一つであり、最も人気が高く上演機会も多い。四部作とは⓪除夜『ラインの黄金』①第一日『ワルキューレ』②第二日『ジークフリート』③第三日『神々の黄昏』です。
①『ワレキューレ』の第一幕を演奏会形式で、三人の歌手(カウフマン、ヴィダ・ミクネビキューテ、トビアス・ケーラー)が歌いました。
第一幕3場の粗筋は次の様です。(前回、前々回の序奏と1場及び2場の粗筋も参考まで記しました)
第1幕 「館の内部」
- 序奏
- 低弦の激しいリズムが嵐と同時にジークムントの逃走を表す。トランペットが稲妻のようにきらめき、ティンパニの雷鳴が轟くと、幕が上がる。
- 第1場
- 舞台はフンディングの館。戦いに傷つき嵐の中を逃れてきたジークムントは館にたどり着く。フンディングの妻ジークリンデはジークムントに水を与え、二人は強く引かれ合う。
- 第2場
- そこへ主人のフンディングが帰ってくる。彼は男の顔が妻と瓜二つであることに気付く。ジークムントの名乗りを聞いたフンディングは、ジークムントが敵であること、今晩のみは客人として扱うが、翌朝には決闘することを申し渡す。
- 第3場
- ジークリンデはフンディングに眠り薬を飲ませ、ジークムントを逃がそうとする。ジークムントによる「冬の嵐は過ぎ去り」(ジークムントの「春と愛の歌」)に応えて、ジークリンデも「あなたこそ春です」と歌い、二重唱となる[4]。生い立ちを語り合ううちに、二人は兄妹であることを知る。
- トネリコの木に突き立てられ、かつてだれも引き抜いたことのない剣(ヴォータンがジークムントのために用意したもの)をジークムントは引き抜き、これを「ノートゥング」(苦難・危急の意)と名付ける。ジークムントはノートゥングが「妹にして花嫁」であるジークリンデへの贈り物であると宣言し、二人の逃亡によって幕。
以下楽劇の演奏、歌唱の画像の続き(第3場)です。
オケの前奏、小刻みな金管の弱音が不気味に響きます。
❝せいぜい気を付けろ❞と、捨てぜりふを残して立ち去ったフンディングに対抗するには、丸腰ではどうしようもない、武器が欲しい。かって父が言っていた剣、自分が最も必要とする時に手に入る剣は、いったい何処なのだ?と困惑して歌うジークムント(Ten.カウフマン)でした。
丸腰の自分が、ジークリンデを自在に支配しているフンディングに対して無力であることを嘆くジークムント、
Välse! Välse! 約束の剣は何処ですか?と叫ぶ息子。ここで「Välse」 は彼の父親、即ちフンディングに「ヴォルフェ」と語った父のことです。(「指輪物語」全4部を概括するならば、ウォータンと人間女性との間の子がジークムントとジークリンデなので、「Välse」と呼んだのは、神の名「ウォータン」とは呼ばず、ジークムント達の所属するヴェルフィング族語での父の名の呼び方なのでしょう)
この辺りは、結局剣をどこから得たかに関するやり取りを歌う場面が続くのです。それには「トネリコの木」が関係していたのでした。この木の説明は、第1場冒頭でジークムントが敗走して辿り着いたこのフンディングの館に、大きな木があって云々と詳細説明がなされていました。第2場でジークリンデが、この木を目くばせでジークムントに指し示し何かを知らせたのは、将にこの木に剣が突き刺さってある事を意味したのでした。
ここで誰かがドアを叩くので開けてみるとジークリンデが戻って来ました。眠剤を夫フンディングに与えてそのすきに来たのでした。
(中略)
盗賊にフンディングの屋敷に連れ去らわれ妻とされた身の上話をするジークリンデ、その時突如登場した老人がトネリコの木に剣を突き刺し、その剣を抜ける者がその剣に値すると言い残した事、これまで誰一人として抜け無かったこと、それをジークムントであれば剣を抜ける可能性があることなどを示唆するジークリンデでした。
その剣はそこですよ!と指し示しながら、自分のこれまでの屈辱的不幸を拭い去って呉れる友が現れれば、復讐が成就され幸せになれると歌うジークリンデ、その役柄になり切っている ミクネビキューテのソプラノの声は益々高揚するのでした。
そしてジークムントの切ない程の彼女を思いやる気持ちは、彼女を妻とするとまで言い、この辺りでは、流石名にし負うヘルデンテノールのカウフマンにかかっては一溜りもなく心から発する歌声となり、ジークリンデひいてはそれを聴く聴衆にビンビン伝わって来るのでした。
とその時誰かがやって来た気配あり。フンディングでは?と一瞬たじろぐ二人、
でもそれは「春のほほえみ」だったのです。ここで名場面の名アリア「冬の嵐は過ぎ去りを」歌う二人でした。第一幕ではやはり一番の聴き処でした。静かに情熱を確認し愛を確かめ結婚を前提にした幸福に満ちた兄・妹の再会劇、これは現代では異常な愛と考えられがちですが、古代の神しろの時代には認められた結び付きだったのでしょう。キリスト教だってそもそもアダムとイヴの男女二人から子孫が増えて行ったのだし、またノアの箱舟以後でも少数の遺伝子の交配から時代が過ぎると、突然変異等の遺伝子を有するホモサピエンスが増えて、近親婚でも異常個体出産は少なくなって来て、現代の様に時が経つにつれて、遺伝子的に近親からは遠く薄まって、他人と言って良い遺伝子を有する多くの人々が健康に生きる時代になって来たのだと、素人考えでも理解出来ると思います。
最後にトネリコの木からジークムントが引き抜いた剣は『ノートゥング』と呼ばれ、後の幕でも大きな役割を演じることになるのです。
(参考)
第3場
(ジークムント、ジークリンデ)
ジークムントひとり。すっかり夜になってしまい、室内はかまどの弱い炎によって、かろうじて照らされている。ジークムントは炎の近くの寝床に腰を下ろし、心は激しく興奮しつつも、黙り込んで前方を見つめている)
<ジークムント>
父さんが話していた剣・・・
最大の危機に直面したときに見つかる剣。
今ぼくは丸腰で敵の家にいて、
復讐のかたに取られて、ここにとどまっている・・・。
美しく気高い女性をぼくは見た。
心は歓喜と不安におののいている。
あの女性は、ぼくの心にあこがれを呼び覚まし、
甘い魔法でぼくを引き寄せる・・・
なのに、よりによってその女性を、ぼくを無力と嘲笑うあの男が自分の意のままとしているなんて!
ヴェルゼよ!ヴェルゼ!あなたの剣はどこにあるのだ?
強き剣。
嵐の中で振るう剣。
その剣は、ぼくの胸の中から現れないのか?
この荒れ狂う心の思いが剣とはならないのか?
(急にかまどの火がはじけ、噴き出す炎から現れるどぎつい光が、突然トネリコの幹の一点を照らし出す。前にジークリンデが目で示していたその場所に、剣のつかが刺さっているのがはっきりと見える)
あそこでちらちらしている赤い光はなんだ?
トネリコの木から、どうしてあんな光が?
目が見えない人にも届くほどの輝き・・・
楽しく笑いかけるような眼差し・・・
ああ、なんと心を気高く燃やす光だ!
もしかしたら、これは
あの花のような女性が去った時、
部屋に残していった眼差しの光だろうか?
(この時から、かまどの火は次第に弱まっていく)
夜の闇が目を覆ったとき、
あの女性の眼差しがぼくに触れ、
ぼくは、ぬくもりと光をこの手にした。
あの人の輝きは、太陽のように燦々と輝いて、
ぼくを頭上から光で満たし、
山の向こうに沈んでいった。
(一瞬、炎の残照が弱く映える)
去って行ってからも、もう一度、
あの人の光は夕映えのように輝き、
古いトネリコの木さえも
金色に燃えた。
だが、今や花はしぼみ、光は消え、
夜の闇が目を覆っている。
炎はもはや光を失い、この胸の奥に残るだけ・・・。
(炎はすっかり消えてしまい、闇夜になる。隣の部屋の扉が静かに開くと、白い服を身にまとったジークリンデが現れ、音を立てずに、急いでかまどの方へと歩み寄る)
<ジークリンデ>
お客様・・・寝ておいでですか?
<ジークムント>
(嬉しい不意打ちに飛び起きながら)
ここに来られるとは・・・どなたです?
<ジークリンデ>
(いわくありげにあわただしく)
私です・・・聞いてください!
フンディングはぐっすり寝ています。
私が眠り薬を与えたのです。
今夜あなたが幸運を手にしますように!
<ジークムント>
(興奮して話をさえぎる)
あなたが来てくれただけで十分幸運ですよ!
<ジークリンデ>
武器のありかを教えます・・・ああ、もしあなたが手に入れれば!
最高の勇士とお呼びしますわ・・・
最強の人にのみ与えられる武器なのですから。
さあ・・・私の言うことをよく聞いてください!
一族の男たちが、この部屋に集まって
フンディングの婚礼を祝っていました。
強盗たちが人目もはばからず贈り物とした娘を
フンディングは妻としたのです。
彼らが酒盛りをしている間、私は悲しく座っていたのですが、
そのとき、見知らぬ人が入ってきました。
それは、青い衣装を身にまとった白髪の老人で、
帽子を目深にかぶって、
片目を隠していました。
ですが、残りの目の光だけでも男たち全員を不安にさせ、
恐れおののかせるのに十分でしたが、
その瞳は、なぜか私にだけは、
甘い憧れにみちた悲しみと、
涙と慰めとを同時に与えてくれるようでした。
老人は私を見つめたあと、男たちをじろりと見やると、
一振りの剣を手につかみ、
トネリコの幹に、
つかまで深く突き刺しました。
これを幹から引き抜くことができる者にこそ
この剣はふさわしいのだと言い残して・・・。
しかし、並み居る男たちが、どんなに頑張っても、
誰も手に入れることはできませんでした。
男たちが何人も出たり入ったりして、
最強と自負する者たちが剣を引き抜こうとしましたが、
誰一人、報われることはありませんでした。
剣は、何事もなかったように、幹に突き刺さったままなのです・・・。ですが・・・いま私にはわかりました。
悲しんでいる私に会いにきてくれたあの人が誰だったのか。
誰のために剣を木に刺したのか。
ああ・・・私は今ここで友に会いたいのです・・・
哀れな私のために、遠い国からやってくる友に。
そうすれば、ずっと苦しみ悩んできたことが、
辱められた心の痛みが、
すべて甘美な復讐へと変わるのです!
失ったものを再びつかみ、
なくして泣いていたものを、この手に取り戻したいのです。
神聖な友を見つけ、
その勇士をこの手に抱きたいのです!
<ジークムント>
(燃えるような情熱でジークリンデを抱きしめながら)
その友は、今あなたを抱いていますよ・・・
武器と妻とを与えられる友は!
あなたという素晴らしい女性を妻にしようとの誓いが
私の胸に熱く燃えています。
かつて憧れたものは、あなたの中にあり、
かつて失ったものを、あなたの中に見つけたのです!
あなたが苦しむとき
私もまた心を痛め、
私が嘲られるとき、あなたもともに傷つくのです・・・
なんと喜ばしい復讐が微笑みかけてくるのでしょう!
私はいま聖なる歓びに満ちて高らかに笑い、
気高いあなたをこの手に抱きしめ、
あなたの胸の鼓動を感じているのです!
(大きな扉が突然バタンと開く)
<ジークリンデ>
(驚いてすくみあがり、身をもぎ離す)
えっ、誰なの?誰が来たの?
(扉は広く開け放たれ、屋外には素晴らしい春の夜が広がっている。満月の光が上から射し込み、明るい光で二人を照らすと、二人は突然、互いの姿を一点の曇りもなく認め合う)
<ジークムント>
(静かに感動しながら)
いいえ、誰も・・・。ですが一人だけ来た者がいます。
ご覧なさい。この部屋に射し込む春の微笑みを!
(ジークムントは、力強くやさしくジークリンデを寝床に引き寄せ、ジークリンデは彼の隣に腰をおろす。月明かりは神々しさを増していく)
冬の嵐は、
歓びの月の前に消え去った。
春はおだやかに光りかがやき、
やわらかな風に乗りながら、軽やかに愛らしく
奇蹟を織りなしながら揺れていく。
森と野原に息を吹きかけ、
まなこを見開いて笑いかける。
甘い小鳥の歌を歌い、
心地よい香りを放つ。
温かな血のぬくもりで、よろこびの花を咲かせ、
力を与えて新芽を吹かせる。
優美な力で、この世をつかさどり、
冬も嵐も、その強い力の前には消え去る。
春の一撃の前には、
ぼくらを春から引き離していた
どんな頑丈な扉も開かずにはいられなかった・・・。
春は、その妹である愛のもとに舞い込みましたが、
愛こそが、春を誘ったのです・・・
ぼくたちの心の奥深くにあったものが、
いまはじめて光を浴びて微笑んでいるのです。
春という兄が、愛という妹を花嫁とし、
二人を離れ離れにしていたものは打ち砕かれました。
若者は、歓喜とともに結ばれ、
春と愛とは一つになったのです!
<ジークリンデ>
あなたこそ春・・・私は待っていた・・・
凍りつくような冬の間じゅうずっと。
心は聖なるおののきとともに、あなたを受け入れた・・・
あなたの瞳がはじめて私に向けられたとき。
今までは、すべてが見知らぬことばかりで、
身近には悲しいことしかなかった。
何が起こっても、
私にはわからないことだらけだった。
でも、はっきりとわかったの・・・あなたのことは。
私があなたを見つめたとき、
あなたはもう私のものだった。
心の奥深くに秘めていた私自身が
朝の陽ざしのようにまぶしく浮かび上がり・・・
ああ・・・鳴りわたる響きとなって、私の耳に届いたの。
見知らぬものばかりの凍てつく荒野で、
私がはじめて友を見い出したとき。
(ジークリンデは我を失ったようにジークムントの首に腕を巻きつけ、近くから彼の顔を見つめる)
<ジークムント>
(心を奪われたように)
ああ・・・甘い歓び!
すばらしいひと!
<ジークリンデ>
(まじかにジークムントの目を見つめる)
ああ・・・もっと近くに行かせて・・・
気高い光をはっきり見たいの・・・
あなたの顔と瞳から現れ出る
五感を甘く酔わせる光を。
<ジークムント>
春の月光を浴びて輝きながら
あなたの髪は気高く波打っている。
私を惹きつけるものの正体が今はっきりとしました。
私は、美を目の前にする歓びに浸っているのですから。
<ジークリンデ>
(ジークムントの額から髪をかきあげ、驚きを込めて彼の顔をしげしげと見つめる)
あなたの額はなんと広く、
いくつもの血管がこめかみに集まっていることでしょう!
歓びのあまり、ふるえがとまらない!
奇蹟のような声が私の記憶を呼び起こす・・・
今日はじめて目にしたはずのこの人は、
もうすでに会ったことのある人だ・・・と!
<ジークムント>
私にも、愛の夢が思い起こさせるのです・・・
熱い憧れとともに、かつて私があなたの姿を見ていたことを!
<ジークリンデ>
いつか小川に映した自分の姿・・・
それを今また見ています。
そのとき川面に浮かび上がった私自身の姿・・・
それが今目の前にいるあなたなのです!
<ジークムント>
あなたこそ
私が胸に秘めていた姿。
<ジークリンデ>
(急いで視線をそらしながら)
ねえ、静かに!声を聞かせて・・・
まるで、子供の頃に
聞いたような響きだわ。
(いらだって)
いいえ、そんなはずは!このまえ聞いただけだわ・・・
私の声が
森にこだましたあのとき・・・
<ジークムント>
ああ・・・なんと美しい音・・・
私がいま聞いている声!
<ジークリンデ>
(再びジークムントの瞳をのぞきこんで)
あなたの目に燃える炎を見るのも初めてじゃないわ・・・
これは、あの老人が私を親しげに見つめ、
悲しんでいた私を慰めてくれた時に見た眼差し。
そのおかげで、私はあの老人の子だと気付いた・・・。
もう少しで名前で呼びかけそうなところだった!
(ジークリンデはいったん話をやめ、そのあと小声で続ける)
あなたの名前は本当にヴェーヴァルトなの?
<ジークムント>
あなたの愛をうけたからには、もうそうは名乗りません・・・
私はいま最高の歓びを手にしているのですから!
<ジークリンデ>
ですがフリートムントと
名乗ることもできないのでしょう?
<ジークムント>
あなたが好きな名をつけてくれれば、私はそう名乗りましょう。あなたに名付けてもらいたいのです!
<ジークリンデ>
たしか、お父様の名はヴォルフェでしたね?
<ジークムント>
臆病なキツネどもにとってはオオカミ(ヴォルフ)だったでしょう!ですが、その目の輝きは、オオカミではなく、
あなたという素晴らしい女性の目と同じでした。
父の本当の名・・・それはヴェルゼです。
<ジークリンデ>
(我を失って)
ヴェルゼがあなたの父親で、あなたがヴェルズング族ならば、
あの老人は、まさにあなたのために、木に剣を刺したのです。
私の愛の証として、私にあなたの名を付けさせてください・・・ジークムント・・・私はあなたをそう名付けます!
<ジークムント>
(木の幹におどりかかって、剣のつかをつかむ)
我が名はジークムント!ジークムントこそ私!
剣よ、証人となれ!ひるまずに、お前をこの手にするのは私だ!かつてヴェルゼは言った。最大の危機に陥ったとき、
お前は剣を手に入れるだろう・・・と。今こそその時だ!
神聖なる愛の最大の危機(ノート)・・・
危機は、愛の憧れを私の心にかきたて、
あかあかと胸に燃え広がりながら、
行動するのだ、死ぬのだと、私に迫ってくる・・・
ノートゥング!ノートゥング!これがお前の名だ、剣よ・・・
ノートゥング!ノートゥング!誰もがうらやむ剣よ!
切っ先鋭い刃を見せよ!
鞘から姿を現すのだ!
(恐ろしい力で一息に剣を幹から引き抜くと、驚きと歓喜のうちにあるジークリンデに、その剣を見せる)
さあ、ヴェルズング族のジークムントをご覧ください!
この剣を婚礼の贈り物とし、
我が妻に選んだ最高の女性であるあなたを
敵の家から奪い去るのは、
このジークムントなのです。
私とともに、ここから遠く離れた場所に行きましょう。
春が微笑む屋敷に行きましょう・・・
そこでは、ノートゥングがあなたを守ります。
ジークムントがあなたへの愛に生きる限り!
(ジークリンデを抱きしめ、手を取ってその場を立ち去ろうとする)
<ジークリンデ>
(最高の陶酔に浸りながらも、ジークムントから身を離し、彼と真正面から向き合う)
私の目の前にいるあなたがジークムントなら、
あなたを求める私はジークリンデ・・・
あなたは、実の妹と
剣とを一挙に手に入れたのです!
<ジークムント>
あなたは妻にして妹・・・私は兄・・・
栄えよ!ヴェルズング族の血よ!
(ジークムントは狂おしいばかりの情熱でジークリンデを抱き、彼女は大きく声を上げて彼の胸に顔を沈める。幕が素早く下りる)