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綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

都響『秋のゲッツェル&ネマーニャ祭!』at 東京文化会館

【公演名】東京都交響楽団第980回定期演奏会 Aシリーズ

《主催者言》

 ボルサン・イスタンブール・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督・首席指揮者や神奈川フィル首席客演指揮者などを歴任し、2022年9月からフランス国立ロワール管弦楽団の音楽監督を務めるサッシャ・ゲッツェルと、人気ヴァイオリニスト、ネマニャ・ラドゥロヴィチが、コロナ禍による2度のキャンセルを経て、いよいよ都響初登場です。盟友ネマニャとのチャイコフスキーの協奏曲と、彼が書き上げた交響曲5番の大作は、ウィーン出身のゲッツェルの面目躍如たる、聴きごたえ充分のプログラムです。

 

【日時】2023.9.3.(日)14:00~

【会場】東京文化会館

【管弦楽】東京都交響楽団

【指揮】サッシャ・ゲッツェル

Sascha GOETZEL

〈Profile〉
  2022年9月より、フランス国立ロワール管弦楽団音楽監督に4年間の任期で就任。現在ソフィア・フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者及びカナダ・ナショナル・ユース管弦楽団の音楽監督。
 これまでにボルサン・イスタンブール・フィルハモニー管弦楽団(BIFO)の芸術監督並びに首席指揮者、神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者、ブルターニュ交響楽団の首席客演指揮者、クオピオ交響楽団(フィンランド)首席指揮者を務める。
 オペラでは、ウィーン国立歌劇場で14年秋に大成功を収めた《フィガロの結婚》によるデビューに続き、《こうもり》、《ドン・ジョヴァンニ》、《魔笛》、《ラ・ボエーム》、《ばらの騎士》など6演目を指揮。また、マリインスキー劇場およびチューリヒ歌劇場にてモーツァルトの数々のオペラも指揮している。国内では22年4月の新国立劇場「ばらの騎士」の成功が記憶に新しい。
 ウィーン生まれ。ウィーン国立歌劇場管弦楽団にてヴァイオリン奏者として活躍中、メータ、ヤンソンス、小澤征爾らの薫陶を受けた。小澤征爾より、指揮者のフェローシップとしてタングルウッド音楽祭に招かれた後、指揮をヨルマ・パヌラに師事。

 

【独奏】ネマニャ・ラドゥロヴィチ(Vn.)

Nemanja Radulović

〈Profile〉
 セルビア生まれ。ドイツのザールラント州立音楽演劇大学、ベオグラード大学で学んだ後、14歳で渡仏。15歳でパリ国立高等音楽院に入学しP.フォンタナローザに師事、さらにクレモナでS.アッカルドの指導を受ける等、研鑽を積む。
 03年ハノーファー国際をはじめとする5つのコンクールで第一位を獲得するなど受賞多数。また、セルビアのニシュ芸術大学から名誉博士号を贈られている。

 世界の一流オーケストラと共演するほか、カーネギーホール、アムステルダム・コンセルトヘボウ、ウィーン・コンツェルトハウスをはじめとする世界の主要コンサートホールで公演を行っている。また、室内楽にも情熱を注いでおり、自身がリーダーを務めるアンサンブル「悪魔のトリル」および「ドゥーブル・サンス」との演奏活動も活発に行っている。

 ドイツ・グラモフォンより「バッハ」、「チャイコフスキー」他のCDをリリース。2021年ワーナー・クラシックスと契約、22年にアルバム「ルーツ」をリリース。

 

【曲目】
①リャードフ『ポロネーズ ハ長調 Op.49〈プーシキンの思い出に〉』

(リャードロフ?Who?)

 サンクトペテルブルクにおいて音楽家の一家に生まれる。マリインスキー劇場の初代首席指揮者を務めた父コンスタンティン・リャードフから、1860年から1868年まで非公式に音楽教育を受けたあと、1870年からペテルブルク音楽院でピアノとヴァイオリンを学んだ。やがて器楽演奏の学習を断念して、対位法とフーガの研究に熱中するが、それでもなおピアノの腕前は達者だった。リャードフの生まれついての楽才は、とりわけムソルグスキーから高い評価を受け、リャードフは「ロシア五人組」と関係するようになった。リムスキー=コルサコフの作曲科に籍を置いたが、常習的欠席を理由に、1876年に除籍された。1878年には、卒業制作を完成させるべく、このクラスを再履修している。

リャードフは1878年からペテルブルク音楽院で教鞭を執り、門下にプロコフィエフ、ミャスコフスキー、グネーシン、アサフィエフを擁する。1905年に院長リムスキー=コルサコフが、学生の革命熱を支持したかどで音楽院から解雇されると、リャードフも恩師が復職できるようになるまでの短期間、抗議の意思表示で辞職した。

1884年にリャードフは結婚し、これによってノヴゴロド地方に別荘を求める資格を得た。夏の間はこの地でのんびりと作曲の筆を進め、1914年に死去した際もこの地で過ごしていた。

リャードフは、同時代の音楽家から高い評価を得たほどの技術的な手腕に長じていたが、持ち前の不甲斐なさから、進歩が妨げられた。リャードフは大作を完成させたことがないということが言われているが、小品の多くはレパートリーの中で正当な地位を占めている。ディアギレフがリャードフに、1910年のシーズンに向けてロシア・バレエ団のために新作スコアを作曲するよう要求したところ、リャードフはぐずぐずしがちな気性から、とうとう依頼に応えることができなくなった。その代わり、ディアギレフがストラヴィンスキーに話を持ちかけ、提出されたのが《火の鳥》だった。

ちなみにリャードフは記憶力に優れ、いろいろな物語を語って大人たちを驚かせていた。また、画才にも優れており、その才能は生涯続き、漫画や幻想的な絵を描いて、友人たちを感嘆させた。

 

(曲について)

 この曲は、<Profile>にもある様に、大作を完成させたことがない彼が、四つの交響詩以外に作曲した7つの管弦楽曲の一つで、貴重なオーケストラ演奏が聴ける楽曲なのです。副題が《プーシキンの思い出に》とつけたのは、作曲した1899年がプーシキン生誕100年にあたる年であり、プーシキンの詩を元としたチャイコフスキーの歌劇『エフゲニ・オネーギン』の中の有名な大ポロネーズにヒントを得て作曲したのであろうと推測されます。 それにリャードフは、ピアノ演奏が上手で、ポロネーズの様々な曲を弾いていてそのリズム感はよく知っていて、慣れ親しんでいたのでポロネーズ関係の曲としたのでしょう。

 

②チャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35』

(曲について)

   <割愛>

 

③チャイコフスキー『交響曲第5番 ホ短調 Op.64』

(曲について)

 この曲はチャイコフスキーの円熟期にあたる1888年の作品であり、一つ前の交響曲第4番ヘ短調作品36とは作曲時期に10年の隔たりがある。交響曲第6番《悲愴》に知名度では一歩譲るかも知れませんが、5番が最高傑作だとするファンも多い。4つの楽章からなり、演奏時間は約42分。一つの主題が全ての楽章に登場し作品全体に統一感を与えている。この主題は「運命」を象徴しているとされており、第1楽章の冒頭で暗く重々しく提示されるが第4楽章では「運命に対する勝利」を表すかのように輝かしく登場するといった具合に、登場するつど姿を変える。第1楽章と第4楽章は序奏とコーダがあるソナタ形式。緩徐楽章である第2楽章は極めて美しい旋律をもち、第3楽章にはスケルツォの代わりにワルツが置かれている。

チャイコフスキーは初演を含めて6回この曲を指揮したが、作品に対する自己評価は揺れ動いた。今日では均整がとれた名作の一つとして高く評価されており、交響曲第4番、交響曲第6番《悲愴》とともに後期の「三大交響曲」として高い人気を得ている。

 

【演奏の模様】

①リャードフ『ポロネーズ ハ長調 Op.49〈プーシキンの思い出に〉』

この作曲家の名前はたまに聞いていましたが、その曲を聴くのは初めてです。

楽器編成は二管編成(Hrn.5、Trmb.3、Picc.1その他は2)弦楽五部14型(14-12-10-8-6)

 耳当たりの良い曲で、祝祭的感じを強く受けました。第一拍にアクセントのある調べで全オケと弦楽奏とが交互にやりとりし、テーマが何回も繰り返される短い(約7分の)曲でした。指揮者はこの曲を振り慣れている印象を受けました。都響はいつもながらのアンサンブルと管と弦のバランスがよい演奏。

 

②チャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35』

全三楽章構成

第1楽章 アレグロ・モデラート − モデラート・アッサイ

第2楽章 カンツォネッタ アンダンテ

第3楽章 フィナーレ/アレグロ・ヴィヴァチッシモ

 この曲は演奏会でも良く弾かれる曲ですし、先月にも東京のコンクールの本選で二人のコンテスタントが弾いたのを聴きましたが、良く聞こえました。でも当然ながら今日のソリストの演奏は全く異なっていた。結論的に言うと、ネマニャ・ラドゥロヴィチのチャイココンの曲、誰にも真似出来ない彼自身の曲を披露して呉れたのです。蚊の羽音の如きかすかなピアニッシモから次第に或いは急激に音量を上げ、力強いボウイングへと変化する技はお見事、前半は比較的弱い音で旋律を紡いだ箇所が多いのですが、決してオーケストラに埋没しない強さを保持しています。自分の出す音が曲形成にどの様に作用しているかを瞬時に判断し次の発音を加減している。かといって勝手に常識外の音で調べの流れを作っていくのでなく、きちんとチャイコの協奏曲の枠組みは外しません。どうしたらこの様な個性的な演奏が出来るのか聞きながら考えていたのですが、恐らくネマニャはこの曲をこれまで漫然と弾いて来たのではなくて、一回一回弾く毎に自分の演奏を耳に受け止めながら、様々に弾いてどう弾けば他人の模倣でなく他人の演奏から差別化できるか、研究してきたに違い有りません。これまで聴いたどの演奏者のチャイココンとは大きく異なる演奏。新鮮味を有する。 これが本物のプロの演奏家、玄人演奏家なのだなと痛感しました。売り切れ公演の満席に近い会場からは演奏後、大きな拍手と歓声が沸き起こりました。

 弾き終わった奏者と指揮者は手を取り合い、大きな拍手と歓声の中、観客に挨拶をしていた。

 尚ソリストアンコールがあり、ラドゥロヴィチは袖から戻るとすかさず、しっとりとしたメロディーを弾き始めました。

《ソリストアンコール曲》パガニーニ(セドラー編曲)『24のカプリース より』

 本番の協奏曲以上に、ネマニャの個性爆発といった風の、超絶技巧を駆使した独自のデュナーミクとルバートでネマニャしか弾けない個性的音楽の表現でした。本番同様非常に新鮮味を感じました。当然の如く大拍手。

 

ここで《20分》の休憩です。この間若干の楽器の補充があった模様。

 

③チャイコフスキー『交響曲第5番 ホ短調 Op.64』

楽器構成 三管編成(Hrn.6、Fg.2 Ob.2?)弦楽五部14型(14-12-12-10-8)Timp.1.

全四楽章構成

第1楽章 Andante

第2楽章 Andante cantabile

第3楽章 Allegro moderato

第4楽章 Allegro vivace

 この曲を以前最初に聴いた時には、活力に溢れたエネルギッシュにアンサンブルが引きも切らず進行し、音量も全体的に大きな音を立てていて迫力は有るけれど、やや姦しい感じがする交響曲だな、6番の方が圧倒的に良く出来ているなとの印象を受けたことを思い出しました。その後サントリーホールで小澤さんの最後の指揮をムター演奏で行った演奏会で、ディエゴ・マテウス指揮でサイトウキネン・オーケストラが演奏したのがこの5番でした。その時の印象は激しい曲だというものと同時に、弦楽アンサンブルが美しい曲だなと思ったものです。サイトウキネン・オケの演奏が素晴らしかったせいも有ったためでしょうか。

 今回は演奏を聴いて、さらに細密に演奏を聞き分けることが出来、例えば第2楽章冒頭の低音弦の唸る様な弱いアンサンブルの上をHrn.トップの静かな遠吠えがあたかも山の朝霧を通す天から光が籠れる様な雰囲気、そこにCb.アンサンブル⇒Vc.アンサンブルでテーマをゆっくり繰り返し、それをVn.アンサンブルが引き取りテーマを繰り返し演奏する箇所では凄く幻想的な印象を受けましたし、後前半でも、とても優美な将にチャイコ節の聞かせ処といった感じを受けましたし、また第4楽章では、前半を通したテーマを弦楽奏で低音アンサンブルを響かせる箇所のゾクッとする恰好よさ、その後Timp.の強奏を合図に全オケが脱兎のごとく(少し足の遅いウサギかな?)走り出し、再度繰り返してひとしきりその駆けッコが終わった後のHrn.等の金管が何回もファンファーレを吹き鳴らす力強さ、最後に再度、緩やかなVn.等アンサンブルの斉奏に続いて最終局面の力強い盛り上がりの弩迫力の都響の演奏に、この5番がだんだん好きになって来たように思われます。指揮者は三曲振ってもそれ程疲れているとは見えませんでしたが、何回か上半身(腰から上)を指揮台の手摺に反り返して(寄り掛って)タクトを振っていました。余り見たことない姿勢でした。

 以下に【参考】として各楽章の構造を引用して置きます。

 

 

【参考】

第1楽章
 弦楽器を伴ったクラリネットの暗い旋律で始まる。この旋律は全曲を通じての基本動機(運命の動機)となる。まるで錘おもりをつけてロシアの大地を歩むがごとく。スケッチにある「運命への服従」であろうか。やがて弦楽器のリズムにのって木管楽器が動きのある旋律を奏する。この楽章の第1主題ともいうべき旋律はやがて弦楽器に移りさらなる高揚を経てひとつのクライマックスを迎える。溜息のようなフレーズと対話が弦、木管楽器、ホルンに奏されるが弦楽器のピッチカートをきっかけに暗さが消え、第2主題がヴァイオリンに歌われる。単純な音形ながらリズムの躍動とオーケストレーションの変化が心に訴える高揚感を伴い第2のクライマックスを迎える。この辺りの展開はチャイコフスキーならではであろう。曲は展開部に入り第1主題、第2主題の変形を繰り返し、再現部に入る。コーダで盛り上がりを見せたあと、第1主題を繰り返しながら再び冒頭の雰囲気へと戻り低弦の暗く深い響きで終わる。

第2楽章
冒頭、低弦の和音で始まる。前楽章の最後を彷彿とさせるが、和音進行が違った展開を予感させる。高弦も加わり夜明けのような高揚を迎えたあと、ホルンにより第1主題が奏される。チャイコフスキーの音楽の中でもっとも穏やかながら美しい旋律であろう。クラリネットのオブリガートを伴った後曲想に動きが出て、弦楽器のリズムにのってオーボエとホルンが愛らしいカノン風旋律で対話をする。さらにチェロにより第1主題が歌われ高揚して短い終止を経たあと、カノン風旋律が高弦により歌われる。この美しく希望的な音楽はこの楽章のひとつの感動的クライマックスを築く。全曲中でも最も陶酔的な場面であろう。曲想は短調に変わりクラリネットの美しくも切ない旋律が木管楽器、弦楽器と歌われ不安感を掻き立てられた後、頂点で基本動機が金管楽器により力強く奏される。ここでは救世主のような感じだ。穏やかな雰囲気の中、弦楽器のピッチカートを伴いヴァイオリンが第1主題を歌い、木管楽器、弦楽器のカノン風旋律と歌われた後、突然基本動機がオーケストラの全奏で叩き付けるように表れる。今度は希望を打ち砕くかのように…。嵐が過ぎ去った後の空虚の中でカノン風旋律が歌われながら、この楽章は静かに終わる。

第3楽章
スケルツォの代わりにワルツが置かれている。チャイコフスキーのワルツはバレエ音楽などで華やかなものが多いが、こちらはやや控えめながら愛らしい。ワルツの旋律がヴァイオリンに歌われ、木管楽器に移る。オーケストレーションの変化で色を変えながら続いた後、木管楽器にとぼけたような音型が出てひとつの区切りとなる。第2主題は弦、木管楽器が奏する細かい音型で、いわばここでスケルツォ的楽想となる。期待感と不安感を伴って盛り上がりを見せ、ワルツに戻り、基本動機が木管楽器により控えめに奏された後、全奏の和音で楽章を終わる。

第4楽章
冒頭で基本動機がホ長調で表れる。まず弦楽器、そして管楽器によって堂々と歌われる旋律は運命に打ち勝った勝利感に満ち溢れている。一度曲が収まった直後にティンパニのクレッシェンドに導かれて強烈なリズムを伴う舞曲風第1主題が表れる。オーボエと低弦の対話や弦楽器ののびやかな旋律を経て、木管楽器に第2主題が表れる。この旋律は弦楽器に移ってさらに高揚するが、この間低音楽器群にリズムが持続され曲の推進力となっている。やがて金管楽器により基本動機が力強く奏され一端は収まるが、すぐに激しいリズムで第1主題群が登場する。激しさ、性急さを伴ってクライマックスを迎え、ホ長調の属和音上で一度終わる。コーダはまず基本動機がマエストーソで奏され壮大な頂点を迎えた後に第1主題群が奏され音楽は高揚、さらに第1楽章第1主題が金管楽器に奏されてエンディングとなる。この交響曲に関心を示したブラームスが唯一認めていなかったこの楽章だが、続けて演奏されると人間の勝利への願望、喜びを表し絶大な効果が感じられる。またこれだけ色彩的、音響的な盛り上がりを見せるこの作品がほぼ通常の2管編成、打楽器もティンパニのみ、というのは驚異的である。