【日時】2022年9月18日(日) 14:00~
【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール
【管弦楽】東京交響楽団
【指揮】アジス・ショハキモフ
〈Profile〉
誕生日 1988年
出身地 ウズベキスタン共和国の指揮者。
ウスペンスキー音楽院で6歳からヴァイオリン、ヴィオラ、指揮をウラディミール・ネイメルに師事。13歳にしてウズベキスタン国立交響楽団でベートーヴェン「運命」とリストのピアノ協奏曲を指揮、すぐにアシスタント指揮者となり翌年ウズベキスタン国立劇場でオペラ「カルメン」を指揮した。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、マーラー、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチの交響曲や、ヴェルディ、ビゼーらのオペラを指揮する。2006年ウベキスタン国立交響楽団首席指揮者、2011年ドレスデン国立歌劇場管弦楽団、ボローニャ歌劇場管弦楽団、シンフォナ・ヴァルソヴィアを指揮。2012年ミラノ・ヴェルディ管弦楽団、デュッセルドルフ交響楽団、オレゴン交響楽団、2013年パシフィック交響楽団にデビューする。
【独奏】ティーネ・ティング・ヘルセット(トランペット)
〈Profile〉
彼女は、現代の主要なソロ・トランペット奏者の1人である。彼女は、7歳からトランペットの演奏を始めた。ソリストとして、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、プラハ放送交響楽団、スーシティー·シンフォニーオーケストラ、ウィーン交響楽団、ウィーン室内管弦楽団、チューリヒ室内管弦楽団、シュトゥットガルト室内管弦楽団、アルスター管弦楽団、フィルハーモニア・バーデン・バーデン、ノルウェー国内のメジャー・オーケストラなどと共演した。2007年オスロでのノーベル賞授賞式のガラコンサートでのオープニングを務める栄誉を担い、その様子は世界中に放送された。また、彼女の顕著な能力が認められ、2007年にはノルウェイ・グラミーで「Newcomer of the Year」、2013年には「Echo Klassik Awards」の「Newcomer of the Year」を受賞した。
【曲目】
①ドビュッシー『管弦楽のための映像より“イベリア”』
②トマジ『トランペット協奏曲』
③プロコフィエフ『交響曲 第5番 変ロ長調 op.100』
【演奏の模様】
今日は台風の影響で風雨が強く、ホールに入ると全体的には閑散とした客入りでした。一階の中央席エリアは密に入っていましたが、それ以外は半分もいいなかった。チケットを買っていても自粛した人が結構いたのでしょう。自分としてはトランペット協奏曲を聴きたくて来ましたが。
①ドビュッシー『管弦楽のための映像より“イベリア”』
ドビュッシーは、ピアノ曲や、「牧神の午後への前奏曲」などの有名曲を作りました。確かにいい曲が多いし、これまで何回も聞く機会がありました。前者の代表は「月の光」。ドビュッシーの名は知らなくともこのピアノ曲を聴いた事のある人は多いでしょう。一方後者の曲は一応管弦楽曲ではありますが、フルートが重要な意味と役割を有していて、フルート曲だと思っている人もいる程。
これらの他に唯一のオペラ「ペレアスとメリザンド」がありますが、幻想的な曲であることは認めますが、決していいと思われない。好きになれません。
今日のドビュッシーの『管弦楽のための映像より“イベリア”』は初めて聴きます。プログラムノートによれば、彼はスペイン方面を短期旅行したことがあったらしく、その時の経験と文学、絵画、パリ万博で読み、聞き、見た素材を頭の中で組み立て、総合化してこの作品を作ったらしい。「映像」という語や「イベリア」とわざわざ記した意図はそういうことだったのか、随分Imaginationに富む頭のいい作曲家だという事が分かります。
肝心の演奏ですが、前半はタンブリンやカスタネット等の打楽器の音が印象に残る演奏でした。如何にもスペイン風。
続くHr.等の管楽器が響き、リズムが如何にも(フランスの)異国風な趣きが楽器を替えて繰り返され、Hr.とTimp.が勢いよく鳴らされ異国情緒がいや増しになりました。
後半になると睡魔に襲われ気が付いたら指揮のショハキモフがオケを盛り上げて最後のクライマックスを向かえるところでした。編成は3管編成弦楽五部12型。
最初の方を聴いた限りでは、ドビュッシーの管弦楽法もオーケストレーションもいいと思いました。
②トマジ『トランペット協奏曲』
楽器群は少し小規模になり、二管編成弦楽五部10型。
初めて聞くのでまずトマジについて、プログラムノートには❝マルセイユ生まれの作曲家で、「コラリオン」でローマ賞を、指揮者としても賞を授与された❞とありますが調べると、指揮者部門が第一等賞、作曲部門が第二等だったようで、難聴が無ければ指揮者として大成していた可能性があります。逆にトランペット協奏曲等の管楽器のための作品は無かったかも知れない。ローマ賞受賞と言えばフランスでは大きな事件であり、当初は絵画、彫刻、建築など対象にスタート、後に音楽部門も追加されました。ローマ賞を取ればローマ留学が副賞、数年間のイタリアでの研鑽に励むことが出来ます。トマジという作曲家の名前自体知りませんでした。相当の実力があると思って良い。
確かにヘルセットの今日の演奏を聴くと、安定した彼女の高い技術を駆使した演奏は演奏者がまず第一に褒められるのでしょうが、トマジの作品そのもののしなやかな旋律と心地良い響きという曲の素晴らしさがあったからこそ演奏が一層光るのでしょう。技術的にはかなり難しいと言われるこの曲をヘルセットはほぼ完璧に吹いていたのは、幼い時からTrp.に馴染み、何十年も弾きこなして来て才能が開花したからこそ出来たのでしょう。又相当の上背の様にお見けし、その骨格も頑健そうに推察されるのも発音に効いてきているのではと思われました。確かにトマジの曲の中にはジャズ的響きが混じっていましたし、作曲家本人も意図してトランペット先進分野とも言って良いジャズ的要素は抜きに語れなかったのでしょう。
ヘルセットさんの演奏はでも敢えて言えば、やや退屈だったかな曲自体が激しく激高する様な箇所が少なかったせいもあるかも知れない。さすがに聴きたくて行ったので、居眠りはかきませんでしたが。
かってクラシックファンでジャズにも造詣の深い村上春樹氏が、(ジャズand クラシック)トランペット奏者の ❝ウィントン・マルサリスは何故退屈なのか❞という点に関してその著書に一節を設けて論じています。(「意味がなければスイングはない」村上春樹)
聞く人に自分の訴えたいこと、立ち位置を見せることが無いからだ
といった趣旨の事を書いています。 これはどのような楽器の演奏の場合でも当てはまることかも知れない。
ヘルセットさんは演奏中に弱音器をしょっちゅう取り付け外しして吹いていました。確かに普段では奥の方にいるトランペット奏者の動きは見えないので、音を聴いて弱音器付だなと判断するしかないのですが、指揮者の横ですからよく見えるし、音の違い、曲の中でトマジがどの様に使い分けをしているか(楽譜で指示しているのでしょう?)を良く識別出来たのも聴衆としては良かったと思います。弱音器のトランペットで思い出さざるを得ないのは、マイルス・デービスです。彼は弱音器を付けてから自分の音楽、演奏を確立したと謂われます。
ヘルセットさんはまだお若いのだし、これからの伸びしろが十分ある筈ですから、演奏の空間を膨らまし、その中に自分の屋台骨をしっかりと据えた建築物を聳えさせられんことを祈ります。
尚、ソロアンコール演奏がありました。ノルウェーの作曲家オーレ・グルの作品、「ラ・メランコリー」を演奏する旨の演奏者の英語の言葉有り。決して憂鬱な感じは無く、落ち着いたゆったりした気分に浸れる旋律で、ヘルセットは、滔々と吹いていました。非常に安定感のある演奏。
<20分の休憩>の後は
③プロコフィエフ『交響曲 第5番 変ロ長調 op.100』
プロコフィエフも有名な作品を多く残していて、最近はその辺りを積極的に聴こうと思う様になっています。ピアノ協奏曲は、コンクールの本選の演奏曲としても良く知られ、バレエ音楽でも「ロミオとジュリエット」音楽物語「ピーターと狼」はよく演奏されます。でも交響曲は初めてでした。
①の時よりも楽器群は増えてHr.4、ピアノ1.弦楽五部16型。
全体的印象として、プロコフィエフからイメージされる現代音楽の響きよりも、古典的要素をふんだんに織り交ぜられたシンフフォニーでした。
強奏でアンサンブルが大きい音で叫ぶ箇所もありました。でも第三楽章だったかな?、1Vn.の細くて弱い音を立てているアンサンブルがあったのですが、非常に綺麗で、Vc.の音も効いているところが印象に残りました。
最終楽章では、総じて1Vn.アンサンブル中心に動きましたが、Fl.→Cl.→Vc→1Vn.などでの管から弦への受渡しが、東響は非常にうまいと感じました。これって指揮者の指導ですかね?指揮者のショアキモフは一貫して指揮台上から多く体を乗り出すことはなく、その範囲内で、あたかもクリスマスの時期に「ケンターッキーフライドチキン」の店頭に置かれて動いている「ダンシングサンタ」の様に体を揺するだけの指揮でした。事前練習で充分指示指導が演奏者に行き届いていたのでしょうか。