【日時】2021.12.10.(金)19:30~
【会場】東京芸術劇場コンサートホール
【管弦楽】NHK交響楽団コンサートH
【指揮】ガエタノ・デスピノーサ※
【独奏】佐藤晴真(Vc)※
※当初予定の指揮者、ワシーリ・ペトレンコ、チェロ奏者ダニエル・ミュラー・ショットは、上記指揮者及びチェリストに変更
【指揮者Profile】
1978年、イタリア・シチリア島のパレルモ生まれ。地元でヴァイオリンとピアノのほか、作曲と哲学を学び、まずはヴァイオリニストとしてキャリアをスタートし、2003年から2008年までドレスデン国立歌劇場のコンサートマスターを務めた。
指揮者ファビオ・ルイージの薦めで、2008年以降は指揮者としての活動に専念。2012年から2017年までミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団の首席客演指揮者。フィレンツェ五月祭管弦楽団、ローマ聖チェチーリア国立アカデミー管弦楽団、トリノRAI交響楽団などイタリアを中心に数多くの公演に招かれている。
オペラ指揮者としての評価も高く、2010年5月にドレスデン国立歌劇場の《椿姫》でデビューを飾ると、その後はジェノヴァ歌劇場、グラーツ歌劇場、リヨン歌劇場、フェニーチェ劇場などに客演。2019年から2021年においては、ドレスデン国立歌劇場にて《ナブッコ》《フィガロの結婚》《ノルマ》を指揮、今後も、《蝶々夫人》《ランスへの旅》などを指揮する。ドレスデン国立歌劇場とは、ライマンの新作初演を含むラジオ収録のほか、2022年5月には、イェルク・ヘルヒェットの新作初演を含む公演でいよいよコンサート・デビューを飾る。
N響との初共演は2012年4月。今回は2019年3月以来、4度目の共演となる。
【チェリストProfile】
川崎市生まれ。4歳からピアノを始め、桐朋女子高等学校(共学)を経て桐朋学園大学を首席卒業。1987年日本音楽コンクール第2位。大学卒業後ミュンヘン国立音楽大学マイスターコースにおいて名匠ゲルハルト・オピッツのもと更なる研鑚を積み、1992年ミュンヘン交響楽団との共演でデビュー、大成功をおさめる。国内では1995年に正式にデビュー。翌1996年にはCDデビューを果たし一躍注目を浴びる存在となる。以来日本を代表するピアニストとして第一線で活躍。これまでDenon ,Philips、Deccaを始めとする数多くのレーベルから30タイトル以上のCD及びDVDを国内外でリリース、その内容はソロ、協奏曲、室内楽と多岐に渡る。
1998〜2008年にかけてフェスティバルホール(大阪)で行った合計20回に及ぶリサイタルシリーズや1999年、ショパン没後150年を記念して全国各地で行った大規模なツアーは驚異的な動員数とともに絶賛を博す。2001年、チョン・ミュンフンの主宰する「セブン・スターズ・ガラ・コンサート」に出演。また2005年にはデビュー10周年を記念してサントリーホールとザ・シンフォニーホール(大阪)でリサイタル、高い評価を受けるなど、着実にキャリアを積み重ね、不動の人気と評価を獲得するに至っている。
また欧米やアジアなど海外においても充実した演奏活動を展開し高い評価と支持を得ており、2006年、ウィーン・ムジークフェライン・ブラームスザールにおいてリサイタル。2010年、プラハの音楽祭“International chamber music festival Euroart Praha”に招かれ、マルティヌー弦楽四重奏団と共演。2016年、ベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」でウィーン・ムジークフェライン大ホールにデビュー。また2018年には韓国の光州市立交響楽団の定期演奏会に招かれるなど、国際的な活動にも益々の広がりを見せている。
これまでに数多くの国内外のオーケストラに客演し、ネーメ・ヤルヴィ、トーマス・ザンデルリンク、クリスティアン・マンデアル、外山雄三、広上淳一など多くのマエストロと共演を重ね、その音楽性に厚い信頼が寄せられている。またプロデューサーにギタリストの鈴木大介を迎え、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲を録音、深化した音楽性に高い賞賛が寄せられている。
【曲目】
①チャイコフスキー『ロココ風の主題による変奏曲作品33』
②ムソルグスキー(ラヴェル編)組曲『展覧会の絵(Tableaux d'une exposition)』
【曲目解説】
演奏の模様は以下の通りでした。
①この曲はチェロの独奏曲としては、割りと演奏される機会が多いので、かなり知られた存在と言って良いでしょう。序曲のテーマソングからして聴きやすいいい調べですね。ホルンの合図を契機にVcが鳴り始めます。その音色といい旋律のすてきなこと、これを嫌いという人は少ないでしょう。
管弦編成はチェロソロの音量に合わせて2管編8型(Va6 Vc4 Cb3に縮小)と小さい編成です。
⚪Moderato assai quasi Andante - 主題: Moderato semplice
⚪第I変奏 Tempo della Thema
⚪第II変奏 Tempo della Thema
⚪第III変奏 Andante ニ短調
⚪第IV変奏 Allegro vivo
⚪第V変奏 Andante grazioso
⚪第VI変奏 Allegro moderato
⚪第VII変奏 Andante sostenuto ハ長調
⚪第VIII変奏、コーダ Allegro moderato, con anima
今回は、第Ⅷ変奏を省略し、順番を途中変え、最後に3から4変奏に移る劇的な変化を持ってきたフィツィンハーゲン版に基づく演奏でした。
佐藤さんの独奏は、弾き始めはまずまずの出音で聴き慣れた主題が耳に届いて来ましたが、オケとの掛け合い、カデンツァと進むに連れ、出音も研ぎ澄まされた感があります。弾いているうちに好調になっていったのでしょう。Ftとテーマの掛け合いでは音の返しがVc独特のいい感じが出ていたし、独奏部でのピッツィ、ハーモニック高音、低音部の重音などテクニック的には佐藤さん、流石と思われる演奏でした。
中盤部では佐藤さんは、たびたび指揮者を振り向き、また指揮者デスピノーサも佐藤さんに目くばせ、首の肯き等で合図を送っていた様です。この40代前半の指揮者は、代役ですが、常任指揮者のルイージの推薦というだけあって、短期間だったと推測されるN響、ソリストとのコラボを良く纏め、オケのダイナミックなアンサンブルをうまく引き出していたと思います。ただ指揮の動きは、見た目は大袈裟でないどころか、非常にシャイな指揮振りでした。そこから指揮者の意図を汲み取り、演奏に反映出来た手腕をN響奏者たちが備えていたのでしょう。
終盤になればなるほど佐藤さんの演奏は熱が入り、それが出音に反映するのか最初の頃よりまったく別人の演奏、素晴らしい音を立てて最後まで弾き切りました。
尚ソロアンコールがあり、佐藤さん渾身の演奏でした。非常に短い曲(曲名現段階で未発表)ですが、本編演奏より素晴らしくらいでした。余程得意な曲なのでしょう。
(追記)
アンコール曲名、カザルス編曲『カタルーニャ民謡〈旅の歌〉』
生放送を録音しておいたのを土曜日に帰宅してから聴きました。生演奏を見聴きするのとは、やはり異ります。ホールで聴くときより、音質が全て悪い(再生装置が原因?)訳ではなく、良く聞こえる時もありました。チェロ独奏の第一変奏の一部など。また現場では気がつかなかった(原因不明確?)ことも分かりました。前半で、オケが慌てたのかどうか、急ぎ足になりテンポのバランスが二カ所で一瞬崩れたこと。チェロに追い付け追い付けとばかり急いでいました。
②ムソグルスキー作曲のこの曲は、後世いろいろな人により編曲されています。今日のオーケストラでは、ムソグルスキーのピアノ曲を管弦楽版に編曲したものが多く演奏されます。以下の構成に沿って演奏されました。
曲名 | 原題 | 拍子 | 調 | |
---|---|---|---|---|
第1プロムナード | Promenade | 5/4, 6/4 - 6/4 | 変ロ長調 | |
1 | 小人(グノーム) | Gnomus | 3/4 - 4/4, 3/4 - 3/4 | 変ホ短調 |
第2プロムナード | [Promenade] | 5/4,6/4 | 変イ長調 | |
2 | 古城 | Il vecchio castello | 6/8 | 嬰ト短調 |
第3プロムナード | [Promenade] | 5/4, 6/4 - 4/4 | ロ長調 | |
3 | チェルリーの庭 - 遊びの後の子供たちの口げんか | Tuileries - Dispute d'enfants après jeux | 4/4 | ロ長調 |
4 | ビドロ(牛車) | Bydlo | 2/4 | 嬰ト短調 |
第4プロムナード | [Promenade] | 5/4, 6/4, 7/4 - 3/4 | ニ短調 | |
5 | 卵の殻をつけた雛の踊り | Балет невылупившихся птенцов (Ballet des poussins dans leurs coques) |
2/4 | ヘ長調 |
6 | サムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ | Samuel Goldenberg und Schmuÿle | 3/4 - 4/4 | 変ロ短調 |
第5プロムナード | Promenade | 5/4, 6/4, 7/4 | 変ロ長調 | |
7 | リモージュの市場 | Limoges - Le marché | 4/4 - 3/4 - 4/4 | 変ホ長調 |
8 | ローマ時代の墓、カタコンベ | Catacombae - Sepulchrum Romanum | 3/4 | イ短調 |
死せる言葉による死者への呼びかけ | Cum mortuis in lingua mortua | 6/4 | ロ短調 | |
9 | 鶏の足の上に建つ小屋 バ-バー・ヤガー | Избушка на курьих ножках - Баба-Яга (La cabane sur des pattes de poule - Baba-Yaga) |
2/4 - 4/4, 2/4 - 2/4 | イ短調 |
10 | キエフの大門 | Богатырские ворота - в стольном городе во Киеве - (La grande porte de Kiev) |
2/2 - 4/4 | 変ホ長調 |
オーケストラ構成は上記写真の通り管・打とも様々な楽器が大幅に加わり、弦楽器も増強、かなり大きい編成となりました。
トランペットの音と共にスタート、管弦の絡み合う、時として大きな音、時として密かなかすかな音、様々に主役を変えて鳴り響く管弦のアンサンブルは、基本的には冒頭の主題に回帰すること多数回、プロムナードの絵は如何なる景色を描いているのか、想像するだに幻想が膨らみ、それをオーケストラの大音響が益々増幅して、最後力強い打楽器、管弦アンサンブルの目くるめく音の饗宴で幕は下りるのでした。
ここで幕と言ったのは、この音楽は何回聴いても、いつも標題音楽の表す絵画に想像が至り、これはひょっとしてラヴェルがバレエ音楽として使うために編曲したのではなかろうかと勝手な推論が働いてしまうからです。確かにプロムナードの絵画の流れを関係付けた台本があれば、あとは振付はその道の達人をラヴェルは知っている筈ですから、その製作(或いは構想段階)の意図は無かったのでしょうか?創造力のある作家ならば、これらの絵を興味深い物語でつなぐことは決して困難なことではないでしょう。誰かバレエの演奏を過去にやっていないかな?と思って調べて見たら、2018年に ❝ムソルグスキーのピアノ組曲「展覧会の絵」を舞踊化❞という記事が出て来ました。ムソルグスキーを日本舞踊の藤間蘭黄、ガルトマンをバレエ・ダンサーの寺田宜弘が浅草公会堂で踊った公演が2018年に行われた様です。主催は現在でも海外バレエ団の来日公演を支えている『光藍社』の模様。
最近バレエを音楽理解を深めるためと思って俄かに見に行き始めたのですから、そんな妄想が浮かぶのかも知れません。(因みに明日は東京文化会館で『くるみ割り人形』を見ます。)
尚、今日の演奏会は、NHK FM放送『ベストオヴクラシック』で生放送されました。