上記『こうもり』は、オペラだけでなくミュージカルなどでも広く活躍しているバリトンの大山大輔さん、オペラ界のベテラン・テノール村上敏明さん達が中心となって、企画・演出された喜歌劇です。しかもハイライト中心に2時間以内に圧縮した内容で、「こうもり」前日の物語も付加して、説得性を向上しようとしたこと、ピアノ伴奏の演奏会形式に、セミステージ方式も加味し、演技的魅力を向上させる試み、それに、日本語歌詞に、大山さんの日本語台詞ナレーションも加えて、分かり易さも向上させようとする等の努力がされていました。
【演目】ヨハン・シュトラウスⅡ『こうもり』
台詞付きハイライト日本語上演、
【日時】2021.10.30.(土)14:00~
【会場】さくらプラザホール(横浜)
【出演】
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村上 敏明 Toshiaki Murakami (アイゼンシュタイン)
国立音楽大学声楽学科卒業。国内外の大劇場で数多くのオペラに主演し絶賛を博し、国際的に活躍している。2012年から10年連続で、NHKニューイヤーオペラコンサートに出演。日本を代表するテノール歌手として活躍している。 |
©Masatoshi Yamashiro
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高野 百合絵 Yurie Takano(ロザリンデ)
東京音楽大学、及び同大学院首席修了。佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021『メリー・ウィドウ』主役ハンナ・グラヴァリに抜擢され、圧倒的な存在感と確かな歌唱力で聴衆を魅了。2020年デビューアルバム「CANTARES」を日本コロムビアよりリリース。 |
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大山 大輔 Daisuke Ohyama (ファルケ)
東京藝術大学を首席で卒業。同大学院修了。 歌劇《ブラック・ジャック》タイトルロールや、劇団四季《オペラ座の怪人》ファントム役など数々の主役として活躍している。 その多彩な経験と独自の表現力から、台本執筆、歌唱・演技指導にも定評がある。 《大山大輔の百人組手》や《実践!オペラ道場》を主催し、新たな事業創出や後進育成にも積極的に取り組んでいる。 |
©️yoshinobu fukaya |
長島 由佳 Yuka Nagashima (アデーレ)
昭和音楽大学卒業。第 36 回イタリア声楽コンコルソにてイタリア大使杯受賞。 「夕鶴」のつう役でデビュー後、様々な作品に出演。日本オペラ協会正会員。昭和音楽大学非常勤講師。 |
©Masato Okazaki |
巨瀬 励起 Leiki Kose (ピアノ)
声楽・器楽の伴奏者、管弦楽の鍵盤奏者として演奏会・録音・放送等で活躍。ソロにも意欲的に取り組み定期的にリサイタルを行う。CD: 松本隆訳詞/鈴木准 “シューベルト《白鳥の歌》”(日本コロムビア)他。 |
今回は、本来の『こうもり』のエセンス上演でしたので、あちこち端折って進行した箇所も多く、分かりづらい点が多々ありました。従って以下に『こうもり』の全体像をおさらいしておくことにします。
【こうもり概要】
- 原作:ロデリヒ・ベンディックスの喜劇『牢獄』(1851年)に基づいて、アンリ・メイヤックとリュドヴィック・アレヴィが書いた喜劇『夜食』(1872年)
- 台本:カール・ハフナーとリヒャルト・ジュネがメイヤックとアレヴィの原作を手直しした
- 作曲時期:1874年
- 初演:1874年4月5日、アン・デア・ウィーン劇場
数あるウィンナ・オペレッタの中でも最高峰とされる作品で、「オペレッタの王様」ともよばれる。ヨハン・シュトラウス2世特有の優雅で軽快なウィンナ・ワルツの旋律が全編を彩り、その親しみやすいメロディーは全世界で愛されている。なお、台本には日付の設定はないが、ウィーンをはじめドイツ語圏の国々の歌劇場では大晦日恒例の出し物となっている。
歌手の歌の配分が比較的均等であり、合唱の活躍場面も比較的多いため、華やかにオールスターを並べることが可能である。ソロパートは8人だが、歌の上では軽い役であるフランク所長を高名なベテランが歌うことが慣例化しており、おおむね7人までスターが並ぶ。三重唱を1曲歌うだけのブリント弁護士のみは脇役専門のブッフォテナーの持ち役だが、ここに往年のスター歌手を起用した例もある。また、ドラマ上は脇役のアデーレに最も多くソロが用意されているため、主役級のロザリンデよりも格上のスターがあてられるケースが珍しくない。
ウィーン国立歌劇場では毎年年末年始に公演が組まれており、大晦日の国立歌劇場の『こうもり』と年始のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサート(大部分がシュトラウス作品)がウィーンでの恒例行事となっている。オーケストラは各70人前後のニ手に分かれて、二つのシュトラウス・プログラムに従事する。ドイツ圏の他の歌劇場またそれ以外の歌劇場でもこれにならっているところがある。
もっとも、かつてのウィーン国立歌劇場(ウィーン宮廷歌劇場)は格式を重んじてオペレッタの上演は原則的に行わなかった(それ以前にはシュトラウスの『騎士パズマン』をオペラという名目で初演)ため、『こうもり』については、初演20年後の1894年にシュトラウスのデビュー50周年を記念して、宮廷歌劇場の年金機関運営委員会の主催で上演されたのが初めてである。その後、1897年に当時の宮廷歌劇場総監督グスタフ・マーラーによって正式にレパートリーとなった。
【粗筋】
<第一幕>
ガブリエル・フォン・アイゼンシュタインの妻ロザリンデは困ったことに直面していた。一つは役人を殴ってしまったことで5日間の禁固刑を申し渡されてしまった夫。夫は刑の取り消しを要求したが、ブリント弁護士の下手な弁護でかえって刑期が延びてしまい、8日間の禁固刑にされてしまう。
それだけでも災難だが、家の前ではかつての恋人アルフレードが、毎日のようにセレナーデを歌ってロザリンデに思いを寄せている。しかも今夜ロザリンデの夫が刑務所に入るので、その留守にロザリンデと逢引しようと企んでいる。ロザリンデの方もまんざらでもないのだが、なにぶん世間体が気になるのでどうすることもできない。
そこへ夫の友人ファルケ博士がやってくる。博士はアイゼンシュタインに、「舞踏会が今夜、ロシアのオルロフスキー公爵邸で開かれる、そこで楽しんでから刑務所に入ればいい」と勧める。しかし「妻はどうする」と言ってためらうアイゼンシュタイン。博士は「奥さんなんて黙っておけばいくらでもごまかせる」といってそそのかす。すっかりその気になったアイゼンシュタインは、舞踏会に行くことを承知し2人は手を取って「ランラララ~」と歌いながら小躍りする。
博士が去ると、アイゼンシュタインは妻に「礼服を出して」と言う。「どうも夫は自分だけ楽しみにいくようだ」と察知した妻は、それなら自分も……と決心し、小間使いのアデーレに今夜は暇を出す。アデーレはおばさんの具合が良くないので今夜暇が欲しいと言っていたが、実は姉(もしくは妹)から手紙で誘われて、オルロフスキー邸の舞踏会に行くつもりだった。喜んで去っていくアデーレと夫を見送ったロザリンデ。そこへアルフレードが現れる。久々の浮気にロザリンデもまんざらではなく、2人は一杯飲みだす。ところが、あろうことかそこへ夫を連行しに来た刑務所長フランクが現れる。
夫がいないのに男を家に引き入れたことが知られるととんでもないことになる、と思ったロザリンデは、とっさにアルフレードを夫に仕立てる。後でどうにかするからというロザリンデに、アルフレードもアイゼンシュタインに化けることを承知して、身代わりに刑務所に連れて行かれる。
<第二幕>
オルロフスキー邸では華やかに舞踏会が行われていた。この家の主オルロフスキー公爵は、ファルケ博士に「何か面白いことは無いか、退屈だ」と言う。ファルケは、「今夜は“こうもりの復讐”という楽しい余興がある」と告げる。
やがて、女優オルガと名乗ってロザリンデのドレスを着込んだアデーレや、フランス人の侯爵ルナールを名乗るアイゼンシュタインが現れる。アイゼンシュタインは、女優オルガにむかって「家の小間使いにそっくり」と言うが、彼女の方は「こんなに美しく優雅な女が小間使いなわけがないじゃない」とアイゼンシュタインをさんざんからかう(「私の侯爵様」)。
そこへ刑務所長フランクもシュヴァリエ・シャグランの偽名でやってくる。お互い知ってる限りのフランス語でめちゃくちゃな挨拶をするフランクとアイゼンシュタイン。そして仮面をかぶってハンガリーの伯爵夫人に変装したロザリンデが現れる。
ロザリンデは、夫が刑務所に行かずに遊んでいる上に、アデーレが自分のドレスを着ていることに腹をたて、夫をとっちめることを決意する。一方、アイゼンシュタインもこの伯爵夫人に目をつけ、自慢の懐中時計を取り出して、妻とはまったく気が付かず口説きだす。この懐中時計を浮気の証拠にしようと考えたロザリンデは、言葉巧みにこれを取り上げる。そこへ人々がやってきて、仮面の女性の正体を知りたがるが、彼女はハンガリーの民族舞踊チャールダーシュを歌って「私はハンガリー人よ」と言う。
さらに人々はファルケ博士に「“こうもりの話”をしてくれ」と言う。3年前ファルケとアイゼンシュタインが仮面舞踏会に出かけた帰りに、アイゼンシュタインが酔いつぶれたファルケを森に置いて来てしまったときの話だった。そのため翌日、ファルケは日も高くなった中、仮面舞踏会のこうもりの扮装のまま帰宅する破目になり、それを見た近所の子どもから「こうもり博士」という変なあだ名をつけられたのだった。
こうして話の種は尽きないが、オルロフスキー公爵の合図で晩餐が始まる。夜も更けると舞踏会を締めくくるワルツが始まり、みんなが華やかに歌い踊る。やがて午前6時の鐘が鳴り、アイゼンシュタインはあわてて「出頭する時間だ」といって去っていく。フランクも刑務所に帰らなきゃとばかりに、すっかり仲良くなった2人して会場を後にする。同じところに行くとは全く思わず。
<第三幕(刑務所長フランクの部屋)>
刑務所の中ではアルフレードが相変わらずロザリンデへの歌を歌っている。朝っぱらからスリポヴィッツ(チェコ産の度数の高いブランデー)でしこたま酔っ払った看守のフロッシュがくだを巻いていると、そこへ同じく酔っ払ってご機嫌なフランクが戻る。酔っ払い同士が掛け合い漫才をしていると、アデーレとイーダがやってくる。アデーレは「自分は小間使いだけれど女優になりたい、パトロンになって」とフロッシュに売り込みをかけるが、ルナール公爵が来たというので動揺したフランクはアデーレたちを留置場の空き部屋に入れる。
牢屋での再会に驚くアイゼンシュタインとフランク。お互いの素性を確認するものの、既に牢にはアイゼンシュタイン氏が入っているんだが、とフランクから言われて驚くアイゼンシュタイン。そこにアルフレートの要請でフロッシュが呼んだブリント弁護士が来たので、アイゼンシュタインは様子をうかがうためにブリントから服をむしり取って追い出し弁護士に変装する。刑務所を訪れたロザリンデは昨日の経緯をアイゼンシュタインが変装している弁護士に話す。同席したアルフレートも助言を求めるが、2人の態度に堪忍袋の切れたアイゼンシュタインが正体を現し妻とアルフレートをなじる。ところが妻は例の奪い取った時計を取り出して見せ、逆に夫をぎゃふんと言わせてしまう。追い詰められたアイゼンシュタインは「俺はアイゼンシュタインじゃない!牢屋にも入らん!」とわめきちらすが、そこにファルケ博士とオルロフスキー公爵その他舞踏会の客たちぞろぞろが現われる。
ファルケ博士が「昨日舞踏会に誘ったのは、すべて私が仕組んだこと。3年前の“こうもりの復讐”ですぞ。」と種明かしをすると、では浮気も芝居なのか、と安心するアイゼンシュタイン。アルフレードは「ちょっと実際とは違うけどまあいいか」とつぶやく。アデーレはオルロフスキーがパトロンとなって女優になることになり、最後はロザリンデの歌う「シャンパンの歌」で幕となる。(Wikipedia)
【感想】
感じたことを列挙すると次の通りです。
1.皆さん、日本オペラ界の第一戦で活躍される歌手ばかりなので、それぞれ個性は有りますが、聞きごたえのあるアリア、重唱で大きな拍手を浴びていました。ピアノの巨瀬さんの伴奏も、以前同ホールで、聴いた「カルメン」の伴奏の時よりもさらに、板についたというかこの方式の歌劇にピッタリ寄り添った演奏をしていました。前奏曲や間奏曲や歌の伴奏、実に雰囲気を良く表現したと思います。
2.元のオペレッタ自体が、コミカルな作品だけに、大山さん、村上さん、長島さん、高野さん、全員滑稽さを出そうと心掛けているのが伝わってきます。アデーレ役の長島さんは、小間使いに応募した九州出身の女の子という設定で、地方なまりで話し笑いを誘い、大山さんもひょうきんな説明と演技で、村上さんは吉本張りのお笑いキャラを出そうと懸命に演技しているのが、その真面目な顔つきが故により、より面白さを倍加するのに成功したと思いました。日本の歌劇界のチャプリンを目指して欲しい。
3.長島さん、ロザリンデ役の柴田さんのアリアは後半、有名な歌になれば成程上げ調子で、奇麗な声でコロラテューラも効かせた特に高音の箇所は、感心するほど上手に歌っていました。
4.難を言えば、当初「日本語で味わうオペレッタ」との謳い文句にしては、最初のアリアが日本語でなかったり、日本語での歌も発音がはっきりしなくて聞き取り難い箇所も散見されたり、「こうもり前夜」というには、本編への影響が今一つの感がしないでもない点など、やや気になりました。また筋道がやや分かり難らい嫌いもありました。
でもはっきりと歌の歌詞が日本語で聴衆に伝わり、原典の枠を大きくはみ出て別な作品になることが避けられれば、原語での微妙なニュアンスの伝達部分が犠牲になっても、大筋において、言語+字幕で上演するよりは、オペラやオペレッタの面白さがより理解される様な気がしました。
従って今回の様な試みは今後も引き続き行われ発展していけばいいことだと思います。
11月には二期会が『こうもり』を上演する様ですから、本格上演はそちらで鑑賞したいと思います。