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オペラ速報『二期会公演・魔笛』at 東京文化会館

主要メンバー(嘉目パミーナ、金山タミーノ、萩原パパゲーノ、安井女王、妻屋ザラストロ)快調!!宮本演出斬新!シュレキーテ・読売オケ堅調!

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 表記のオペラは、二期会創立70年記念公演ということで独国リング州立劇場との共同制作オペラです。ここのところ東京文化会館でのオペラ上演は、8月に「ニュルンベルグのマイスタージンガー」公演が、コロナ発生のため中止となって以来の久し振りの公演です。今日の初日を観ました。

【日時】2021.9.8(水)18:30~

【会場】東京文化会館大ホール

【作曲】ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1791年)
【管弦楽】読売日本交響楽団

【指揮】ギエドレ・シュレキーテ(代役・若手女性指揮者)

【合唱】二期会合唱団

【合唱指揮】河原哲也

【演出】宮本亜門

【舞台監督】飯田貴幸

【公演監督】牧川修

【初演】1791年9月30日 ウィーン、アウフ・デア・ヴィーデン劇場

【台本】ヨハン・エマヌエル・シカネーダー(ドイツ語)

【原作】クリストフ・マルティン・ヴィーラント 童話集『ジンニスタン』から「ルル、あるいは魔笛」

《ものがたり》

王子タミーノは、夜の女王から悪僧ザラストロに囚われている娘パミーナを救い出してくれるなら、彼女を与えてもよいと言われる。パミーナの美しい絵姿にひと目惚れした彼は、魔法の笛(魔笛)を携えザラストロの神殿へと向かう。神殿に到着したタミーノはパミーナと対面。お互いに運命の相手だと感じる。また、悪僧だと思っていたザラストロが実は偉大な祭司で、夜の女王の邪悪な野望からパミーナを保護していたことが分かる。
ザラストロはタミーノに真の愛を獲得するため3つの試練を与える。夜の女王の妨害に遭いつつも、タミーノはパミーナとともにそれらの試練を乗り越える。夜の女王が3人の侍女を引き連れてザラストロの神殿に乗り込んで来るが、雷に打たれて闇夜に堕ちて行き、世界は平和で満たされる。


【公演時間】
第1幕 80分
第2幕 70分  合計 約2時間30分

 

【出演】

ザラストロ(大司祭):妻屋秀和(Bs)                                タミーノ(王子):金山京介(T)
弁者:久保和範
僧侶I:杉浦隆太
僧侶II:栗原剛
夜の女王(世界征服の野望あり):安井陽子
パミーナ(夜の女王の娘):嘉目真木子(Sp)
侍女I:北原瑠美
侍女II:成田伊美
侍女III:石井藍
パパゲーナ(パパゲノの恋人)種谷典子(Sp)
パパゲーノ(鳥刺し):萩原潤(Br)
モノスタトス:高橋淳
武士I:与儀巧
武士II:高崎翔平

【時と場所】 
古代、エジプト

【粗筋】
【第1幕】
 時は古代、舞台はエジプトで架空の世界。王子タミーノは岩山で大蛇に襲われ気を失いますが、「夜の女王」配下の3人の侍女達が彼を助けます。それなのに、鳥の狩猟中にたまたま通りかかったパパゲーノが、助けてやったのは自分だと嘘を付きました。パパゲーノは侍女達によって、口に錠を掛けられてしまいます。
王子タミーノは、侍女達から女王の娘パミーナの絵姿を見せられ一目惚れします。女王は、悪人ザラストロに捕らえられた娘を救い出してくれれば、娘を王子に与えると約束しました。王子は侍女達から「魔法の笛」を受け取り、ザラストロの神殿に行くことにします。一方、口の錠前を外してもらえたパパゲーノも成り行きで王子について行くことになり、「魔法の鈴」を受け取りました。
ザラストロの神殿で離ればなれになってしまった王子タミーノとお供のパパゲーノ。パパゲーノが先にパミーナを見つけました。その後、魔法の笛と鈴の力で導き合ったタミーノとパミーナは、ザラストロの前でついに対面。お互いを運命の人だと思います。
実はザラストロは悪人ではなく偉大な祭司で、世界征服を企む夜の女王の邪悪な野望の犠牲とならないようにパミーナを保護していたのでした。
 
【第2幕】
ザラストロはタミーノに、パミーナを得るための試練を授けます。ついでにパパゲーノも恋人を得るために試練を受けることになりました。まずは「沈黙」の試練。沈黙するタミーノに、事情を知らないパミーナは深く悲しみますが、立派に耐え抜きます。次の「火」の試練、「水」の試練は、タミーノとパミーナの二人で「魔法の笛」の力を借りて乗り越えました。
一方のパパゲーノはというと、辛抱するのは大嫌いで、試練から脱落してしまいます。それでも「魔法の鈴」の力を借りて、とうとう若い娘パパゲー“ナ”と出会い、恋人になりました。
さて、こうなってしまっては夜の女王も黙っていられません。侍女達とともに、自らザラストロの神殿に侵入を試みます。しかし、雷に打たれ闇夜に落ちていきました。
ザラストロは試練に打ち勝ったタミーノ、パミーナたちを祝福して、太陽神の子オリシスとイシスを讃えたのでした。

【アリア集】

《第一幕》                               

  • No.1: 導入「助けてくれ! 助けてくれ!」 Introduktion - Zu Hilfe! zu Hilfe!(タミーノ、3人の侍女)    
  • No.2: アリア「鳥刺しだよ俺は - Der Vogelfänger bin ich ja(パパゲーノ)
    パパゲーノがパンフルートを吹きながら愉快に歌う。(なお、3番目の歌詞は台本、自筆譜ともに記載されていない)
  • No.3: アリア「なんと美しい絵姿」 Arie - Dies Bildnis ist bezaubernd schön(タミーノ)
    タミーノの歌うパミーナへの愛の歌である。
  • No.4: レシタティーヴォとアリア「ああ、怖れおののかなくてもよいのです、わが子よ!」 Rezitativ und Arie - O zitt're nicht, mein lieber Sohn!(夜の女王)
    有名な2つの「夜の女王のアリア」の1曲目。レチタティーヴォの後、アンダンテが続き、その後極めて技巧的なコロラトゥーラが出現する。コロラトゥーラ・ソプラノのための曲で、極めて高い演奏技術を要する。
  • No.5: 五重唱「ウ! ウ! ウ! ウ!」 Quintett - Hm! hm! hm! hm!(パパゲーノ、タミーノ、3人の侍女)
    口に鍵を付けられたパパゲーノがしゃべれないまま錠を取ってくれと歌うユーモラスな歌。侍女たちは、世の嘘つきたちにこのような罰を与えればよいのに、と歌う。
  • No.6: 三重唱「可愛い子よ、お入りなさい」 Terzett - Du feines Täubchen, nur herein!(モノスタートス、パミーナ、パパゲーノ)
  • No.7: 二重唱「愛を感じる男の人達には」 Duett - Bei Männern, welche Liebe fühlen(パミーナ、パパゲーノ)
    愛することの喜びを歌った美しい二重唱。(なお冒頭の4つの音に続くクラリネットとホルンのアッコードは、自筆譜には記載されていない)
  • No.8: フィナーレ「この道はあなたを目的へと導いていく」 Finale - Zum Ziele fuhrt dich diese Bahn
《第二幕》
  • No.9: 神官の行進 Marsch der Priester
  • No.10: 合唱つきアリア「おおイシスとオシリスの神よ」 Arie und Chor - O Isis und Osiris(ザラストロ、合唱)
  • No.11: 二重唱「女の奸計から身を守れ」 Duett - Bewahret euch vor Weibertücken
  • No.12: 五重唱「どうしたの? どうしたの? どうしたの?」 Quintett - Wie? Wie? Wie?
  • No.13: アリア「誰でも恋の喜びを知っている」 Arie - Alles fühlt der Liebe Freuden(モノスタトス)
  • No.14: アリア「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」 Arie - Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen(夜の女王)
    「夜の女王のアリア」の2曲目。超絶技巧を要する。
  • No.15: アリア「この聖なる殿堂では」 Arie - In diesen heil'gen Hallen(ザラストロ)
  • No.16: 三重唱「再びようこそ」 Terzett - Seid uns zum zweitenmal willkommen
  • No.17: アリア「ああ、私にはわかる、消え失せてしまったことが」 Arie - Ach, ich fühl's, es ist verschwunden(パミーナ)
  • No.18: 神官たちの合唱「おおイシスオシリスの神よ、なんという喜び!」 Chor der Priester - O, Isis und Osiris, welche Wonne!
  • No.19: 三重唱「愛しい人よ、もうあなたにお会いできないのですか?」 Terzett - Soll ich dich, Teurer, nicht mehr seh'n?
  • No.20: アリア「娘か可愛い女房が一人」 Arie - Ein Mädchen oder Weibchen wünscht Papageno sich!(パパゲーノ)
    パパゲーノが、可愛い女の子か奥さんがいたら、この世は実に素晴らしい、と歌う楽天的なアリア。グロッケンシュピールの音が美しく響く。モーツァルトは、2つのパパゲーノのアリアを、当時の流行歌から取ったという。
  •  フィナーレ「万歳、洗い清められた者たち、暗闇は通り過ぎた」Heil sey euch Geweihten! Ihr drangt durch die Nacht,

【上演の模様】 

 物語の進行役は、ドイツ声楽よく用いられるレシタティーヴォでなく、フランスのオペラコミックに似た台詞のセリフです。その台詞の合間に上記アリアが挟まれるジングシュピールの形式でオペラが進行するのです。

 幕が開いて直ぐに、「こりゃ何ジャ!」と驚いたというか度肝を抜かれたのは、舞台場面が、日本のありふれた共稼ぎサラリーマン家庭のリヴィングらしき部屋の中で、そこには家を守るおじいちゃんと孫達が、両親の帰りをまっている風景だったからです。そのステージも変わっていて、既存の舞台の上に、45度水平方向に回転させた真四角の舞台上舞台を設置し、従ってその四角の角がステージからオケピット上にせり出ていて、オケピット中に柱を立てて舞台を支えていたのです。そして帰宅した父親は、外でいやな目に会って苦労しているのか、家に入るなりうっぷんを家族に撒きちらし、荒れて手に負えぬ状態になっています。ピットでは女性指揮者が積極的に読売日交を引っ張って前奏曲を奏でています。代役とは思えぬ位の迫力で。そこに妻が帰って来て、夫を宥めるも収まるどころか、夫は益々暴れてひどい状態にになってしまい、結局妻であり母親でもある女性は荷物をスーツケースに詰めて家を出てしまいました。夫はその後に及んでも家の中を暴れまわり、遂には窓ガラスに頭から突っ込んで外に飛び出たのです。ここでもまたまたびっくりしたのは、窓ガラスが粉々に割れて、その破片が、舞台方向からオケピット上を観客席めがけて飛び散り降り注ぐ、まるで花火か万華鏡の様に見えたことでした。映像です。映像技術を駆使してそう見えるようにしたのです。映像は先程と同じ家屋内のセットの壁に、今度は大きな大きな蛇がうねり狂い、舞台上に現れた先程のサラリーマンの男(これは実はタミーノだったのですね)に襲いかかるように見えます。そこへ登場したのは、胸元がパンパンに膨らんだ三人の女性達、この大蛇を退治して動けない様にしてしまうのです。でも気を失ったタミーノはそのことは分からないで床に横たわっています。そこに今度は、少しいかれた兄貴風の男、鳥刺しで鳥を集めとっていると思いきや、女の子をかき集め取ってしまおうとしているのです。鳥=女の子、か、よく考えたものです。両者とも餌食になってからめ取られてしまうことは珍しいことではありません。

 ここでパパゲーノがモーツァルトの作曲した歌をその通りに歌いました。冒頭の演出を見て、一体どうなることやらと心配しましたがうまく原点に戻りました。これらは極めてよく練られた演出です。斬新だと思いました。

第一幕                                                                  

    2場でパパゲーノが歌う、No2鳥刺しの歌「Der Vogelfänger bin ich ja,Stets lustig,~Sie schlief an meiner seite ein,ich wiegte wie ein Kind sie ein」は最初の有名なアリアです。モーツァルトは『魔笛』の作曲依頼を受けた死の年の1791年9月末に完成し、すぐに初演されて成功を収めるのです。ミラノ・スカラ座で度々このオペラを鑑賞したスタンダールは次の様に述べています。

 “モーツアルトが仕事中に失神することがあるようになったのは、『魔笛』を作曲していた頃のことである。聴衆の気に入り、拍手喝さいの止まなかったいくつかの曲について、彼はそれ程満足していなかったとはいえ、『魔笛』を非常に愛していた。このオペラは何十回となく上演された。しかし、モーツァルトは、衰弱状態に陥ったため、初めの九回か十回オーケストラの指揮をとっただけだった。彼は劇場に行けなくなると、傍らに懐中時計を置き、心の中でオーケストラを追っているようだった。「さあ、第一幕が終わった。」「いま、あのアリアを歌っている。」などと彼はいうのだったが、やがて、そういうものいっさいとも別れを告げなければならないという考えにまたしても取り憑かれるのであった。” 

 モーツァルトはパパゲーノのこのアリアを特に好み、死の数日前まで床の中で口ずさんでいたと謂われます。パパゲーノ役の萩原さんはやや高めに聴こえるバリトンの声で、最初のアリアを歌い出来るだけひょうきんな感じを出そうと努めているように見えました。

 第一幕4場でタミーノがゆったりと朗々と歌う、No3の「Dies Bildnis ist bezaubernd schön,wie noch kein Auge je geseh'n! ~ Ich würde - würde - warm und rein -Was würde ich! - Sie voll entzücken An diesen heissen Busen drücken, Und ewig wäre sie dann mein.」では、パミーナの姿絵に一目ぼれした心情が良く出ているパミーナ賛歌のアリアです。この歌をタミーノ役の金山さんは朗々と歌いました。立ち上がりOK。

一幕6場で夜の女王が登場、愛娘を誘拐された悔しさ、悲しみ、不安な気持ちを歌う No4

「Zum Leiden bin ich auserkohren;Denn meine Tochter fehlet mir,Durch sie ging all mein Glück verloren  ~ Du wirst sie zu befreyen gehen, Du wirst der Tochter Retter seyn.Und werd ich dich als Sieger sehen, So sey sie dann auf ewig dein.」の<女王のアリアⅠ>は、第二幕の怒り狂う「女王のアリアⅡ」ほどの迫力ではありませんが、切ない心情を吐露する名アリアで、特に最後の高音で歌うコロラテューラは聴きごたえのある個所です。この最後の一説で女王は、娘を救ってくれた恩人にこそ娘を捧げると約束したのです。ここのアリアを安井さんは全体的によく徹るソプラノで、コロラもまずまず無難に歌い切りました。

7~8場でタミーノ、パパゲーノ、三人の女王侍女が歌うNo5の五重唱は、歌そのものよりもストーリの進行、展開を理解するのに重要な箇所です。

「(PAPAGENO)deutet traurig auf sein Schloss am MundHm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm!」自分が大蛇を退治したと嘘をついたパパゲーノにばつとして、女王がその口に鍵を架けさせてしゃべれないようにしてしまったのです。                    「(ERSTE DAME) Die Königinn begnadigt dich! nimmt ihm das Schloss vom Munde entlässt die Strafe dir durch mich」 第1の侍女が 女王様は君を許してくれたと歌って錠前を外し、さらにタミーノに                   

「(ERSTE DAME)sie giebt ihm eine goldene Flöte O Prinz, nimm dies Geschenk von mir! Dies sendet unsre Fürstinn dir! Die Zauberflöte wird dich schützen, Im grösten Unglück unterstützen.」と、女王様からだと歌って金の魔笛を授けるのでした。逃げ帰ろうとするパパゲーノには鈴を授け、即ち女王は愛娘を助けたいがために、手持ちの手段をすべて救出隊(王子タミーノと従者パパゲーノ)に供与するのです。さらに                                「(DIE DREY DAMEN) Drey Knäbchen, jung, schön, hold und weise, Umschweben euch auf eurer Reise, Sie werden eure Führer seyn, Folgt ihrem Rathe ganz allein.」と三人の侍女たちは歌って、向かうべき誘拐犯モノスタトスのいるザラストロの砦(寺院)への道案内として三人の童べを付けるというのでした。

 14場になると、パミーナが囚われている処に先に到達したパパゲーノは、救出される見込みを喜んだパミーナとNo7の二重唱を歌います。ここも愛がテーマとなっていて、モーツァルトらしいしっとりしたいいアリアでした。嘉目さんと萩原さんのデュエットはよくあっていて特に嘉目さんの調子はしり上がりにエンジンがかかってきている様です。

 続く第一幕終盤の16場、ザラストロが登場します。登場を讃える合唱及びそれに続くパミーナとザラストロのやり取りの二重唱は、アリア番号こそ付けられていませんけれど、それまでのストーリーを深く把握する上で、またその後の進行を理解する上で、重要な箇所です。歌も仲々いいものです。

第二幕

 何といっても真っ先に挙げなければならないものは、やはり一番人口に膾炙している8場で歌われる、No14のアリア<夜の女王のアリアⅡ>でしょう。誰でも知っているくらい有名な歌。

「Der Hölle Rache kocht in meinem Herzen, Tod und Vrzweiflung flammet um mich her! ~ Hört Rache, - Götter! - Hört der Mutter Schwur.」 と激しくザラストロへの復讐の炎を燃え滾らせるのでした。ここでの安井さんの歌は見事な歌いぶりでした。コロラもコロコロと転がし、最高音もしっかりと出ていて、復讐に燃える女王の勢いもあったし、ほぼミスがない立派な歌いぶりでした。かなり大きい拍手がなり続きました。

 第二幕でもその他素晴らしいアリアが沢山あります。1場、No10の「合唱付きアリア」に関して一言。この場面は、ザラストロがエジプト人の信仰神、イシリスとオシリスに祈りを捧げる場面です。

「O Isis und Osiris schenket Der Weisheit Geist dem neuen Paar! ~ o lohnt der Tugend kühnen Lauf, Nehmt sie in euern Wohnsitz auf.」

 ザラストロ役の妻屋さんはいつもながらの太い低い声で、厳かにタミーノとパミーナ達若者のご加護を祈る様子がまさに神官そのものの雰囲気でしたし二期会合唱団も比較的地味な歌声の場面を妻屋さんによく合わせて歌っていました。妻屋さんの穏やかな安定した歌唱が目立った箇所です。拍手も相当大きい。

 次に5場での No12の五重唱。これは第一幕の8~9場で歌われたNo5の五重唱と同じメンバー(タミーノ、パパゲーノ、三人の侍女)で歌われます。

「(DIE DREY DAMEN)Wie? Wie? Wie? Ihr an diesem Schreckensort? ~ (ALLE FÜNF) Wir / Sie müssen sie / uns mit Schaam verlassen: Es plaudert keiner sicherlich! Von festem Geiste ist ein Mann,Er denket, was er sprechen kann.」

 この五人が登場すると、一幕でもそうでしたが、喜劇的雰囲気が漂い、口元が緩む感じです。パパゲーノはもともと喜劇的存在、タミーノのひたすら黙っていろと頑くなな様子、侍女三人が二人をからかったり脅かしたりする様子も何か滑稽です。 

 7場で夜の女王登場の直前にモノスタトスの独唱アリアNo13が歌われます。

「(MONOSTATOS)Alles fühlt der Liebe Freuden, Schnäbelt, tändelt, herzet, küsst; ~ Mond! verstecke dich dazu! - Sollt es dich zu seh'n verdriessen, O so mach die Augen zu.」

 ムーア人のモノスタトスだって人の子、寝ているパミーナを見て、愛したい気持ちは持っているのでした。ここをモノスタトス役の高橋さんは、副役とは思えぬ立派なテノールで歌いました。が若干山賊的な凄みは無かったかな?

 その後先に述べたNo14の「夜の女王のアリア」が歌われ、さらに幾つか聴きどころのアリアが続きます。例えばパパゲーノとパパゲーナによって歌われる二重唱「パ・パ・パ・・・」など大変面白い場面ですが、時間の関係で割愛し、最後の歌No21のフィナーレのザラストロのアリアと合唱について記しますと、

「(SARASTRO) Die Strahlen der Sonne vertreiben die Nacht, Zernichten der Heuchler erschlichene Macht ~ (CHOR VON PRIESTERN) Heil sey euch Geweihten! Ihr drangt durch die Nacht, Dank sey dir, Osiris und Isis, gebracht! Es siegte die Stärke, und krönet zum Lohn Die Schönheit und Weisheit mit ewiger Kron'」

 「太陽の日差しは闇を追い払い・・・」と歌い始終厳かに振舞う妻屋ザラストラス、二期会合唱団の最後の歌声も少人数の割にはホールに大きく高らかに響き渡りました。

 また全体を通して、少年の演技、ボーイソプラノの活躍にも目を見張りました。

 

尚、事前の時間は余りなかったのですが、1995年にムーティが指揮したミラノ・スカラ座公演をザットおさらいしておきました。出演は次の通りです。

パパゲーノ:サイモン・キーンリーサイド
パパゲーナ:リーザ・ラールソン
タミーノ:ポール・グローヴズ
パミーナ:アンドレア・ロスト
ザラストロ:マティアス・ヘレ
夜の女王:ヴィクトリア・ルキアネツ
モノスタトス:セルジョ・ベルトッキ
三人の侍女:アディーナ・ニテスク(*1)、ペトラ・ラング、リーオバ・ブラウン
武装した男:アントニー・マイケルズ・ムーア
三人の童子:テルツ少年合唱団員