HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

フェスタサマーミューザ『オーケストラ・アンサンブル金沢』演奏会

 表記の演奏会は、予定していた演奏家がコロナで来れないことになったそうで、指揮者もヴァイオリニストも曲目も変更になった様です。指揮者が井上道義さん、ヴァイオリンが神尾真由子さんです。神尾さんの演奏は聴きたい方なのでかえって歓迎です。

【日時】2021.7.25.15:00~
【会場】:ミューザ川崎シンフォニーホール
【管弦楽】オーケストラ アンサンブル金沢
【指揮】井上道義
【ヴァイオリン】神尾真由子

【プロフィール】

〇井上道義(指揮)

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ニュージーランド国立交響楽団首席客演指揮者、新日本フィルハーモニー交響楽団音楽監督、京都市交響楽団音楽監督、大阪フィルハーモニー交響楽団首席指揮者、オーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督を歴任。2017年大阪国際フェスティバル「バーンスタイン:ミサ」を、2019年オペラ「ドン・ジョヴァンニ(森山開次演出)」を、2020年オペラ「フィガロの結婚(野田秀樹演出)」を、いずれも総監督として率い既成概念にとらわれない唯一無二の舞台を作り上げている。2016年「渡邊暁雄基金特別賞」、「東燃ゼネラル音楽賞」、2018年「大阪文化賞」「大阪文化祭賞」「音楽クリティック・クラブ賞」、2019年「有馬賞」を受賞。オーケストラ・アンサンブル金沢桂冠指揮者。 

〇神尾真由子(ヴァイオリン)

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4歳よりヴァイオリンをはじめる。2007年に第13回チャイコフスキー国際コンクールで優勝し、世界中の注目を浴びた。国内の主要オーケストラはもとより、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、バイエルン州立歌劇場管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団などと共演。これまで里屋智佳子、小栗まち絵、工藤千博、原田幸一郎、ドロシー・ディレイ、川崎雅夫、ザハール・ブロンの各氏に師事。楽器は宗次コレクションより貸与されたストラディヴァリウス1731年製作「Rubinoff」を使用している。大阪府知事賞、京都府知事賞、第13回出光音楽賞、文化庁長官表彰、ホテルオークラ音楽賞はじめ数々の賞を受賞。

 また「オーケストラ・アンサンブル・金沢(OEK)」は余り関東では知名度が高くなく知る人ぞ知るオケの様なので、その設立後の経緯を以下に調べました。

    OEKは、石川県立音楽堂のレジデント・オケで、団員が三、四十人程の弦中心の室内管弦楽団の模様。設立等はそのH.P.から引用しますと、  

 岩城宏之(1932-2006)の強いリーダーシップのもと、石川県と金沢市によって、日本初のプロフェッショナルの常設室内管弦楽団として1988年に設立されたオーケストラ・アンサンブル金沢は、楽団員を広く世界に求め、座付作曲家による新曲の演奏や録音、また積極的な海外公演など、設立当初より独自の活動を展開してきました。2001年からは本拠地となる石川県立音楽堂を得て、響きの追求や数多くの録音、新たなプロジェクトへの挑戦のほか、ホールを軸とした地域活動への積極的な取り組みも可能となりました。私たちはこれら音楽活動を通して、藩政期より続く伝統文化、芸能とともに石川・金沢の豊かな文化の核となり、発信する存在でありたいと常に願っています。

【活動履歴】

活動履歴

1988年設立記念公演

1989年初の海外公演

1991年大阪・東京・名古屋定期公演始動

1994年ベートーヴェン&モーツァルト・ツィクルス

1997年名歌手プライとともに巡るヨーロッパ・ツアー

2001年本拠地(石川県立音楽堂)完成

2004年欧州8カ国13都市ツアー

2007年井上道義 音楽監督就任

2008年ラ・フォル・ジュルネ金沢音楽祭

2011年~14年新しい歌劇、金沢発

2018年~OEK30周年。マルク・ミンコフスキ芸術監督就任

【曲目】
①シューベルト『交響曲 第4番「悲劇的」』 
②プロコフィエフ『ヴァイオリン協奏曲 第1番』
③プロコフィエフ『古典交響曲』

※14:20から指揮者井上道義のプレトーク(約20分)

【演奏の模様】

 客席は、50~60%の入りでしょうか?井上さんはトークで❝この間の音楽会の観客は一杯だったけれど今日はどうかな?❞と言って笑わせていました。でもオリンピックが開会し、緊急事態宣言(神奈川県の黒岩知事は先週は、首都3県一緒に政府に緊急事態宣言申請をすべきだと主張していましたが、他の二県はその必要がある程増えていないため、結局賛同を得られず、神奈川県だけ❛県独自の緊急事態宣言❜を二、三日前に出した模様)の下なので、かなりの人々は外に出ず、五輪競技をテレビ観戦していたと推測される状況下では、まずまずの観客数だと思います。

①シューベルト『交響曲第4番(悲劇的)』

シューベルトは生涯九つの交響曲を作曲していて、この4番は、1816年シューベルトが19歳の時の作品です。

 指揮者パーヴォ・ヤルビ氏はかって、❝シューベルトとベートーヴェンの関係は極めて重要であることから、どちらかというとベートーヴェンの側からシューベルトの音楽にアプローチすべきだと考えています。❞と述べていますが、昨今は、ウィーンフィルの演奏に代表される様な、ウィーン風にシューベルトの綺麗な旋律的表現で演奏されることの方が多い様です。さて井上流シューベルトは、どの様に料理するのでしょう?

管弦の規模は、二管編成・弦楽五部(1Vn8-2Vn6-Va4-Vc4-Cb2)。

①-1 Adagio molt - Allegro vivace

 随分とゆっくりしたテンポでスタート、高音弦は澄んだ清明な調べ、低音弦は効いているものの全体的としての弦楽アンサンブルは、迫力を感じられません。後半の速いパッセージでは、井上さんは、両手を後ろ下方から前方へ振り上げてオケを煽る様に指揮している。アンサンブルとしては良く合っているし、個々には良く鳴っているし、特に目立った欠点はないのですが、何か今一つ物足りません。演奏の間何かな?とずっと考えていたのですが、これはやはり低音弦の数が足りないからではないか?と気が付きました。Vaはあと2台、Cbも2台追加したらアンサンブルは、どう変わるのだろう?Vc は4台あるのですが、何か総体としてのズッシリ感が足りません。やはりあと2台ほしい。井上さんのトークでは、4番を演奏するのに丁度良い管弦の規模といった趣旨のことを言っていました。それは、指揮者の位置で聞こえるアンサンブルのことでしょう。ステージからの直線距離が、演奏者から指揮者までの平均距離の7倍位離れた客席では、そう感じました。

①-2 Andante

 ゆったりした如何にもシューベルトらしいメロディが流れ、主題の変奏が続きます。でも一楽章で感じた迫力不足の感は変わりません。あたかも、晩秋のある晴れた日、兼六園で毛氈を広げた雅び人が、茶の湯をたてている傍で京舞いに合わせて演奏しているが如き妄想まで浮かんで来そう。確に上品さはあっても、野性味は感じられず物足りなさが残ります。シューベルトは本来そういうものだといってしまえばそれまでですが。

①-3 Menuetto. Allegro vivace

 スタートから、タラータッタータ、タラータッタと弦楽が強奏、力強いTimpの音、スケルツォ風なminuetです。強奏⇒弱奏を繰り返し、主題の変奏が Cl→Ft,Obと続きました。一番短い楽章でした。

①-4 Allegro

 弦と管楽器の対話的な流れの後、中盤からジャンジャン、タラララ、ララララ、タラララトとオケ全体が盛り上がり、井上指揮も力を相当入れたと思いきや曲自体が尻すぼみ、又コレといった特徴が余り無い調べがだらだらと続き、冗長とも思える結構長い楽章が、最後の着地のフィナーレのメロディを放って終了したのです。

今日の「OEK」の演奏を聴いて、もっと大編成のオケで4番を聞きたくなりました。

 誰だったか昔言ってましたが、シューベルトのシンフォニーを聴いていると退屈する時があると、このことは、あながち有り得ないことではない気がします。シューベルトの素晴らしさ、特にピアノ曲、歌曲、合唱曲、宗教曲等多岐に渡る天才性の発現を考え合わせても、交響曲はどれもが珠玉の曲群とまでは言えないと思います。やはりこの分野は彼が尊敬して目標としていたと謂われるベートーヴェンを残念ながら越えていませんね。

 

   《20分の休憩》

 

②プロコフィエフ『ヴァイオリン協奏曲第1番』

 この曲はプロコフィエフが1915年~1917年頃に作曲、1923年にパリで初演された若い時代の最後の頃の作品です。オイストラフがオデッサ音楽院の卒業演奏で弾いた曲だそうな?ほとんどの部分でヴァイオリンが圧倒的存在感を示す優勢な演奏の曲でした(当然と言えば当然?)。オケの活躍は少ない。

 ウェディングドレス様の、肩を大きく開けた白いロングドレスを身に着けた神尾さんがゆったりと登場、いつもながら静かな中に自信に満ちた様子です。

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[No pictureなので、類似の衣類を

ネットからピッカップ。

実際は両袖が下に垂れ下がり、ドレス上部はラメ入り、裾はもう少し膨らんで長いお洒落なフォルム]

②-1アンダンティーノ(ニ長調

 Vnの調べが静かにゆったりとしとやかに、ホールに響き始めます。蜂の羽音を連想させる個所、自己ピッツィカート伴奏で弾く箇所、力強い強音の箇所にも速いピッツィカート同時演奏の箇所、重音で長い音に旋律を重ねる箇所、など高度のテクニックを要する曲を、神尾さんらしく難なく見事に弾き切りました。最後は弱音高音でオケとのアンサンブルが溶け合って混然一体となっていました。事前に聴いたオイストラフの録音から想像していたよりも繊細で小さな音で演奏。まるで天女が天高く舞いながら天空の調べが地上に降り注ぐ光が如し。全然ゴツくない女性らしい演奏です。

②-2スケルツォ、ヴィヴァーチッシモ(イ短調

 相当速いテンポでヴァイオリンが飛ばし、これにオケが付いて行くのが大変そう、最後に低い音でVnが再度蜂を連想させる調べを奏で、最後はオケがジャジャジャジャジャーンと鳴らして終了。

②-3モデラート - アンダンテ(ニ長調)

 ここでもピッツィカートを旋律と同時に弾くテクニックが凄い。最終部はキラキラキラと高音でVnがせわしく鳴り続け様々な音の饗宴と言った感じ、ご馳走様でした。

 指揮者とオーケストラの音と動きに関しては、余りもに神尾さんの演奏が素晴らしくて、それに没頭してジーッと集中して見つめて聴いていたので、何も記憶に入っていません。

 今後機会があったら、 お洒落な素敵なメロディーが聞こえて来る『ヴァイオリン協奏曲2番』も聴いてみたいと思います。

③プロコフィエフ『古典交響曲』

 プロコフィエフの曲と聞いて、最初、例えばピアノコンクールで弾かれる「ピアノ協奏曲2番や3番」の様な近代的響きを有する ②のヴァイオリン協奏曲の様な超絶テクニックを駆使した交響曲かと思っていました。ところが演奏が始まって、かなりびっくりしました。古典的な風味のメロディのオンパレードだったからです。将に曲名の通り ❝古典❞交響曲でした。この曲は一番のヴァイオリンコンチェルトと同じ時期の作品だそうですが、若かりし頃、古典派の伝統的作曲手法の基礎を勉強して身に着け、そしてそれに関した作品を作曲し、後に近代的音楽の創作に力を発揮したプロコフィエフは天才の一人ですね。「天才は努力が顕在化させる」でしょうか。あの絵画のピカソもこれがピカソの絵かと疑いたくなる程の古典的印象派の技法を身に着けそれが土台になっている絵を多く描いています。

   なお演奏後何回か挨拶を繰返した井上さんは、「(アンコールとして)武満徹のワルツを弾きます」と言って弦楽奏者に向かい指揮を始めました。この演奏が、OEKとの呼吸もピッタリ、素晴らしい演奏でした。OEKも何回も弾いている曲なのかこの日最高の出来でした。

 今日はシューベルトにせよ、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲にせよ、古典交響曲にせよ、自分としてはかなり好みに合った曲目の演奏を井上さんが届けてくれて大満足の演奏会でした。OEKはもう一まわり大きいアンサンブル団になった時の演奏をまた聴いてみたいと思います。