東京春音楽祭もいよいよ最終場面にさしかかりました。今日と明日のムーティのモーツァルト演奏で幕を閉じます(配信だけは、もう少し続く様ですが)。一昨日は、ムーティ指揮のオペラ『マクベス(演奏会方式)』を聴いてきました。今日はその時と同じオーケストラで、モーツァルトのシンフォニーを演奏するというので、聴きに行きました。プログラムの概要は、次の通りです。
【日時】2021.4.22.(木)19:00~
【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール
【指揮】リッカルド・ムーティ
【管弦楽】東京春祭オーケストラ
【曲目】
①モーツァルト『交響曲第35番ニ長調K385〈ハフナー〉』(約20分)
②モーツァルト『交響曲第41番ハ長調K551番〈ジュピター〉』(約40分)
【曲目概要】
モーツアルトの生まれ育ったザルツブルグは、16世紀から大司教が領主の役割を果たしていました。今でも高台に聳えるホーエンザルツブルク城はその居城であり、モーツァルトも何度も足を運んだことでしょう。モーツアルト父子は大司教の宮廷楽士だったのです。父レオポルドは宮廷副楽長まで勤めましたが、モーツアルトはその待遇や大司教自身に対して不満を抱いていた様です。そこで自由に作曲等をするためにウィーンを訪れていたモツアルトですが、父から「今度ザルツブルグの父の友人である、ハフナー市長が貴族に列されることになり、その祝典の宴で演奏される曲を作って欲しい」といった趣旨の手紙を受け取ったのでした。その流れで1782年に作曲されたのが①の「ハフナー」です。 ❛その流れ❜と書いたのは当初セレナードとして作曲したものを後日交響曲に編曲されたからです。モーツアルトもこの曲をウィーンでの自身のコンサートでで冒頭と最後に演奏しました。
一方、②の「ジュピター」は1788年に作曲された出自のはっきりしている番号付き交響曲としては一番最後の曲です(その他合わせて)。同年に作曲された40番、41番の交響曲と共に「モーツアルトの三大交響曲」と呼ばれる場合もあります(番号無しの曲も含めると60~70に及びます)。
【演奏の模様】
ムーティが30年位前にウィーンフィルを振った時の録音を事前に聴いておきました。ムーティがまだ50歳弱の時ですから、働き盛りで現在よりももさらにエネルギッシュにタクトを振り精悍な音を引き出していました。今日のムーティは一昨日「マクベス」を観た時よりも歌が無い分、集中してオケを導いている様子でした。 器楽編成は、二管編成弦楽五部10型、管は(Fl2.Ob2.Cl2.Fg2.Hr.2)その他打楽器としてTimp。これは①、②とも同じでした。
①
第1楽章 アレグロ コン スピリート
冒頭から聴き慣れた調べが鳴りだし、気持ちはそれに引かれて早くもその音に没頭し出し、気が付いた時は1楽章が終わりかけていました。ヴァイオリンの pp の音がとても綺麗で印象的でした。
第2楽章 アンダンテ
今日の器楽配置は、舞台左翼手前とその奥にヴァイオリン、右翼手前にチェロ、その奥左端にコントラバス、中央奥にビオラ、その後ろの管楽器は通常の位置でした。この配置が影響していたのかどうか断言はできないのですが、Vn群の音が優勢で、右翼の低音弦がやや効きが弱いかなと感じました。ヴァイオリンは特にppのアンサンブルが1楽章と同様、とても澄んだ綺麗な音でした。アンサンブルと言ってもかなりの割合でオンマスのヴァイオリンから発生する音が目(耳?)立ちましたけれど。
第3楽章 メヌエット
ここでは全体アンサンブルの時、低音弦のズッシリとした下支えがやや弱いかなと思われました。この章でも大局的にはVnのアンサンブルがメインでしたが、Timpは出過ぎず引っ込み過ぎず、丁度いい具合に効果的な打法で演奏していました。
第4楽章 プレスト
速い力強い演奏で、ジャジャジャジャ、ジャジャジャジャ、ジャッジャッジャーで終了です。
この終楽章はオペラ「後宮からの誘拐」から取ったメロディを主題として利用しているそうですが、オペラのどの部分かは要検証です。上でも記しましたが、モーツアルトは自身のコンサートの冒頭でも演奏しており、このシンフォニーはプログラムの最初を飾るのに適した曲と言えます。
《20分の休憩》
②この曲は、基本2管編成のものをフルート1、オーボエ2、クラリネット無し、ホルンが2の様に管楽器を縮小し、弦楽五部は8型として弦優勢の体制で演奏するケースもあります。
今回は①と同じ構成で弦中心のアンサンブルを 具現していました。
第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
この楽章では全体アンサンブルの中で低音弦がずっしりと効いていました。特にCbのピツィカートがブンブンと効果を上げていました。非常に繊細な美しいVn1の音色で奏でる時ややSlow過ぎる気もしましたがこれはムーティの指示なのでしょうか? ここでも弱音の時、Vn群からはコンマスの音が優勢に響いていました。
またFlやTrpやHrの出番も結構多い楽章ですが、Obの音がさえざえと聞こえませんでした。
第2楽章 アンダンテ・カンタービレ
ムーティは若い時よりも如何に省力化した指揮で最大の効果を上げられるのか、長年の経験と研究から身に付いたと思われるスタイルで指揮していました。①主題や曲調が変わる頭の処は、小さい身振りだけれど力を込めて指示を出し、また②方足を踏み出しその勢いで手で奏者に合図したり、Ftのソロの合図を出す時など、自分の眉を上げて③表情で奏者に伝えていた等、決して大げさな無駄な動きはせず自分の意を団員に効果的に伝えていました。
この楽章でも低音弦はしっかり。Hr⇒Ft⇒Fgと主題を引き継いで行く場面が面白い効果があると思いました。
第3楽章 メヌエット・アレグレット
流れる様なゆったりとした弦のアンサンブルの合間に、オーボエ、フルートの単独音が間をつなぎ、何回もその主題を繰返します。ヴァイオリンの調べが主流の章でした。ティンパニーが効果的。
第4楽章 モルト・アレグロ
モーツァルトらしさを代表する旋律、ジュピターの名の通り、王道を行くが如き存在たらしめている旋律が繰り返されます。各楽器群にフーガの技法をかなり駆使しているのは、バッハをモーツアルトは勉強していたのでしょうか? その流れのまま最後弦の調べにホルン等管がプップカプッププウと合わせて終わりました。終結部を長引かせず、かといって突然終了でもなく自然な感じで終わり、さすが天才モーツアルトならではの曲の締め括りです。
全体的にオケはヴァイオリン群の綺麗な調べに包まれていましたが、先日(4/19マクベス演奏)の様な迫力、力強さがもっと強くあれば、さらに素晴らしくなったことでしょう。これは規模が一回り小さくなったことと関係あるのか?それより何より作曲者が異なる即ち曲想が異なることもあるでしょう。
ムーティはさすがに30年前の様な、時として激しく体と腕を大きく揺すって指揮することはありませんでした。しかしポイントポイント(特にメロディが切り替わる最初の瞬間)では、しっかり手を振り奏者に強いメッセージを伝えていました。奏者はそれに敏感に反応していたと思う。隣の二人連れの観客が ”何十年も前のムーティを見たけれど颯爽としていてかっこよかったな” 等と話していました。
今回のモーツアルトは明日、紀尾井ホールで同じ曲で演奏会が開かれ、それで東京春音楽祭は無事終了です。❛無事❜と書いたのは ❛クラスターが発生しなかった(今日までの段階でです。明日の事は分かりません)❜という意味です。最近のコロナ菌、特に変異株の感染拡大は急激で、再び東京等は緊急事態宣言に追い込まれそうです。4/25から発動とのことですから、現在の蔓延防止策より厳しい規制になると予想されます。コンサート開催もままならなくなって、またまた中止、延期、払い戻し、寄付のお願い、のオンパレードになる恐れがあります。都知事も連日会見で「県をまたいだ移動は自粛して下さい」と要請していることもあり、暫くは東京でコンサートは聴けないなと考える今日この頃です。