HUKKATS hyoro Roc

綺麗好き、食べること好き、映画好き、音楽好き、小さい生き物好き、街散策好き、買い物好き、スポーツテレビ観戦好き、女房好き、な(嫌いなものは多すぎて書けない)自分では若いと思いこんでいる(偏屈と言われる)おっさんの気ままなつぶやき

オペラ速報『日本オペラ&プッチーニ作品』ダブルビル

 表記のオペラは、①池辺晋一郎作曲『魅惑の美女はデスゴッデス!』とプッチーニ作曲『ジャンニ・スキッキ』をダブルビルで4/24と4/25の両日演じるというもので、初日を観ました。プログラムの概要は、次の通りです。

【日時】2021.4.24.(土)14:00~

【会場】テアトロ・ジーリオ・ショウワ(神奈川県川崎市)

 

【演目】

①池辺晋一郎『魅惑の美女はデスゴッデス!』(全2幕、約60分.)

②プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』(全1幕50分)

【管弦楽】テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ

【指揮】松下京介

【器楽構成】

二管編成、弦楽五部10型(打楽器は通常のTimp Tria の他、 イングリッシュホルン、バスクラリネット、バストロンボーン、大太鼓、シンバル、グロッケンシュピール、チェレスタ、ハープなど)

【合唱】日本オペラ協会合唱団

【演出】岩田達宗  

 

【キャスト】

     「魅惑の美女はデスゴッデス」

  4/24 4/25
死 神 長島由佳 長島由佳 相樂和子 相樂和子
早 川 村松恒矢 村松恒矢 山田大智 山田大智
た つ
(早川の女房)
家田紀子 家田紀子 沢崎恵美 沢崎恵美
やくざの鉄/
若い葬儀屋
川久保博史 川久保博史 井出 司 井出 司
医 者 江原 実 江原 実 立花敏弘 立花敏弘
鉄の父親 柿沼伸美 柿沼伸美 下瀬太郎 下瀬太郎
轟社長 普久原武学 普久原武学 普久原武学 普久原武学
金丸社長 井上白葉 井上白葉 別府真也 別府真也
老婦人 西野郁子 西野郁子 佐藤みほ 佐藤みほ
やくざの兄貴分/
書生/執事
嶋田言一 嶋田言一 平尾 啓 平尾 啓
合 唱:日本オペラ協会合唱団
「ジャンニ・スキッキ」
  4/24 4/25
ジャンニ・スキッキ 上江隼人 上江隼人 牧野正人 牧野正人
ラウレッタ 砂川涼子 砂川涼子 別府美沙子 別府美沙子
ツィータ 松原広美 松原広美 古澤真紀子 古澤真紀子
リヌッチョ 海道弘昭 海道弘昭 渡辺 康 渡辺 康
ゲラルド 及川尚志 及川尚志 工藤翔陽 工藤翔陽
ネッラ 楠野麻衣 楠野麻衣 中畑有美子 中畑有美子
ベット・ディ・シーニャ 坂本伸司 坂本伸司 泉 良平 泉 良平
シモーネ 久保田真澄 久保田真澄 東原貞彦 東原貞彦
マルコ 大塚雄太 大塚雄太 龍 進一郎 龍 進一郎
ラ・チェスカ 山口佳子 山口佳子 清水理恵 清水理恵
スピネッロッチョ
先生
安東玄人 安東玄人 和下田大典 和下田大典
アマンティオ・ディ・ニコラーオ 鶴川勝也 鶴川勝也 杉尾真吾 杉尾真吾
     

【粗筋】

 市民の健康志向で薬局は大繁盛、逆に死者が減って商売がさっぱりなのが葬儀屋。金もなくなり、妻に「甲斐性なし」と貶され、どうしようと困っている男に、若い女が現れ色仕掛けで声をかけ、儲け話しがあると言う。女は自らを死神会社の一員、死神を名乗り、また自身との数奇な縁を明かして助けてやるという。そして死神は「どんな重病人であっても死神が足元に座っていればまだ寿命はあり、逆に症状が軽そうに見えても枕元に死神が座っている場合は程なく死ぬ。足元にいる場合は呪文を唱えれば死神は消えるので、それで医者を始めるといい」と助言し、但し条件として、成功報酬として、1件成功するたびに、1回ベッドを共にし愛して欲しいとの取り決めをし、死神は一旦消える。

 半信半疑で家に帰ってきた葬儀屋の男が試しに医者の看板を掲げると、さっそく客がやってきて「危篤の製薬会社の社長を診てほしい」と相談してきた。既に方々の名医に診せたが匙を投げられ、藁にもすがる気持ちで来たという。男が店に行き、主人を見ると足元に死神がいたので、これ幸いと呪文を唱え病気を治す。またたく間に元気になった社長は男を名医と讃え、多額の報酬を払う。

この一件がすぐに世間に広まり、男は生死を推理する名医として名を上げ、同様な手口で、ヤクザ親分の息子、自動車会社の社長と、次々にその命を救い、莫大な報酬を得て贅沢な暮らしを始める。

 男がキャバレーで札束を湯水の如く使ってホステス達に囲まれていると、同じ死神が現れ契約を守る様せまる。

その後、男は死神との性愛の深みに嵌まる生活に陥るが、暫く振りに家に戻った男は、ヤクザの親分の命を救えと拉致されて脅迫されるが、頑として言うことを聞かない。遂にはピストルで撃たれてしまう。瀕死の男の頭の処に死神が現れ、男が、自分の寿命は72歳と言われたのに、死んでしまう頭の処にいるのは、計算が合わないと死神に訊くと、実は何十回と愛し合ったが、その1回につき1年寿命が、減らされていたのだ。従ってもう残りはなく、風前の灯火なので、命の蝋燭を、別の蝋燭に付け替えれば、寿命が延びると死神は言う。あとは、落語の「死神」と同じ結果となるのでした。

 富豪ブオーゾ・ドナーティはまさに死んだばかり。親戚が集まって悲しんでいるが、実は皆考えていることは遺産のこと。甥のリヌッチョは遺言状を見つけ、それをかたにジャンニ・スキッキの娘ラウレッタとの結婚を認めるように伯母ツィータに迫る。ツィータはしぶしぶ認め、いざ遺言状を開くが遺産は修道院にと書かれている。書き換えてしまおうとたくらみ、それをジャンニ・スキッキに依頼する。現れたジャンニ・スキッキは断るが、かわいい娘のラウレッタに頼まれ引き受ける。しかしブオーゾになりすまして遺言を口述する段になると、すべてはジャンニ・スキッキに遺すと言い出す。親戚たちは怒り狂うがすでに後の祭り。最後にジャンニ・スキッキが口上を述べ、幕が降りる。 

 

【演奏の模様】

 開演30分程前に着き会場に入ったら、オケピット前で女性1名と男性2名がトークしていました。オペラ協会総監督の郡 愛子氏と藤原歌劇団総監督の折江忠道氏、演出家の岩田達宗氏でした。トークは終わりに近かったので、聞いた範囲では、

〇青年期の池辺晋一郎の作品と大成したプッチーニの作品の対比が面白い(岩田)

〇②は、アンサンブルオペラ(折江)

〇みな新百合で育てた歌手陣(岩田)

などと話していました。

①舞台は、床から天井にかかる大きな水色のらせん状の輪っ架の下は何段かの階段になっており、ワルキューレ様の衣服の女性たちが5~6人登場、一人は大きな長い柄の鎌をもっています。

 ①の題材は、落語の「死神」が元となっていて、もともと映画監督の今村昌平が、ミュージカルやオペラ化したものです。それに池辺晋一郎が作曲したものが、今日演じられました。

全体的感じは、オペラと言うよりミュージカルに近いものでした。アリア、重唱の妙技が少ない。ただ死神役の長島さんは、出番も多く、伸びる声で気を吐いていました。第2幕冒頭の歌は良かったです。

 また葬儀屋の男、早川役の松村さんは、しっかりした発声で、素早い動きの動作、演技もまじえながら活躍していました。

ただ、命の長短の微妙な機微が、拝金主義に偏りすぎて陰に隠れてしまい、薄くなったきらいは、否めないと思います。

 それから、猥雑で過激な言葉の表現が多かったので、若しかして演技でもかなり露骨な表現が出てきて、従来の日本オペラの殻を破ろうとする試みをするのかなと思って観ていましたが、それはなかった。何を全面に出してオペラを組み立てるかは、申すまでもなく重要なポイントです。

 

 一方②の題材は、ダンテの有名な『神曲』・地獄篇第30歌から採られたものです。もっとも『神曲』中「ジャンニ・スキッキ」の名はほんの数行語られているに過ぎない(hukkats注)。この物語の底本となったのは1866年にピエトロ・ファンファーニという文献学者の編により刊行された『神曲』のある版に、「付録」として添えられていた、14世紀の「無名のフィレンツェ人」の著した「ジャンニ・スキッキとは何者で、何をしたか」の解説文であろうと考えられています。

(hukkats注)ダンテ地獄編30歌には次の様な記述があります。

[原文]

31 E l’Aretin che rimase, tremando
32 mi disse: “Quel folletto è Gianni Schicchi,
33 e va rabbioso altrui così conciando”.
34 “Oh”, diss’ io lui, “se l’altro non ti ficchi
35 li denti a dosso, non ti sia fatica
36 a dir chi è, pria che di qui si spicchi”.
37 Ed elli a me: “Quell’ è l’anima antica
38 di Mirra scellerata, che divenne
39 al padre, fuor del dritto amore, amica.
40 Questa a peccar con esso così venne,
41 falsificando sé in altrui forma,
42 come l’altro che là sen va, sostenne,
43 per guadagnar la donna de la torma,
44 falsificare in sé Buoso Donati,
45 testando e dando al testamento norma”.
46 E poi che i due rabbiosi fuor passati
47 sovra cu’ io avea l’occhio tenuto,
48 rivolsilo a guardar li altri mal nati.

[日本語訳]

31 そこに残ったアレッツォ人[グリッフォリーノ]は、震えながら
32 私に言った。「あの魔物はジャンニ ・ スキッキだ。(狂犬の
33 ように)怒り狂って、あのように他ひ と人を苛さいなみまわる。」
34 「おお」と私は言った。「もう一人が君の背中に歯を
35 突き立てぬことを。それで、面倒でなければ、もう一人が
36 ここから駈け去らぬうちに、誰なのか教えてくれないか。」
37 すると、彼は私に答えた。「あれは
38 ミュッラーという人の道を外れた古いにしえ代の魂だ。
39 人倫に背いて、父親の愛人となった。
40 この女は、他人の姿になりすまし、
41 父と罪を犯すに及んだ。
42 ちょうど今去って行ったあいつ[ジャンニ・スキッキ]と同じだ。
43 奴も、家畜の女王[最上の雌ラバ]を手に入れようと、
44 ぬけぬけとブオーゾ ・ ドナーティになりすまし、
45 遺言状を書き取らせ、法に有効とした。」
47 私がじっと視線を注いでいたその二人の
46 狂犬病者[ジャンニ・スキッキとミュッラー]が行ってしまうや、
48 私は悪しく生まれた他の者たちへと視線を向けた。

  台本作家フォルツァーノとプッチーニが書簡でなく直接会って相談を重ねていたらしいということもあって、2人のうちどちらがこの題材を提案したのかははっきしませんが、『修道女アンジェリカ』作曲中の1917年6月頃には『スキッキ』台本をプッチーニが受領したと考えられています。プッチーニは『アンジェリカ』をいったん中断してこの『スキッキ』に没頭、骨格部分は数か月で書き上げられ、オーケストレーションを含めた脱稿日は1918年2月でした。

 歌としては、ラウレッタの『私のお父さん』が、一人オペラを飛び越して有名に、いや余りにも有名になってしまったので、かと言ってこの歌だけを聴きにオペラにやって来るのでは、もったいない。筋書きの妙、滑稽さ面白さを感じ取れれば良いと思ったのでした。

 『私のお父さん』は幾多の名ソプラノが歌いましたが、名がつかなくても皆大変素晴らしく上手に歌うので何回聴いても飽きない歌です。手元に、DECCA版のCD(残念ながらDVDではありません)の『ジャンニ・スキッキ』があって、レナータ・ティバルディがラウレッタを歌っています。伸びやかに滔々とした歌の様子は、子供の誰かが、父の日にでも歌って呉れれば、世の父親は皆感激すること間違いなしと思える程です。ラウレッタ役、砂川さんの歌も完璧で素晴らしかった。大きな拍手が満員のテアトロ全体に鳴り響き暫く消えませんでした。

 またラウレッタの恋人リヌッチョ役、海道さんの『フィレンツェは花かおる街』の歌も良かった、何せその歌詞が美しいですね。あのような美しい言葉の歌が良くない筈が有りません。さすがプッチーニ、聴かせ処のツボを心得ている。自分の居住地をこれ程誇れる賛歌はそう多くは無いでしょう。うらやましい。(誰でも地元が、住めば都で一番いいと感じているとは思いますが。)

 死者の一族のその他の登場人物、ツィータ役(死者の従妹)松原さん、シモーネ役(死者の従妹)久保田さん、ゲラルド役(死者の従弟)及川さん、マルコ役(シモーネの息子)大塚さん、その妻たち、山口さん、楠野さんの歌も我が国一流どころの歌い振りでさすがでした。最後にジャンニ・スキッキ。アリアは見るべきものが無いのですが、上江さんは最高クラスのバリトンで物語に重みを加えていました。ただ演技力は、喜劇の中心にいることに鑑み、チャップリンとまでは言いませんが、歌+もっと表情で喜劇の主を表すことがあれば、さらに聴衆を沸かせたこと間違い無しでしょう。

 最近は、いつもドラマティクオペラの深刻な場面を見ることが多いので、久し振りでクスクス笑いながら見ていました。面白かった。

参考 

  • ジャンニ・スキッキ(バリトン)、フィレンツェ市外に住む田舎者だが、法律に詳しく、物真似上手で機転の効く男、50歳、ダンテ『神曲』では地獄に落とされている
  • ラウレッタ(ソプラノ)、その娘、21歳
  • リヌッチョ(テノール)、大富豪ブオーゾ・ドナーティの甥、ラウレッタとは恋仲、24歳
  • その他、ブォーソの親戚一同、医者、公証人、証人など出演